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東都に忍び寄る者達

前半はエルハルト視点、後半はニーナ視点

「兄さん、本当にやるの?」


 ベッドに横たわったユングは、不安そうな表情で此方を見つめる。

 弟が不安に思うのも当然だろう、この任務が成功する可能性は低い。

 

「あぁ」


 壁にもたれかかった俺は、窓の隙間から遠く離れた巨大な城を見上げる。

 あまりの無謀さに自分でもバカバカしくなった。

 

「それでいい、ナンバーL07、ナンバーY09、お前達に選択権はない」


 部屋にいた数人の男のうちの1人が声をかける。

 この男は、俺やユングに仕事のやり方を享受し育てた教育係の1人だ。

 無論、本名もしらないし、俺たちを道具としか扱わぬこいつらに興味はない。

 

「わかっているだろうが、お前が途中で逃げたら、ナンバーY09は死ぬ」


 体内になんらかのウィルスを注入されたユングの命のリミットは近い。


「ナンバーY09を助けたければ、あいつを、アンブローズ大公を殺せ」


 どうやら、この組織もついに終わりを迎えるようだ。

 ロワーヌ大陸の至る所に作られた組織の拠点は、大公の手の者によってことごとく潰された。

 今回の襲撃はそれに対する報復行為だが、とてもじゃないが返り討ちに会うのが目に見えている。

 しかし、この男が言うように俺には選択権がない。


「わかっている、いつも通り俺は与えられた任務をこなすだけだ」


 俺の返答に教育係の男は満足そうに微笑む。

 そういえば、大公はマリーを引き取ったと聞く。

 最後に一目、彼女を見れるだろうか。

 もし叶うのであれば、一目だけでいい、彼女に会いたいとそう願った。







「こちらの予定通り、何人かが東都に入り込んでいるようね」


 東都で副宰相を務める私は、髪が邪魔にならないように耳にかけ報告書をめくる、


「さて、どうしようかな」


 侵入者達には可哀想だが、彼らの動きはを既に捕捉している。

 あとはどう対処するかだが、主からは2人を残して、全てこちらで対処するようにと仰せつかった。

 できる限り被害は抑えるべく、幾つかのパターンを自らの思考の中で考察する。

 丁度その時、誰かが部屋を訪ねてきた。


「ニーナ、ちょっといいかな?」


 部屋を訪ねてきたポニーテールの彼女を見て、呼びに行く手間が省けたと私はほくそ笑む。

 東都十二騎士の1人にして、ハイエルフの狙撃手。


「いい所に来たわねフラン」


 私の笑顔にフランは一歩後ずさる。

 12人の中では、フランは仕事を押し付けやすいタイプだ。


「うっ、来るんじゃなかった、絶対にめんどうくさい話だ」


 私はフランに対して報告書を差し出す。

 フランは諦めたのか、ため息を吐き、報告書をめくっていく。


「これ、何のリスト? 暗殺?」


 フランはコテンと首を傾ける。


「今、東都に侵入している不届き者達よ」


 意味が理解できなかったのか、フランはその場で一瞬固まる。


「えぇっ! うちのシステムを掻い潜って来るとか大丈夫なの!?」


 ようやく理解が追いついたのか、フランは慌てふためく。

 まぁ、普通に考えたら、あのシステムを抜けて来るなんて尋常じゃないからね。


「問題ないわ、一応抜け道は作ってあったし、ここに招いたも指示の内だから」


 彼らが侵入するために使用した、偽造証明書を発行したのは私だしね。

 それを受け渡した裏の組織も此方の息がかかった所だし、つまり、自作自演というやつである。


「それで、私はどうすればいいの」


 私はフランに耳に装着する魔法道具を手渡す。

 この道具は本来は通信に使うものである。


「王城の展望台からいつでも狙撃できるようにしておいて、貴方なら遮蔽物があっても寸分たがわず目的の人物だけを撃ち抜けるでしょ?」


 既に彼らの魔力には紐つけしてある。

 あとは、通信にそって指定されたポイントに狙撃していくだけだ。

 はっきしいって、今すぐ狙撃してしまえば侵入者達だけであれば楽に全て片付けられる。

 我が主はここで組織自体を潰すようだが、それにしたって此方が待ち受ける必要はないのだが、一体何を考えているのか。


「王城、破壊していいの? 怒られない?」


 フランは恐る恐る尋ねる。


「狙撃程度の穴なら大丈夫よ、許可はとってあるわ」


 壁や地面を修復するだけなら被害も少ないし、私が修復するわけでもないしね。

 私は書類に再び目を落とす。


「それと、ナンバーL07とY09の2人は間違っても殺しちゃだめよ」


 今回の組織の目的は大公の暗殺。

 そのキーマンがナンバーL07だろう。

 しかし、我が主はこの者との直接の対峙を望んでいる。

 今回の不可解な点も、おそらくこの事に関係しているんだろう。


「わかったわ、他にも何か注意点は?」


「特にないわ、ところでフラン、貴女、何か私に用があるのではなくて?」


 最初、何か用事があって私を訪ねに来ていたはずだが、この様子じゃ完全に忘れているわね。


「あっ、セフィ姉からこれ預かっていたんだった」


 フランに手渡された書類を見て凍りつく。


「それじゃ、私はここら辺で...」


 私は、スッとその場から去ろうとしたフランの肩をがっしりと掴む。


「フラン、この数字はどういう事かしら?」


 書類に書かれていた数字を見て頭が痛くなった。

 十二騎士がこなした任務にかかる予算も、全て国庫から捻出されている。

 無論、資金は問題なく足りるのだが、これらは税金から捻出されているので無駄にしていいものではない。


「いやいや、今回は私じゃないよ!? それ多分、スイがやった奴だから!!」


 十二騎士の中でも、特にコントロールが不可能なのがスイだ。

 スイ、アリス、フランはやりすぎて被害が増える事もしばしばで、そのせいで予定外の出費がかさむ。

 もはやアリスとスイの制御には諦めがついているが、フランの場合は大雑把な性格だとか、おっちょこちょいな所が起因しているので、まだどうにかなるはずだ! ...と思う。


「今回は?」


 不穏なワードに思わず顔がヒクつく。

 ただでさえ、貴女の武器は一番お金がかかっているのに、今度は一体何を破壊しちゃったのかな?


「ちょっと落ち着いて話し合いしましょうか」


 私は部屋の片隅にフランを正座させて問い詰める。

 その後、私の説教は彼女が涙目になるまで続いた。

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