第一話「転移」
新作はじめました。
魔法。
それは時に、人の念から生み出される呪術であり、神から託された超常的な力であり、また、自然から力を借りたものであり、科学でもあり、単に言葉(言霊)でもある。
魔法の歴史は長く、人が言葉を生み出す前から、つまり人が大自然に畏怖の念を感じ始めてから存在する。
それは命を守るためのルールとして利用され、やがて生活に生かすことに利用され、人を統治する道具にすらなった。
そう、魔法は人の歴史でもあり、文化であり、芸術
「おい、魔法☆太郎」
話しかけれられて、思考が止まる。
これがオンラインゲームの悪いところである。
何が人とつながろう、だ。
現実でやれ。
こちとら、現実でも話しかけられたくないからゲームやってるのだよ。
「なんだよ、三郎」
しかたないから返事をしてやったというのに、現実と真逆の高身長で筋肉隆々の男(三郎)は、露骨に嫌そうな顔をした。
高校2年にもなって、そんなコンプレックス丸出しのアバターで恥ずかしくないのかこいつ。
時代はもう令和だというのに、思考は平成から抜け出せないようだ。
「ゲームの中で本名を言うなよ……。俺の名前はモルガン・サンクチュアリだ」
「そんなこっぱずかしい名前を言えるか」
「お前は世界のモルガンさんに謝れ」
純日本人のお前が、モルガンを名乗ることが恥ずかしいんだよ。
そもそもサンクチュアリってなんだよ。
自分を聖域とか超ウケるんですけど。
「俺よか恥ずかしいのはお前だよ。名前が魔法ってなんだよ」
「名は体を表しているのだ」
「ああ、名前とか考えるのめんどくさいだけね。お前らしいわ」
さて、こいつは何も用事がなく、ゲームの中で雑談してくるようなヤツじゃない。
何かの頼み事の前振りだな、この会話は。
「なあ、ところで冒険行か」
「行かない」
「即答! 話しくらい聞いたれよ!」
「新クエストのボスだろう? あいつはオリジナル魔法が使えないじゃないか。そんなやつにかまけているヒマはないのだよ!」
「え?ごめん。ちょっと何言っているか分からない」
日本語が不得手らしい。
「魔法を使ってこないやつと戦って、どこに戦闘の価値を見いだせばいいんだと言っている」
「なにを訳の分からないことを堂々と……。そうか、戦闘中に、やけに初見の魔法をくらってんなと思ってたけど……、あれはわざとだったのか……」
「そういうことだから。他のやつを頼んでくれ」
俺がそう言うと、三郎は吹っ切れたような顔をして、
「よし分かった。共に行こう。同行!」
「ちょ、強制移転魔法」
俺は飛ばされた。
「こいつが俺のリア友で、魔力極振りの魔法☆太郎だ」
三郎によって俺が紹介された。
「男なのに、魔力に極振りってキモいね」
女剣士に笑顔でそう言われた。
オブラート……。
「失礼なやつで申し訳ない。こういうキャラなんだ。許してやってくれ。こういうキャラ流行ってるだろ? ツンデレ」
すまなそうに、もう一人のパーティが言う。
俺にデレはやってくるのだろうか。
「俺たちにはどうも分が悪い相手でね。俺はモブ郎で、こいつは」
「いや、紹介されても俺はやらないよ?」
1時間後。
言いくるめられてクエストに参加することになった。
「よし、みんな頼むぞ! 作戦どおりだ!」
「おう!」
作戦なんてそう大したもんじゃない。
俺が敵の弱点属性に合わせて魔法をぶっぱなす。
ひるんだところでフルぼっこ。
何も美しくない。
魔法を道具としか思ってないな。
魅せてやろう。本物の魔法というものを。
「エクスプロージョン!」
巨大な火の玉を発生した。
赤々とみなぎる球体は、まるで原始の地球。
刮目せよ!
荒々しくほとばしるプロミネンスを!
あふれん情熱をひめた核を!
「おい、お前! なんでこんな密集したタイミングでエクスプロージョンなんて、俺たちみんな巻き添えだろうが!」
「だいじょうぶ。術士(俺)には影響はない」
臨界点を迎えた小太陽は、小刻みに震えたかと思うと、制止した。
瞬間、コアからまばゆい光が炸裂し、破裂、爆発した。
遅れて爆音が響いた。
ぶるっ。
感動のあまりに震えた。
やはりそこらへんのモンスター相手にぶっ放すのとは訳が違うな。
筋肉隆々の男たちが、くるくる回りながらぶっ飛ぶのは見応えがある。
ギャグ漫画のような、ぺらっぺらの人の形したものが回って飛んでいるようなチープなもんじゃない。
この重量感が素敵だわぁ。
お、女剣士は戦闘離脱か。
こ れ を 待 っ て た 。
「リヴァイブ(蘇生魔法)!」
この魔法を使いたかったんだ!
モンスター相手に蘇生魔法は使えないからな!
女剣士が光に包まれる。
ここまでは普通の回復魔法ではあるな。
おお! 女神が降りてきた!
手でお椀を作って、液体を女剣士の口元に注いでいる!
なんと凝ったギミックか!
さすが俺の認めたゲームだ!
「あんた……、これが終わったら覚えてなさいよ」
女剣士はそう吐き捨てて、ボスに向かっていった。
そう。このクエストには俺の協力が必須。
たとえ俺にムカついても、たとえ自分が死んでも、俺を護らないといけないのよね。てへ。
さて、他のやつらは回復魔法だな。
「キュア」
白い光に包まれるだけか。なんのおもしろみもない。
と思ったら、
「あらヤダ! 服もきれいに治っていくじゃない!」
通販番組の主婦みたいな声を出してしまった。
ダメージを負ったように外見が変わっているところ、そして服すらも逆再生で治っていく。
さながら、ディズニー映画のヒロインがボロ服からドレスに変身するかのように。
そうか、空打ちしているだけだったから、今まで気づけなかったんだな!
無駄に凝ってると思ったけど、ここまで細やかな配慮がされているとは!
ここの開発陣は神なの?
「おい、英雄(俺の本名)! 今度は真面目にやれよ!」
三郎は捨て台詞を残して、ボスに向かって走って行く。
そう。このクエストには(以下略)
そうだ。
ステータス異常の解除魔法も試してみよう。
そしたら、まずステータス異常になってもらわないとね☆
「ソリマチタカシ(ポイズン)!」
俺の手から黒い霧が発射される。
味方に向かって。
これもなかなかかっこいい魔法だ。
「おい、英雄! なんで俺たちに毒かけてんだコラァ!」
「だって、このボスはステータス異常無効なんだもの」
「答えになってねえええ!」
三郎たちは、毒異常を分かりやすく伝えるために、緑色に染まっていた。
見た目がリアル人間なのに、緑一色。
うーん、きんも☆
「ミワアキヒロ(ステータス異常解除)!」
天使の羽を生やした金髪のドクロが賛美歌を歌いながら、三郎たちの周りを飛行する。
三郎たちの体が光り輝いて、体の緑色が抜けていく。
開発陣よ……。
なんて凝ったCGなんだ。
惚れてまうやろ!
「つ、つかれた……」
「なんか知らないけど6時間経ってる……」
「死んだ回数、10回超えたあたりから覚えてない……」
三人ともぐったりした様子だ。
待ち望んだ勝利だろうに、喜べいいものを。
「みんな、おっつおっつかれー☆」
「本当にお疲れだわバカヤロウ」
励ましてやろうと思ったのに、ずいぶんな言いぐさだな。
めんどくさいやり取りが始まる前にトンズラするか。
「どこでもドア(瞬間移動)!」
瞬間、強い光が目に飛び込んできて、視界が白んだ。
おかしいな。
ピンクのドアが現れて、吸い込まれていく現象が起こるはずなんだけど。
視界の白みがおさまったら、平原が広がっていた。
行き先に指定していた、俺のラボと似ても似つかない。
三郎め、腹いせに強制移転魔法でも使いやがったか?
でも、あのまばゆい光はこのゲームで見たことがないんだよなあ。
サーバー落ちか?
いや、違うか。
それだったら、リアルの俺の部屋なはずだし。
「………」
自分の手を見てみる。
「……やけにリアル過ぎないか?」
生命線、頭脳線、感情線が深く刻まれている。
現実の自分の手のように見える。
そんなわけないか。
今まで気にしたことなかっただけで、こういったテクスチャだったのかもしれない。
ぐるっと見渡してみる。
黄色い鳥が飛んでいる。
草が豊かに香っている。
このゲームに、こんなところあったかな?
まあ、異常に広いオープンワールドだから、俺の知らないところもあって当然か。
ふと気づくと、白いワンピースを着た女の子が白いチョウチョを追っている。
あの女の子はどこから来たのだろう。
現実なら幼稚園に通ってそうな年頃か。
少女の腰丈まである草木が太陽に反射して黄金色に光る中を、少女は駆け抜けていく。
俺はそんな幻想的な景色を、しばらく、ぼおっと眺めていた。
前作から引き続きな方、ここから読み始める方、大変ありがとうございます!
がんばります!