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プロローグ 終結と物語の始まり

 時刻は夜になり、ポツポツと小雨が降り始めた。

 ローレリーヌはマリアンヌを背負い、村人達と森の中を駆ける。


「大丈夫......きっと大丈夫だから」


 マリアンヌを背負うための紐を握りしめ、ローレリーヌは自分に言い聞かせながら暗示をかける。


「危ない!」


 誰が叫んだか、目の前に居た大人の1人が、凶刃に倒れる。


「やっぱり、あいつの言う通りだったな」


 周囲の木陰から5人の騎士崩れ達がニヤニヤしながら現れる。


「さぁ、ストレス発散の狩りの時間だ!楽しもうぜ!!」


 若い騎士崩れ達が村人達に斬りかかる。

 何人かの大人が抵抗するも実力差は明白、それでも1人の村人が刺されながらも取っ組み合いに持ち込む。

 ローレリーヌはその隙を見逃さなかった、背負ってたマリアンヌが攻撃が当たらないように、紐を解き前に抱えて、全力疾走でその隙を縫って包囲網を抜ける。


「へっ、抜かせるかよ!」


 気づいた男の1人がナイフを抜き投擲するが、間に恰幅のいいおばさんが入り込む。


「あんたらなんかに子供達はやらせないよ.....」


 ナイフを腹に受け前のめりに倒れながらそう呟いた女性は、今朝マリアンヌを取り上げた女性だった。


「チッ、ババアが邪魔しやがって!」


 男は追いかけようとしたが、子供を逃がそうと数人の村人が肉壁となって進行を阻害し、ローレリーヌが逃げるための距離を稼いだ。







「ハァ..........ハァ..........」


 マリアンヌを抱えたローレリーヌは息を切らせながら森の中を走る。

 しかし、ここまでの疲れと、雨でぬかるみ始めた地面で、足元はだんだんおぼつかなくなると、足を何かに引っ掛け、その場で転がり倒れた。


「やっと追いついたぜ、嬢ちゃん」


 追いついた先程の騎士のうちの1人が、こっちに向かってくる。

 ローレリーヌは立ち上がって逃げようとするものの、転倒の際にふくらはぎに折れた木が刺さり痛みで力が入らず、それでも泥にまみれ、顔に草をつけ、這いずるようにしてでも前に進む。


「ふぎゃあ、ふぎゃあ」


 マリアンヌが頭をぶつけないように、咄嗟に頭の後ろと背中に手を回して転がったが、衝撃で睡眠魔法が解けたマリアンヌが鳴き声をあげる。


「.....お願い、誰か.....誰か、助けてっ.....」


 這いずるローレリーヌは目尻に涙を溜め、目の前に手を伸ばす。






「おい.....てめえ、うちの姫さん達に一体何してくれてんだ」


 静かな闇の中、怒りに震えた声が響く。


「へっ?」


 瞬間、死角から気配も感じさせず、反応できないスピードで現れた男によって、騎士の頭が胴体から斬り飛ぶ。


「.....もう大丈夫だ、安心しろお嬢ちゃん」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには見知った赤毛で髭面の男が居た。


「ブルノさん...私.....私っ.....」


 ブルノは膝をつきローレリーヌを抱き上げると、頭をポンポンと叩く。


「こんな小せえ体でよくやった、嬢ちゃんは大したもんだ」


 ブルノは優しくローレリーヌを宥める。


「ちょっと痛いけど我慢できるか?」


 ローレリーヌが無言で頷くと、ブルノは彼女の足に刺さった折れた木の枝を抜き、近くの味方の騎士が直ぐに回復魔法で止血する。

 ブルノは、ローレリーヌとマリアンヌを、随行してきたシュタイアーマルクの騎士達に預ける。


「この2人を頼む、先に街に送ってくれ、俺はほかの生存者を探す」


 ブルノは再び表情を引き締める。


「わかりました、5人の兵士をつけて街に送ります、残りはブルノさんと共に行きます」


 騎士達は、彼に従うようにとフェリクスが命を下している。


「すまねえ.....頼む」


 5人の騎士は来た道を戻り、ブルノと残りの騎士達は先に進んだ。







「くそったれが、村人ごときが手こずらせよって」


 隊長は、もう一機の破壊されたアルムシュヴァリエを、苦虫を噛み潰した表情で見る。


 目の前には、今にも事切れそうなミゲルがうつ伏せでかろうじて息をする。

 横っ腹は出血し、無情にもその流れは止まらない。


 ほんの数十分前、ミゲルは最初の一機に遭遇した後、ナイフに風纏いの魔法エアリアルウェポンを展開し、魔法障壁を前方に展開して強引に魔法を受け流し、即座に懐に入り込み有利な接近戦に持ち込み、胴体横の接合部を何度か攻撃したのち、残った火魔法の爆薬を隙間に仕掛け破壊した。


 しかしその時点で使える魔法はあと一回と、手に持った風纏いのナイフだけ、道具は使いきり、疲労が蓄積し、集中力も落ちる、満身創痍の彼にもう一機のアルムシュヴァリエを倒す余力はなかった。


「死に損ないが、トドメを刺してやろう」


 指揮官はミゲルの元へ近づこうとしたが、なにかの気配を感じ、動きを止めて武器を構える。


「だ.....誰だ!?」


 暗闇から現れた人物に、隊長は目を見開いた。


「なんで貴様がここにいる」


 現れた男は銀の甲冑を纏い、家紋の入ったグレーのマントを翻すと、背中に背負った二本のロングソードを引き抜く。


「フェ.....フェリクス」


 指揮官は瞬時に魔道具による攻撃をしかけようと両手を上げる。

 しかし、アルムシュヴァリエの両腕は二本のロングソードによって跳ね飛ばされると、両足も横に薙ぎ払われ瞬時に達磨にされる。

 アルムシュヴァリエの背中のハッチを開き、這い出て来た隊長の喉元にフェリクスは剣を向ける。


「ひっ...ば.....バケモノ」


 駆けつけた見習い騎士のうちドミニクとマティアスの2人が指揮官を捕縛する、カティアは既にミゲルの元へ行き回復魔法を使っていた。

 フェリクスは剣を収め。ミゲルの元へ走り膝を折る。


「.....ミゲル」


 呼びかけながら視線をカティアにずらす。

 カティアは首を横に振り、ちいさな声で呟く。


「すいません、これ以上は.....」


 カティアは目を伏せ口をつぐむ。

 ミゲルの怪我は内臓にまで達しており、普通の回復魔法で治せる範疇を超えていた。

 ミゲルはかすかに口を震わせフェリクスに目で語る。


 ”妻を、娘を、みんなを頼む“


 フェリクスはそう言われた気がした。


「ああ、後は任せろ...俺だけじゃないブルノもいる」


 下手くそな少し引きつった笑顔で答える。


 その言葉を聞いたミゲルは、大きく息を吐いた。


 ..........


 .....


 ...


 フェリクスは、ミゲルの瞼にそっと手を当て彼の瞳を閉じる。


「...ここを頼む、アルムシュヴァリエはあと一機いるはずだ」


 フェリクスは立ち上がると、マントについてあるフードを頭に被る。


 最初、小雨だった雨はいつのまにか勢いを増し始めた。







「どこだ....どこにいる!?」


 ブルノは森の中を耳を澄まし、周囲をくまなく探す。


 ここに来るまでに4人の騎士を始末した、しかし多くの村人は蹂躙され、かろうじて数人の生存者しか見つかっていない。

 だが、肝心のアデルがまだ見つかっていない、最初に彼女が襲撃されたであろう場所には、アルムシュヴァリエの片腕が落ちてたが、場所を移動したのか誰も居なかった。

 ブルノは焦った、雨は勢いを増し雷も落ち始めたせいで、戦闘音を聞き取りづらく、状況は探索を困難にしていた。


 そんな時だった、ブルノは少し開けた場所に騎乗口の開いた破壊された一機のアルムシュヴァリエと、その前に横たわるアデルを発見した


「アデル!?」


 ブルノは警戒することも忘れて彼女の体に駆け寄り、上半身を抱き上げる。

 しかし無情にも彼女の心臓は魔法により貫かれ、既にその鼓動を止めて居た。

 ブルノの顔をから水滴が落ちる、しかし、それは雨なのか、彼の涙だったのかは定かではない。

 後から追いついたフェリクスや騎士達も声をかけられず、ブルノはただただその場を動けなかった。

 いつのまにか雷は止み、小雨になった雨の音だけが周りに響いた。





「はーっ、やべーやべー、あのねーちゃん強すぎでしょ、本調子じゃないみたいで助かったわ、後から来たあいつはやばそーだし、さっさとあの場から逃げといて正解だったね!さすが俺っち!!」


 軽薄そうな若者はフフンと得意げに鼻を鳴らし自画自賛する。


「さってと.....全滅したみたいだし、ずらかりますかー」


 彼は外套をかぶり、軽やかな足取りで雨の中へと消えた。









 夜が明けたのか、ベッドから1人の少女が起き上がる。


 周囲の状況から、どうも彼女はいつもより早く起きてしまったようだ。


 朝陽に輝くプラチナブロンドのロングヘアーに、日の光や感情によって煌めく緑から透き通る青に移ろう瞳は幻想的で人を惹きつける。


 年齢はまだ子供だが、第二次性徴の年齢に入り、子供の体から女性らしい体つきになりつつあり、普段の少女独特の儚げさの中に、ふとした時に女性らしい妖艶さを見せる整った顔つきが相まった美しさはこの時期独特のものであり、彼女もまた少女から女性として美しく花開こうとして居た。


 あれから9年の時が過ぎた。


 彼女はカーテンを開け、お屋敷の窓から朝日に照らされ始めたシュタイアーマルク領の街並みを見下ろした。


 静かに“コンコン”とノックされた扉がそっと開くと、部屋に入ったブルネットの女性は、片足を引き、片足を折り曲げ、スカートの両端をつまみ、頭を下げ少女に声をかける。


「おはようございます、マリアンヌ様」


 名前を呼ばれた少女は、笑顔で言葉を返す。


「おはよう、ローレリーヌ、今日もよろしくね」



プロローグはこれで終わりです。

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