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裁きの時

長くなりましたので分割です。

後半は今日か明日に公開します。

「ナ、ナターシャさん!?」


 なぜここに彼女がいるのか。

 ナターシャさんは混乱する私の手をとる。


「ルーベルトから大体の事情は聞いたわ、後は私に任せて」


 あの時現れたルーベルト様が、私の知るルーベルト様であるのだとしたら、ギュスターブ陛下の祖父である当時の国王に、宰相として使えていた人物である。

 そんな人物が彼女に仕えているのだ、ナターシャさんが貴族位なのは間違いないだろうし、彼女の爵位もそれなりのものなのだろうと思う。

 ナターシャさんは私の手を離し、エドモンの方に向き直る。


「シュタイアーマルク侯爵、私はこの婚約を認める事はできません」


 彼女の立場がどうであれ、たった一人だけでも、私を味方してくれる貴族がいると思うと心強い。


「何を言っている小娘! 私は侯爵だぞ、お前のような小娘の言う事など誰が聞くか!!」


 エドモンの言葉にナターシャさんはハッとする。


「あ、そうだ、忘れてた!」


 ナターシャさんが慌てて指輪を外すと、指輪によってかけられた魔法が解除されていく。

 どうして私は、いや、ここにいた全員が彼女の正体を認識できなかったのだろうか。

 彼女の美しさに一度でも触れた者は、その名前を絶対に忘れる事はない。

 おそらく認識阻害の魔法に近いものがあの指輪にかけられていたのだろう。

 3日間、記憶を失っていたとはいえ、ずっと一緒にいたはずの私ですら気づかなかった。


「ナ、ナタリー様」


 誰が呟いたのか、会場にいた全員が驚く。

 ヴェルニエの王ギュスターブ陛下の妹にして、ナンバー2アンブローズ大公の妻、ナタリー大公妃殿下。

 この場に彼女のことを知らぬ者など誰もいない。

 予想外の状況に固まる私たちをよそに、ゴルドシュミット卿らは膝をおり忠誠を示す。

 その様子を見て、正気を取り戻した貴族達が後に続く。


「シュタイアーマルク侯爵、改めてこの婚約の見直しを要請いたします」


 驚いたエドモンも落着きを取り戻し、貴族らしくその場に跪く。


「畏れながら申し上げます、ナタリー大公妃殿下、侯爵家以上の婚姻に関しましては、殿下とはいえ貴族法に則った正式な手続きを踏まれるようにお願いしたく存じ上げます」


 ギュスターブ陛下とアンブローズ大公による貴族の中央集権化は進んでいるが、貴族法の改革にまでは至ってはいない。

 ナタリー殿下の権力を持ったとしても、手続きを簡略化させる事は難しいだろう。


「わかりました、では、正式な書状は後ほど用意するとして、ひとまず今日の婚姻を延期することを望みます」


 その言葉を待っていたとばかりに、エドモンは顔を上げニヤリと笑う。


「いいでしょう、そのかわり、彼女の周囲にいる者達を拘束しても? 貴族に対する反逆罪は重罪でございます、直ちに拘束し処分する必要がございます」


 エドモンは、拘束した私の従者たちを引き換えに、私にダルクール男爵との婚約を迫るだろう。

 私の中にみんなを見捨てる選択肢はない、かといって、目の前の3人に勝てる気もしない。

 ナタリー殿下の権力を持ってしても、今のこの展開は覆すのは難しいと思う。

 それならば、私が素直にダルクール男爵と婚約すればいいだけの話である。

 全てを諦めた私が、決意を胸に一歩前に出ようとしたその時だった。


「それは認められないな」


 侯爵に異を唱えるなど何者かと、声の方にみなが振り向く。

 私もよっぽど焦っていたのだろう、この人の事を忘れるなんて。

 ナターシャさんがナタリー殿下なら、その夫であるレオさんの正体はこの人以外にはありえない。

 彼もまたナタリー殿下と同様、認識阻害の魔法がかけられていたのだろう。


「アンブローズ大公...!」


 エドモンはよっぽど大公の事が嫌いなのか、苦虫を噛み潰した顔で睨む。


「シュタイアーマルク侯爵、横領罪により貴方を拘束する」


 カーマイン卿は素早くエドモンを地面に押し倒し、その場に拘束する。


「な、何を言っている!?」


 エドモンの周囲に居た騎士達が反応するよりも早く、ゴルドシュミット卿とマンスール卿は剣を引き抜く。

 彼らの威圧感に周囲にいた騎士達は戦意を失い、反抗の意思がないことを示すために、次々に手に持った武器を地面に捨て両手を上にあげた。

 アンブローズ大公は一瞬だけ私に微笑むと、ダルクール男爵の名を呼ぶ。

 跪いていたダルクール男爵は、その場に立ち上がりアンブローズ大公に向かって騎士の礼をする。


「報告いたします、シュタイアーマルク侯爵は辺境伯領の返還の際に先立って領内の資源を売却、国家の資産を自身の資産として私的に流用した嫌疑がかけられております」


 ダルクール男爵の従者がアンブローズ大公の元に進むと、膝をつき書類を献上するように上に掲げる。


「それが、調査の段階で見つかったいくつかの書類です、他にも余罪があると思われ、取り調べを開始するのには十分な証拠が集まったと思われます」


 多くの者がこの状況を理解できない中、ナタニエルは私同様全てに気づいたようだ。

 大公は、最初から全部わかっててダルクール男爵をエドモンに差し向けたのだろう。

 不可侵とされてきた貴族法の改正を切り崩すために、私の婚約が利用されたわけだ。

 ただ、大公がエドモンを拘束するのには一つ大きな問題がある。


「ふざけるな! 大公と言えど私も侯爵位、貴族法に則り侯爵以上の立場が裁けるのは国王のみである、王都直轄の貴族である私が、東部の貴様如きに拘束される理由などないわ!」


 大公は東部に居を構える貴族であれば、爵位に関わらず即座に裁く事のできる権力をギュスターブ陛下に与えられている。

 しかし、王都の貴族であるエドモンに関していえば、彼をその場で裁く事ができるのはギュスターブ陛下だけだ。

 大公がエドモンを拘束するのであれば、国王に進言し勅命を得なければならない。

 結局、ナタリー様同様どういうルートを辿っても貴族法に引っかかるのである。


「シュタイアーマルク侯爵よ、貴方の仰る通りだ、おかげで説明する手間が省けた」


 アンブローズ大公は笑みをうかべる。

 私は知っている、この人がこういう笑顔の時は悪いことを考えている時だ。


「故に、貴方を裁ける人間をここに連れてきた」


 アンブローズ大公が片膝をつくと、ソフィア先生がぶち壊した壁の穴から、タイミング良く美しいブロンドの美青年が数人のお供を引き連れ現れる。


「久しいなシュタイアーマルク侯爵」


 エドモンは目を見開き唇を震わせる。

 当然だろう、この国の最大権力が来るなどと誰が予想したことか。

 動揺するのはエドモンだけではない。

 ナタリー殿下に続いて大公、大公に続いて陛下まで現れたのだ。

 この状況には貴族とは言え平常心を保つのは難しい。

 ナタニエルやブルノの額にも汗が浮かび、ドミニクは完全に挙動不審だ。


「馬鹿な、なぜ陛下がここに」


 ギュスターブ陛下は、嫌らしく口角を上げる。


「何を言っている、侯爵家の婚約だぞ、私が出席するのは特段おかしいことではないだろう? それとも、貴様は私が出席する事で、何か不都合な理由があるのか?」


 エドモンは言葉に詰まる。


「例えば、先ほど聞こえてきた不正の話など侯爵には聞かねば為らぬ事が多くあるようだ」


 陛下についてきた騎士達が、エドモンの家族を拘束しようと動く。


「なんで私が拘束されなきゃならないのよ!」


 騎士に拘束され喚くエマは私を睨み付ける。


「あんたのせいよ!!」


 エマは、私に向かって魔法を放つ。

 私が魔法障壁を張ろうとした瞬間、間に入ったライアン様が代わりに攻撃を防ぐ。


「お嬢ちゃん、いくなんでもそれは逆恨みだ」


 ライアン様が助けてくれると思わなかった私は驚く。


「気にするなよ、俺が防がなくても誰かが防いだだろうよ」


 それでも、こんなに多くの人に助けられた事を私は嬉しく思う。


「なんで邪魔するのよっ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐエマとその従者達、キーキーと金切り声を上げていた夫人、参列者の中でも横領に関与していると思われるエドモンの派閥の貴族達が、次々と聖堂から連れ出されていかれる。

 エドモンはもう全てを諦めたのか、抵抗もなくうなだれていた。

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