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金の腕輪

2章開始です。

 大陸暦1798年、ギュスターブ軍は快進撃を続け、シュタイアーマルク、オスマルク、ノルマルクの東部辺境領地を既に掌握していたこともあり、開戦からわずか半年足らずでヴェルニエ王国の東部一帯を手中に収めて居た。

 もともと前王派だった西南部の領主達はギュスターブ殿下に忠誠を誓い、現在ギュスターブ軍はシュタイアーマルクの南にあるノルマルクから西側、ロワーヌ大陸の南方一帯でヴェルニエ王国と交戦。

 ロワーヌ大陸の西北部のヴェルニエから独立した貴族たちは、ギュスターブ殿下が現れたことにより一つに纏まりグルーエンバーグ公国を名乗った。

 また東のアンスバッハ皇国はあれ以来動きはなく、現在ギュスターブ軍は東部と西南部の領土を繋げるために南部での戦いに集中しているために、膠着状態が続いていた。







「こっちに戻ってきたのは正解だったわね」


 私はプラチナブロンドの髪をリボンでくくり、束ねられた物資の目録をめくりながら呟く。


「ええ、ギュスターブ殿下が本陣を構えておられた時には物資も潤っていましたが、もともとオスマルクは前領主に搾取されていたせいで領民の生活に余裕がなく、今は殿下が南部のノルマルクに本陣を移されておりますから、こうなるのは必然とも言えるでしょう」


 現在、領主不在となったオスマルクはシュタイアーマルクに統合され、辺境伯レオポルドが領地の統治を兼任する事となった。

 ギュスターブ殿下が本陣を移動したことにより、私は領主補佐の業務の一貫として2ヶ月前からオスマルクの領主代官を拝任していた。

 お爺様はこうなる事を見通して予め私を補佐役に配置し、周りの従者を固められたのだと理解できた。


「でも、これで足りない分の物資の目処がたったわ」


 私は、ナタニエルと共に不足分の物資を仕入れるために、シュタイアーマルクへと2ヶ月ぶりに帰ってきている。

 関係各所との交渉はすでに終えたものの、現在は目録を漁り、さらに余剰分がないか確認していた。


「ええ、明日には出発できるでしょう、後は片付けだけですから、残りは私に任せてゆっくりしてください」


 確認し終えた終わった目録を整え、机に置いた私はナタニエルをじろりと睨む。


「3日でとんぼ返りは、さすがにどうかと思うのだけど」


 書棚にファイルを戻したナタニエルが、死んだような瞳の笑顔で振り返る。


「仕方がないですよ、前領主のせいで、使える人間がほとんど残っていなかったんですから」


 今回、ナタニエル以外に従者からはフェリクスとローレリーヌ、マティアスが同行し、向こうではブルノ、ドミニク、カティア、ソフィア先生が残り、私が不在の間の業務を代行している。

 本来であれば、私かナタニエルのどちらかが残るのが普通だが、今回は細かい交渉が必要だったために2人で戻った次第である。


「そうね、早く帰らないとドミニクやブルノにに恨まれそうだし」


 席から立ち上がり、体をほぐすために両手をあげ全身を伸ばす。


「少し運動してから休むわ、あとの片付けお願いするわね」


 ナタニエルは胸に手を置き礼をする。


「今晩だけはゆっくりご自愛くださいませ」


 貴方もねと言った私は、フェリクスとマティアスを連れ領主邸へと戻った。







「はぁ・・・はぁ・・・・」


 領主邸の庭の一角でハルバードを地面に突き立て、魔力を循環させて自分の魔力量を引き上げる。

 あの戦い以来、力不足を痛感した私はこの鍛錬に身を入れていた。

 氷の幻獣フェンリルを吸収したことにより、さらに魔力の総量が増えたが、もとより自分の魔力の総量ですら全て引き出せて居なかった私にとっては、まさに宝の持ち腐れであった。

 例えば100ある魔力のうち50ほどしか使えない私が、上積みでさらに100手に入れたとしても50しか使えないので意味がない、そういうことである。


「その歳でそれだけ引き出せるのなら、大したものだ」


 突然の声に振り向くと、闇より深い漆黒の髪の美しい青年が佇んでいた。

 上質な深い紫の瞳から発せられる眼光はするどく、金の装飾がなされた黒い軍服のような服装にマントをはためかせる。

 着こなしからは清廉さと、所作の美しさからは品の良さを感じさせるものの、相手に畏怖すらも感じさせる雰囲気を醸し出す。

 言い知れぬ恐怖心から、私は思わず後ずさりして身構えてしまう。


「おっと、すまない、辺境伯との会談の時に窓から君の姿が見えてね、思わず声をかけてしまったのは不躾だったな、謝罪しよう」


 お爺様のお客であり、瞳の色が高貴なる血筋に多いとされている紫色。

 これらの情報から、私は手に持ったハルバードを収納し姿勢を正してお辞儀をする。


「お初にお目にかかります、シュタイアーマルク辺境伯レオポルドの孫娘マリアンヌでございます、先程はこちらも身構えてしまい申し訳ありませんでした」


 青年は顎に手を置き、満足そうに薄く微笑む。


「はじめましてマリアンヌ嬢、よければ先程のハルバードを少し見せて貰えないかな?」


 私は再びハルバードを顕現させると、両手の掌に乗せ青年の方に差し出す。

 すると、彼は差し出されたハルバードの穂先を指でなぞっていく。


「え!?」


 指でなぞった場所に発光した文字が現れた事で、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


「やはり本物か、面白い」


 青年は目を細める。


「あ、貴方様はこのハルバードについて何か知っているのでしょうか?」


 ハルバードをみていた青年の瞳がこちらを向き、2人の視線が交錯する。


「知っているかと聞かれれば知っている、しかし全てを伝えるには君はまだまだ力不足だ.....ただ、一つ君に教えられることがあるとすれば、今日のように鍛錬をし続ける事だ、これは君の成長に合わせて成長する」


 私たちがいくら調査しても、ハルバードについては何一つ情報は得られなかった。

 思わぬ状況で糸口を見つけてしまい、少しでも情報を引き出そうと私は口を開く。


「ご歓談中失礼します、主上、そろそろお時間です」


 横から別の男性の声がして、私の発言は遮られる。

 振り向くと、白髪をオールバックにした40代くらいの大男が、黒髪の男性と同じマントをはためかせる。

 マントの中に着ている神父服だけをみると教会関係者のように見えるが、私は彼の厳格な印象を与える顔に見覚えがあった。

 彼は、半年前の国王軍との戦いの映像に映し出された、ギュスターブ軍のとんでもなく強かった者の1人だったからだ。


「おっと、待たせたみたいだなベルトーゼ、すまない、こっちの用はもう終わる」


 青年はもう一度こちらに振り向き、私の左腕を取ると金の腕輪をはめ込む。

 あまりにも自然に手を取られた事で、私は反応できなかった。


「これを君にあげよう、もしもの時に君を助けられる証になる、つけるかどうかは君の自由だが、いかなる時もずっと嵌めておくことをお勧めしておく」


 青年は矢継ぎ早にそう言うと、軽く会釈をし、あっという間にその場から立ち去った。

 私はせめて彼の名前を聞きたかったが、動揺してしまい聞きそびれてしまった。

 そのあと冷静になった私は、会談したお爺様なら名前を知っているだろうと思い、お爺様からなんとか彼の名前を聞き出すことができた。


 翌日、朝早く目覚めた私は日課の鍛錬をした後に、オスマルクに戻るべく、シュタイアーマルクの首都ムールに再びの別れを告げた。



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