再会
飛空挺の内部へと侵入した私たちは、敵を倒しながら司令部へと向かう。
フギンは帰りのための魔力を回復するために、今は私の中にいる。
「ここまでは順調ね、でも」
アンスバッハの兵士達と交戦中の私たちの後ろから、新たに現れた兵士達が斬りかかる。
幸いにも飛空挺の内部は広く、坑道の時と比べたら動きの制限がないために幾分戦いやすい。
「囲まれてきたか」
フェリクスは片方の剣で目の前の兵士の首を跳ね飛ばし、振り向きざまにもう片方の剣で別の兵士の胴体を斬りふせる。
「仕方ねえ、後ろからくる奴らは俺が引き受ける!2人はマリアンヌ様を連れて先に行け」
フェリクスと交差したブルノは、後ろから迫り来るアンスバッハの兵士達に斬りかかる。
最初の攻撃で相手の重心を崩すと、懐に入り胸を突き刺す。
そのまま、武器を手放し別の兵士へと突っ込む。
反応した相手が横に払った剣を足場にして飛び越えると、背中へと回り込み首を締める。
そのまま振り回して敵の攻撃の盾にすると、手を離し、敵が落とした剣を拾い上げ次の敵へと向かう。
ブルノは体型に似合わず動きは俊敏だし、見た目とは180度違って器用な戦い方をする。
「わかった、任せたぞブルノ!」
フェリクスが前方に立ちふさがる兵士達を倒し、進行方向を切り開く。
私たちは振り向きざまにブルノに声をかけ、その場に彼を残し先に進む。
アンスバッハの兵士達を倒しつつ先に進むと、一際広い通路へと出た。
左右に伸びる通路の左側には大きな扉が見える。
「マリアンヌ様!」
反対側に振り向くと、右側のガラスのような透き通った材質で囲まれた部屋の扉が開き、巨大な2本角を持った4速歩行の魔獣が現れる。
「どうしてこんなところに魔獣が!」
考える暇すらも与えられず魔獣はこちらに向かって突撃してくる。
私はすかさず横に跳んで回避するも、魔獣はその行動を読んでいたのか、急停止し前足を回避する私にぶつける。
なんとか身体強化の魔法をかけ、グングニルで攻撃をガードするも、先程まで魔獣がいた小部屋へと吹き飛ばされた。
ソフィア先生が私にかけよろうとするが、突如として私のいる部屋の扉が閉まる。
立ち上がり、壁と同じ好き通った扉を破壊しようと魔法を放つも傷一つはいらない。
すると、足元が揺れ、私のいる場所が上へ向かって迫り上がる。
「これは、炭鉱にあるエレベーターと同じ?」
ガラス越しに見えるフェリクスやソフィア先生と距離が離れ、目の前に壁が現れる。
しばらくすると、再び通路のような場所に出て、私は周囲を見渡す。
合流する方法を考えるが、左右の小道から複数の足音が聞こえてくる。
「考えている暇はないようね、ここで囲まれたらきついわね」
フェリクスとソフィア先生であれば、さきほどの魔獣が相手でも問題ないだろう。
私は2人と合流することを諦め、1人その先へと進んだ。
◇
追跡するアンスバッハの兵士達を迎撃するも、数が多く私は徐々に追い詰められていく。
「さすがにこの人数は無謀だったかしら」
奥から更に敵の増援が現れ、状況は更に厳しくなる。
しかし、現れた兵士の1人が周囲の兵士の頸動脈を切り裂く。
突然の出来事にアンスバッハの兵士達は慌てふためき、場が混乱する。
私は一瞬反応が遅れたものの、すぐに持ち直し、目の前で惚ける兵士達から順に倒す。
「大丈夫か、マリー」
聞き覚えのある声に私は驚き、思わず尻餅をつく。
その声の主は、最後に残った兵士に兜を投げつけて怯ませると、持っていたナイフを突き刺す、
息の根を止め、倒れこむ兵士の陰から、見覚えのある人物が現れる。
「エ、エル君!?」
なんで、エル君がアンスバッハの兵士の鎧を着てるの?なんで、こんなところに?思考が溢れて声がでない。
「安心しろ、俺はアンスバッハの兵士じゃない、ギュスターブ軍から依頼された仕事でやってきた」
彼が味方だと知りほっとすると、エル君が私を引き上げようと手を伸ばす。
私はその手をつかもうと手を伸ばすが、一本の矢が私たちの間をすり抜ける。
すり抜けた矢は、立ち上がろうとしたアンスバッハの兵士の眉間に突き刺さり再びその場に倒れた。
どうやら仕留め損なった兵士がいたようだ、私は矢を放った方に視線を向ける。
すると、侍女の着るロングスカートのメイド服をきた可愛らしい女の子が弓を構えているのが目に入る。
「もう!兄さんが勝手に動くから焦ったじゃん!」
よく見るとこの少女の顔には見覚えがあった。
「すまないユング」
ん?ユングって確かあの時の弟君だよね?
混乱に混乱を重ねる私を察して、エル君が声をかける。
「そういえばちゃんと紹介してなかったな、俺の弟のユングだ、こんな格好をしているがここに侵入するためだ、察してやってくれ」
再び手を伸ばしたエル君に引き上げられた私は、服についた埃を払い挨拶を返す。
「はじめまして、マリアンヌよ、前回の時も含めて助けてくれてありがとう、年も近いしマリーって呼んでね」
ユングは照れ臭そうに腕を組む。
こういう仕草はたしかに男の子っぽい。
「気にしなくていいよ、僕は兄さんを助けただけだし、こちらこそよろしくマリー」
私はエル君の方に体を向ける。
「エル君もありがとう、また助けてもらっちゃったね」
エル君は視線をそらす。
「気にするな、それより先に進んだ方がいい、受けた任務とは別だが協力しよう」
どうやらエル君達はこの後も手伝ってくれるようだ。
彼らがここに来た作戦内容も聞きたかったが、詳しい話はしてくれなさそうだし、またアンスバッハの兵士が来ても面倒なので先に進む事にした。
◇
その後は敵に会うことも無く通路を抜けると、大きな広い部屋へと出る。
そこに広がる光景に私は目を奪われた。
「なに、ここ?」
ここが本当に飛空挺の中なんだろうか、広間の中には石畳がひかれ、草木が生え、花壇には花が咲く。
高い天井を見上げれば、巨大なガラス窓を通して空が広がり、部屋の中を小鳥が飛び、水のせせらぐ音が聞こえる。
あまりにも幻想的な庭園を、太陽の光が美しく照らす。
「私の自慢の庭はどう?なかなか綺麗でしょ」
対面から、見覚えのある赤い髪の少女が男を従え目の前に現れる。
「レティ!無事だったのね、でも、どうして貴女がここに...」
ゴーレム戦の後、逃げた子供達を確認したが、その中にレティは居なかった。
捜索隊も出したが見つからず、そもそも捜索願も出ていなかったため、身元の手掛かりすらつかめていない。
故に私は、レティは他国の人間ではないのかと考えていた。
そんな彼女がここにいるとなると、その答えは一つしかない。
「私がここにいる理由なんて一つしかないでしょう、貴女ならわかるはずよマリー」
そういって彼女は手を上にあげ、グローブの上にはめた指輪をこちらに向けた。
指輪の中心にはアンスバッハ皇国の紋章が見える。
それを見て、私の予想は確信に変わった。
「さぁ武器を取りなさい、貴女は私と戦う理由があるわ」
奥の大男が、背中に抱えた布袋をこちらに向けて放り投げると、中から見覚えのある大剣が袋の中から飛び出す。
その剣にはシュタイアーマルクの家紋が刻まれており、間違いなくお爺様の使っていた物だと確信が持てた。
「すまないが遺体は既に処理をした、それが遺品だ」
生存は絶望的だと頭ではずっと理解していたが、心が揺れる、制御できない気持ちが今にも溢れそうになる。
お爺様は両親のいない私に、父のように厳しく叱り、時には母のように優しく頭を撫でてくれた。
何不自由ない生活、高度な教育、わたしにはもったいない優秀な従者達、子供の私は与えて貰うばかりで、私は一体この人に何を返せたんだろうか、何も返せなかった後悔ばかりが頭を過ぎる。
レティは引きずっていた槌を振り上げてこちらに向ける。
「アンスバッハ皇国第四皇女、レティシア・フォン・アンスバッハよ!さぁ、この戦いの決着を付けましょう!」
今にもこぼれ落ちそうな涙を塞き止め、震える手を握りしめる。
私の立場でなすべきことは分かっている、しかし、子供の私は、感情の奥底から込み上げてくる何かが上手く制御できない。
「ギュスターブ軍、北方連合部隊指揮官マリアンヌ・ド・シュタイアーマルクよ、貴女はここで!確実に!私が殺します!!」
口を強く結び、視線を上に上げると、レティはこうなる事に満足したのか、口角をあげて喜んだ。
次の瞬間、きれた私は感情に身を任せレティに向かって突っ込んでいた。