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プロローグ 開戦

 ミゲルとアデルは支度を済ませると、マリアンヌが起きないように睡眠魔法をかけてアデルが背中に背負う。

 二人は広場に出ると、確認のために幾人かと話をして村長に話しかけた。


「村長、村を捨てて街に逃げよう」


 降伏しても、女性は犯され、子供は奴隷で売られ、男と老人は殺されるだけだろう。


「.....やはり、それしかないのか」


 村長は沈痛な表情を覗かせる。


「流石に、あれだけの人数に3機のアルムシュヴァリエ、アデルが万全な状態でブルノが居ても、村と人を守りながらではどうにもできない」


 人を守りながら、被害を出さずに敵を倒すのは難しい。


「逃げるにしてもどうする?」


 村長はミゲルに尋ねる


「山を下るにしても通常のルートはダメだ、野盗どもは今は通常ルートの東側に迂回しているが、アルムシュバリエを運搬のためにもどこかで通常ルートを使うしかない、だから、俺が中央で敵を引きつけた後に西側に行く、西側は荷車は通れないがアルムシュヴァリエが戦闘するスペースはある、うまくやって引き連れる、その間にみんなは敵の通ってきた東側のルートに出るんだ、きっとブルノが気づいて敵軍の後から追ってくるはずだ」


 きっとブルノであればこの状況に気づいて、敵の通ったルートの後を追ってくるはずだとミゲルは確信していた。


「.....わかった、すまない」


 村長は、背を向け広場の中央に向い、全員にこれからのことを説明し始めた。

 振り返ると、マリアンヌを背負ったアデルが、俯向き拳を握りしめていた。


「.....ミゲル、私も「ダメだ!」」


 アデルの提案を、ミゲルは言葉で遮る。


「でも.....」


 食い下がろうとするアデルに対して、ミゲルは彼女の両肩に手を置き説得する。


「君がマリアンヌを守るんだ、それに他の村人を誘導しないといけない、大丈夫、俺ならうまくやって生き延びるさ」


 ミゲルはアデルの前で強がってみせる。


「.....わかった、でも、無理はしないで」


 アデルは瞳を揺らしながら、ミゲルの顔を見つめる。


「ああ.....それじゃあ、準備もあるし行ってくるよ」


 ミゲルはアデルにそっと口づけをした後、1人村の正門から敵の元へと向かった。

 彼の後ろ姿を見ながら、アデルは自分の両頬を“パシン”と叩き気合を入れる。







「隊長〜、いい加減疲れたんすけど」


 一人の若者が中年の男性に向かって悪態を吐く。


「我慢しろ、正規のルートに出たから村までもう少しだ、そこまで行けば食料もあるし、1日くらいは休めるだろ」


 指揮官らしき人物はため息を吐きつつも若者を宥める。


「なあ、村に着いたら色々と自由にしていいんだろ?」


 他の若い兵士が下衆な顔を覗かせる。


「.....好きにしろ」


 指揮官は、この騎士らしからぬ若者の発言に顔を顰めた。


「隊長、こっちはさっきの街でも全然よかったんだぜ、軍から敗走するときに拝借したアルムシュヴァリエが3機もあるんだ」


 下衆な若者は舌なめずりをし、下卑た表情をみせる。


「ダメだ、さっきの街にはシュタイアーマルクの軍がいた、あそこの兵は屈強だ、それに斥候がロングソード二本持ちの騎士を確認してる、おそらくフェリクスだろう」


 過去に戦場で戦った事のある指揮官はその脅威を目の当たりにしていた。


「シュタイアーマルクの剣と盾でしたっけ?でも確か一人は騎士を辞めたんじゃ」


 最初に声をかえた軽薄そうな若者が口を挟む。


「ああ、そうだ、フェリクスとブルノは危険だ、私は戦場であれを見たことがあるが、フェリクス一人でもアルムシュヴァリエ3機じゃ話にならん」


 彼らは元々クーデター側の軍隊であったが、戦闘の最中にこの部隊を率いてた人間が死に、部隊が瓦解し敗走した。

 その後生き残ったものの中から、年長であったこの隊長と呼ばれる人物が率いることになったものの、敗走し部隊に戻っても処分されるということ、元々、この部隊は急造で、ろくに訓練も受けてないゴロツキ上がりの素行の悪い騎士が多かったせいもあり、彼らは生き抜くために野盗に身を貶した。


「チッ、わかりましたよ.....それにしてもおかしくないっすか?」


 若い兵達は仕方がなく納得するも、あまりの静けさに違和感を覚える。


「何が?」


 そう言いつつも指揮官自身も言い知れぬ違和感を感じた。


「ほら、その情報を持ち帰った斥候っすよ、もう村の方から戻ってきててもいい時間じゃないっすか」


 指揮官はハッとすると、即座に周りに警戒するように指示を出そうとした、その時である。

 左右の斜面から二人の斥候の亡骸が転がり落ちる。


「っ魔法障壁!」


 指揮官は瞬時に状況判断し、その亡骸に火魔法の爆薬が仕掛けられた物だと判断して周囲に魔法障壁を張るように指示を出した。

 しかし、指揮官の予想は外れる、巻き付けられてたのは火魔法の爆薬ではなく光魔法が仕掛けられた閃光弾だった。

 “カッ”と周囲が光り障壁の外の視界が遮られる。


「不羈の民たる風の精霊シルフよ、目の前の敵を貫きたまえ、エアリアルランス」


 10本の槍が光に包まれた敵の中に飛び、障壁を張り遅れた者、張れないもの達が風刃の槍に貫かれる。


「まずは3人、これで5人」


 直前に身体魔法で能力を向上させているミゲルは、素早く敵陣に突っ込み、右手に持った剣で敵の首を落とす。

 魔法障壁は加護と魔力の術式を阻害し術式を解体するだけで、物理攻撃は阻害できない。

 ミゲルは立て続けに2人の首を落とし、使い物にならなくなった剣を投げ捨てる。

 幾人かが即座に魔法を放つが、ミゲルは背中に魔法障壁を集中して張りつつ、素早く左方の斜面を跳躍し駆け上がる。


「アルムシュヴァリエを起動させろ!左方ならばスペースがある、全員で追うぞ」


 そう言うと1人の若者がアルムシュヴァリエに騎乗し、幾人かを残し残りの兵は逃げたミゲルを追走し始めた。

 指揮官は休みもままならない状況で、自分を舐めきってる何人かの若い騎士に苛立ってたこともあり、冷静な判断を失っていた。


「ダメですって隊長、これどう考えても罠っしょ」


 軽薄そうな若者が指揮官に注意を促す。


「それでも放置するわけにはいかん!」


 頭に血が上った指揮官は声を荒げる。


「わかってますって、だから隊長はあいつを追ってください、俺はこのアルムシュヴァリエ1機と5人ほど貸してもらえりゃ十分ですから」


 若者は指揮官が冷静になるように促す。


「.....どうするつもりだ?」


 少し冷静になった指揮官は若者に耳を傾ける。


「俺たちは迂回して挟み込みます、全員で後を追うよりいいでしょ」


 若者はシンプルに作戦を提案する。


「.....わかった、そっちはお前が指揮しろ」


 納得した指揮官は、何人かをこの若者に預ける。


「りょーっかい」


 若者の気の抜けた返事に呆れつつ、指揮官はアルムシュヴァリエに騎乗して、ミゲルの向かった左方の傾斜を駆け上がった。


「さ〜てと、お楽しみと行きますか.....ケヒッ!」


 下卑た表情の若い騎士はアルムシュヴァリエに騎乗し、5人を引き連れると、指揮官に提示した作戦を無視して、ミゲルの行った方向ではなく来た道を戻り東側のルートの探索に向かった。







「チッ、奇襲に成功したが全員じゃないな、何人か向こうに行ったか、頼むぞ....アデル」


 文句を言いつつも、ナイフを投擲して詠唱中の追っ手を1人仕留める。

 左方の森林帯に逃げたミゲルはあらかじめ置いておいた予備の剣を回収し、土魔法でいくつかの場所に作っていた土壁を障害物に利用してうまく立ち回る。


「不羈の民たる風の精霊シルフよ、目の前の敵を射殺したまえ、エアリアルアロー」


 二本の風刃の矢を放ち、曲線の軌道を描き前方に集中した魔法障壁をかわし2人の敵を射殺す。

 3人の敵兵が接近戦を仕掛けようと三方から飛び出るが、1人の兵はあらかじめ仕掛けておいた落とし穴に落ち、中に仕掛けていた火魔法の爆薬で四散する。

 残り2人のうち1人の剣を正面から受け流し、身体を滑らして入れ替わり、横っ腹を蹴っ飛ばしもう1人にぶつける、体勢を崩したところを1人の首を即座にはねて、もう1人の腹に剣を突き刺し反転し、投擲されたナイフの盾にしつつ詠唱して風魔法で投擲してきた者を仕留める。

 持っていた剣から手から離すと、相手の剣を奪い、後方から向かってきた者の首をはねる。


「これで16人、残りは11人とアルムシュバリエが3機」


 ミゲルは残りの敵を確認する。


「あとこっちにきてるのは気配からして6人と、アルムシュヴァリエが1機か」


 相手の戦力を図りつつ木陰に隠れた1人を斬り伏せ、ナイフを投擲し詠唱中の2人のうちの1人を仕留め、放たれた相手の魔法をかわしもう1人の心臓を突き刺し、剣から手を離し木陰に身を隠す。


「これで残ってるナイフは4本、火魔法の爆薬は2、身体強化の魔法はまだ持つとして.....魔法は節約して5、6回が限界か.....」


 魔力の残量を確認しつつ詠唱していた風の刃エアリアルカッターで、木陰に隠れていた木と魔法障壁ごと3人を横薙ぎにして一瞬で仕留める。


「これで残りはアルムシュヴァリエのみ、魔法はエアリアルカッターで大盤振るいしたからあと3回だな」


 ミゲルは木陰で呼吸を整えて大物に備える。

 ”ズシン、ズシン“という音を立てて先行してきた一機のアルムシュヴァリエが、両手で木をなぎ倒しつつこちらに姿を現わす。







 時は遡り、その頃アデルは村人を連れて道の狭い東側のルートを進んでいた。


「みんな頑張って、もう少し行けば少し開けたルートに出るから」


 村人達は無言で頷き後に続く。

 それから20分ほど歩いたところで敵の通ってきた東側のルートに出る。

 村人達は少し安堵したのかホッと一息つく。

 その瞬間、無情にも遠方のアルムシュバリエから放たれた火の魔法により幾人かの村人が消し炭になる。


「みんな逃げて!」


 即座に反応したアデルは煙幕の魔道具を地面に叩きつけ自らも森林に身を隠す。


「ローレリーヌ」


 アデルは側にいたブルネットの10代前半の少女に声をかける。


「この子をお願い、あれは私がここで食い止める」


 覚悟を決めたアデルは、ローレリーヌに娘を託す。


「アーデルハイト様.....わかりました、マリアンヌ様は私が責任を持って預かります」


 アデルは無言で頷き、マリアンヌの頭をそっと撫で踵を返す。

 ローレリーヌはマリアンヌを抱きしめ、他の村人達が逃げた方に走り出した。







「煙幕か〜、厄介なもん使いやがって.....まっ、吹っ飛ばしゃいいだけなんだけどね!」


 アルムシュヴァリエに騎乗した軽薄そうな若者は、風魔法を詠唱して煙幕を吹き飛ばしていく


「はいはい、これで丸見えですよ〜っと」


 若者をケラケラと笑う。


「粛然の民たる水の精霊ウンディーネよ、目の前の敵を貫きたまえ、ウォーターランス」


 前方から水の槍がアルムシュヴァリエに向かって飛んでくる。


「っ魔法障壁展開!」


 すんでのところで前方の障壁が展開し、ウォーターランスが防がれる。

 しかし、魔法障壁を迂回したウォーターアローが左腕の接合部にあたり地面に落とされる。


「おいおい、さっきのやつの手際といい、この村はとんでもねーのがいるみたいだな」


 若者は口角を上げ、ニヤついた。


ローレリーヌはアデルについてきた何人かの従者のうちの1人の娘、だから様づけ。


魔法は詠唱なくても使えるけど、詠唱がないと威力は落ちる、声は小さくてもいいし、ミゲルのように肉壁を使って口の動きで口上がばれないように隠すのも手のうち。

魔法障壁は、基本的に詠唱ないと前方に集中して張るのがやっと、それも魔力差があるとぶち抜ける。

睡眠魔法はよっぽどの力量差がないと、子供を寝かしつけるくらいしか使えない。

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