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大公と東都十二騎士

「おかえり、マリーちゃん!」


 列車から降りると、取り繕う暇もなくお養母様が私に抱きつく。


「ただいま戻りました、お養母さま」


 お養母様は緊張をほぐそうとしているのか、過剰なスキンシップで私を愛でる。

 どうしようかと思っていたら、ベルトーゼ様が咳払いで制止してくれた。

 お養母様は私を解放すると、ベルトーゼ様の方に体を向ける。


「ご苦労様、ベルトーゼ」


 労いの言葉に、ベルトーゼ様は頭を下げる。


「さて、それじゃ、あなたのお養父さんに挨拶しにいきましょうか」


 お養母様は再びこちらに体を向けると、両手を合わせ満面の笑みで微笑んだ。







 玉座の間に連れてこられた私は、ベルトーゼ様の後に続いて、玉座に伸びる赤い絨毯を進む。

 部屋の中の天井の高さは10mを超えるだろうか、贅を尽くした巨大なシャンデリアが部屋を照らす。

 光沢のある上質な赤のヴェルヴェットのカーテンは金糸の刺繍が施され、光の差す巨大なガラス窓の影も計算された美しさを見せる。

 一瞬、見惚れてしまったがすぐに意識を戻す。

 ベルトーゼ様が少し横に掃けて膝をつくと、私の後ろにいた従者たちも追従するように膝をつく。


「東都十二騎士が一人、ベルトーゼ・フォン・ヴァルトシュタイン、主上の命に従い、マリアンヌ・ド・ウェヌス・アンブローズ殿下をお連れいたしました」


 立ったままであった私は、ベルトーゼ様の横を通り過ぎ前に出て、ドレスのスカートの両端をつまみ膝をつく。


「マリアンヌ・ド・ウェヌス・アンブローズ、無事に帰還できたことをご報告いたします」


 大公は手を挙げ、私たちに面をあげるように促す。


「ベルトーゼご苦労であった...そして、よく来たなマリー」


 王城の中央の玉座にアンブローズ大公が座り、その隣の玉座にはお養母様が座っていた。

 その左右にはセフィリア様とテオ先生が控え、玉座の手前、私のいる赤絨毯の左右には9人の騎士が立つ。

 アリスちゃんやエレオノーラ様に、婚約式の時に見た、ゴルドシュミット卿、マンスール卿、カーマイン卿らなど見覚えのある顔が並んでいた。

 さらに、この部屋には彼ら以外にも、見覚えのない人が何人かいるのが確認できる。

 私たちも含め全部で30人近くいるが、玉座の間はそれでも広く感じられた。


「今日は公式な面談ではないので楽にしていい、それに、今この部屋にいる者達は君に関する事情を把握しているし、私自身が絶対の信頼を持って側に置いている者達だ」


 とは言え、何人かは値踏みするような視線を隠さずに向けてくる。

 その中でもエメラルドグリーンの髪の人は、確かマティアスを助けてくれた人だったと思うけど、この人の向ける視線は他とは少し違うようだ。

 フェリクスと同じ、強い奴と戦ってみたいという面倒くさい、もとい、純粋な視線だと思う。


「東部の貴族は全てで108家、私に絶対の忠誠を誓う者もいれば、お互いの利だけで繋がっている者、野心を隠さぬ者もいる」


 東部百八家門については列車の中でも簡潔に説明を受けた。

 その中でも、先ほど名乗ったベルトーゼ様、セフィリア様、テオ先生、赤絨毯を挟んだ左右の9人を合わせた12人は東都十二騎士と呼ばれているそうだ。


「中には、もうマリーに接触を計ろうとしている者も確認してある、釘は刺すが、生憎それで止まる程度の野心のないボンクラは抱えてないつもりだ、直接はないにしろ間接的に接触をしてくる所はあるだろう」


 東都の貴族は新興貴族も多く、前回の内乱の最中に大公が優秀な人間を多くスカウトしたと聞いている。

 領地没収の際、それらの貴族は王都を離れ東都へと集まった。


「王家のルールで言えばマリーは現状ヴェルニエの継承権第4位にあたるが、私が死ねば東都を引き継ぐのはナタリーではなくマリーになる」


 王位継承権に関しては、ギュスターブ殿下が結婚し子供ができれば、私の順位はどんどん繰り下がっていく。

 しかし、東都に関しては大公とお養母様の間に子供ができたとしても、養子になった私より継承順位が下がる。

 ちなみに、大公に子供ができた場合、私は継承権放棄することを提案するつもりだ。


「故に、まずは身内の接触からマリーを守らないといけない、マリーの従者達では立場上マリーを守ることは難しいだろう、正式にお披露目するまでの間は十二騎士から手の空いているものを回すつもりだ」


 私の従者に爵位持ちがいないのは問題だと、ベルトーゼさんも言っていた。

 王家の従者は一般の指揮系統からは外れるそうだが、東部のシステムは単純に爵位だけが物を言う王都とは違う。

 ここ数日で得た情報を精査すると、大公は貴族の命令権の及ばない組織作りをしていると思われる。


「東都内の貴族であればそれで押さえつけられるだろう、王都の貴族に関してはギュスターブからお達しが来ているはずだから問題ないだろう、あそこに残っている貴族は権力に従順だからな」


 あの日、エドモンを捕縛してからの陛下と大公の手管は流れるようにスムーズだった。

 芋づる的に不要な貴族を一斉に粛清した手際の良さは、しっかりと時間をかけて準備をしていたのだろう。

 ベルトーゼ様曰く、私が記憶を失ったのは予定外で、大公が私を見つけたのは偶然だったそうだけどね。


「それと、君の従者達だが既に此方で従事していた者達は異動しておいた、また、ほかの従者達も此方で従事できるように既に手配してある、詳しい説明は副宰相のニーナか、筆頭秘書官のレイラの方から聞くといい」


「ご紹介に預かりました、東都副宰相ならびに戦術指揮官を務めております、クルスニク公爵家当主のニーナ・フォン・クルスニクと申します、以後お見知り置きを」


 クルスニク公爵家はヴェルニエの中でも少し特殊だ。

 ヴェルニエでも最古参の貴族のうちの1つだが、元々が他国の貴族がルーツなため、王家に近い貴族には少し疎まれている。

 現当主のニーナ様は若くして当主となり、内乱時は大公の元で戦略面を担当するテオドール先生と並び活躍した。

 東都の重要ポストについているニーナ様とセフィリア様は、若い女性達の憧れとなっていると聞く。


「さて、今日は長旅で疲れただろう、もう下がって部屋でゆっくりと休みなさい、ナタリー、マリーを頼む、フラン、スイ、お前たちもついていけ」


 私は大公に礼を述べ、お養母様達や従者達と共に玉座の間を後にし、王城の中にある一室に案内される。

 広い神殿のような作りの一室の中央には、魔法陣が描かれていた。


「さぁ、みんな魔法陣に乗って」


 お養母様は、全員が魔法陣に乗ったのを確認すると、周りが光に包まれる。

 眩しさから目を閉じるが、何事が起きたのか確認するために恐る恐る瞼を開く。

 目を開くとは先程とは違う光景が目に入る。

 どうやら、どこかに転移されたようだ。

 お養母様は振り返り、笑顔を見せ手を広げる。


「我が家へようこそ、みなさん」


 部屋の扉が開かれると、見覚えのある初老の男性が中に入ってきた。


「おかえりなさいませ」


 背筋はピンと伸び、燕尾服には皺一つない。

 彼は、汚れのない白の手袋を胸に当てお養母様に頭を下げる。


「ただいまルーベルト、私はマリーちゃんを案内するから、みんなをお願いできるかしら?」


 ここに来るまでの間にベルトーゼ様と確認したが、やはり私の知っているルーベルト様で間違いがないようだ。

 この人をただの執事として雇い入れるとか、どれだけ勿体ない使い方なのかと思ったが、ベルトーゼ様曰く、絶対にいかなる状況下でもお養母様を守るためだとか。


「畏まりました、では、女性陣以外は此方へ」


 ルーベルト様はブルノ達を連れてどこかへ向かっていった。

 私はローレリーヌ、カティア、ソフィア先生の3人を連れてお養母様の後をついていく。


「ここがマリーちゃんの部屋よ」


 案内された部屋に入ると、直ぐにでも生活できるように調度品などの準備が整っていた。


「横の扉の先がメイドルームと護衛の部屋になっているわ」


 ローレリーヌやカティアとソフィア先生には、自分の部屋の準備をするように指示を出す。

 大公曰く、立場的にメイドと女性の護衛が足りないそうで、足りない人員は当面の間お養母様から回してくれるそうだ。


「それじゃ、夕食までの間は部屋でゆっくりしててね」


 お養母様はスイと呼ばれた女性をその場に残し、部屋から出て行く。

 私は長旅で疲れていたのか、ソファに座るとそのまま眠ってしまった。

 


 

ブックマーク、評価、ありがとうございました。

近況報告でも書きましたが、基本的に1週間に1話ペースでのんびり投稿しております。

来週は世間がゴールデンウィークの最中、水曜以降が特に忙しいので更新できないかもしれません。

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