ドミニクの戦い
「ソフィア先生、さっきのは一体なんだったんでしょうか?」
先程まで、ゴーレムが放っていたストーンランスが、ナタニエル達からターゲットを変え、マティアス達のいる北西方向へと向かっていった。
そちらからはずいぶんと凶悪な魔力が感じられたが、今はもう感じられない
凶悪な魔力が消滅したと同時に、ストーンランスは再びナタニエル達を標的に戻した。
「詳しい事は私にもわかりません、しかしマティアス達の張った魔法陣とのつながりを感じます、今は目の前に敵に集中し、私たちのやれるべきことをやりましょう」
マティアスの張った魔法陣と繋がった事で、私たちのいる南方、ブルノの向かった北方、フェリクスの向かった北東、カティアの向かった南西と合わせて既に5箇所で魔法陣の展開に成功している、残りは南東のドミニクだけとなった。
「ということは、あとはドミニクだけね、頼むわよ」
私はドミニクの向かった方に視線を向けた後、いつでも投擲ができるように精神を集中させた。
◇
「急ぎましょう、おそらく俺たちが最後です」
ドミニク達の部隊が、南東の目標地点へと迫っていた。
既に、ドミニク以外の5人は目的地に到着し、魔法陣を展開させていた。
「小隊長、あのひらけた場所がポイントです」
案内役の騎士が、現在の場所と地図を照らし合わせる。
「全軍目標地点で止まれ!即座に魔法陣を展開する」
しかし、そのタイミングで頭上から氷の刃が降り注ぐ。
「っ!!全軍、上空に魔法障壁!」
ドミニクが全軍に指示をだし、全員が上空に注意をとられたと同時に、横から現れた黒いローブの大男が、身の丈より大きい両刃の大斧を振り払いながら突っ込んできた。
身体能力の魔法を使わずにきていたのが仇となり、そして使えばストーンランスが飛んでくる事から判断が遅れた。
「横からだ!身体強化しろ!!このままじゃ全滅する!」
大男の放った魔法の魔力と、彼自身が身体強化につかった魔力に反応して、ストーンランスが降り注がれ、乱戦に巻き込まれた騎士達が犠牲になっていく。
ドミニクはすかさず剣を引き抜き、大男に向かって斬りかかる。
「ぐっ!」
大男とドミニクのパワー差は歴然で、武器が競り合った瞬間に簡単に吹き飛ばされる。
身体強化の魔法に重要なのは2つ、一つは元の肉体がどれだけ鍛えられてるか、そしてもう一つが上乗せできる魔力量だ。
魔力が少なく、鍛えているとはいえそんなに身長も大きくないドミニクは、身体強化込みの単純な力比べではカティアともそう差がない。
ドミニクは力の流れに逆らわず回転し、空中で体勢を整えて綺麗に着地する。
「その黒ローブ、さっきの連中の仲間か!」
ドミニクの問いかけてに、大男が反応する
「出来損ないとはいえせっかく召喚したミストカーフだ、それに、君たちをここで倒せば魔法陣は完成しない、そうだろう?」
周りを見ると、100人近くいた騎士の既に7割近くの兵が戦闘不能だ。
残った30人ほどの騎士に、ドミニクが指示をだす。
「5人は魔法陣を!残りであいつを止める!半数はあいつに向かって攻撃魔法、残りは反撃とストーンランスに備えて魔法障壁準備」
その号令とともに5人が隊列を離れ、ばらけていた兵士が1箇所に集まる。
ドミニクは男との実力差、上空からのストーンランスによる狙撃を考え、取り囲んで戦っては不利だと悟った。
「いい判断だ、だが」
ドミニク達の後ろから爆発音が上がる。
思わず視線を向けると、先ほど隊を離れた5人が、魔法陣を設置する場所で爆発に体を焼かれ、のたうっていた。
「私が先にココに来て、罠を仕掛けていた可能性に、奇襲された時点で気づくべきだったな」
おそらく設置型の魔法道具だろう、ドミニクは自分の至らなさに歯ぎしりをした。
大男が先にここにきていた時点で、こちらの手の内がバレていたということに気づくべきだった。
おそらく解体の術式も知っていて、設置場所もわかっていたという事だろう。
「さて、そろそろ終いにしよう」
大男は前方に魔法障壁を展開させ、ドミニク達の魔法を歯牙にもかけず突っ込んでくる。
移動しながらの魔法障壁は、待機しながら展開する魔法障壁よりもどうしても脆くなる。
大男はポイントを絞り、自分の喉元を中心に上は頭部、下は腹部までの範囲だけに魔法障壁を展開し、それ以外の部分は大斧に魔力を込め薙ぎ払う。
「土魔法で壁を作れ!」
ドミニクの号令で、土の壁が迫り上がる。
「ムダだ!!」
大男は簡単に壁を破壊し、あっという間に味方の騎士が屠られる。
「うぐっ!」
ドミニクは再び競り合って、大男に吹き飛ばされ空中で体勢を整える。
しかし、今度はそのタイミングで、大男に吹き飛ばされた味方の騎士の体が激突し、ドミニクは意識を手放したかのように地面に横たわる。
「ふむ、こんなものか」
身体強化の魔法をといた大男の周りに、騎士達が転がる。
大男は勝利に一瞬気を緩める、が、その瞬間。地面に仕掛けられた魔法道具が発動する。
「なっ!?」
大男の足元から爆炎が捲き上る。
だが、それに反応した大男は氷の魔法を展開し、炎を相殺する。
大男は咄嗟のことで細かい魔法のコントロールができず、自分の足ごと地面を凍らせる。
その魔力に反応したゴーレムはストーンランスを放つ。
「甘いわ!」
ストーンランスが降り注ぐも、ドミニクの捨て身の作戦を読んだ大男は、その場から動けない状態にもかかわらず、冷静にそちらの方向に絞って魔法障壁を展開させ防ぐ。
まさにその絶妙なタイミングで、ありたっけの風の刃が男の元へ舞い飛ぶ。
「ど、どうだ!?」
意識を手放したかに見えたドミニクだったが、ぶつかる直前に頭部に身体強化を集中させて堪えた。
ドミニクは、味方が土の壁を作った一瞬の間に、地面に魔法道具を仕掛けていた。
罠にハマった男に、ありったけの魔力で放たれたエアリアルカッターはコントロールが甘く、地面をえぐっていた、それに加えその魔力に反応して再びストーンランスが大男の元に降り注いだために、大男の居たところには土埃が舞っている。
「くそっ、これでも...届かないのかよ......」
斧を振り回し土埃が払われると、身体中を傷だらけにした男が血を流しながらも立っていた。
それを確認したドミニクは、魔力が枯渇したことにより今度こそ本当に意識を手放した。
「まさか、こんな雑魚にこれほどやられるとは、私もまだまだか」
男はポーションを飲み、ドミニクにとどめを刺そうと近づく。
しかし、後ろから巨大な魔力を感じ、悪寒とともに振り返る。
大男が振り返ると、そこには燃えるような紅い髪を靡かせたオッドアイの少女が、大槌を地面に引きづりながら一歩一歩と近づいてくる。
「だ、誰だ貴様は?」
怯える大男に、少女は笑みをうかべる。
「悪いけど、あのゴーレムは私たちにとっても邪魔なの」
大男は言い知れぬ恐怖感に蓋をし、震える体を抑えつける。
「ならば、貴様も私達の敵だ!」
大男は両斧を振り上げ少女に向かって飛ぶと、力いっぱい振り払った。
少女は両手で大槌を振り上げ、大男の攻撃を真っ向から受け止め力任せにはじき返す。
「グハッ」
吹き飛ばされた大男が、地面に血を吐く。
大男はすかさず、ありたっけの魔力で大量の氷の刃を飛ばす。
少女は自らの周囲に炎を纏うと、飛びかかった氷の刃は一瞬で蒸発した。
「今度はこっちの番ね」
少女は大槌を振り払うと、雷が走り大男へと向かう。
大男は魔法障壁を展開するも、雷は簡単に障壁を突き破り、大男を一撃で屠る。
「ま、こんなもんね」
少女は大槌を消すと、ドミニクの鎧を漁り、魔法陣が描かれた予備の紙を取り出す。
彼女は魔法陣を確認すると、目標の場所に向かいドミニク達に変わって魔法陣を展開させ、その場で定着させる。
魔法陣を展開させ定着させるには、何人かの人数で執り行うのが通常だ、1人でする場合は膨大な魔力をかけるか時間をかける必要があり、魔力が少ないドミニクなどが1人で行うには、時間をかけなければいけない。
ただし、地面に魔法陣を木の棒などで描き補助すれば、魔力や時間も短縮する事ができ、1人で向かったブルノはドミニク同様魔力が少ないためこの手法を取った。
しかしこの少女は、そういった手間をかけず、それを1人で一瞬でこなせるだけの魔力を保持していた。
「あとは、マリーがアレを破壊するだけね」
少女ことレティの元に、2人の男が忍び寄る。
「さて、俺たちはどうします?」
そのうちの1人、軽薄そうな男が指示を仰ぐ。
「用は済んだし退散するわ、誰の手先か知らないけど、とんでもなく強い奴が2人いる、こっちが狙われる前に消えるわ」
それまでずっと笑みを浮かべていたレティは、顔を引き締め西を睨む。
「それって、お嬢様より強いんですか?」
相変わらずへらへらとしてる男が問いかける。
「この場にいる誰よりも、いえ、私が出会った誰よりもね」
レティは男に笑顔で返す。
「うへぇ、そんなバケモン勘弁してくださいよ、さっさとずらかりましょう」
レティはマリーのいる方向に視線を向ける。
「マリー、また、会いましょうね」
その言葉を残し、彼女たちは戦場から撤退した。