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炭鉱

「どうやら北部の鉱山の内部で魔物が発生した模様です」


 私の前に立つカティアが、手に持った書類をめくりながら報告する。

 北の炭鉱はこの領地の重要な収入源で、オスマルクにとってなによりも優先されるものである。


「魔物の種類は?」


 私は読んでいた書類を机に置く。


「スケルトン系の魔物が確認されています」


 洞窟内でスケルトン系の魔物が出ることは特段珍しいことはない。


「洞窟ならまぁ珍しくはないわね」


 スケルトンは人が多く死ぬ場所に出やすい。


「はい、数もそんなに出てないようですし、10人ほど派遣すれば問題ないと思われます」


 唇に人差し指を当て思案する。

 通常であればカティアの言う通り10人ほど騎士をだすか、斡旋所に討伐依頼だして終了だ。


「ローレリーヌ、今日はこの後何か予定があったかしら?」


 横に控えるローレリーヌに確認を促す。


「いいえ、今日は特にご予定ははいっておりません」


 ローレリーヌは手帳をめくり、私の予定を確認する。


「なら、ちょうどいいわね、午後から視察に向かいましょう」


 執務室にいた全員が作業をやめ、こちらを見る。


「ナタニエルとも話したけど、一度くらいは視察しておかないといけないと思ったのよ、前領主がケチって老朽化したエレベーターをそのまま使ってるみたいだし」


 前の領主のせいでどれだけ苦労すればいいのかと、頭を抱える。


「マリアンヌ様、先に魔物を倒してからでもよろしいのでは?」


 ブルノが言うことはもっともだと思う。


「そこも含めてちょうどいいと思うのだけど、私はもっと実戦経験を積むべきだと思うのよ」


 カティアが持っていた報告書にフェリクスが手をかける。


「.....ふむ、確かに悪くないかもしれませんね、我々も同行しますし、この規模であれば問題がないでしょう」


 意外にもフェリクスが同意してくれたことにより、誰かに反対される前に私は畳み掛けるように予定を決める。


「決まりね、連れて行くのはフェリクスとドミニク、カティアとマティアスにするわ、ローレリーヌとナタニエルそれにブルノとソフィア先生は留守番よ」


 ここの業務も、私が不在でもナタニエルがいれば問題ない。


「待ってくだせえ、俺は留守番は嫌ですぜ」


 不満げな顔でブルノが詰め寄る。


「ダメよ、フェリクスが来るならブルノが残るべきよ」


 この2人が同時に首都から離れるのはダメだ。


「だったら俺が行く、フェリクスお前が残れ、坑道内じゃロングソード使いのデカブツより、俺の方が向いてる」


 ブルノが言うように、坑道のような場所では狭い場所があり、そういうところではロングソードが天井や壁に引っかかるために、基本的には長尺の武器は使わない。


「断る!.....と言いたいところだが、お前の言うことも一理ある、坑道内で戦う方法がないわけではないが、お前の方が俺より向いているのは確かだ、今回は譲ろう」


 体の大きいフェリクスは剣をもってなくても、素手での戦闘も強いんだよね。


「決まりね、ナタニエル留守の間は任せるわよ、私が不在の間はナタニエルの指示にしたがってちょうだい」


 本当ならソフィア先生も連れて行きたいけど、もしもの時を考えたら先生がこっちに残ってくれた方がバランスがいい。

 シュタイアーマルクの北部に位置するここオスマルクも、東のアンスバッハと隣り合う領地だ。

 アンスバッハはあれ以来は動きもなく静観しているが、前回のように仕掛けてくる可能性は捨てきれない。

 そうなった時、この3人が残っていれば。ナタニエルが全体の指揮をとり、フェリクスが個人の戦いに集中する、大規模魔法が使えるソフィア先生が魔法でサポートする形は理想的だと思う。


「では、私は出立の準備をしてまいります」


 ローレリーヌは頭を下げ、準備のために部屋から出て行く。


「よろしくね、ローレリーヌ」


 部屋から出るローレリーヌを見送りながら、私は左腕に嵌めた金の腕輪は撫でる。

 これの使い方もまだわからないけど、まずはフェンリルの力とハルバードを使いこなすのが先ね。

 私は気合を入れ直し、残りの仕事に集中した。







 炭鉱の入り口の周辺には、炭鉱夫たちが住むための住居が建てられ、彼らはそこを拠点に生活を送っている。

 その中をひとりの少年が駆け、たどり着いた一つのバラックの扉を開ける。


「親方、ザーレから早馬で手紙が届きました」


 親方と呼ばれた男は、小間使いの少年から手紙を受け取ると中身を確認した。

 親方の座るテーブルの他の椅子にはベテランの鉱夫たちが座り、その周辺に若い衆が立ったり、床に敷かれたござに胡座をかいて座ったり、寝転がったりしてる。


「午後から、代官様が兵を連れて対処してくれるそうだ」


 周りの若い衆から歓声があがる。


「今回の代官様は対応が早くて助かるな」


 前の代官は上訴しても対応が遅かったり、そちらに任せるの一点張りで、そのせいで犠牲になる炭鉱夫達も多かった。


「まったくだ、今のままじゃどうしようもねえからな、商売上がったりだ」


 ベテランの1人がおどける。


「ちげえねえ、こんなに休んでたら母ちゃんにどやされる」


 親方と同じテーブルに座るベテラン勢がガハハと笑い合う。


「しかし、今回の代官様は随分と若いんだろ、大丈夫なのか?」


 1人のベテランが疑問の声を上げる。


「さあな.....だが、問題はそこじゃねぇ、若かろうが年寄りだろうが、前の領主みたいなのじゃダメだ、少なくとも即座に対応しただけ、前のよりかは全然マシだ、今のところはな」


 親方の言葉に周囲が静かになる。

 前の領主に長年苦しめられたのは炭鉱夫だけではない、多くの領民が苦しめられた、それでもここ最近はずっとよくなっていると町の方に出ると話を聞く。


「よし、坊主、入り口で見張ってる連中にも午後から代官様がいることをつたえてきてくれ」


 わかった、と、少年が部屋から駆け出す。


「おめえら、とりあえず何かあってもいいように早めに飯食うぞ、それがおわったら出迎えの準備だ!ぼーっとしてんじゃねぇ、キビキビうごけ!!」


 へい!!と元気よく返事をした鉱夫達は、午後に向けて各々が準備を始める。

 若い炭鉱夫達は、変わり始めたオスマルクの未来に希望を抱き、ベテランの炭鉱夫達も疑いながらもこの領地が良くなることを願った。

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