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領主代行マリアンヌ

3章スタート

「...以上が、現在の状況になります」


 報告書を読み終えたナタニエルが、唇を噛みしめる。

 部屋の中の空気は重く、ブルノは拳を握りしめ怒りをあらわにし、壁にもたれかかったフェリクスは、目を閉じ自らの感情をコントロールする。


「報告ありがとう」


 一呼吸置き自らの感情をシャットダウンして、今、しなければらない事を考える、

 シュタイアーマルクから伝令役を乗り継いで伝えられた情報では、領主であるお爺様の生死は現時点では不明だ。

 領主の生死が不明の場合、臨時代行権を持つ私が指揮を執る事になっている。

 従者達や、オスマルクの領民、これから受け入れるシュタイアーマルクの領民、彼らの今と未来が私の両肩に重くのしかかる。

 ただの少女ではない私が、部屋にこもって嘆く事は許されない。


「まず、これから逃れてくるシュタイアーマルクの領民を受け入れるための準備をします」


 私はブルノとフェリクスに視線を送る。


「2人は、今から軍を率いて領地境界線に一番近いボーブルに陣を張り、南から逃れてくる領民を受け入れてください、逃れてきた騎士達はそのまま軍に組み込んでください」


 フェリクスが口を挟む。


「もし、騎士団長など、自分より立場が上の人が逃れてきた場合はどうされますか?、それに現在、私たちはマリアンヌ様の従者であって、通常の騎士団の指揮系統の枠組からは外れております」


 私は椅子から立ちあがり、立てかけてある剣を取ると、ブルノとフェリクスの前に向かい合う。


「今、この場をもって、シュタイアーマルクの臨時代行として、戦時中の特別措置権を執行し、フェリクスをシュタイアーマルク騎士団の団長に、ブルノを副団長に任命します、立会人はナタニエル、よろしいですね?」


 2人は顔を見合わせると、その場に膝をつき頭を垂れる。

 私は剣を引き抜くと、2人の両肩に剣を置く仕草を取る。

 本来であればもっと色々とあるのだが、今回は緊急事態のために簡略式で済ませる。


「これで叙任式は終わりよ、部隊の編成や備蓄の流用は事前の取り決め通りに、向こうでの判断は2人に任せます」


 2人は胸に手を当て騎士の礼をとると、急いで部屋を出て行く。


「カティアとソフィア先生は教会に出向いて、孤児の受け入れや救護活動における支援など、どこまで協力できるかの確認をお願いします」


 すでに教会とは事前の取り決めをしているが、今回はそれ以上の支援が必要だ。

 後で私も直接交渉に伺うつもりだが、事前交渉以上のさらなる支援は難しいと予測できる。


「ドミニクとマティアスは、オスマルクの他の町や村に伝令をだして、臨時徴兵制度の発令と、余剰分の食料品や医薬品を首都ザーレに集約するように、私の名前で命令をだしてください、それが終わったらブルノとフェリクスの出立の準備を手伝ってあげてください」


 アンスバッハが次にどこを狙うかはわからないが、こちらにくるなら早急に準備を整えなければならない。

 徴兵制度はできれば取りたくなったが、何もしなくて後悔するより、やれる事をやるしかないと覚悟を決める。


「ローレリーヌ、この手紙をギュスターブ殿下に最速で届けるように手筈をとってください、それとヴァルトシュタイン卿が領主邸に戻ってきたらこちらに案内して頂戴」


 現在ヴァルトシュタイン卿は、誰かと会うために一時的にザーレから離れている。

 予定としてはそろそろ戻ってくるはずなので、こちらにすぐ案内できるようにローレリーヌを迎えにだす。

 ローレリーヌを部屋から送り出し、2人きりになったナタニエルと視線を交わす。


「ナタニエル、アンスバッハを倒す算段を考えるわよ」


 私は静かに拳を握りしめる。


「ええ、もちろんですともマリアンヌ様」


 まずおおまかに、迎え撃つか、こちらから行くか、それを決めなければならない。

 その上で問題となるのは飛空挺だろう、1艇でも面倒なのに3艇もいるのが厄介極まりない。


「迎え撃つのは不利でしょう、上空から砲撃されるとひとたまりもありません」


 高高度からの上空の砲撃に対応できる防御術はほとんどない、まず生身ではどうしようもなく、アルムシュヴァリエの増幅機能を使って、魔法障壁を展開しても、それだけで魔力を消費してしまい、その後の戦いがジリ貧になるだけだ。

 しかも、もたらされた情報によると、敵の魔法攻撃は巨大な槍のような魔法道具に魔法を込めて放たれていたらしく、魔法障壁で魔法を無効化しても残った物質がアルムシュヴァリエに突き刺さり、あっという間に壊滅したそうだ。

 この時点で迎え撃つのはなしだ、勝ってもその後の領地運営で破綻するのは目に見えて明らかだ。


「そうなると、やはりこっちから出向くしか方法はないのだけど、その場合でも敵次第になってしまうね」


 この場合、一番の問題はこちらの準備が敵の襲撃より先に整えられるかどうか。

 いくら準備を早めても、敵の元に向かうのに最低1ヶ月近くはかかる。

 すでに襲撃から3日たっており、敵の準備がいつ完了するのかもどこに向かうのかも不明なのが現状である。

 それに、こちらから動く場合はギュスターヴ殿下からの許可が必要だ。


「少人数で向かうことも考えましたが、ヴァルトシュタイン卿に協力してもらえるのが前提で、フギンと合わせて運送できるのは数人、敵の攻撃をかいくぐり、その人数で3艇落とせるかどうか」


 飛空挺の大きさを考えると、中に搭乗しているのは最低でも300人以上は考えられる。

 ヴァルトシュタイン卿なら1人で1艇落とせそうだけど、問題は私たちよね。

 他にもグングニルで長距離からの投擲も考えたが、飛空挺の大きさから考えてあまりダメージはなさそうだ。

 考えれば考えるほど糸口が見えない状況に、2人で悩んでると、部屋の外からノックがあり返事を返す。


「失礼する」


 扉が開き、ヴァルトシュタイン卿が1人の女性を伴い部屋の中に入る。


「事情は大体把握している、その上で君に紹介しておくべき人物を連れてきた」


 ヴァルトシュタイン卿は横にずれ、後ろの金髪のボブカットの女性に挨拶を促す。


「お初にお目にかかります、私はエレオノーラ・ド・ラグランジェ、ラグランジェではなく気軽にエレオノーラとお呼びください」


 エレオノーラさんは、水色のスカートの両端を摘み挨拶をする。

 和やかで可愛らしい雰囲気を纏う彼女だが、私は彼女の顔に見覚えがあった。

 彼女もまたヴァルトシュタイン卿と同じく、あの映像で確認できた強者の1人であるからだ。

 それを感じさせず、にこやかに微笑む彼女に、私も自己紹介を返し、大したもてなしも出来ない事を謝罪した。


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