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恐ロシイ決断ッ!


コトっと真ん中に皿が出された。その上には3つ、先ほどの桃が添えられている。


ーー小さくて赤い…


もしかして、江戸時代の桃と現代の桃って違うのかな…


「良かったら食べてね」


百襲姫さんはがニコッと笑った。


「可愛い女の子が来てくれて、私、とっても嬉しいの」


ふわわわわぁ…。可愛い女の子に『可愛い』って言われたぁ。

土方先生の事を考える時とは別の快感が心に渦巻いた。


えへへ


「とっとと本題に入るぞ」


義経さんは「はあ」とため息をつき、お皿の上の桃を1つかじった。


「…百襲姫。聞きたい事がある。」

「なぁに牛若」


百襲姫さんって、義経さんのこと『牛若』って呼んでるんだ…。うーん。まあたしかに容姿は『源義経』というよりは『牛若丸』って感じかも…。


「このガキ…夢見坂リカはどんな罪を犯したんだ?」


ガキ言いましたね…


…罪。神様もおっしゃっていた罪。本当に、タイムスリップをしてまで償わなければいけないような罪を犯した覚えはない。良い子に生きてきたつもりだ。


百襲姫さんは「えっとねぇ」と言うと、人差し指を、その小さくて可愛らしい顎にピトっと付け、口にした。


「この子は親より早く死んだの。それが罪。」


親より早く死んだら、…罪……?三途の河の前で石を積むアレですか…?でもでも、それって…


「仏教なのでは…」


そう。まあ仏教の正式な経典に書いてあると言うわけではなく、俗信なのだけれど…。私がこの間の真空空間で会ったのは仏教の神様だったのかな…。そんな感じはしなかったのですが。


「神様は気まぐれなの」


百襲姫さんはへへ、と笑った。


…ん?…んん?


はてな、はてな。


「…あ、あの…気まぐれとは…」


…そういえば義経さんも『神様の気まぐれ』なんて言葉を口にしていたな。

えっと…つまり、神様は『気まぐれ』で仏教の神様にもなったりするということ…?んんん?


「まんまだよ。ゆるいから、気まぐれなの」


…えぇ……

ゆるいってなんですか…気まぐれってなんですか…えっと、その神様は仏教の神様でもなくーっ……てことでしょうか…。

いやや、仏教じゃない時もあるってことだよね…。だとしら、本来はなんの神様? やはり日本だから、イザナミイザナギ様、あるいはアマテラスの大神とか…?

うう…思考が行ったり来たりする。


ぐるぐるぐるぐる


義経さんの顔をチラッと一瞥した。腕を組んで目をつむり「しらん」と言うような顔をしていた。呆れてるのかな…?神様に…。


ともかく、


「じゃっ…じゃあ、もしかしたら、その神様の気まぐれで、私は賽の河原で石を積んでいたかもしれないと…。それとも『無』になってたり…。あの、というかそもそも、そもそも、神様って誰ですか…」


巷で流行りの『そもそも論』をぶつけてみた。いつになく己が多弁になっていると言うのは、指摘されずともわかる。よくもまあ、舌足らずで定評のある私が、こんなにも舌が回ったものだ。


そんなことはどうでもいい。


神様って誰なの…。もう、その一言に尽きます。


そうだよ。神様っていう表現が抽象的すぎるんだよ…。だれか特定の人を指しているようで実はさせていない! の、典型です。


百襲姫さんは可愛い声でぴょんと跳ねるように言った。


「神様は神様だよ」


うええ、だから神様って誰なのですか…


私は利き手の人差し指と親指で「ちょっと」のポーズした。


「もうちょっと具体的に…」

「この世で一番偉い人」


定義によって解釈が変わります!

ううぅ…もう、いいや。神様は神様なのですね。まあ、恐らくですが…日本の神様なのだと思いましょう。日本の神様はユルフワだから…。


切り替えます。


「あの、では、少し気になることがありまして…」

「なぁに?」


隣の平安武士の方をチラッとみる。


「義経さんの罪ってなんですか…」


ビクゥっと義経さんの肩が跳ねた。と思うと急に正座になった。頰が赤く染まり、眉を垂れ下げ、口をへの字にし、なんていうか、シュン…って感じ…?


えっと……いけないこと聞いちゃったかな…


「最低だよ」

「…ふぇ……?」


百襲姫さんは先程と変わらぬトーンで言った。


「本当、最低最悪だよ」


表現がストレートすぎます。それに「最低」という言葉を2回も使いましたよ!


百襲姫さんがそんな言葉を繰り返し使ってしまう程ひどいことをしたのですか…。うーん、なんだろう…。戦で沢山の人を殺めたとかかな…。いや、でも、だったら歴史上の人物の大半が罪人になっちゃうし…。そもそも、源義経ってそんなに悪いイメージがない。


「最低最悪って…義経さんはどんな罪を犯したのですか?」


自分で勝手に憶測するよりも百襲姫さんに聞くのが早い。


「なくし物をしちゃったの」


なくし物…?


「そんなに大事なものだったのですか?」

「天叢雲剣の形代…って言ったらわかるかな」


あめのむらくものつるぎ……知っている。三種の神器の一つ。日本神話ではヤマタノオロチを倒した際にその体内から出てきたという伝説の刀。


…そ、そっか…。そういえば源義経は壇ノ浦の戦いで伝説の宝刀を水の中に落としている。まあ形代であって本物でなかっただけ無事だけど。三種の神器と言えばこの日本において一番に大事なものと言っても過言ではない。


つまり、


「大罪ですね」

「最悪ね」


…………


義経さんはというと、目を瞑り黙りこくっている。たらり、と一つ、汗がしたたり落ちていた。この汗がどういう意味を持っているかは、分からない。


義経さんは何百年もの間、この大罪を背負ってきたんだ…。それって、どんな感じなのでしょうか。


「リカちゃん」


百襲姫さんが言った。


「この世にはね、生前に罪を犯して神様のお怒りに触れた人たちが、成仏できずに彷徨っているの」


ごくり、と一つ、唾を飲み込む。



「牛若もそう。私もそうなの。他にもたくさんいるわ。」


すると義経さんが口を開いた。


「百襲姫、そうは言っても君は冤罪だったじゃないか」


たんだか声がピリついている…?

というか、冤罪とは……


「牛若、だまってて。別にそんなことはもういいわ」


百襲姫さんは言うと、急に真顔になり、真剣な眼差しを私に向けた。


「その、いわゆる幽霊という者の中には

とても厄介な人達もいるのよ」

「……厄介な、ひと…?」


「神様に意にそぐわない者より神様に従わず、死んでもなお罪を犯す者。とても恐ろしい存在。それを俗に怨霊という」

「…怨霊……」


どっどっどっどっどっどっ


と、心臓の鼓動が強くなっているのを感じた。

…そんなものが、本当にいるなんて…怖い……

六道珍皇寺で会ったあの怨霊さん達もそれなのか…。


「私たちはね、そんな怨霊達の道を正す命を受けたの」

「『私たち』って、それは誰ですか……」

「私と、牛若と、そしてリカちゃん、あなたよ」


私は思わずガタっと立ち上がり、一歩、足を後ろへ下がった。


「そ、そんなあ…」


怨霊を正すなんて、そんなの…


「…な、何で私なんですか……私、私は神様のお怒りに触れるようなこと……」


百襲姫さんは下から覗き込むように私の顔を凝視した。大きく輝く、魅入ってしまう程に魅惑的な瞳が、今は、怖い。


「神様の気まぐれは時として恐ろしいものよ」


さらに一歩、後ろに退く。


「…て……適当なんですか、私が適当な時に罪を犯してしまったから…」

「言ったでしょう。神様は気まぐれだって」


百襲姫さんはそう言うと、パンっと手を叩き


「さて、ここからが正真正銘本当の本題!」


と、明るい表情にもどった。

ハっと我に帰った。

慌てて座布団に座り直し、居住まいを正す。そして百襲姫さんの顔に正面から目を向けた。明るく、可愛らしい笑顔で私の視線を迎えてくれる。


「と、言うことなのだけれど、やってくれる?リカちゃん」


…やってくれる?…って…怨霊をどうこうするということですか……。そんなの……


義経さんがムッとしたような口調で言った。


「やるしかないよな。そんなことを聞いたって意味がな…」


「もう!牛若はだまってて。りかちゃんに聞いてるの」


百襲姫さんが叱咤の声を上げた。

まあ本気では怒っていないだろうけど。


「…あの、怨霊の道を正すと言うのは、どうやってやるのですか……」

「まあ、一番簡単なのは、戦うことね。そして倒す!」

「ふぇえ…」


そんな…私、怨霊となんて戦えないよ…。お経だって読めないし、霊感だってないもん。第一怨霊は怖いです!おどろおどろしすぎます!ホラーは大の苦手なのに…。見ちゃうけど…。


百襲姫さんの「やってくれる?」という問い。答えは一つです。


「私には…」


できません。そう答えます。


ーーだけど…


一旦思考を立ち止まらせた。

今って江戸時代なんだよね。その上幕末なんだよね。その時代を生で生きて、神様の命により怨霊と戦う…。


悪くない。


悪くはない。えと…つまりそれは、私がこの時代に貢献できるという事だよね…。たしかにこの激動の時代において、怨霊が沢山湧いてしまうのは至極当然のことだと思う。その中で戦う私…


かっこよくね?!

超かっこいいじゃんっ!!!


たしかに私は無力だけど、でも、このお腹の中に刀があるじゃない!それに、義経さんだっている。百襲姫さんだっている。そして、この空の下のどこかに、憧れの土方先生だっている!


私はピンと利き手を上げ、


「できます!」


と胸を張って答えた。


そう。怨霊と戦って、この時代を生き抜く。生き抜いて、生き抜いて……その先にはなにがあるんだろう。

そんなことは分からない。分からないし、今考えたって仕方のないことだ。鬼に笑われてしまう。


百襲姫さんは私の返事を聞くと、今までよりもさらに可愛らしく、にぱぁと笑った。


「良かったぁ。そう言ってくれて、安心だよ。リカちゃんのこと、信じてた。本当、断っていたら神様の命に背いたって事になるからね。」


ふふふ、と最後に笑う。


…ん?今さらっと恐ろしいことを…


「じゃあリカちゃん、さっそく説明に入るから、よく聞いてね。そして覚えてね。」

「……は、はい!」


元気な返事をしてしまったけど…。

ものすごく恐ろしい事に巻き込まれたのではないか。そんな風に思考がぐるぐるする私です。




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