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第19話「試作機」

遅くなりましたああああああ!

申し訳ありません!

次回こそは!

「はい! ヒーロー殿の手となり足となり、身を粉にして働く所存です!」

 俺のとことん役に立ってもらうという発言に対しても、いやな素振りどころか、嬉しそうに快諾する。

 素直さは100点満点だな。

 あとは使えるかどうかだが、まあ、それはおいおい仕込んでいけばいいか。

 

「よく言った! 君の働きに期待している!」

 メルの両肩をたたいて、激励する。

 こんな感じでのせておけば、頑張って働いてくれそうだ。

「ひ、ヒーロー殿」

「ん? なんだ?」

 心なしかメルの肩が震えている。

「うぐっ、ぐすっ」

 泣き出した。

「えええええ なぜ泣く!?」

 肩に触れるのはダメだったか?

 セクハラ罪か!? セクハラ罪なのか!?


「あたす、生まれてこのかた、そんなふうに言われたの初めてで……、しかもこんな偉大なお方の……、ううううれじいでずううううう」

「え? マジで?」

 こいつ、兵器製造責任者補佐なんだよな?

 割と重役っぽいんだが、こんなに自己肯定感低いか?

 大丈夫かよ、この飛行船製造、王子の肝いり事業なんだよな?


「ヒーロー殿に、この命を捧げます! オス!」

 命軽いなおい。

「分かった。じゃあ早速、試作機の制作に入ろう」

「つまり、これをつくればいいんですね!」

 先ほどのプロペラ付き紙飛行機を拾い上げる。

「そうだが、これはあくまで模型だ。何tのものを空に浮かすには、それ相応のでかさと精密な構造がないとダメだぞ」


 リビングのテーブルに置いてある図面をつかみ、メルに見せる。

 昨日、寝る前に書いた、ジェットタービン。

 魔法修行を早く再開させるためなら、努力は惜しまないタイプ。

 

「なんですか、これ?」

「タービンってやつだ。さっき見せたプロペラの上位互換くらいに思ってくれればいい」

 授業でやったやつのうろ覚えだけど。


「つまり、これは設計図ですか?」

 もの珍しそうにメルが図面を眺める。

 メルはこの中身を聞いたわけではなく、この図面自体が珍しかったのか。


「そうだ。この国にだって、設計図くらいあるだろう?」

「これが設計図……、おお、タービンとは2種類のパーツあるわけですな!」

 メルが設計図をのぞき込みながら、そんなことを言う。

 2種類……? はて、パーツは2種類じゃ全然おさまらないが。

 ああ、そうか。

「これは正面から見た図と横から見た図だ。ちなみに横の図は断面図だから。1つの視点だけだと、全体像を想像しにくいし、正確な寸法もわかりにくいだろ」

「なるほど? これが正面で、これが横……? んん、むむ、なぬ、な、なんじゃこりゃああああああ」

「うるせえ!」

 リアクションがいちいちうるせえ!

「だって、これすご過ぎです! 画期的です! 大革命です! 世紀の大発明です! さすがヒーロー殿おおおお! ハイルヒデオおおお!」

「うるせえ!」

 まあ、俺もこの書き方を知ったときは感動したけども!




「さっき見せたのが組立図な。平たく言えば完成図だ。これを1つ1つパーツごとにおこした部品図がこれだ。よく読み込んでおいてくれ」

「す、すごい! 美しい! 図面が! 部品が! 美しすぎるうううう!」

「静かに読めや」

「読み込み完了しました!」

「早いな!」

 フレッツ光かこいつは。

「製造課は、早さと品質がモットーですから! オス!」

 まあすべてを理解できるとは思ってないけど、なんとなくの理解で進められても困る。

 ちょっと試してみるか。


「これの1/10スケールを造りたい。組立はおれがやるから、部品を造ってくれ。できるか?」

 試作機の製作をほぼ丸投げ。

 新人だったら嫌な上司だろうな。

「アイサ―!」

 それでも元気よく挨拶するメル。


 全長2mで引いた図面だから、1/10は200mm、つまり20cmサイズ。

 小さすぎるってことはないが、精密部品だから、小さくなれば小さくなるほど難しくなる。

 しかも、メルは実物を知らない。

 前例も類似品もなく、見たこともないものを、図面だけで造るのは、まあ無理だろうな。

 しかも、この時代の技術力だ。


 まあ無理でも、俺にデメリットはない。

「じゃあ、よろしく頼む。俺は魔物狩り……じゃなかった、この飛空船の材料を探しに行ってくる」

 どこまでできて、できないかを知っておくのも大事なことだしな。

 任せられることが多ければ、それだけ俺が魔物狩りにいける。

 



「あんた、飛空船造りは大丈夫なの?」

 ダンジョンの中で、俺の魔物狩りを手伝いながら、シェリーヌがそう言ってくる。

 メルの従順さの1/10でも、こいつに移ればいいのに。

「お前には、これがただただ魔力狩りをしているように見えるだろう」

「違うの?」

「これも、飛空船を造るために必要な行程なのだよ。飛空船を造るにも魔力がいるし、動力には魔法を使う予定だから、試作機を動かすにも魔力が必要だ。さらには、ここは採掘場だろう。飛空船に必要な素材が手に入ることもあり得る」

「なるほどね。バカっぽい言動しているけど、考えてはいるのね」


 こいつ、俺がどれだけこの国に恩恵をもたらすことをしようとしているのか、想像もつかないんだろうな。

 そう考えると、シェリーヌも哀れなやつだ。

「お前には考えも及ばないだろう。まあ、気にするな。お前にはお前のいいところがあるって。アイススピアとか」

「なんかめっちゃ調子に乗ってる。腹立つ!」

「ごふうっ!」

 腹立つっていう必要も、俺にみぞおち食らわす必要も無くない?

 心の中にとどめておけば良くない?

 いちいち行動で示さないとしゃべれないのかこいつは。




 その後、宿で仮眠をとって、夜に魔物狩りした。

 メルが模型を完成させるまでは、順調に魔物狩りに精を出すことができそうだな。

 あんまりノンビリし過ぎないように注意しなきゃだが、この前、あれだけ王子に展望を見せてやったんだ。

 しばらくは成果が出ずとも、おとなしく見守ってくれるだろう。

「ネネ、ポンポンすいたー」

 ネネはお腹をぽんぽん叩きながら、切なそうにそう言った。

「資金がたんまり出てるからな。たまには外食するか」




 ノンビリ魔物狩りしていたら、夜になっていた。

 ネネも半分、寝ている。

 家に着くと、明かりがついていた。

 そういや、あいつが試作機造りをしていたんだった。

 ほぼ忘れかけてた。


「ヒーロー殿! お待ちしておりましたああああ!」

 家の扉を開けた瞬間、メルがおかえりなさいませをした。

「声がでかい。もっと静かに出迎えられないのか」

「これは失礼しました! しかし! できあがった試作機が美しく! 機能性にあふれ! そして強度が高く! 感動が覚めきれずにいたのです!」

「そうかそうか……。………。なにい! 試作機ができただとお!」

「はい! こちらです!」

 差し出されたのは、まちがいなくジェットタービンの模型。

 しかも組立もできている。

 あんなプロにはほど遠い、学生レベルの図面でここまでの完成度を仕上げるとは……。


「タービンの羽根の部分はどうした? この角度を造るのは難しかっただろう?」

 複雑な幾何的曲線をもつ軸や、サイズの違う多くの羽根をもつコンプレッサー部分なんて、相当難しいし、数時間で造れるものじゃないはずだ。

「わたす、金魔法だけは得意なんです! 早さと高品質がモットーですオス!」


 これが魔法!

 なんて、なんてすばらしいんだ!

 科学では太刀打ちなんかできない!

 普通なら、この模型を造るだけでも、一人でやったなら何週間とかかったはずだ!

 見よ、この精密さ!

 見よ、この造形美!

 やっぱり、魔法がすごかったあああああ!


「すごい! 俺は猛烈に感動している!」

 メルを思わず抱きしめた。

 初めて見たネネの魔法、圧倒的な武力を見せたシェリーヌのアイススピア、その感動に勝るとも劣らない感動が俺を震わせている。

「メル! 俺は君に出会えたことをすべてのものに感謝したいくらいだ!」

「ほえ!? そそそそんな、わたす」




「さっそく、動作させてみよう! メル! ちょっと王子を呼んできてくれ!」

「ええ!? わたすが王子を呼び出すなんて、そんな畏れ多いことを」

「もう来てるぞ」

 王子がいつの間にか、俺の模型をのぞき込むようにして見ていた。

「お前、本当、タイミングよく現れるな!」

「隣が俺の部屋だって忘れてるだろ?」

 王子がニヤニヤしながら、言葉を続ける。

「こんなおもしろそうなやつを、俺が見逃すはずないだろう?」


完成品のジェットタービンをテーブルに固定する。

「じゃあ、メル、こいつに風を送ってくれ」

 ジェットタービンの原理は至って簡単だ。

 空気を圧縮して、燃やして爆発させた推進力で前に進む。

 本当は軸を回転させて、ファンで空気を取り込みたいところだが、その機構をどうするか考えついていない。

 前の世界では、モーターやエンジンでやっていたんだろうが、それを造るのは大変そうだ。

 ともかく、今回は風魔法で代用する。

 

「アイサ―!」

 メルが風を送る。

 すると、タービンが回る。

 鋭い風が、排出口から吹き出している。

 ここまでは成功だ。

 ちゃんと空気は通っている。


 それにしても静かだ。風の音だけが聞こえる。

 軸をボールベアリングにして摩擦を少なくしたのもあるが、余計な緩衝がないということだ。

 メルがうたっている高品質は、まさしくその通りだ。

 機械でだって、こんなに精密には造れないだろう。

 

 でもまだだ。

 これだけじゃ、音が静かな扇風機だ。


「王子、ジェットタービンの胴体の細くなっているところあるだろう? その内部に火を送り続けてくれ。できるか?」

「内部に? 分かった。手を当てて大丈夫か? 火力はどれくらいだ?」

「手を当ててもらってもいいが、、熱くなってくると思うから、危険を感じたらやめてくれて構わない。火力は、ガスバーナー程度で良い……つっても分からんか。普段の1/100くらいでいい。純粋なジェットタービンの威力を見たいからな」

「1/100? これくらいか?」

 王子の手から、数mの火柱があがる。

 おいおい、天井に達してんぞ。

 100mm の鉄板でも溶断する気かよ。

「そのさらに1/10でいいわ」

「了解。じゃあ行くぞ」

 王子がタービンの燃焼室に手をかざす。

 次の瞬間、キーンという音とともに、白い炎が排出口から吐き出された。

 発生した推進力で、テーブルががたがた動き始める。


「すごい威力だ! たったこれくらいの火力と風力で、これだけの力を生むのか!」

 王子の声がジェット音にかき消される。

タービンの風で髪がなびいている。

「すごすぎるううううう! ハイルヒーローおおおおお!」

 泣きながら、メルが叫んでいる。

 ジェット音がすごいから、メルの声も気にならない。

 いや、気にならないのは、それだけのためじゃない。

 俺は想像以上の助手を、手に入れたのかもしれない。


「ヒーロー殿!」

 メルが手を止めた。

 また泣きながら、すごいものができたと喜ぶのかと思った。

 でもそれだけじゃなかった。


「これはどうして、こんなにすごい火力を生み出しているんですか?」

 結果より、理由か。

 いいね。

 普段ならググれカスと言っているところだが、お前のできの良さに免じて、特別に教えてやろう。


「火力をあげるには、この世界では魔力をあげることなんだよな?」

「はい! でも今回は魔力をほとんど消費していません! なぜでしょうか?」

「俺らの世界では、酸素、つまり空気なんだ」

「空気? 今わたすたちが呼吸している?」

「そうだ。俺らが呼吸して酸素を得て、燃やしてエネルギーを得ているように、火もまた、酸素を取り込んで燃やしている」

「わたす達も、燃えている……?」

 ピンと来ていないようだ。

 そもそも呼吸で酸素を取り込んでいるという概念がないのか。


「ともかく、この空気には、火力をあげる物質が含まれている。それを空気ごと、この機械で圧縮しているんだ。圧縮すれば、酸素の濃度は高まる。それだけ火力があがるってことさ」

「ははあ、なるほど!」

 本当に分かっているのか、こいつ。

「じゃあヒーロー殿!」

 メルは手をあげる。

「最初から圧縮した風を送れば、もっと火力があがるってことですね!」

「うん? まあそうだな」

「じゃあ、やってみます!」

 メルはそう返事すると、目を閉じ、手を合わし始める。

 そして目を開き、手のひらを機械に向ける。

 タービンが回り始める。


「王子様! 火をお願いします!」

「分かった」

 メルに促されて、王子が機械に手を当てる。

 次の瞬間、機械は固定されたテーブルごと、壁につっこんだ。


 唖然あぜんとした。

 試作機の威力にじゃない。

 メルの理解力の高さと、その応用力にだ。

 でも、それ以上に。

 魔法。


「すごい! すごい威力です! さすがヒーロー殿おおおお! ハイルヒーローおおおお!」

 メルにそう言われても、言葉が出なかった。

 俺はまだ、魔法の可能性を知り得てないことを思い知らされた。


お読みいただいてありがとうございます!


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