そして時代は回る
城内に待機していた近衛騎士団は、襲撃と同時にが先手必勝の魔法を叩きつけられる。
炎の魔法が得意なテオドール、風の魔法が得意なベルトーゼ、そしてこの世界でたった1人しか存在しない全属性の加護を持つアリス、3人によって練り上げられた爆炎の魔法を回避する術はなかった。
奇跡的に範囲外で生き残った近衛もフランセットの狙撃により刈り取られる。
「くそっ、なんでこんな事に」
幾人かの騎士を護衛に引き連れ王城の通路を逃げ惑う宰相は、足元がもつれ床に転ぶ。
宰相はなんとか皇子や皇女達にその場を押し付け逃れたが、一瞬たりとも油断はできない状態であった。
すかさずその場から立ち上がろうとしたが、爆発音とともに爆風が流れ込み再びその場に倒れこむ。
通路の外へと視線を向けると、王城の至る場所から煙が上がり、もはやどこが新たに爆発したのかもわからない状態であった。
「閣下、迎えの飛空挺です」
声を上げた兵士が煙の奥に見える飛空挺を指差す。
「よし、今は生き延びることが優先するぞ」
飛空挺に乗り国交を結ぶ他国へと逃れれば、命くらいはどうにかなる。
その後の事は、逃れた後に考えればいい。
しかし、その浅はかな思考は簡単に打ち砕かれた。
「あれは何だ!」
飛空挺に向かって一羽の魔鳥が近づいていく。
接近する魔鳥に対して迎撃を開始した飛空挺であったが、その背中に乗った女性が全ての魔法を斬り伏せる。
勝負は一瞬、彼女の射程距離に入ると、特徴的な得物へと手をかけ引き抜く。
美しいエメラルドグリーンの髪を翻しながら、一刀のうちに飛空挺は両断され無残にも切断された船体が地上へと降下する。
「はぁ!?」
宰相達は、目の前の光景を理解出来ずに素っ頓狂な声を上げた。
混乱する思考の最中、彼らの後ろから迫る者はそれを待ってはくれない。
自分たちが走ってきた方向から弾けるような爆発音が轟く。
「ひっ!」
後ろをふりむくと、爆炎の中から現れたプラチナブロンドの美女が狩猟をするようにゆっくりとこちらに近く。
赤いドレスを纏う彼女は、自分たちが切り捨てたレティシアを連想させ、男たちに恐怖感を与える。
「待ってくれ!俺は何もしてない!!」
後ずさりする宰相に対して、美女は向かってくる騎士を持っているハルバードで一掃し距離を詰めていく。
「なにもしてない?シュタイアーマルクへ攻め込むように進言したのは貴方でしょう」
宰相は魔法を使い抵抗を見せるが、その全てが簡単に防がれる。
「為政者であれば、自分の下した命令と言葉の責任くらいは背負うべきだと思うのだけど、貴方は違うのかしら?だったら最初からそう命令すべきではなかったし、その席に座るべきではなかった」
追い込まれた宰相は、行き止まりの壁にズルズルと背中を滑り落とす。
「やったらやり返されるは当然でしょう、私は私の罪も、貴方を殺す罪もちゃんと背負うつもりだから安心して逝きなさい」
さようなら、そう言って宰相にトドメを刺した彼女は魔力を使い果たし、元の姿へと戻り倒れこむ。
追いついた彼女たちの従者は主人を回収し、後の事は首謀者に任し作戦通り戦場から手早く撤退した。
◇
王城から立ち昇る黒煙を見た騎士団は、すぐに部隊を編成して王城へと向かう。
彼らは外敵に対応できるように、普段は王都の一番大外に構えられた城壁にある東西南北の城門のそれぞれ配置されている。
また、王城には近衛騎士団があり、本来であればこちらが城内への侵入者に対応するが、今回はどう見ても異常事態であり、緊急時に定められた作戦行動に基づきそれぞれが行動を開始する。
「隊長!門の前に誰かがいます」
馬に乗り王都を駆け抜けた騎士団の進行先に、軍服を着たスキンヘッドの大男が立ちはだかる。
「構うな、このまま轢き殺せ」
しかし次の瞬間、男が拳を地面に打ち付けると魔法陣が展開し、走る馬の足元がぐらつく。
揺れた地面が崩壊と同時に鋭角のように空に向かって突き出すと、馬や、落馬した騎士達が貫かれる。
「嘘だろ」
生き残った騎士が、王城の正門からまっすぐに伸びる王都の主要道路を見渡す、
美しく敷き詰められていた玉石の塗装道路は、男の魔法によって無残にも破壊され、玉石は周辺に弾き飛んでいる。
「勝負は決した、お前達の使えるべき主はもういない、今すぐ武装を解除し降参するのであればこれ以上は何もせん、繰り返すーー」
圧倒的な力量差を目の当たりにし、戦意を消失した何人かの騎士はその場に武器を捨てる。
抵抗を見せた何人かの騎士は、構った顔をしたスキンヘッドの男に簡単に鎮圧されその場にのされていく。
「あまり殺したくはない、どうか大人しくしてくれんだろうか?」
軍服の上からでもわかる筋骨隆々の鍛え抜かれた逆三角形に、いかつい見た目とは相反して、男の対応は丁寧だった。
降伏した者達に対して、最初の攻撃で倒れた騎士達や馬をできる限り治療するように促す。
それとほぼ同時刻、正門以外に進行した騎士達もセフィリアやユージーン、エレオノーラらによって制圧されていいった。
広間にいた皇子や皇女達は既にルシエルに斬られ、アンスバッハの血脈は歴史上ここに途切れる。
ギュスターブ軍はジルベール討伐を前に、いとも簡単にアンスバッハを落とす。
少数精鋭で落とし全体の士気をあげる一方で、完全統一を目前に余裕が生まれたせいか、圧倒的な力を見せるルシエル達に危機感を覚える者も多かった。
しかし、ルシエルの対応は早く、アンスバッハを落とした後すかさずジルベールのいる王都に対して宣戦布告。
ジルベールを殺したギュスターブは、再びロワーヌを統一し覇王となった。
やっと、ロワーヌ統一まで来ました。
マリアンヌはギュスターブとジルベールの戦いには関与してません。
ルシエル視点で書いてもいいけど、主人公がでない戦いを長々とやるのもどうかと思ったので省いております。
2部以降のルシエル側やギュスターブ側の陣営が全員登場した後なら、もしかしたら、幕間か短編でやるかもしれません。