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新たなる力

 私の存在を認識したフェンリルは、間髪を入れずにこちらに飛びかかる。

 右手に持ったハルバードを回して両手で構え、フェンリルの突撃を胴金の部分で受け止める。

 先程までと違い、魔力が身体を駆け巡り敵の攻撃を受けてもビクともしない事に驚く。


「今度はこっちの番よ!」


 受け止めたフェンリルを、力技で押し返す。

 すかさず手を滑らせハルバードの持ち位置を変え、今度はこちらがフェンリルの胴体に横薙ぎに鉤爪の部分をぶつける。

 そのまま投げ飛ばされたフェンリルは、向かいの建物に壁に激突し倒れるが、すぐに立ち上がる。

 ぶつけられた側部には三つの穴が空き、血が滴り落ちる。


「再生が鈍いってことは効いてるみたいね」


 フェンリルは雄叫びをあげ、私の周辺に多数の氷の刃が展開する。


「サラマンダー!我が身に炎を纏い守りなさい、ブレイズウォール!!」


 氷刃がこちらに向かうと同時に、“ズバン”という音と共に私の周囲に爆炎の渦が捲き上る。

 炎に当てられた氷刃は一瞬で蒸発し、私の炎がフェンリルの氷を上回ったと確信する。


「いけるっ!」


 この度はハルバードに炎を纏わせ、全速力でフェンリルとの距離を詰める。

 振り下ろしたハルバードを、フェンリルは横に飛んで回避す地面に斧の部分がめり込む。

 地面からハルバードを引き抜くと同時に魔力を込めて、斧の部分を鎌へと形|状を変化させ、フェンリルの前足の一つを刈り取る。

 バランスを崩したフェンリルは後ろに跳び距離を取ると、私はハルバードを一回転させ石突部分を地面に当てる。


「サラマンダー!我が身に立ちふさがる敵を燃やし尽くせ、ブレイズタイラント!!」


 フェンリルの足元から炎が噴き出し一本の柱となって天まで伸びる。


「すげぇ」

「この力は.....」

「マジ!?」

「.....」


 その戦いに、ドミニクは簡単の声とともに開いた口が塞がらず、ソフィア先生はその力に驚愕し、ユングは目を見開くも、エルハルトは1人冷静に観察する。


 やがて、炎の柱が収束し鎮火すると、消し炭になったフェンリルの残りカスが空中に舞い散る。


「ま、まだよ!そいつ再生するわ!!」


 ソフィア先生は慌ててこちらに注意を促す。

 その言葉と同時に、再び光の粒子が集まり、フェンリルが再生を開始する。


「そのタイミングを待っていたわ」


 私はすかさず粒子の中へと飛び入り、ハルバードを回転させると先端の槍を地面に突き立てる。

 地面に突き立てられたハルバードを中心に、光の線で描かれた魔法陣がいくつも空中に展開する。


「氷の幻獣フェンリル、貴方の全てを貰い受ける!」


 フェンリルの粒子を魔法陣で絡め取ると、粒子ごとその魔法陣を体内へと引き込む。


「ぐっ!」


 自分の身体の中に異物が入り込む違和感。

 痛みとも、嫌悪感とも違う、不思議な感覚に顔を歪ませる。

 抗おうとするフェンリルの意識ごと無理やり自分の中に引き入れる。


「いいからっ!さっさと言うこと聞きなさい!!」


 私が叫ぶと同時に、空中に残っていた魔法陣が全てが引き込まれ、周囲からフェンリルの粒子が消える。




「ーーーか、勝ったのか!?」


 最初に声をあげたのはドミニクだった。


「そ、そうみたいだけど」


 ソフィア先生は未だに理解が追いつかず困惑する。


「ええ、これで大丈夫よ」


 私は二人に近づき肯定する。


「あ、貴女は一体?」


 ソフィア先生はおそるおそる言葉を投げかける。


「ふふっ、私、マリアンヌよ、先生」


 私は微笑み、ソフィア先生にウィンクする。


「え、えぇ!?で、でも私の知ってるマリアンヌ様はもっと子供で.....」


 情報が追いつかず、ソフィア先生は困惑する。


「いや、でもよく見たら面影あるし、その服もマリアンヌ様が来てたのと同じだし.....」


 ドミニクはジロジロと私の体を見る。


「た、確かに言われてみたら.....それに魔力の波動がマリアンヌ様と同じ気がするわ」


 ソフィア先生も視線を上下させ、私の面影を探す。


「でも、それじゃなんでこんな姿に?」


 顎に手を当てたドミニクが、ソフィア先生に疑問を投げかける。


「わ、私がわかるわけないじゃない!?」


 そんな二人の会話に、私はパンパンと手を叩いて割り込む。


「悪いけど詳しい説明はあとよ、私は発生源の穴を防ぎにいくわ、2人は街に入り込んだ魔物の討伐と怪我人や逃げ遅れた人の救助をお願いします」


 2人は意識を切り替えると無言で頷く。


「俺たちも協力しよう」


 割り込まれた声の方向に振り向くと、エル君達がこちらに歩み寄る。


「助かるわ、ありがとう二人とも、領主代行として後で必ずお礼します」


 私は身分を明かし、2人に協力をお願いする。


「.....ああ、その依頼引き受けた」


 4人は頷くと、ドミニク達とエル君達は別々の方向へと動き出した。


「さて、私はあっちね」


 私は再び魔獣の発生源のある門の方に向かって、全速力で駆け出した。







「くそったれ!一体いつまで続くんだ!!」


 マティアスは、もう何十匹とウェアウルフを狩っていた。

 それでも地面に開いた穴から、とめどなくウェアウルフが出てくる。

 穴から新しく飛び出てきた一匹がマティアスへと飛びかかるが、その突撃をマントを翻し回避する。

 回避と同時に剣を横に払い敵を上下に切断しつつ、視線で後ろを確認する。

 後ろにいる門兵たちは疲弊し、かろうじて戦線を維持してるものの、いつ戦線が崩れてもおかしくない状況であった。


 このままじゃ、不味いなそう考えていると、門からマティアスの見知った騎士が駆けてくる。


「マティ!私も手伝います!!」


 戦場に現れた女性は、左手のマン・ゴーシュで敵の牙を受け止めつつ、右手のレイピアで胴体を串ざす。


「カティア!どうしてここに!?」


 カティアは一瞬視線を門へと向けると、マティアスもその視線を追随する。


「ロ、ローレリーヌ!?」


 驚くマティアスに、背中合わせとなったカティアは敵を斬りながら説明する。


「領主邸が落ち着いたので、こちらの戦線を維持するために何人かで手助けと、負傷者の手当てに来ました」


 事前の準備が功を奏し、領民への被害は最小限にとどめられていた。


「そうか、助かる!」


 ジリ貧だったマティアスが感謝を口にすると同時に、街の中心から天に向かって一本の火柱が噴き上がる。


「な、なんだあれは!?」


 予期せぬ現象に、マティアスは驚く。


「わ、わからない、でもあの位置からして教会のある方向だと思う」


 2人は困惑しつつも、意識を目の前の敵に集中する。

 しかし、戦線に数人が加わり一時は持ち直すものの、戦況が好転したわけではなく惟然厳しい状況が続くと、その時は必然と訪れた。

 門兵の一人が倒れると、すかさず三匹のウェアウルフが崩れた場所を駆け抜ける。


「まずい!」


 戦線の後方で、倒れた門兵を治療するローレリーヌ達の元へ、3匹のウェアウルフが迫る。

 気づいたマティアスが前線をカティアに託し、街の中に戻ろうと足に力を入れる。


 ダメだ、間に合わない!その刹那、迫る三匹のウェアウルフの額を氷の刃が貫く。


「問題なく使えるみたいね」


 可憐でいて苛烈、そう思わせるほどの美しい女性がハルバードを肩に携える。

 戦場を歩く彼女の姿に、周囲の時間が止まったような感覚に見舞われる。

 人は意識を取られ、ウェアウルフは何かに怯えたように唸る。


「意識を逸らすな、戦闘中だ!」


 即座に意識を戻したマティアスが周りを一喝すると、再び時が動き出す。

 突如として戦場に現れた女性は、最前線に躍り出ると、炎をまとったハルバードを振り回し、数匹のウェアウルフを一瞬で屠る。

 周囲のウェアウルフを片付けた彼女は、地面に石突の部分を叩きつける。


「なんだありゃ!?」


 兵の一人が上空を指差す。

 発生源となった穴の上空に、どでかい氷の塊が現れる。

 氷の塊はそのまま落下し、“ズドン”という音とともに穴を塞ぐ。


「これで大丈夫ね」


 女性の周囲に氷の刃が舞い、地上に残ったウェアウルフを間引く。


「マティアス、カティア、残りはまかせます、あとはローレリーヌをお願いね」


 その言葉を残し、戦場に現れた女性はアンスバッハと交戦する方向に向かった。

 前線で困惑するマティアスとカティアをよそに、後方に居たローレリーヌがつぶやく。


「もしかして.....お嬢様?」







「もっと早く移動できればいいんだけど....」


 東の森林地帯を駆けるマリアンヌは、森の中の障害物を煩わしく思ってた。

 いっそ、空でも跳べたら、自分で発したその言葉に妙案を思いつく。

 マリアンヌは木の枝を足場に跳躍で駆け上がり、空中に飛び上がる。

 空中に飛び上がった彼女は、炎の魔法で爆風をおこして空中をかけ抜けた。


「やった、これでだいぶ短縮できる!」


 マリアンヌはブルノ達が交戦する戦場に向かって一直線に突き進んだ。





魔法の口上が変わってるのは、大サービスでサラマンダーを強制使役できる状態になったからです。

主導権が精霊にある場合はファイア、術者にある場合がブレイズです。

前者の方が魔力の消費が少なく、後者は消費が激しいです。

フェンリルは吸収したので口上も必要ありません。

ハルバードは魔力によって形状を変えられます。

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