スケルトン
「やっぱりスケルトンは脆いわね」
私たちは既に炭鉱の内部へときていた。
既にここに来るまでに10体近くのスケルトンを屠っている。
炭鉱の中では、空気中のガスに引火したらいけないので基本的に火魔法が使えない。
だからこそいい実戦経験になると思ったのだけど、スケルトンが脆いのか、ハルバードが強いのか、一撃入れるだけで倒せてしまうので、思ったような成果には繋がらなかった。
もちろん狭い場所で戦う時はハルバードをショートアクスにしたりと、持ち手の長さを変えて対応している。
「マリアンヌ様、どうやらこの奥が発生源になっているようです」
カティアが地図と現場の状況を照らし合わせる。
地図を覗き込むと、目の前にある通路が地図には記載されていない。
その証拠に、壁に光魔法が閉じ込められたランタンのようなものがかけられているここまでの道とは違って、この先の道にそういったものがぶら下がっておらず、未開の場所だとわかる。
「俺とマティアスが先行する、カティアとマリアンヌ様がその後ろ、殿はドミニクだ」
道を進み始めて数体のスケルトンと遭遇するものの、ブルノとマティアスが簡単に屠る。
マティアスも私と同じく火魔法も使えず、炭鉱内ではロングソードを振り回すのは得策ではないため、今日はショートソードを使っている。
私たちは道を進みながら、光魔法で灯された棒状の物を周囲に投げ捨てる。
これは壁にかかっていた物とは違い、魔力を閉じ込めず放出するために1日も持たずに消えるいわば使い捨ての道具である。
「止まれ、この先広間になっているようだ、そして奥に何かいる」
ブルノが手でみなを制止する。
「おそらく群のリーダー、ボスですね、どうします?」
マティアスがブルノに尋ねる。
「とりあえず中にこれを放り込もうと思う」
ブルノは先ほどまで床に投げ捨てていた光の棒を出し、マティアスに見せる。
スケルトンは視力も聴力もないが魔力を感知する、故に微量ではあるが魔力を放出するこの棒切れに、近い位置であれば反応してしまう。
そしてこの棒切れは、通常時は魔力を放出しないものの、衝撃がトリガーとなって魔力が放出され光を放つ特性をもつ。
「こいつの特性を利用して、スケルトンを引きつける、俺たちはここまで魔法を使わずに進んでいるから、体内からあまり魔力がもれていない、流石に近づけば気付かれるが先手で雑魚を何匹か屠れる」
それともう一つ、光は視力のないスケルトンには意味がないが、私たちにとっては視界が広がるのでプラスに働く。
「ボスの方はどうします?」
ドミニクが剣に手をかける。
「光で照らされたあと、マリアンヌ様のハルバードの投擲で仕留めるのが確実だろう」
この槍を使っていてわかったことだが、視認できる範囲の物であれば投擲すれば自動追尾で当たるようになっている。
槍を投擲するには、筋力もそうだが技術もともなう。
ハルバード自体は、素人でも使いやすい武器として有名だが、投擲は別だ。
故に、この反則紛いの特性は筋力も技術もない子供の私にはとてもありがたい。
「もし、それで倒せなかった場合だが、ボスはマリアンヌ様の魔力を認識するので、狙われる事になります、だからマティアス、お前がマリアンヌ様につけ、雑魚は俺とドミニクとカティアで屠って数を減らす」
全員が無言で頷く。
ブルノは手に持っていた光の棒を広間の方に投げ入れると広間の中が照らされ、ボスの姿がはっきりとあらわになる、他のスケルトンより1.5倍近く大きく、手に盾を剣を持つスケルトンナイトだ。
視認と同時にハルバードを投擲する、それに合わせて3人が広間に飛び込んだ。
スケルトンナイトは投擲されたハルバードの魔力に反応し、盾を滑り込ませるもハルバードは盾ごとスケルトンナイトを破壊する。
「やったわね、マティアス、私たちも雑魚狩りに混じるわよ」
冷静を装うが、まさかの瞬殺に驚く。
となりのマティアスも、一瞬だが惚けた顔をのぞかせた。
「了解」
ボスを一瞬で屠り、不意打ちで数を減らしたスケルトンは抵抗するすべもなく、彼らが全滅するのに10分とかからなかった。
「うまくいきやしたね」
ブルノが腰のベルトに武器を収める。
「ええ、できればもっと歯応えがあればよろしかったのだけどーーー」
その瞬間、地鳴りとともに私のいる足場がピンポイントで崩落し滑り落ちる。
残念ながら、私の記憶にあるのはここまでだ。
「マリアンヌ様!」
誰よりも早くブルノが反応するも、天井から岩が落ち踏みとどまる。
「クソっ、全員、広間から出ろ」
4人が部屋から出ると同時に、先程までいた広間は崩落し土の中に消える。
「下に行く道を探すぞ!さっきの地鳴りでまた新しい道ができたかもしれない、マティアスお前は街に戻りナタニエルとフェリクスに事情を説明しろ!」
マティアスは頷くとすかさず来た道を引き返す。
「ドミニク、お前はマティアスに同行して炭鉱の外に出たあと鉱夫に協力を取りつけろ、今は少しでも人手が必要だ」
ドミニクは慌ててマティアスの後を追う。
「カティアは俺についてこい、マリアンヌ様が怪我している事も考えると回復魔法が使えるお前が適任だ」
カティアは地図を照らし合わせて周囲を確認すると、ブルノとともに新たにできた道を進む。
◇
どれだけ意識をうしなっていたのか、目がさめると自分と変わらぬ年齢の少女達が視界に入る。
意識がはっきりしてくると、大半の少女達の顔に見覚えがあることに気がつく。
そうだ、この子たちは人攫いにあった子たちだ、ということはここは?
そう疑問に思う私に、見覚えのない1人の少女が話しかける。
「貴女、目が覚めたのね、意識を失っていたみたいだけど大丈夫?」
私に話しかけた少女は、緑と青のオッドアイに燃えるような紅い髪の美少女だった。
「貴女は.....?」
リストに載ってなかった彼女に名前を問いかける。
「あら?人に名前を聞くなら、まずは自分が名乗るべきではないかしら」
いたずらっぽい笑顔で少女はこちらに笑いかける。
「そうね、ごめんなさい、私の名前はマリーよ、気づいたらここにいたわ」
彼女の言う通りだと思った私は、改まって挨拶を返す。
「レティよ、ここに居るのは貴女と同じ理由よ」
そう言って彼女は、優雅に私に微笑む。
どうやら、彼女も私も、人攫いの連中に捕まったようだ。