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第2話「はじめまして魔法」

無事、第二話投稿です!

 ふと我に返る。

 こんなところで時間を無為に過ごしている場合ではないな。

 たしか戦闘で6時間経過していたはずだから、日付が変わるくらいの時間帯だ。

 明日に響くから、そろそろ就寝時間とするか。

 ログアウトっと。


「……ん?」

 システムウィンドウが出ない。

 どうなってんだ? 

 やっぱりさっきのは不具合だったのか?


「ファイヤー!」

 出ない。

「ブリザード! 神のイカズチ! カメハメ波! 僕ドラえもん!」

 出ない。


 ………。


「ウソだろ?」

 視線を落としてみると、自分の服がジャージだった。

 このゲームにログインするときの服装だ。

 じゃあ、なんだ?

 これって、ゲームの中じゃないのか?


 急いであたりを見渡す。

 やはり平原だ。

 背後には、うっそうとした林……いや、森ってレベルだな。

 俺の部屋でもなければ、近所にだって、こんなだだっ広い平原や森もない。

 よく見れば、軽自動車1台が通れそうな舗装されていない道のようなものがある。


 可能性を考えてみよう。


 ①ただのゲームのシステム異常。

 ②親に捨てられた。口減らしのために。

 ③宇宙人に連れ去られた。実は超能力が宿っている。


 うん、④俺がゲームやっている間に、日本が滅んで数百年経っていたという可能性が微粒子レベルで存在するな。

 それだったらワクワクするけど、まあ違うだろう。


 というか、⑤普通に夢オチだろうな。

 やけにリアルな夢だが、そういう夢は何度か見たことがある。

 ゲームしながら寝落ちしたんだろう。

 そうかそうか。はっはっは。

 でもせっかく夢なのに、魔法くらい使わせてくれよな。


 いや、そんなわけがない。

 これ夢じゃない。現実だ。

 どんなにリアルな夢を見たあとでも、現実では現実とわかる。

 それに何より、自分をつねってみれば痛みを感じる。


 服が引っ張られた。

 その方向を見る。

 少女だった。

 

 近くで見たら、めちゃくちゃ顔が整ってる。

 人形みたいだな。

 茶色い肌だと思ったけど、薄汚れているだけで、本当の肌は白く透き通っている。


「ねえねえ」

 引っ張ってくる。

 それどころじゃないんだが。

「ねえねえ」

 めんどくさいな。

 いや、この子は何か知っているかもしれない。

 住所なんか知っていれば、家に帰れる!

 適当にあやして話を聞いてみるか。


「オレは魔法博士だ」

 ドドーン。

 決まったな。

 ふふ、あまりに荘厳なポーズに言葉を失ってるな。

 教えてやろう。

 手の角度が重要なんだ、このポーズは!

 

「わー!」

 少女は手を叩いて喜ぶ。

 ふふ、そうだろうそうだろう。

 もっとたたえろよ☆


「おじさん、すごいねー。ネネもね、魔法、できるんだよ!」

 そうかいそうかい。

 ほほえましいね。

 ところで、俺はおじさんぢゃないよ?


「ふぁいあー」


 少女が腕を前に出す。

 前ならえみたいなかっこうだ。

 手のひらは前に向けられている。

 そこから、ボボッと、音がした。

 バーナーをつけるような音だ。

 まさかと思って目をこらす。

 ライターの炎よりちょっと大きな炎が出てる。

 すぐ消えた。


 は?


 は? は?


「ちと、もう一回やってもらえませんかね?」

「いいよー」

 ぼぼぼ


 手のひらを見てみる。

 もみじみたいな、かわいい手のひらだ。

 ライターが仕込まれている感じは微塵みじんもない。


「もしかして、他にも魔法使えるたりする?」

「うん。うぉーたー」

 じょろじょろ。


「あのも一回」

「いいよー」

 じょろじょろ。


 幼い頃の映像がよみがえった。


 廃工場は、俺らの秘密基地だった。

 今思うととてつもなく危ない場所だったけど、大切な場所だった。

 そしてさらに危ないことに、俺はライターでヒーローごっこをやっていた。

 俺にとっては、そのライターは炎の剣だった。

 友達はちょっとオシャレな紫の傘をもって、魔法の杖がわりにしていた。

 ただの100円ライターも、ディスカウントショップで投げ売りされてそうな紫の傘も、当時の俺たちは本当に炎の剣で、魔法の杖だった。


 その友達は、中学校にあがる前には、なんとなくその遊びを卒業した。

 俺もいつの間にか廃工場に行かなくなっていた。

 でも俺は卒業できなかった。

 魔法は俺にとって、遊び道具でもなければ、自分を強く見せるためのオプションでもなかった。

 

 魔法は美しい。


 火、水、雷、風。

 これらすべて、自然界に存在する。

 けれど魔法は、自分の意思により、いろんな威力で、様々な効果を生み出す。

 青い雷、冷たい炎、氷の中の女神、地面から伸びる大きな土の手。


 気が向いたら、ライターを点けていた。

 廃工場の中で、見つけたものだ。

 そのライターは宝物だった。

 火を点けて、ずっとその炎を眺めていた。

 とても綺麗で暖かくて引き込まれる色をしていた。

 俺の頭の中では、鋭く光る炎の剣だったり、炎の精霊だったり、黄や青、紫、黒などに変化した。

 何かつらいことがあっても、炎を観ていると忘れられた。

 

 やがて、ライターの炎よりもっと、魔法に近いものを求めるようになった。

 魔法を使えるゲームをプレイした。

 魔法に関する書物を買いあさった。

 科学部に入り、魔法を再現しようとしたりした。

 でもそれは道具であって、やはり魔法ではなかった。

 

 でも、これは。

 間違いなく。

 魔法、だ。

 そんなか弱い炎だけど、間違いなくそれは。


 俺の夢……。


「ふぁ、ふぁいやー」

 呪文?を唱え、腕を差し出してみる。さっきの少女と同じように。

 頼む。

 出てくれ。

 生まれてこのかた、ずっと夢見てきたんだ。

 魔法は俺にとって、憧れ。

 いや、そんな軽いもんじゃない。

 俺の人生すべて。

 この世に存在しないものだって分かっていても、追い求めてやまないもの。

 それが目の前に現れたんだ。

 どうか、俺に使わせてください。

 俺以上に、こんなに魔法に恋い焦がれたやつはいない! 


 手のひらのほぼ中心、そこがオレンジ色に光った。

 ガス切れを起こしたバーナーのような音を出しながら、断続的に炎が手のひらから伸びた。

 その炎は、ちょろちょろとしてて、ライターの炎なんかよりも、よっぽどまがいモノのようでもある。

 

 でも、これは魔法だ。

 仕掛けもタネもいらない、自分の意思で出した、魔法だ。

 魔法なんだ。


「な、泣かないでー」

 少女が心配そうに俺にしがみついてくる。

 泣いているのか。

 そうか。

 俺は泣いているのか。


今日もお読みいただき、ありがとうございます!

がんばります!

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