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ボーイ・ミーツ・ガール?

「相変わらず動きはなしと...兄さん、こっちは相変わらずだよ」


 僕たちが教会の監視を始めてから1週間以上経つが、未だに変化はない。

 任務内容としては退屈だけど、のんびりとした時間を兄さんと過ごせる事に僕は喜びを感じていた。


「ああ、わかった、今から昼食を取る、食事が終わったら交代にそっちに行く」


 思念疎通の魔法は一見非常に便利だけど、不便な部分もある。

 まず、距離が離れすぎると疎通が難しくなるということが一つ。

 二つ目に、他の人とも試したが、この魔法は兄さんとの間でしか使えなかった。


「折角だから、美味しいとこで食事してきなよ、確か、南区の大通りのちょっと外れに鳥料理の美味しい食事どころがあるってさ、兄さんが食べて美味しかったら僕もそこにするからさ」


 広場にいると、退屈しのぎにいろんな情報が入ってくるんだよね。


「そうだな、場所も近いし、そうし...悪い、少し遅れるかもしれん」


 会話の途中で思念疎通が途切れる。


「兄さん?」


 僕の呼びかけに反応がなく焦るも、兄さんならきっと大丈夫だろうと心を落ち着かせた。







「やめてくださいっ!」


 人通りの少ない通り道で、1人の女性に対して5人の男が取り囲む。


「おいおい、俺はちょっと道を尋ねただけじゃねーか、それなのにそういう態度はどうかと思うぜ」


 男達は下卑た表情で、女性を建物の壁際へと追い詰める。

 ここは普段なら何人かが歩いてるのだが、たまたま時間が悪かったのか日が悪かったのか、今日に限って人が歩いてなかった事はこの女性にとって不幸であった。


「そこの貴方達、ここで一体何をしているの?」


 通りに美しい声が静かに響く。


「あ“ぁ“?なんか文句あんのか?」


 男達は、声がした方に振り返る。


「ハッ!なんでぇ、ただのガキじゃねーか」


 声の主を確認した男達は、ゲラゲラと笑う。


「こっちに来ちゃダメ、逃げて、助けを呼んで来て!」


 女性は、自分より明らかに小さい子供の女の子に、この場から離れて助けを呼ぶように促した。


「大丈夫よ、すでに衛兵を呼ぶように使いを走らせたわ」


 しかし、女性に心配された少女は、大胆不敵な笑みを見せる。


「おい、俺はこっちの綺麗な子がいいわ、そっちのババアはお前らの好きにしろよ」


 興奮した男の一人が舌なめずりをして、少女の全身を舐めるように視線を這わせる。


「いくら綺麗つってもな、これだからロリコンは...じゃあそっちのガキの面倒はお前が見ろよ」


 男の1人がハァハァと息を荒げながら、少女の方にじわじわと寄ってくる。


「お嬢ちゃん、お兄さんといい事しようか」


 男は少女の手をつかもうと手を伸ばすが、魔法によって身体能力が強化されているのか、少女は逆に男性の手を掴み、捻り返して男を地面に投げ飛ばす。


「へっ?」


 その信じられないような光景に他の男達の理解が一瞬遅れた。

 少女は即座に駆け出し、もう1人の男の鳩尾に肘を入れる形でタックルして意識を昏倒させる。

 他の男達はようやく危機察知能力が働き、慌てて武器を抜こうとする。

 しかし、1人が前方に向けて剣を引き抜くタイミングを狙い少女が飛びあがると、剣の柄を片足で上から押さえつけ、鞘から剣を引き抜けないようにする。

 柄を土台にしてもう片方の足を振り上げ、少女は体を拗らせると、空中で一回転し相手の側頭部を蹴飛ばして、脳震盪を起こさせる。


「動くな、動いたらこの女がどうなっても.....」


 勝てないと悟った男は、女性を人質に取ろうと動くが、後ろから武器を持った手を何者かに掴まれ引きずり倒される。

 倒される瞬間、男の視界にはいつのまにか倒れているもう一人の男が目に入る。


「いてえ!!だ...誰だてめえ!」


 捕まれた手に痛みを感じ、男は武器を地面に落とす。


「マリアンヌ様、普通は逆でしょ」


 割って入って来た騎士風の男は、捕まえた男の意識を昏倒させた後、呆れた顔で少女を見る。


「あら、ドミニク、私は代行として善良な領民を守っただけよ」


 9年前フェリクスに連れられた見習い達の一人、当時15歳の少年だったドミニクは、正式にシュタイアーマルクの騎士となっていた。


「マリアンヌ様に何かあったら、副団長やブルノさんに叱られるのは俺なんですからね」


 マリアンヌが領主代行になってから、ドミニク、マティアス、カティアの3人は交代で彼女を警護している。

 本来であれば、ドミニクは護衛として止めるのだが、たまたまこの状況に誰よりも早く気づいたマリアンヌは、手早くローレリーヌを詰所に、ドミニクには裏に回るように促し、一人で行ってしまったために止める暇さえも与えられなかった。


「ごめんなさいドミニク、貴方にはいつも感謝してるわ」


 マリアンヌは瞳を潤ませながら、ドミニクの顔を下から覗き込む。


「う...騙されませんからね、そんな目でこっちを見ないでください.....もう、今回だけですよ」


 ドミニクは今回だけといいつつ、マリアンヌを何度も甘やかしていた。


「さすがドミニクね、細かいことを気にしない器の大きい男はモテるわよ」


 その言葉にドミニクは真顔になる。


「ふ、ドミニクさんは女性の細かい変化に気づかないからダメなんですよ〜って、ちょっと気になっていた女の子に、笑ってない目で苦言を呈された俺には関係ない話ですよ.....!」


 ドミニクは自嘲の笑みをこぼす。


「.....が、がんばれっ!」


 不憫に思ったマリアンヌは、可愛く誤魔化しながらドミニクを励ます。


「やめて、自分で言っててなんだけど虚しくなるからやめて」


 大ダメージを受けたドミニクは地面に両手をつき膝を折る。


「ぷっ」


 くだらないやりとりで思わず笑ってしまった事に気づいた女性は、慌ててその場を取り繕う。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございました」


 深々とお辞儀をした女性は2人を見る。

 先ほどまで恐怖心の緊張感から強張って声も出なかったが、2人のかけあいを見て落ち着きを取り戻していた。


「貴女も無事でよかったわ、もう大丈夫よ、そろそろ衛兵も来るわ」


 マリアンヌは女性に優しい顔を向ける。


「はい、ありがとうございました.....あ、あの、私、食堂で働いてるんです、それで、お貴族様にはどうかと思うんですけど、お昼まだでしたらどうですか?お礼をさせてください」


 マリアンヌは一般庶民の着るような服を着ているが、汚れはなく、彼女の纏う雰囲気や美しさから、貴族であることを隠せてはいなかった。


「そうね...いいわ、これも何かの縁ね、その言葉に甘えさせてもらうわ」


 大衆食堂で食事し、人々の会話に耳を傾ける事で、領民達の生活環境を知る事ができる。


「はい!あと、私、ジネットって言います、よろしくお願いします」


 ジネットはマリアンヌに対して、弾けるような笑顔を見せる


「私はマリアンヌ、こっちはドミニクよ、よろしくねジネット」


 2人が挨拶を交わしてると、ローレリーヌが衛兵を連れてきたのか、離れたところから複数の足音が聞こえてきた。

 マリアンヌはその瞬間、思わず気を抜いてしまった。


「っマリアンヌ様!」


 5人いるうちの4人は意識を昏倒させていたが、最初にマリアンヌが投げ飛ばした1人は、のびたふりをしていただけだったようだ。

 男はマリアンヌが足音の方角に意識を向けた瞬間に立ち上がり、後ろから抱きつこうとした。


 しかし、男の思惑通りにはならず、マリアンヌと間に突如現れた少年によって、鳩尾を蹴飛ばされ男はそこで意識を手放した。


「.....最後まで気を抜くな」


 振り返った黒髪の美少年は、思わず尻餅をついて倒れ込んだマリアンヌへと手を伸ばす。


「.....ありがとう、助かったわ」


 マリアンヌは少年の手を取ると、体を地面から引き上げられる。


「ああ」


 少年はぶっきらぼうにそう答えると同時に、ローレリーヌがマリアンヌの背中に抱きつく。


「お嬢様!大丈夫ですか!?」


 心配したローレリーヌは、マリアンヌを抱きしめる手に力が入る。


「ローレリーヌ、私なら大丈夫よ.....でも心配をかけちゃったわね、ごめんなさい、反省して次からは気をつけるわ」


 ローレリーヌに心配をかけた事で反省したマリアンヌは、素直に謝罪する。


「ダメです、気をつけるのではなく、危険な事をおやめください!」


 反省が足りてないと感じたローレリーヌは、更に念を押す。


「善処するわ」


 マリアンヌは、ばつが悪そうにローレリーヌから視線を外した、


「ダメです!そう言って反省しないところレオポルド様にそっくりです」


 そこへドミニクが口を出す。


「全くです、ローレリーヌももっと言ってください」


 私に説教しても暖簾に腕押しだと気づいたローレリーヌは、横から入ってきたドミニクにターゲットを切り替える。


「そもそもドミニク様が甘やかすから.....」


 ローレリーヌはわたしから手を離すと、ドミニクの方に向き直る。


「げ?これ結局俺が説教くらうパターンじゃないですか、お嬢様なんか言って.....」


 マリアンヌはそんな2人を尻目に、お礼を言おうと再び少年の方に視線を向けると、すでにその姿はなく何処かに消えていた。


 

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