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彼らの目的

 周囲を見渡すと、私と同じくらいの年齢の少女達がその場に蹲ったり、中にはすすり泣いている子も居た。

 彼女達の顔を改めてよく見ると、やはり何人かが行方不明のリストに載っていた子供達と合致する。

 鉄格子のついた石造りの部屋の中に閉じ込められている状況を見ると、やはり人攫いで間違い無いようだ。

 部屋の中は比較的綺麗で清潔にされていて、人質の環境としては悪くない。

 そして私の目の前にいるレティと名乗る女の子は、リストにのっていなかった少女だ。


「そろそろ、意識ははっきりしたかしら?」


 どうやらレティは、私の意識が覚醒するまで待っていてくれたようだ。


「ええ、目が醒めるまで貴女が私を見ていてくれたようね、感謝するわ」


 身体能力を強化したとはいえ、滑落した時に意識を消失したのだからそれなりの痛みや傷があってしかるべきだけど、それがないという事は彼女か、攫ってきた連中のどちらかが治療したということだと思われる。


「問題ないわ、貴女の怪我は攫ってきた連中が回復してたわ、ちなみに変な事もされてないようだから安心して」


 彼女は、ふふっと笑い、色違いの瞳を揺らす。

 オッドアイは私の瞳と同じで珍しい、それに、喋り方もそうだが仕草や立ち居振る舞いの所作をみると彼女も私と同じ貴族だろう。


「私は、炭鉱でモンスターを討伐中に崩落事故で意識が消失してここにきたのだけど、ここは一体どの辺なのかしら?」


 滑落した場所から運ばれてここにきたのだろうけど、あまり遠くにきた感じはしない。


「ここはザーレの炭鉱より東側に位置する洞窟よ、アンスバッハとの境界に近いわね、連れて来られる時に確認したわ、おそらく崩落で炭鉱と洞窟が繋がったのね」


 私は首をかたむけて疑問に思う。

 オスマルクに赴任する時に、領内の地図は全て把握してある。


「炭鉱より東に洞窟なんてあったかしら?」


 その疑問にレティが答えを返す。


「入口に認識阻害の魔法とか結界とかがかかっていたのじゃないかしら?」


 普通に考えると、そうなんだよね。

 私もさっきから魔法を使おうとしているのだけど、魔力を集中させようとすると霧散するんだよね。

 おそらくこの首にかけられた、奴隷用の首輪のせいなんだろうけど。


「そうね、それで私たちを攫ってきた連中はどこに行ったのかしら?」


 見張りの1人くらいはいていいはずだが、鉄格子の前に椅子があるだけで、今はそこには誰も座っていない。


「それに、人攫い達は一体何の目的で私たちを集めたのかしら?」


 矢継ぎ早に疑問をぶつけた私に、レティがわかる範囲で答えてくれる。


「人攫いの連中は貴女を治療した後にどこかに行ったわ、あと攫った目的だけど、どこかに売られるのではなくて何らかの儀式に使われるみたいね」


 やはり予想通り儀式のために集められたようだ。


「ありがとう、矢継ぎ早に質問してわるかったわ」


 レティのおかげでだいぶ状況が把握できた。


「いいのよ、泣くだけの子と会話するよりよっぽど建設的だわ」


 思わず2人で微笑み合う、彼女は要点を的確に返してくれるので私としても非常に助かった。


「改めてよろしくね、レティ」


 私が手を差し出すと、彼女もそれに応える。


「こちらこそ、よろしくねマリー」


 改めて挨拶をかわした私たちは、部屋に複数の足音が近づいてくる事に気づいて会話を止める。


「...目が覚めたか」


 足元まで隠れる黒いローブを着て、目元まで隠れるフードを被る、いかにもな連中が鉄格子の前に現れる。


「喜べ、お前達は我々の崇高なる目的のための生贄に選ばれた」


 やっぱりね、私は心の中で呟いた。

 リーダーらしき男が部下に促す。


「鉄格子をあけ、奥の神殿に運べ、儀式を始める」







 一列に並べさせられた私たちは、首輪に鎖を繋がれ石造の長い通路を歩かさられて、洞窟の奥にあるらしい神殿へと連れて行かれる。

 巨大な広間にたどり着き、高い天井を見上げる、どうやらここが神殿のようだ。

 中央には祭壇があり、そこには何かの動物のものであろう心臓が置かれている。

 私たちはその祭壇を中心として描かれた魔法陣の中を、円を組むように配置させられ。人攫い達は私たちの外側に位置を取った。


 さて、どのタイミングで仕掛けるかな。

 魔法は使えないし、もちろん保持していた魔法道具も没収されている。

 ただ、私には一つの確信があった、ハルバードであればおそらく召喚できると。

 その証拠に、今、私の手の中には超小型化したハルバードが握られている。

 あとは合図がくるだけだ、ブルノならきっと私を追ってきてくれる、私は私の優秀な従者を信じるだけだ。


「よし、儀式を始める」


 その瞬間、神殿の横壁が殴りつけられたかのような大きな音と共に崩れ去り、見知った顔が乱入してくる。

 私は手の中にしまっていたハルバードを、即座にナイフと同じ大きさにして穂先で首輪と鎖を斬り落とす、


「信じてたわよ、ブルノ!」


 私は満面の笑顔で迎え入れる。


「へっ、感謝するより先にマリアンヌ様はそのお転婆をどうにかしてくだせえ、まったくお嬢様といたら心臓がいくつあっても足りませんぜ」


 ブルノの後ろからカティアとドミニクが雪崩れ込み、子供達の首輪を外して自分達が空けた横穴に逃げ込むように誘導する。


「お説教はあとよ、攫われた子供達の救出を優先させるわ」


 人攫い達は即座に魔法で対抗してきたものの、魔法障壁を張り自分たちと子供達の身を守る。


「私が代官を任されたオスマルクで、こんなくだらないことを始めたことを後悔させてあげるわ!」







 クソっ、なんなんだアイツらは!

 いや、なんでこんな所にアイツらがいる、が正しいか。

 神殿に流れ込んできた者達はシュタイアーマルクの家紋が入ったマントを纏い、噂通りの強さをみせつける。

 戦闘が始まり數十分、既に我々の計画は破綻していた、生贄達は彼らが空けた横穴から既に逃げ出し、1人の生贄に至っては我々と交戦している始末だ、しかもその少女も恐ろしく強い。

 俺は最初からあの少女を生贄に使うのは反対だった。

 魔力が潤沢で儀式に使うには最適だったが、彼女の内面から漏れる魔力に畏怖の念を抱いた。

 それなのに、“アイツ”が俺を嗾すから。

 男は、何時の間にやら消えている1人の同士に心の中で愚痴をこぼしていた。

 既に多くの同士は倒れ、勝負は決しようとしていた。


「こうなったら、一か八かだがやるしかない」


 身体能力を強化した彼は、持っていた杖と拾った杖で両隣にいる味方の体を貫く


「な、何をする!?」


 彼はその状態のまま走り出し、彼らを肉壁にしつつ祭壇の方へと走る。


「お前達の命は無駄にはしない」


 男は祭壇の手前で、杖を捻りトドメを刺すと同時に引き抜く。

 呪文を唱えつつ祭壇へと飛び乗り、片方の杖を中央の供物へと突き刺す。


「ーーー目覚めよミストカーフ」


 その言葉と同時に。男はもう片方の杖を自分の心臓へと突き刺した。







 止められなかったか。

 敵の1人が動き出した瞬間とめようとしたが、残りの生き残り達が命をかけてこちらの動きを阻止した。

 その結果、彼は目的を果たし、その中心部からはドス黒い魔力が溢れ出し、近づく事もできない状況だ。


「マリアンヌ様!ブルノさん、カティア、それにドミニクも無事か」


 ブルノ達が作った横穴ではなく、私たちが入ってきた入口からマティアスが現れる。


「ええ、私は大丈夫よ、それよりも.....」


 私は視線を祭壇に向ける。


「まずは、ここを脱出しましょうこっちです!」


 ブルノは私を肩に抱えると、マティアスの誘導の元、私たちは私が通った石造の道を通り抜ける。


「ちょ、ちょっとブルノ、私なら自分で走れるわ」


 あまりにも淑女らしからぬ恥ずかしい体勢に慌てる。


「ダメです、嫌な予感がします、マリアンヌ様は魔力を温存しといてくだせえ」


 ブルノは私を抱える手に力を入れる。


「それだけじゃないわ、横穴に逃がした子供達は大丈夫なの!?」


 私はさっき逃がした子供達のことを聞く。


「そっちも問題ありません、横穴あけたのは炭鉱夫達の力をかりましたから、穴の中にいたあいつらが既に炭鉱の外まで連れ出しているはずです」


 長い通路を抜け外に出た私たちは、地鳴りと共に起きた縦揺れの地震に足を取られその場にしゃがみこむ。

 神殿のあった山の天頂が内側から弾けるように崩れ去る。


「落盤に気をつけろ!」


 ブルノが周囲に注意を促す。

 山頂を見ると、崩れた山の中から巨大な手が天に伸びる。

 その手が振り下ろされると、山の一部を掴みその本体が山の中から露わになる。


「嘘でしょ!?なんなのよこの冗談みたいな大きさは!!!」


 神殿から脱出した私たちの目の前に、とてつもない大きさのゴーレムが現れた。

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