第1話
我らが主人公が、頼れる先輩と出会います。
おれは、大学の同期である小林の紹介で、高田馬場の雑居ビルにある小汚いバーにいた。
我が国に残された、数少ない良心的政党である憂国青年会議の入党審査のためだ。
店の奥でウイスキーをあおっている、ダボダボの作業着姿の男が言った。
「やあ、君かい。憂国青年会議に入党したいと言っていたのは?」
「はい。小林の同期で、吉田浩太朗です。おれはこの国を救いたいんです」
「そうか。それは素晴らしい。おれは櫻井。櫻井由紀夫だ。みんなからはユキさんと呼ばれてるから、ユキさんでいい。ま、まずは何か飲みなさい。きみ、ウイスキーはイケる口かい?」
おれが静かにうなずくと、櫻井、いやユキさんは、バーの店主に
「同じのをつくってくれ」と告げた。
「ワイルドターキーってんだ。飲んでみな。強いぞ」
「カァ〜!」
おれたちはワイルドターキーを舐めながら、この国の現状について話をしていった。
この国の現状は酷い。今、まさに維新が必要だ。だが、そのためには仲間が必要だ。我が国を再び、世界に誇る美しい国にするためには、どうしても世論を動かす必要がある。
しかし、そのための道は果てしなく遠い。
なにしろ、憂国青年会議も現状の悪法のもとでは"非合法"の政党なのだ。
2016年に制定されたヘイトスピーチ規制法がどんどん強化され、今では言論の自由は無いに等しい。テレビや新聞などのマスメディアは元より売国的だったが、おれたちの最後の楽園であったインターネットも、もはや真実を語る場ではなくなった。どこを見ても工作員で溢れかえっており、ポリティカルコレクトの名のもとに一方的なプロパガンダが撒き散らされている。
あらゆるメディアが言論統制を受けている以上、善良な市民は地下に潜り、非合法の活動家として生きるしかないのだ。
そんな話をひとしきりしたところで、いよいよユキさんは本題を切り出してきた。
「それで、吉田くんは憂国青年会議に入党するんだよな?」
「はい、お国のために、命をかけて戦い抜くつもりです」
「それは素晴らしい気合だな。それじゃあ、早速他の党員に会いに行こうじゃないか」