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魔獣防衛戦

ーーー東部の森林地帯


「おい!なんだ今の地鳴り音は!?」


 既に会敵したシュタイアーマルクの騎士団は、森林地帯にて奇襲と罠を絡めた遊撃戦を開始していた。

 最前線から戻ったブルノは、ナタニエルに詰め寄る。


「わからん!ただ俺たちが街に戻るのはなしだ、ここで戻れば背後を取られアンスバッハに蹂躙されるだけだ!」


 ナタニエルはブルノを諭しながら、自らの感情を押さえつける。


「わかってる!わかってるが.....」


 それでもマリアンヌが心配なブルノは食い下がる。


「.....5人程街に戻り状況を確認してくるように命令をだした、今は待て」


 守るべき街が無くなってしまっては意味がない、他の兵士が動揺しないようにナタニエルはすぐに手を打っていた。


「すまねえ、熱くなった」


 ブルノは冷静さを失っていたことを謝罪した。


「気にするな、ただし、減った騎士分働いてもらうからな」


 ナタニエルは黒い笑顔をブルノに向ける。


「ああ、さっさと終わらせて姫さまのとこに帰るぞ!」


 焦る心を抑え、ブルノは再び最前線で仕掛けるべくその場を離れた。


「せめて俺が戻るまでじっとしててくださいよ」


 しかし、ブルノのその声は彼が思う人物には届かなかったようだ。







ーーー領主邸


 領主邸のある区域は、壁に囲まれており安全地帯となっている。

 今朝の時点で、あらかじめ移動の困難な老人や、病人、怪我人などの領民は領主邸に避難されており、現在は魔物が発生した事で多くの非戦闘員を受け入れた事で、領主邸の中も外の庭も人で溢れている。


 その中でローレリーヌは慌ただしく走り回ってた。


「お嬢様の命令で色々と準備しておいてよかったわ」


 思わずそう呟いた彼女の前に、見知った女性の騎士が新たな怪我人を運んでくる。


「カティア様、状況はどうなってますか?」


 ローレリーヌはカティアにかけよる。


「門兵が頑張ってくれているので、街中の方は比較的落ち着いています、マリアンヌ様達が発生地点に行く道すがら、魔獣を迎撃して間引きしてくれているおかげで、私たちは誘導と救助に専念できました」


 他にも戦える人間達は、協力して街中の魔獣の迎撃にあたっていた。


「お嬢様は大丈夫でしょうか.....」


 ローレリーヌは自分の主人に想いを馳せる。


「大丈夫よ、マティはしっかりしてるし、ドミニクもああみえて、やるときはやる奴だから」


 カティアは、見習い騎士の頃から何年も仕事を共にしている2人の事を信頼していた。


「ふふ、そうですね」


 2人は顔を見合わせクスッと笑う。


「まだ怪我人などが残ってないかもう一度みてくるわ」


 救助作業のためにカティアは再び街の中に向かう。


「わかりました、よろしくお願いします」


 カティアの背中を見送ったローレリーヌは、主人やみんなの無事を心の中で祈った。







ーーー門壁前


「何なんだよこれは!?」


 門兵の1人が、迫り来る獣型の魔物、ウェアウルフの喉を剣で突き刺す。

 騎士団の主軍は、アンスバッハの軍勢との戦いのために出兵したばかり。

 それなのに、突如として魔物の異常発生が起こり現場は混乱していた。


「クソッ!何匹か抜かれた!?」


 若い兵士が追いかけようとしたが、年長の兵士が牽制する。


「追うな!街の中にも戦える者達がいる、俺たちは出来る限りここで戦線を維持する」


 年長の門兵は、戦線を崩さないように周りに眼を見張る。


「ハイッ!」


 年長の門兵の言葉で何とか纏まりを取り戻すも、状況は不利であった。


「むうっ、このままでは.....」


 若い門兵の1人がウェアウルフの牙を剣で受け止める。

 しかしその瞬間、後ろからもう一匹のウェアウルフが門兵に飛びかかる。

 誰しもが助からないと思ったその瞬間、1本の炎の槍がウェアウルフの胴体を串刺し、その射線上にいた3匹のウェアウルフを纏めて貫く。

 その直後、5本の炎の槍が飛び、同様にウェアウルフの何匹かを貫き、混戦地帯から敵が間引かれる。


「今よ、ドミニク!マティアス!」


 2人の騎士は兵士達を追い抜き、最前線へ躍り出ると、次々とウェアウルフを切り伏せる。


「みんな、よく耐えたわ!ここの責任者は?」


 私は周りの兵士たちを鼓舞する。


「マリアンヌ様!助かりました、責任者は自分です」


 この場の指揮官は、私の顔を見知った者だった。


「門壁の上から、周辺の兵士達に身体能力向上の魔法をかけるわ、詠唱の間護衛をお願い」


 私はこの場の指揮官に指示を出す。


「了解、そこのお前らついていけ」


 私は若い兵士を2人連れ、門壁に続く階段を登る。

 門壁の上では、飛び道具や魔法が使える者が、下に広がる戦場で戦う味方を援護していた。

 私は跪き、両手を胸におき神に祈りを捧げる。


「歌の女神エウテルペーよ、我が詠を対価に魔力を汲み取り戦い行く者達へと転換せよ!フィジカルコンバート!」


 私は立ち上がり手を広げ、女神エウテルペーに対価となる歌を捧げる。

 すると、戦う兵士達の体が淡い光でつつまれる。

 戦闘の最中で気がつかない者も多かったが、私についてた護衛や、戦闘に余裕のあった一部の兵士は一瞬目を見開きびっくりしたり、壁上で戦う兵士達も驚きの表情でこちらをチラチラと見る。


 歌の女神の加護は別に珍しくはない、なぜならそれを専門とする部隊が存在しているくらいだからだ。

 彼らが驚いてるのはその範囲の広さである。

 使えても魔力量の問題から軍隊まるごと強化できる術者もいれば、1人しか強化できない術者もいる。

 私の魔力量はまだその全てを引き出せてないものの、ポテンシャルだけであればただの人間の中での最高値、ハイエルフや魔族などには勝てなくても、現時点でも並みの大人の魔法使いに負けないくらいではあると自負している。

 さすがに一人で、数万人規模の軍隊まるごとは不可能だけどね。


 歌を終えると淡い光が収まる。

 これで数時間は大丈夫なはずだ。

 今回は強化の上昇率を約1.2倍程度に抑え、その分効果が長く続くようにした。

 この魔法のデメリットの一つだが、身体能力を向上させても普段からそれを訓練してないと、力に振り回されるだけになるという事だろう、だからこういった状況では上昇率を抑えるのが鉄則だ。


「思ったより魔力を使っちゃったわね、残りはもう半分切ってるくらいか.....」


 私は自分の残りの魔力量を確認していると、物凄い勢いで駆けてきた白い大きい狼型の獣の魔物が、私のいる壁の上を飛び越えた。


「「マリアンヌ様!?」」


 ドミニクとマティアスは同時に叫ぶと、マティアスをその場に残しドミニクが壁を駆け上がる


「大丈夫ですか!?」


 ドミニクが私の前に跪く。


「大丈夫よ!それよりあの白い狼を放置するのはまずい、追うわよ!」


 まずいまずいまずい、私の中で焦りが込み上げる。

 門の上で空中を飛び交錯する白い獣と目がすれ違った、その一瞬で私はあの白い獣がとんでもない強者だと本能で悟った。

 私では勝てない、本能では理解しているものの、それが戦わない理由にはなり得ない。

 少しでもあの獣を止めなければならないと悟った私は、魔法で自らの身体能力を強化し白い狼を追った。

 すぐに行動を起こした私に慌てたドミニクは壁の外を見下ろす。


「マティ!俺はマリアンヌ様についていく、お前はここを頼む」


 マティアスはウェアウルフを斬り裂く。


「了承した、ドミニク!マリアンヌ様を頼む」


 ドミニクは無言で頷くと、踵を返しマリアンヌを追った。







 白い狼ことフェンリルは街中を駆けていた。

 目指す方向はただ一つ、アレが保管されている場所だ。

 もう何百年もずっとアレの気配を感じなかった、まるでこの地上から存在が消えたように感知できなかった、それが突如として現れた。

 フェンリルは、アレが何なのか本当の正体は知らない。

 ただ、自分の本能の更に奥に、アレを喰らうことが魂に刻み付けられている。

 故にアレに近づけば近づくほど冷静さを失い、獣本来の存在に近づいた。

 そして獣と成り果てたフェンリルは、アレの保管されている教会の前で動きを止めーーー後ろへ飛び退いた。

 その刹那、上空から炎の矢が弓なりに降り注ぐ。


「止まりなさい、貴方の相手は私よ!」


 障害を排除しようとフェンリルは一直線に突撃しようとするも、今度は空から騎士が降ってくる。


「マリアンヌ様!1人で先行しすぎです」


 追いついたドミニクが、マリアンヌを宥める。


「ごめんなさいドミニク、前衛は任せるわ、2人でこいつをどうにかするわよ!」


 冷静さを取り戻したマリアンヌは、ドミニクのうしろで詠唱を始める。


「ええ、わかってますとも」


 ドミニクは剣を構え、敵の攻撃に備える。

 フェンリルは目の前の人間達を敵と認識し、排除すべく唸り声をあげ、意識をそちらに背けた。


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