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それぞれの思惑

おまたせしました。

修正作業完了したので更新再開します。

 飛空挺の一つが地上に向けて落下していく。

 あの風を切るような音、特徴的な破裂音、ゴーレムとの戦いで最後に放たれた攻撃と同じだ。

 エレオノーラさんが、味方の初撃で一つ落とすと言っていたのはこれのことかと理解する。

 それと同時に、この攻撃の主が味方である事に安堵を覚える。

 フギンに乗った私たちは、飛空挺に向かって進行している最中だ。


「なぁ、あの攻撃で3つともやれねえのか?」


 ブルノがエレオノーラさんに疑問を投げかける。


「あの攻撃は、威力を確保するために魔力のチャージに相応のスパンが必要ですので、連射は難しいんですよ」


 あれが連射できないと知り、私は少し胸をなでおろす。

 しかし、結構重要な情報だと思うんだけど、味方だから明かしたというよりも、そんな情報ばれても痛くないってニュアンスの方が強い気がするな。


「飛空挺が動くようだぞ!」


 フェリクスの声に反応して前方を見ると、飛空挺の1つが回頭し、2挺が並んだ状態でこちらに向き直る。


「飛空挺から魔力反応、来ます!」


 ソフィア先生が声を上げると、飛空挺の前方からいくつもの魔法陣が展開していく。


「大丈夫、任せて」


 フギンの上に立ち上がったエレオノーラさんは、持っている杖を飛空挺に向け、前方に魔法障壁を展開させた。

 飛空挺から放たれた攻撃は魔法障壁により魔法が無効化されるも、その魔法に使われた槍のような形をした金属が魔法障壁をすり抜ける。

 しかし、魔法障壁をすり抜けた金属はあっという間に腐食し朽ち果てていく。


「な、なんだこりゃ」


 朽ち果て落下していく金属を見て、その魔法にブルノが驚く。

 間髪をいれず、飛空挺の前方には2撃目の魔法陣が展開される。

 それと同時に、フギンの周辺を水が弧を描きながら激しく舞う。 


「水魔法?」


 ソフィア先生が水の動きに視線を奪われる。

 飛空挺から攻撃が放たれるより前に、周囲を舞う水が幾つもの線を描き発射口を貫く。

 魔法攻撃の準備中だった飛空挺は、それに気づき、攻撃を停止し魔法障壁を張り直そうとしたが間に合わなかったようだ。

 フギンはスピードを上げ、こちらへの攻撃手段を失った飛空挺に接近する。


「畳み掛けるぞエレオノーラ!」


 隣を飛ぶヴァルトシュタイン卿が風の魔法を行使し、かなり重量を誇るであろう飛空挺2つを、街の上空から押し出していく。

 抗う飛空挺のコントロールを歯牙にも掛けない力技の魔法だ。

 それに、最初の1つを撃墜した時もそうだが、この人達は極力ムールに被害がでないように配慮して戦ってくれている。

 感謝をする気持ちとは別に、その別格の力量差を肌で感じる。


「合わせます!」


 フギンの上から飛び降りたエレオノーラさんは、空を舞う水の上を駆け飛空挺へと向かう。

 私たちの周りを舞っていた水が、エレオノーラさんの持っている杖の先端に集まる。

 飛空挺の更に上に飛んだエレオノーラさんが杖を振り上げると、杖の先端から巨大な水柱が現れ天を衝く。

 その水柱を敵の装甲に斬りつけるように振り下ろすと、飛空挺の一つを魔法障壁ごと左右に切断する。


「最後の1つは任せる!」


 私たちにそう言い残したヴァルトシュタイン卿は、魔法を使い切って空中から落下するエレオノーラさんを受け止め戦線から離脱した。


「行くわよ!」


 私はみんなに号令をかけると同時に、自分自身に発破をかける。

 残念ながら私たちには、あの人たちのようにあれを外から破壊するだけの魔法は持ち得ていない。

 アルムシュヴァリエの発射口の一つを破壊し、私たちは飛空挺の中へと侵入した。







「あはははははは」


 目の前の光景に1人の少女が、笑い声をあげる。


「殿下」


 先ほどの攻撃に慌てふためく兵士たち、怒号を飛ばす館長。

 その喧騒の中、1人冷静な男が自分の主人に声をかける。 


「あぁ、ごめんなさいクレマン、あまりにおかしくって」


 クレマンは怪訝な表情で、主人の発言の真意を推し量る。

 それに気づいた彼の主人は表情を正し、いつものように冷静に振る舞う。


「簡単なことよ、ギュスターブ殿下がロワーヌを統一するために私たちは利用されたのよ」


 現在のロワーヌ大陸は、東方のアンスバッハを除くと、ジルベールのいる首都近郊の領地以外は、全てギュスターブの支配下にある。

 ギュスターブ軍の中では、この勢いのままアンスバッハより先にジルベールを倒し、先に政権を奪還しようと提言している派閥が多いと聞く。

 しかしここで幾つかの問題が生じる。

 政権を奪還した時点で、ギュスターブ達首脳陣は戦後処理に追われる事になる。

 アンスバッハを倒すよりも、自国を立て直し、機能させるために年単位のスパンが必要だろう。

 それに加え、恐らくは多くの者が現状の戦果で満足していると思われるところだ。

 ジルベールを倒し、そこで終わりにしようと考えている者達が多いのだろう。

 そうなれば、最初に掲げたロワーヌの統一という大義名分が揺らいでしまう。


「この脚本を書いた人は、ジルベールを倒すより先にアンスバッハを落としロワーヌを完全に統一する必要があったみたいね」


 アンスバッハがシュタイアーマルクに侵攻した事で、こちらを攻める理由をつくってしまった。

 今回の侵攻で、ギュスターブ軍の中でもアンスバッハ討伐に反対する者は相当減るだろう。


「殿下はなぜそう思われるのですか?」


 クレマンは、彼女にその答えに至った理由を問いただす。


「この飛空挺の技術よ、確かどこかの国から盗み出したんでしたっけ?それもきっとカモフラージュよね」


 こんなものができたからアンスバッハの派閥が割れた。

 これまで通りヴェルニエとは距離を置く者。

 この力を盾にヴェルニエと新たな関係を構築しようと提案する者。

 そして、この力を使って戦争を仕掛けようとする者。


「ねぇ、クレマン、最初の1つめを落とした敵の攻撃と、この飛空挺、同じような技術が使われていると思わない?」


 それが事実なら、最初から我々は敵に踊らされていた事になる。

 タイミングよく崩御した前皇帝、後継者問題に揺れる中にもたらされたこの飛空挺、全てが疑わしい。


「そこまでわかっておりながら、殿下はどうして...」


 クレマンの額に汗が流れる。

 お嬢様はもっと前、おそらくゴーレムとの戦いでこの事実に感づいてたはずだ。

 それなのに、なぜこんな無謀な戦いに乗っかったのか、その真意を尋ねる。


「マリーと戦うならこれが一番手取り早いから乗っかっただけよ、私、アンスバッハがどうなろうと興味はないの」


 彼女は服の中から球体のような魔法道具を取り出すと、驚くクレマンの胸元に放り投げる。


「その魔法道具には、落下のスピードを緩和するための魔法が込められているわ」


 つまりこれを使えば、このような空中からでも安全に地上に降り立つことが可能だという事だ。

 クレマンは、彼女がこれを自分に渡した意味を一瞬で理解する。


「今までありがとうクレマン、さようなら」


 彼女はクレマンに貴族らしく微笑んだ後、部屋を出ようと彼に背を向ける。


「待ってください!私も最後までお伴します」


 彼女の前に回り込んだクレマンは、彼女の手を取り魔法道具を突き返す。


「ここで勝ったとしても多分結果は変わらないわよ?それに、アンスバッハを蔑ろにする皇女につく価値もないでしょう」


 手を握り合った状態のまま、クレマンは顔を左右に振りその場に跪く。


「私はアンスバッハに忠誠を誓っているわけでも、皇女に忠誠を誓っているわけでもございません、私が忠誠を誓っているのは貴女だからです、どうか、どうか最後までお伴させていただけませんでしょうか」


 彼女は馬鹿ねと呟くと、握られていたクレマンの手をひっくり返し、彼の掌の上に再び魔法道具をそっと置く、


「わかったわ、でもこれは貴方が持っていなさい、もし飛空挺から落下してもこれを持っておけば助かるわ」


 それならば自分より貴女が持つべきだと、クレマンは彼女の手に突き返す。


「あら、貴方は私個人に忠誠を誓っているんでしょう?それなら主人からのプレゼントを突き返したりしないわよね?」


 ニヤける自分の主人に、こう言われては反論の余地すらない。

 クレマンは渋々と懐に魔法道具を忍ばせる。


「あと、それ結構高かったんだからね、有り難く使いなさいよ」


 彼女は、ほんの一瞬だが年相応の悪戯っぽい笑顔でクレマンに微笑んだ。


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