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手紙

作者: つき

こはく様

一筆申し上げます

 春の訪れまで、まだいくらか日があるようです。あなた様におかれましてはお健やかにお過ごしのことと存じます。

 さて、これは私からあなたへの最初で最後の手紙になることでしょう。最後の手紙ですから、あなたとの思い出でも書いておきましょうか。

 ここから先は、一年前私が書いた文章をのせたものです。

 私たちが出会ったのは暖かな春のことでしたね。あなたは桜の木下で佇んでおりました。私はその美しさに目を奪われて、あなたに声をかけました。最初は私に突然話しかけられて怯えていましたが、だんだんと仲良くなりましたね。今では、家族のような存在です。そんなあなたとの思い出はいくつもあります。例えば、あなたは急にいなくなって私を心配させたこともありました。私の心配など気にもせず、次の日あなたは平然と帰ってきました。あの時私は怒りませんでしたが、とても心配で不安だったんですよ。それでも、私は幸せでした。昨日までは。

 あなたの様子がおかしくなり始めたのは一週間ほど前からでした。最初は、食欲がいつもよりなく、疲れているのかなと思っていました。しかし、だんだんと吐いたり、貧血を起こしたり、前より痩せてきたりと流石におかしいと感じ、病院へ連れていきましたね。お医者様に言われた病名は「腎臓病(慢性腎不全)」でした。その病気は、治すことは出来ず、病気のストレスが無くなるように症状を軽減することしかできないと言われました。それを聞いた時、私はとても辛かったです。あなたが私に出会わなければ、あなたは病気にかからなかったかもしれないのにと何日も何日も考えました。そして、あなたの苦しみを和らげるための治療に励み、何日かだけでも寿命を伸ばせるようにしました。時々、あなたは無理して笑ってくれましたね。やっぱりあなたは優しいんです。あなたと出会えて本当によかったと思いました。

 昨日、あなたは遠くへ旅立ちました。私はあなたとの思い出を大切に、あなたの分までしっかり生きます。

 これで、一年前の私の文章は終わりです。 

 ところで、なぜこの文章を一年たった今、手紙として、文を付け加え書いているのかというと、もちろん気持ちに整理がついてきたこと、そして最近あなたの代わり(代わりと言っては失礼でしょうか。良い表現を思いつけずすみません。)を見つけ、一緒に過ごすと決めたことをご報告したかったからです。優しいあなたならきっと許してくださることと存じます。決してあなたのことは忘れませんのでご安心を。

 どうか、遠い場所で元気にお過ごしください。この手紙があなたに届くことを祈って。

かしこ

2月2日 暁伊織



ふぅ…。彼女は長いため息をはく。やっと手紙が書き終わった。あとは、これをあなたが呼んでくれることを願うだけ。



「にゃー」

あら、どこを見て鳴いているの?もしかして、こはくが手紙をもらいに来てくれたのかしらね。

「にゃーにゃー」

なんてね…。そろそろお昼ね。ご飯にしましょうか。

『ありがとう、伊織。』

ふふっ、聞こえるわけないけど、声が聞こえた気がする。

「にゃー」

「ごめんね、今行くわ。」


「ありがとう、こはく。」

初めまして、つきです。小説を書くという経験もあまりない素人が書いた、初投稿の作品です。猫にあてた手紙だと最後の方になるまで気付かれないように頑張りましたが、おそらく気づいた人の方が多いかもしれません。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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