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ヨウカイ血マミレ膝小僧


「おい、嘘だろ…」


男の一人が、震えたような声で叫んだ。


辺りを見渡すと、私の腹から流れ出たであろう血が、地面一体を真っ赤に染めていた。その光景はあまりにも圧巻だった。悪感だった。ぞわわわわと全身の身の毛がよだつ。


え…。うそだよね…こんなの、ふぁんたじーだよね……。


私は顔を見上げた。


「……ねっ…ねえ義経さん、これ、どういう事…?」


義経さんは鼻で「ふん」と言う。


「僕も詳しくは知らん。まあ聞いているのは、神様が君の腹の中に刀を差し込んだって事くらいだ。」


…ええ……なにそれ…


もしかして、それも『神様の気まぐれ』なんですか?


男の一人が私を指さした。


「おいガキ!てめぇ、さっきから何一人でブツブツ言ってんだよ……。てか、なんだその傷は!刀は!」


そんなの、私が聞きたいです!

…って、一人でブツブツ…?


そういえば義経さんって幽霊なんだっけ…。この人たちには見えてないのかな。


そんな事を考えている場合ではない。このおかしな、面妖な状況をどう頭の中で処理をするか。


義経さんが言った。


「立ち上がって」

「は、はい…」


急になに? と思いながらも、言われた通りに、ゆっくりと立ち上がった。


「刀を構えて」

「はい……」


両手で刀の柄を握り、中学の剣道の授業で習ったのを思い出し、刀を構えた。


…ん?


いやいや、


「なんで構えなきゃいけないんですか…」


すると、目の前の男たちが懐から一斉に短刀を取り出した。表情は、皆強張っている。何か恐ろしいものを見るような目で、私をにらんでいた。


ひ、ひぃ!

嘘でしょう…。もしかして私がこの人たちと戦おとしてるとでも思っているのでしょうか…。


…あ、


もしかして義経さんが私に刀構えさせたのって…私たちを切り結びさせため?


「この、化け物め…。俺たちとやるっていうのか…?ああ?」


ああ、もうダメだ…。この人たち多分私のことお化けだと思ってる。短いスカートを真っ赤に染めてるから『妖怪血まみれ膝小僧』って感じかな。


…ていうか、全くもって私に抗戦意欲など無いですけど!だって勝てるわけないもん!


それを訴えようと口を開けた……瞬間…


男の一人が短刀をものすごい速さで振り上げこちらに向かってきた。


わわわわわわ!!死ぬ!!!!


ーーカキン


という音が辺りに鳴り響いた。


……


……


その後、沈黙が走る。


…?


「あ…あれ…」


刀へ、目を向けた。

するとそこには、私が男の短刀を、己の腹から出した刀で受け止めているという信じられない光景が目に映り込んでいた。


しかも片手で。


「……え…。ええ?!」


…あわわわ、うっそでしょ。私…こんな力あったっけ……


無論。ない。はずであります。

それにそれに、体育の成績は極めて悪い私が、男の人のスピードについていけるはずもない。


もう一度、刀の方をよく見て、確認する。


…だけど、しっかりと、片手で、刀を受け止めていたのだ。


ふぁんたじぃ…


男が両手でグッと短刀を押した。


「わっ…」


慌てて刀を握る手に力を入れる。私の刀はピクリともしなかった。


「こっ…これは…」


いける!と心の中で叫ぶと、刀に力を入れ、男を後ろへ勢いよく押し倒した。


男が後ろへ転ぶが転ばないかの所を、すかさず、刀の柄の先っちょで鳩尾をドスっと突く。男は「ゔっ…」と小さく呻き声をあげると、白目を剥き倒れ込んだ。


痛そう…


じゃなくて、何これ!なんで、私勝っちゃってんの?!


義経さんの方を振り向き、へにゃぁ…と、いかにも困ってそうな表情を浮かべてみる。


ーーSOSです。


義経さんはそれに気付くと、


「…ん? ああ、殺してもいいぞ」


と言った。


そうじゃないよっ。そんな物騒な答えは求めてないよ!私は、ただこの状況を説明しろと、説明した上で処理してくれと、そう訴えてるんだよっ。


「この野郎ーー!!!!!!」


前方から声が聞こえた。

見ると、残りの男が3人がかりでこちらに向かっていた。


いや、いやいやいやいや!嘘でしょって!!やだあ!


…が、よく見てみると…


んん?


「…あ、あれ…?」


……遅い?

相手の動きが、なんていうか…うーん


すろーもーしょん!


です。遅いです。圧倒的に遅いです。


なんで…。


訳のわからないまま、私は男たちの刀を一つ一つ、丁寧に捌いた。上から振り上げられた刀はひょいと横に交わし、また、真横からやってきた刀は己の刀で受け止める。逆側からきた刀は利き手の人差し指と中指で挟み、受け止めた。


こんな、こんなの…なんかよく分かんないけど…


超カッコいいじゃん!武士じゃん!お侍さんじゃんっ!!江戸時代じゃんっ!!!!


全員、最後は鳩尾を突き、気絶させた。


…鳩尾を突かれて気絶…か。めちゃくちゃ痛いだろうな。


ふへっ


いや、いやいや、じゃなくて…。

義経さんの方を見る。腕を組みながら民家の塀に寄っかかって、私を見ていた。


「やるじゃないか」


今度は真顔だ。が、片目を瞑っていて、なんていうか、少し機嫌が良さそうだった。

……でも、私、頑張ったのに…。もうちょっと褒めてくれてもいいじゃない…

ちょっぴり残念だった。




と、その時だ。




「ぎゃぁぁぁぁあ!!人が倒れてるわ!!」


背後から、たまぎるような叫び声が聞こえた。


「なんだなんだ?」


「血が!血がぁぁぁぁあ」


…へ?


振り向くと、着物を纏った中年男性や女性、ご老人などが目を丸くしてこちらを見ていた。ぞろぞろと人が集まってくる。


するとさらに別の方向からまた、声がした。


「ぎゃあっ!なんだいこれは…」


そちらを見ると、赤子を抱いた女性が立っていた。


辺りを見渡すと、家々から、着物を着た人々が出てくるではありませんか!そして、皆目を丸くしてこちら見ていた。


「男が倒れてやがる!」


「ひい!ちっ…血よ!」


「なんだいあの血まみれの子供は!」


沈静な住宅街が一転。人々の話し声や悲鳴でザワザワし始める。


わあぁぁあ


「義経さん…。やばくないですか?」


義経さんの姿勢と表情は先程と変わらない。全く動揺していない。


普通に話すのと同じトーン言った。


「そうだな」


「…いや、あの…そうだな、じゃなくて…どうしましょう…」


うぅぅ…。こんなに多くの人に注目されるのは慣れていない…。という以前に、この状況を見られるのは非常にまずい気がする。血だよ? セーラー服だよ? あかんですよおおお


「とりあえず逃げるか」


義経さんは何気ない口調でそう言った。

私もそれが、得策のような気がします。アニメや漫画のヒーローみたいに『忘却ビーム!!』とかが出来れば別なのですが…


「は、はい!」


頷く。


人気の一番少ない曲がり角を見つけ、二人でパッと走り出す…かと思いきや、義経さんは動かなかった。


んんんん〜?早く逃げないとっ


「逃げる前に一つ」


義経さんが人差し指をピンと立てた。


「君の存在を隠しておきたい」


……は?


「隠しておきたいって…どういうことですか…?」


「それは後で説明する。とにかく今は、君が君でないことを証明するような何かを、この大衆に向けて言ってくれないか」


はあ?えと、それは……


「私が夢見坂リカではありません!っていうことを言えばいいのですか…」


義経さんは静かに頷いた。


ええええぇぇぇ。なんと言う無茶振りでしょう!つまり、何か名乗れば良いんだよね…。偽名でもなんでも…。うーん、えっと。ついでにこの状況の言い訳になるような事も言えると言いな…。


うーん、血…血……血を流してるから。そんでもって異端な格好…。


そう、ですね。あれしかありません。


よし。


腹をくくった。戦国時代の武将のように。


私は民衆の方へ、3歩進み出た。皆、私の行動をビクビクしながら見ている。


血まみれで刀を持ってるもんね…怖いよね……


人々の顔を見渡す。皆、不安と恐怖で顔を染めているようだった。


トクン、トクン、トクン


心臓の鼓動が強く波打っていた。

言う、言うんだ私。

目を瞑り、神経を集中させた。


私は、私は……


カッと目を開けると、私は刀を持ってを天に上げた。


人々から「きゃあ!」と、悲鳴の声が聞こえる。中には尻餅をついた者さえいた。


スー、と息を吸うと、力強く叫んだ。


「わ、私は!ちびっこ妖怪血まみれ膝小僧デェス!!」


………………


人々は、一瞬ビクっと肩が跳ねたが、その後はキョトンとしていた。


「……」


…うっ…うぅぅ……


わああぁぁぁあ!何これ!何これ何これ!!!超恥ずかしいんですけど!アドリブにも程があるでしょうっ!!


顔が熱くなるのを感じた。ああ、きっと真っ赤になってる事だろうな。


もう!さっきからなんなの!腹が割れたり、刀が出てきたり、人々の前で何か盛大な恥をかいてしまったり…!!


背後から義経さんの声がした。


「よくやった。行くぞ」


よくやったの?ねえ、これ良かったの?ねえねえ。


私が自分の言った言葉に対し、自分で困惑していると、義経さんは私の手首をギュッと強く握った。


…ふぇ…?


思わずドキンとする。


そのまま義経さんは私を後ろに引っ張り、駆け出した。私もつられて駆け出す。


後ろで、ザワザワと人々の声が聞こえた。


うううう…。恥ずかしいよぅ。


走りながら義経さんの顔を見る。


「…あ……」


目が合った。その目は、どこか満足気な目をしていた。口元は少し、口角を上げているように見えた。


…笑ってる……?


走っている事もあり、なんだか爽やかな気分になった。


はあ、でもやっぱり血生臭い…。

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