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夜の街並み

お待たせしました。

 カーテンの隙間から漏れ出た月の光に照らされた部屋の中はまだ暗い。

 ちょっと休憩するつもりが、ソファの上でそのまま眠ってしまったようだ。

 その後、誰かがベッドまで運んでくれたのだろう。

 十分に寝たせいか、目が冴えていた私はベッドから起き上がり部屋の窓側へと歩く。

 カーテンの奥の、足元から天井にまで伸びるガラス窓を引き、ベランダへと出る。


「気持ちのいい風...って、どこだろここ?」


 目の前の湖を隔てた場所には先ほどまで居た東都の王城が見えた。

 王城を包む文明の光は、波打つ水面に反射し幻想的な夜を演出する。

 もし、恋人同士でこんな夜景を見られたとしたら素敵だろうな。


「ここから見る東都と城はなかなかいいだろう?」


 聞き覚えのある声に視線を向けると、隣の部屋のベランダにでていた大公と目が会う。

 視界の範囲に人影はないが、外には私たち以外の気配を感じた。

 しかし、気配からは敵意が感じられなかった事から護衛だと認識する。


「こんばんわ、大公殿下」


 私の夜の挨拶に対して、珍しく大公はツンとした表情を見せる。


「大公は少し余所余所しいな、ナタリーのように俺の事もお養父さんと呼んでくれていいのだぞ?」


 ここでようやく自覚するが、どうも私はこの人に感情を見せられると弱いらしい。


「わかりました...では、お養父さま、こんな夜更けに1人どうされたのですか?」


 私はベランダの端に寄り手すりを掴むと、お養父様も此方側に近づく。


「夜に1人で外にでるなんて、悪さをする時以外は決まっているだろう?」


 お養父さまはお酒の入ったグラスを傾ける。

 氷のカランという音が風にのり、涼やかな空気がただよう。

 なるほど、私と同じで眠れない夜を過ごしているようだ。


「ところで、ここは何処か知りたいのだったな」


 お養父様が指差した湖を取り囲む壁面の先には、ここから見下ろす形で東都の街並みが見えた。

 そこから、更に視線を奥に動かすと海を取りかこむ巨大な壁が見えた。


「東都に来る前に、1番最初に潜った関所のある大壁があるだろう? それが、あれだ」


 最初の関所があった壁は海まで続いていたが、おそらく一周ぐるっと回る形でつながっているのだろう。

 お養父様いわく、海側の門壁の外周のいくつかは関所になっており、そこで積荷や乗客を確認できた船だけが東都への入国を許されるそうだ。

 ここからもうっすらとだが、船の放つ赤い光が見える。


「無茶苦茶すぎる...」


 これだけのものを、短期間で作り上げるのは尋常ではない。

 戦争が終わって2年、東都からはその足跡を感じられなかった。


「要因はいくつかある、暇なら聞くか?」


 私が首を縦に振ると、お養父さまはグラスに入ったお酒を飲み干す。

 残った氷を炎の魔法で蒸発させると、手に持ったグラスを魔法で形状変化させて一つの塊にして見せた。


「まず1つが魔法だ、優秀な魔法使いを多く抱えていれば、それだけで建築は容易になる」


 例えば錬金術であれば、容易に物質を加工する事ができるし、地盤整備なら土魔法など、運送や設置面や作業においても、魔法を屈指すれば短縮できる工程は多い。

 優秀な魔法使いはただ単に戦うだけではない、東都はそういった非戦闘職の魔法使いも育てていると聴く。


「我が国はスペシャリストも何人か抱えている、私も得意だし、お前の知っているアリスや、今日玉座の間にいたロイク等も都市を構築するときに役に立った」


 ロイク様は、ベルトーゼ様から教えてもらった東都十二騎士の1人。

 直接の挨拶はまだだが、見た目の特徴から名前は一致した。

 アンスバッハ侵攻の時にも、遠目から見たのでよく覚えている。

 軍服を着ていたスキンヘッドの大きな男の人で、土魔法が得意だったと思う。

 アリスちゃんは、私にスクルド様から授けられた加護の使い方を教えてくれた同い年の女の子だ。

 最年少の東都十二騎士で、全属性の魔法が使えるそうで、数えきれないほどの加護を持っていると聞く。


「次に、魔法道具とアルムシュヴァリエの進化だ」


 ここに来るまでに多くの技術力に目を奪われた。

 アルムシュヴァリエは、今までは戦いのための道具にしかすぎなかったが、ここでは建築や探索、救助に特化させたりと、多用的な進化をしている。

 生活を少し便利にする程度だった魔法道具も、通信技術による革命を持たらせたように、ここ東都から多種多様な魔法道具が生み出された。


「いずれ紹介するが、この国の多くの技術を生み出したのはたった1人の女性によるものだ」


 これに関してはずっと疑問に思っていた。

 記憶を掘り起こせば、十二騎士の1人、フランセットさんの使っていた魔法が最初だっただろうか。

 超高速で放たれた何かが、一瞬にしてゴーレムを貫き破壊したの衝撃的で、今でも鮮明に覚えている。

 あれは、魔法以外の何か、それこそずば抜けた技術の介助があってこそだと見当をつけていた。


「驚きました、これらの技術をたった1人が生み出したなんて...だけど、それと同時に納得もできました」


 開発や設計における思想、造形美、その突飛な発想にも、どこか共通点があるように思えたからだ。

 その一つが東都から発祥した銃という武器だろう、私が見たフランセットさんのアレとは威力が違ったが、それに近いものを感じていた。

 こんな技術を生み出す天才が、世に何人も居てたまるか、というのもあり、1人によって生み出されたというのはストンと腑に落ちる。


「それらに加えて、資金のやりくりと、計画を立て遂行できる者がいれば、後は簡単だろう?」


 戦争時にギュスターブ殿下に対しても貸しがあるそうだし、お養父様の後ろにある資金の根源が謎なんだよね。

 それに、これだけの人材を抱えていたとしても、計画を立てる人と指揮する人がボンクラでは話にならない。

 新しい技術を受け入れ積極的に流用したのも、都市設計の構想がしっかりと練られているのも、やはりお養父様の手腕によるものだろう。


「少し話はそれたが、見ての通りここは城の後ろにある湖の中の島の中だ」


 ちなみに、今のこの状態は狙撃に対して一見無防備にも見えるが、魔法に対する障壁が常時貼られているようだ。

 魔法以外の銃撃などに対しても。それらに対応する魔法道具によって防がれるらしい。


「ここは、元々ヴェルニエの王都にあった空中庭園だったものだが、ギュスターブに借金の支払いの代わりに催促しこちらで手を加えた、勿論、いつでも浮くことができるぞ」


 お養父様はニヤリと笑う。


「もはや、開いた口が塞がりません...お養父様は一体何と戦うつもりなのでしょうか?」


 良い機会なので、ここで少し核心に触れておこうと思う。


「神々に対抗するとしたら、これくらいの備えはあって然るべきだろう、俺達が戦っているのは何も人間だけではない」


 私があった神族は2人、スクルドとブリュンヒルデの襲撃の顛末はベルトーゼ様に聞かされた。

 スクルドはお養父様に敗れ戦闘の最中に敗走、ブリュンヒルデはそれを見計らって退却。

 思えばブリュンヒルデは、ルーベルト様との戦いは楽しんでいたが、最初からやる気がないように見えたのが引っかかっている。


「神々と対抗するなど、正教会が聞いたら何というか...頭が痛くなります」


 今のところ、正教会から何かされた事もなく、そこが逆に不気味である。

 グングニルを手にした事で、祭り上げられる事もなく、かといって疎まれる事もなく。

 本当にただただ静観しているように思える。


「まったくだ我が娘よ、共犯者ができて父は嬉しいぞ」


 しかし、スクルドを圧倒するとか、この人は一体どれだけ強いのか。

 フェンリル達も、お養父様の力を図かねているようだ。


「私も1人で戦うのは心細かったので感謝していますよ、お養父様」


 実際、今の私ではどう足掻いてもスクルド達に対抗できる気がしない。

 さすがに守ってもらうばかりでは駄目だろうし、私自身が強くならないといけないと思っている。

 ここには幸いにも、私より強い人が一杯いるから環境としても最高だ。


「改めて、ようこそマリー、君が東都に来た事を歓迎しよう」


 お養父様は、手に持っていたガラスの塊を空に投げると、空中で弾け、破片が夜空に煌めいた。

 おそらくお養父様は、この散らばるガラス片に睡眠魔法を付与していたのだろう。

 睡魔に誘われた私は、後ろにいた誰かに体を預ける。


「今日はもう遅い、スイ、マリーを頼んだぞ」


 そういえば、スイさんが護衛に付いていたはずなのに、何処にいたのか、今の今までスイさんの気配だけは感じられなかった。

 睡眠魔法も、私が油断していたとはいえ、私のような多くの魔力がある者ですら眠らせるお養父様は、やはり異常だろう。

 強くなるためにここに来た私の選択は正解だったのだと、そう確信するとともに私は瞼を閉じた。


ブクマありがとうございます。

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