ミストカーフ討伐戦
「まだかっ!?」
中央でゴーレムからの攻撃を引きつけていたナタニエル達は、満身創痍でありながらも敵の攻撃に耐え続ける。
しかし、彼らが攻撃を引きつけたおかげで、カティアや、途中で囮役を入れ替わったフェリクスやブルノらは、無事に作戦を遂行する事ができた。
「ナタニエル様!合図の魔法です!!」
兵士の1人が空を見て叫ぶと、南方の空に炎が上がり爆発した。
「よしっ!全軍このまま後退して、ゴーレムとマリアンヌ様達の間の射線上に入る!」
◇
「マリアンヌ様!南東の魔法陣との接続を確認しました!!」
どうやらドミニクの方の魔法陣とも接続ができたらしい、私は息を吐き呼吸を整える。
ハルバードが目標に向かって自動追尾してくれるといっても、敵が刺さるのを待ち構えているだけという事はなく、おそらく反撃なりなんなりしてくるだろうと予測していた。
「マリアンヌ様!アルムシュヴァリエです、ナタニエル様達です!!」
残っていた兵士の1人が声を上げる。
私は、後ろのソフィア先生に視線を送ると、ハルバードを召還し、腕を折りたたみ投擲のポーズを取る。
「いけぇぇぇえええええええ!」
掛け声と共にハルバードを投擲すると、それを魔力感知したゴーレムはハルバードに向かってストーンランスを飛ばす。
「まだよ!」
私は手を伸ばし意識をハルバードに集中させ、ありったけの全魔力でドリルのように回転しながら飛んでいくハルバードの周囲に炎を展開させる。
ハルバードが纏った炎が発する爆風によって、ストーンランスの軌道が逸れたり、吹き飛んだりする。
いくつかのストーンランスはハルバードを無視して通過し、最初から術者であるこちらを狙ってきた。
「やらせません!」
間に入り込んだナタニエルは魔法障壁を展開させる。
戻ってきたアルムシュヴァリエ達が、魔法障壁を張りストーンランスから私たちを守る。
「助かったわ、ナタニエル!」
額に露出した供物を守るために、ハルバードを止めようとゴーレムは手を伸ばす。
ドリルのように回転し炎を撒き散らすハルバードを、ゴーレムは掌で受け止め押し返す。
「くっ!」
このままで、押し負ける。
自分の力不足は、十分にわかっていた。
だからあの日からも、それ以前も、後悔しないためにずっと自らを鍛錬してきた。
それでも、まだ足りない、また足りない。
私は、拳を握りしめ意識を集中させる。
「フェンリル!私の中にいるなら、せめて家賃くらいは払って貰うわよ」
あの戦いの時、私は成長した体で自由自在にフェンリルの力を使いこなしていた。
その時のイメージを、感覚を、体の底から呼び起こす。
「ここまでみんなにお膳立てされて、ここで成功しなきゃ意味がない!」
私はハルバードの方向に拳を突き上げる。
”ピシッ“
ゴーレムの掌から異音がすると、ハルバードに触れている部分からゴーレムの手が凍りつく。
そして、凍りついた部分から爆風によってゴーレムの手が破壊されていく。
手を破壊したハルバードは、その勢いのままゴーレムの額の供物に突き刺さる。
すかさず、ソフィア先生が魔法を詠唱する。
「理を破りし愚者に召還されし異形の者よ、其方を現世へと縛り付ける肉体から解放し、其方の魂を楔より解脱する、ルヴニールリベラシオン!」
その詠唱とともに、魔法陣を設置した6箇所から光の柱が立ち上り、ゴーレムを中心とした上空に向かって、魔法陣が展開していく。
ハルバードにくくりつけた聖布が発光し、供物へと呪文が流れ込む。
ゴーレムの体が下から崩壊を始め、誰もが勝利を確信したその時、ゴーレムは口をあけ、その奥から特大のストーンランスが顔を出す。
「マリアンヌ様!」
ナタニエルが叫んだ時には、私は残りカスの魔力を振り絞り、全速力で前方に向かって走っていた。
ゴーレムは最後の最後で、私にターゲットを定めた、消滅するより前に撃ってくるであろうと、そう直感した。
そして、あの攻撃は誰も防げない、それなら私1人が犠牲になった方がマシだとそう判断した。
身体強化を足に集中させて、みんながいる場所から距離をあけていく。
「ごめんね、みんな」
そう呟き、上空を見ると、口を大きく開き、今にもストーンランスを射出しそうなゴーレムが見える。
まさにその一瞬だった、風を切るような高音とともに、聞いたこともない破裂音が上空を一閃すると、巨大なストーンランスごとゴーレムを貫き、その爆風によりゴーレムの頭部は完全に吹き飛ばされた。
「な、なによ、あれ」
私は、見たこともない何かに畏怖しその場にヘタリ込む。
吹き飛ばされた後の残りの破片は、上空から落下する前にソフィア先生の魔法によって解体されていく。
「マリアンヌ様!」
後ろからナタニエルが追いつき、私の元に駆け寄る。
だが、私の視線はずっと上空を捉え、先ほどの光景を何度も思い返す。
あれが魔法なのかどうなのか、それすらもわからない。
ただ私の中で、時代が変わる、そんな確信めいた予感が頭をよぎった。
◇
「はぁー、ちょっとやりすぎちゃったかも」
高台の崖の先端からうつ伏せで寝転んだフランセットが、肩に担いだ長尺の武器とともに立ち上がる。
「見事、一度でいいからソレも斬ってみたい」
その言葉に振り返ると、見知ったエメラルドグリーンのロングヘアーが目に入る。
「お帰り、スイ、いっとくけど私は嫌だからね、スイなら本気で斬りそうだもん、そんなの斬られたら私、立つ瀬がないじゃん」
フランセットが武器の魔法を解除すると棒状の金属に戻り、腰に巻いたベルトについている筒状の穴にしまうと、両手の掌を上に向け困った顔をする。
「フランはそれ以外の武装もあるから大丈夫、むしろ斬れなかったら私が役立たず」
フランセットは思わず舌を出す。
「うへぇ、いっとくけど味方同士だからね私たち」
スイは咳払いし、フランセットをからかう。
「強くなるためなら、味方と戦うのも吝かではない」
からかわれている事に気づいたフランセットは、ジト目でスイを睨む。
「ところで、ミョルニルを持った小娘の方は放置でいいのか?」
からかっている事を気づかれたスイは、わざとらしく話題をそらす。
「そっちは放置でいいってさ」
スイが腰からナイフのような武器を取り出し、空に向かって投擲する
ナイフのような武器は、空にいた鳥に刺さり地上に落ちる。
「それならこれ以上ここにいる意味は皆無、退散を提案する」
スイは鳥に刺さった自分の得物を回収する。
「了解」
そう言うと、2人は南南西の方へと姿を消した。