巨大ゴーレム討伐戦
「さて、どうやってあのゴーレムを倒しましょうか」
ナタニエルやフェリクスと合流した私達は、山の麓に簡易式の陣地を張っていた。
生贄が変わったせいで魔法が不十分だったのか、ゴーレムは山頂から上半身を出した状態でその場から移動できずとどまっている。
「実害がないなら、あのまま放置してもいいんだけどね」
ゴーレムはその場から動けないものの、近づけばちゃんと迎撃してくる。
このまま放置しておくのは周囲の村にとってはかなり危険だし、鉱山は使えない、そしていつ動き出しこちらに襲って来るか、その可能性が捨てきれない以上は排除するしかない。
メリットで言えば、オスマルクも東のアンスバッハと面しているので、アンスバッハを牽制をできるくらいだろうか。
「此方のアルムシュヴァリエは全部で300機ほど」
ナタニエルは私と合流する前にすでに何人かの兵を戻し、こちらにアルムシュバリエを送るように手はずを整えている。
「現実的にあれに対抗できるのはアルムシュヴァリエか、ソフィア先生の魔法か、マリアンヌ様があの時のような状態になられるか、そのどれかでしょうか」
ナタニエルの提案に、私は首を振る。
「そうね、でも最後のは無理よ、加護があっても使い方がわからない以上どうしようもないわ」
色々調べたり、試したりしたりしているが、あの時のように体を成長させる方法に手がかりすらつかめていない。
それどころかフェンリルの力も満足に使えず、ようやくハルバードが多少まともに使えるようになったくらいだ。
ハルバードを巨大化させて戦う事も考えたが、明らかに魔力が足りない、ナタニエルもそれがわかってたから提案しなかった。
「そうなると、やはりアルムシュヴァリエを運用して戦う事になりますね」
問題は、あのゴーレムに対してはアルムシュヴァリエですら小さすぎて戦力になるかどうか怪しいんだよね。
「失礼します!」
テントの幕が開き、ソフィア先生が入って来る。
「マリアンヌ様、ご無事なようでご安心しました」
私は、心配をかけてしまったことをソフィア先生に謝罪し、現状を説明した。
「一つだけ方法があります、魔法が不完全だからこそできる手ですが、不完全な術式を解体すれば消滅させることが可能です」
ソフィア先生の提案に、ナタニエルが口を挟む。
「術式解体は元の魔法陣が残っていないと難しいのでは?」
そうなんだよね。
ゴーレムによって山頂が破壊された時点で、あの祭壇は崩壊している。
術式解体は魔法陣が残っていることが条件なので、祭壇が残っていないと解体ができない。
だから私もナタニエルもその可能性を除外した。
「通常であればそうですが、今回は魔法陣だけではなく供物を使っています、今度はこちらがそれを逆に利用して魔法陣に接続するのです」
ソフィア先生は地図を指差す。
「このようにゴーレムを中心とした六ヶ所に魔法陣を描きます」
ゴーレムを中心に、北、北西、南西、南、南東、北東の6箇所を指でなぞる。
「その魔法陣を繋げて一つの巨大魔法陣にします」
ソフィア先生は、紙を取りペンを走らせ、それぞれの場所に使う魔法陣を描く。
「ここまでで解体術式自体は完成します、問題はその術式をどうやってゴーレムに繋げるかなのですが、マリアンヌ様、ハルバードを出していただけませんか?」
私はハルバードを召喚して、ソフィア先生の前に掲げると、先生は腕に巻かれた布をほどき、私に向けて差し出す。
「この聖布には私の魔法を仲介する術式が描かれています、これをハルバードに巻きつけて供物に向かって投擲します、それによって此方の解体術式を、聖布、ハルバード、供物を仲介して相手の術式に接続して解体します」
私のハルバードは触媒としては申し分ないだろうし、目標に向かって投擲すれば一撃必中なのも大きい。
そして、幸いにも供物の部分は露出している、そう考えるとこれが一番いい選択だろうと思う。
「では、6箇所に兵を派遣しましょう」
今度はナタニエルが地図を指差し、指示を出す。
「今のこの陣地は南に近いのでマリアンヌ様とソフィア先生はそちらへ、一番遠い北部にはブルノが、次に距離が離れている北東部にフェリクス、北西部にマティアス、南西部にカティア、南東部にドミニク、それぞれが部隊を指揮してポイントに向かって下さい、私は全体の指揮のために途中までマリアンヌ様達に同行します」
全員が頷き、ブルノが口を開く
「俺とフェリクスは単独でいい、その分、この3人に兵を回してやれ」
ブルノは親指をドミニク達の方に向ける。
「わかりました、では兵を振り分けます、まずはマティアスですがーーー」
◇
「どうやらあっちの作戦は決まったみたいね」
ポニーテールの女性が耳当てから手を離す。
後ろに座っていたエメラルドグリーンの美しいロングヘアーをしな垂れた女性が、持っていた本を閉じ、立てかけてあった剣のような武器を携え立ち上がる。
「さて、私たちはどうしようか?」
ポニーテールの女性が、エメラルドグリーンの女性に声をかける。
「...面倒、私が斬った方が早い」
その答えにポニーテールの女性は苦笑する。
「いやいや、それじゃ命令違反だから、あの子達がやれそうな感じなら任せるって隊長も言ってたし、私達はもしもの時のための保険なんだからね」
エメラルドグリーンの女性はため息を吐く。
「フランはデカブツ退治のサポート、私はやばそうなところを助ける、それが合理的」
フランと呼ばれたポニーテルの女性は、うんうんと頷く。
「んだね、でかいのは私に任しといて、もしもあの子達が失敗した時はこれで吹っ飛ばすから」
フランは、見たこともない長尺の武器を肩に担ぎ、軽く揺らす。
「わかった、そっちは任せる」
エネラルドグリーンの髪を風に揺らし踵を返す。
「任されました!スイもよろしくね、私たちの敵じゃないけど何人か強いのいるみたいだし、フェリクスとブルノだっけ?あの2人は大丈夫そうだけど、他の3人じゃ多分きついと思う」
スイと呼ばれたエメラルドグリーンの女性は、その言葉に頷くと、フランの前から瞬時に消え去った。