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お爺様との昼食

「それでは、魔法の訓練を開始しましょう」


 中庭で魔法の授業を受ける私は、目を閉じて意識を集中する。


 今やっている魔力の鍛錬はいたってシンプルで、その手順を説明すると、自分の中にある魔力を感知し、感知した魔力を体内で循環させ、循環した魔力を体外に放出するという流れだ。


 これらの鍛錬は、魔力を引き出し、コントロールすることに慣れるためのものであり、こうやって、自分の中にある魔力の引き出せる量を上積みしていく。


 私はこれの最後にもう一つ、放出した周囲の魔力を吸収する過程を加えて、1セットの鍛錬を行なっている。

 何故なら、魔力を使えばもちろん無くなる、では、無くなった魔力をどうするか、取り戻す方法はいくつかある。


 まず、魔力は自然に回復するが時間がかかる、私や先生が総量を限界量まで使用できると仮定した上で、全部使い切った場合、満タンになるのに余裕で数日はかかる。

 1日寝たからといって全快するほど都合は良くない、ただし睡眠時の方が回復スピードは上がる。


 次に空気中に存在する魔素を吸収する方法だが、魔素は場所によって濃度が違う、濃度が濃いところであれば回復スピードも上がるが、こういった街中などでは教会や神殿など特殊な場所以外は薄いので、大した助けにはならない。


 その魔素を凝縮した魔力ポーションを使う手もあるが、高価な上に、吸収するのが上手い下手によって回復量も上下し、さらに言えば品質もピンキリで、酷いのだと副作用のおまけ付きである。


 中には魔力を貯められる魔道具もあるが、滅多にないものなので手に入れるのが難しい、そもそも手に入ったとしても魔法数発分しかチャージできないそうだ。


 最後に魔力の譲渡と吸収があるが、前者については、いくつかの方法が確立しており可能である、後者についてはその方法は明らかにはなっていないが、できる術者が存在しているという事だけがわかってる。

 この違いは、前者は渡す術者と受け取る術者双方の協力がないと無理である事、後者のように一方的に奪い取るのは基本不可能である。


 話はそれたが、以上が魔力の鍛錬とその回復方法である。







「はい、今日の訓練はここまでです」


 先生が訓練の終わりを告げる


「.....ふぅ」


 私は額の汗を拭う。


「全体的にだいぶ効率が良くなってきましたね、マリアンヌ様は飲み込みが早いので、この調子でいけば、あと数年で全ての魔力を引き出せるようになるでしょう」


 どうやら日々の訓練の成果は出ているようだ。


「はい、ありがとうございます、ソフィア先生の教え方がとてもわかりやすいおかげだと思いますわ」


 お世辞でもなんでもなく、ソフィア先生は教えるのが上手だ。 


「こちらこそ、そう言ってもらえると教えがいがあるわ」


 2人でにこやかに談笑していると、近づいてくる足音が聞こえてきた。


「姫さま、今日の訓練は終わりですかい?」


 一人の中年が欠伸をしながら私たちに近く。


「あら、おはよう、ブルノ、相変わらず貴方はいつも眠そうね」


 警備の仕事は大変だものね。


「はは、俺も、もう歳ですからね」


 ブルノは、頭をボリボリとかいた。


「ごきげんよう、ブルノ様」


 ソフィア先生はブルノに丁寧な挨拶をする。


「...ごきげんよう、ソフィア先生、騎士ですらないこんなしがない警備兵に、毎回ご丁寧に挨拶しなくたっていいですよ」


 珍しくブルノも騎士のように胸に手を置き頭を下げる。


「ふふ、そんな事はありませんよ、警備も立派なお仕事ではありませんか、騎士も警備も誰かを守る誇れるご職業ですよ」


 ブルノは少し照れ臭そうに咳払いした。


「...で、ブルノ、貴方、私に何か御用があるのではございませんか?」


 授業が終わって直ぐくるということは、何か用があってのことだろう。


「ああそうでした、クソジジイ...じゃなくて旦那様が昼食の後にお話があるそうです、時間を空けておくように、との事です」


 お爺様のことを、クソジジイなんて言うのブルノだけだよ。


「わかりました...ローレリーヌ、昼からの予定はキャンセルでお願いします」


 私の予定は全てローレリーヌが管理している。


「かしこまりました」


 ローレリーヌはポケットの中の手帳を取り出し、手早く予定を確認する。


「では、ソフィア先生、今日はお世話になりました、次回の講義を楽しみにしております、ごきげんよう」


 慌ただしくなってしまったが、ソフィア先生に授業のお礼を述べる。


「こちらこそ、私も次回の講義を楽しみにしております、ごきげんよう」


 私達は軽く会釈し、その場を離れた。







 昼食を取ろうと部屋に入ると、お爺様はすでにご着席されていた。


「ごきげんようお爺様、遅くなり申し訳ありません」


 私は、ワンピースタイプの服の両端をつまみ、お爺様に挨拶をする。


「...構わぬ、私も今来たところだ、席に座りなさい」


 お爺様は60を超える年齢だが、矍鑠としており、腰の曲がってない180を超える大柄な体格に、ご立派なお髭と、威厳のある鋭い翠の眼光も相まって、若い時は非常におもてになったんだろうなあ、という感想を抱くほどの完璧なロマンスグレーである。

 ちなみに、ブルノやフェリクスがお髭を伸ばすのもお爺様の影響らしい。


「...ソフィア先生との授業は順調かな?」


 お爺様は授業の進展状況を、定期的に確認される。


「はい!今日も大変有意義な授業でした」


 ちゃんと褒められたしね。


「そうか、それは良かった、これからも勉学に励みなさい」


 激励の言葉をもらい、頬がゆるむ。


「はい、ありがとうございます」


 ソフィア先生の授業を受けられる私は幸せだと思う。


「では、昼食を頂こう、話は食事の後だ」


 お爺様はスプーンを手に取り、先に食事をはじめる。


「はい!」


 私は元気よくお爺様に挨拶を返すと、スプーンを取りスープをすくって口に運ぶ。

 今日のスープはかぼちゃのポタージュスープだった。







 メイド達によって手早くテーブルが整えられ、昼食後の飲み物がテーブルに運ばれてくる。

 お爺様はテーブルの前に置かれた紅茶を一口飲み、一拍おいて口を開く。


「...さて、今回マリアンヌを呼んだ件について説明しよう」


 お爺様は真剣な眼差しで私の目を見る。


「はい」


 私も姿勢を正し、視線を返す。


「実は2週間ばかりの間、ここを離れることになった」


 お爺様が辺境領を離れるの珍しくないが、それを伝えるためだけにこの場を設けたとも思えない。


「それは、どうしてなのか理由を伺っても?」


 お爺様は首を左右に振る。


「その理由はまだ説明できぬ...が、いずれはおまえにも説明するつもりだ」


 理由を言えないという事は、聞いてはいけないと言う事だ。


「わかりました、出過ぎたことを申し上げました、続きの説明をお願いいたします」


 空気を読んだ私は謝罪をし、その先を促す。


「うむ、話というのは、その間ここの領主である私が一時的に不在になることだ」


 ちなみに、お爺様の奥様、私の祖母に当たる方は、すでにこの世から他界されている。

 子供も、私のお母様1人だけしかいなかった。

 そしてお爺様の親戚筋でご存命となると、王都に弟が1人いらっしゃる。


「問題は私が不在の間の、執行権にある」


 執行権は、いわばこの領地における物事の最終決定権利に当たる。

 基本的に文官が大体のことやってくれてる上に、不在がわかってる場合、前もって重要な案件は採決しておくので、やる事といえばせいぜい渡される書類にサインを書いてたり判子を押すくらいだ。

 問題があるとしたら、おそらく弟のことだろう。

 私も、過去に一度会ったことがあるがあの方にいい感情を抱いた事はない。


「本来であれば弟を呼び寄せ、領主代行としての臨時決定権を与えるのが普通だが、今回私が不在になるのは奴に知られたくない、故に、いささか若すぎる気もするが、お前に臨時の代行を頼もうと思う」


 突然の事に思考が固まる。


「へ?.....わ、わかりました、身に余る大役、微力ながら精一杯やらせていただきます」


 気を持ち直し、謹んで拝命する。


「すまない、迷惑をかける」


 お爺様が謝罪の言葉を口にする。


「いえ、お爺様のお役に立てるのでしたら嬉しく思います」


 少しでも恩を返したいと常日頃から感じていた。


「私もできる限り仕事を片付けてから向かう、出発は1週間後になる」


 1週間か、思ったより早い。


「はい、それと、差し出がましいですが、出発までの間お爺様の仕事ぶりを拝見して、自らの代行期間に生かしたいと思うのですが」


 本番に向けて少しでもお爺様の仕事を覚えておきたい。

 いなくなった後には相談できないしね。


「そうだな、ここに残していく文官も紹介したい、いいだろう許可する」


 サポートしてくれる文官を残してくれるというのは非常に有難い。


「ありがとうございます」


 私は素直にお爺様に感謝を述べる。


「なに、孫娘と1週間ずっと居れるんだ、むしろ私にとってはありがたいくらいだ」


 お爺様は眉間のシワを緩め穏やかに微笑んだ


「難しい話もここまでにしよう、次の予定まで少し時間がある、先程ソフィア先生の授業のことについて聞いたが、他の話も聞きたい思うが、いいかな?」


 私もつられて表情を崩す。


「もちろんです、お爺様」


 私は授業で習ったことや、ブルノやローレリーヌの話をして、お爺様との穏やかな時を過ごした。




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