勇者ざまぁ"
あたし、天才美少女魔法使いニーナちゃん!
ある事件をきっかけに世界を救う勇者と仲間になって、それからずっと一緒に旅をしているの。
そして、英雄になる予定の勇者とは恋人同士!
将来は結婚を誓い合った仲……の、筈なんだけど……
「はい、勇者様。あーん」
「アハハ。うん、このサラダ美味しいよ、ニーナ。
サラ、いつも食べさせてくれてありがとう」
「いえいえ。元はと言えば私がヘマをしたせいで勇者様にお怪我をさせてしまったのですから、これぐらいは」
その恋人は今、別の女と乳繰り合いながら食事中。ムカムカッ!
ちょっと何よ!これはアンタらのデートかよ。
「ちょっと!なに人の彼氏に粉かけてるのよ。それもよりにもよって勇者の彼女である、あ、た
、し、の目の前で!一体全体どう言うつもり?」
「あぅっ、ち、違うんです。そんなつもりは……」
「そんなこと言ってもニーナ、君は今料理中で手が離せないんじゃないか。出来たてを一番に食べて欲しいんだろう? 僕の手は現在ご覧の有様だし、一品一品出来上がるたびに一緒に召し上がってたらお昼ご飯が夕ご飯になってしまうよ」
あたしの恋人、勇者に媚を売りながらアーンしてたのはパーティーのヒーラー役であるサラ。
彼女は一部で聖女なんても呼ばれていたりして世間じゃ評判いいんだけど、それはあの女の面の皮が厚いから。ああやって自慢のボディをクネクネ動かして注目を集めながら周囲に愛想振りまいて味方につけるのが彼女の手口なのだ。
「違うでしょ、そう言う問題じゃない!
さっきからなーんかアンタたち、ずっとイチャイチャとネチャネチャと……もしかしてアレ?浮気??」
「い、イチャイチャだなんて、そんな」
「そうだよ。別にこれぐらい普通だろう?パーティー内の仲間同士、仲良く出来てていいことじゃないか!」
まぁ、下心満載のスケべな男なら、簡単に靡いてくれるわよね。でもアイツはあたしの彼氏なのよ。少しは遠慮ってものを……アンタは何鼻の下伸ばしとんじゃ!
「その割にはアンタ、なんか女の子ばっか引き込んで……あーもうッ!
次、出来上がり! さっさと召し上がれこのバカ!!」
「おっと、レバニラ炒めかい? なかなか癖のある食べ物を出してくるなんてえらく挑戦的じゃないか。肝だけに気持ち悪がって食べられなかったらどうするんだい?まあ食べるんだけどさ」
「べ、別にあんたの両手の火傷が早く良くなって欲しいから作ったとか、そんなんじゃ無いんだからね!」
「わかってるよ、いつもありがとう。ところで僕はこのホクホクの炒め物をどうやって食べればいいのかな?」
「その辺のワンちゃんみたいに犬食いでもすれば?」
「おっと、えらく辛辣だね。さすがに、この量じゃあ、はふ、食べきるのに、うまっ、苦労あつっ、ハフハフは」
「ふふんっ。しょうがないからあんたの食べ残しはあたしが処理してあげ」
「うびゃ〜、もやしが鼻の穴の中に!」
「もう、勇者様ったら。さすがに無茶ですよ。無理にワンちゃんにならなくても、また私がアーンしてあげますから」
「しなくて良い!」
全く、目を離すと直ぐにコレなんだから。
心配しなくても、あと少しで手が空くからそれまでキャンキャン吠えてればいいのよ、上手に食べたいですワンって。
そう思ってると、彼とあたしの関係にさらに口出す人物が現れた。
「……ちょっとニーナ。それは流石に言い過ぎというか、酷くない?」
「そうかしら、エリン。だいたい恋人同士のやりとりにケチつけるだなんて野暮だとは思わない? あたしたちはコレで通じ合ってるんだから外野からケチつけないでよね」
「な、外野ですって? 言わせておけば何よ!恋人恋人って……恋人ならなんでも許されるっての?
そんな、彼はあんなの所有物じゃないんだから、本当に恋人ならもっと相手を思いやるとか、もっと大切にしてあげなさいよ」
「そ、そうですよね。私たち、仲間同士仲良くしていきましょう?」
「はいはい、そうね。悪かったわ、確かに世界を救う男がペットみたいに扱われてるって外聞悪すぎるもんね。あんたらの主張は正しい。けどね、もう一度あたしの彼氏の姿をよく見なさい」
「フォー、うみゃぁぁぁあ" 皿ウメェェェエーーッ!」
「アレがあたしの彼なの。ああやって誰かに調教されながら生活することで歓びを感じてしまうどうしようもない人なの。そんな彼にあたしは選ばれた、その意味わかる?」
天に尻を突き上げながら皿の料理を余すことなく口だけで平らげる勇者の姿は、誰がどう見てもテンションマックスで虐げられて愉悦に浸る唯の訓練された変態の姿にしか見えなかった。
唖然とする二人の分を皿に盛りつけたあたしは、やっぱり手伝う必要はなかったわね、と自分の分に箸を進めて食事を進めた。
本当に、仕方がない人。やっぱり、アイツにはあたしがいないとダメね。みっともない彼の姿をみて、改めてあたしはそう思っていた。
……思っていたのに。
「なあニーナ、少しでいいんだ。しばらく一人で休暇をとっていてくれないか?」
「は、嫌よ。なんであたしが? それならアンタと」
「ほんと、悪いんだけどさ。今度のダンジョン、魔法使えない所だろう? 別に邪険にするつもりはないんだ。ただお前んとこの実家も近くだろう。良い機会だと思うんだ」
「へぇ、つまり私じゃ足手まといって言いたい訳?」
「違う、そうじゃなくてさ。
例えばさニーナには日頃から戦力だけでなく、炊事や洗濯とかパーティー維持に貢献してくれてるじゃないか。だからさ、ニーナも疲れてるんじゃないかって、そう思ったのさ」
「ふーん、で? 本当のことは、話してくれないの?」
「ほ、本当のことって?」
「とぼけないでよ!
昨日の夜中!あんたの部屋で二人!布団に入ってエリンと一緒!
当然心当たりがあるでしょう?……何か言いなさいよ。あたし、みてたんだから言ってごらんなさい?
昨日二人で何してたのか、彼女のあたしに言ってみなさいよ。
……言える訳ないか、実は遊びだったなんて。口煩いだけで可愛げのない女なんか、一緒に付き合ってても面白くもないなんて、めんどくさいだけだもんね。ゴメンね、こんな都合の悪い女で。迷惑だったよね、みんなで仲良くしている所に一人だけキャンキャン主張してきて和を乱す邪魔者女で–––」
「何よ!彼のことを全然分かってないのは貴方じゃない!」
パシン。あたしの癇癪に平手打ちは乾いた音を立てて、その後、水を打ったような静けさが訪れた。たまらず、涙が込み上げてきた。
「……あ」
「ちょ、待って」
「違うんだ! ま、行かないでくれ、ニーナァア–––ッ!」
堰を切ったように溢れ出した感情が止まらなくて、堪らずあたしはその場から逃げ出した。
行き先なんて無かった。
きっと、嫉妬深い女って思われてるんでしょうね。でもあたしには我慢できなかった。彼の愛情があたしだけの物じゃないって聞かられたら、あたしのこの気持ちは暗く煤けてしまう。愛情よりも憎らしさで心を焦がしてしまう。
別に、彼女たちのことが嫌いってわけじゃない。だけど、だから、分かんない……。分かんないけど、今はただ、あいつらを見返してやりたかった。
だから、来ちゃった。こんなところまで。
神殿に作られた巨大な門扉。その先に待ち構えるのは魔王が最奥に潜むと言われる魔界の入り口。通称、『ラストダンジョン』。
この中に入って、生きて帰って来たものはいない。だから噂が本当なのかも実際のところは定かではない、けど―――
「―― 世界を救う筈の勇者を差し置いて、このあたし一人で英雄になっちゃったら、みんなはどんな顔するのかな?」
周りに女を侍らせて、街でイチャイチャしている間に裏切られた仲間が一人でこの世界の課題をクリアしたと知られたら、どんなツラして弁明してくれるのかな?
勿論、それは起こりえない未来だってのは、分かってる。だけどあたしには、この情動を抑える手段があの時思い浮かばなかった。
最初は思いのほか順調だった。
伊達に勇者の仲間の魔法使いをやっていた訳じゃない。どんなに敵が硬くても、たとえ山のように大きくても、たった一撃で消し飛ばすあたしの魔法の威力はここでも充分に威力を発揮した。
だけど、一撃の重さを追求して魔法を鍛えてきたあたしの腕では限界があった。
敵の強力な一撃を防いでくれた盾使いのエリンはここに居ない。だから自分で受け止めるしかない攻撃は、骨を砕き、皮膚を裂き、少しの間に身体をボロボロにした。
たとえ腕が捥げそうになって、皮膚がただれて心が挫けそうになっても癒しの力で安らぎを感じさせてくれたサラも、ここには居ない。だからボロボロの自分を見て、痛みと恐怖で押し潰されて心は折れた。
どんな時でも諦めない心で向かう先を照らしてくれた勇者の彼は、あたしの側にいない。あたしは意地っ張りで、愚かで、弱くて、泣き虫で、ひとりで何もできないちっぽけな人間で、そんな欠点ばかりのあたしじゃ彼とつりあえるのか不安で、だから寄り付く他の女の人がいれば受け入れられなくて。
だけどあたしの仲間はとても強くて立派で、いい人ばかり。
そんなの分かってた。だから噛みついた。無理向かれないように、逃げられないように、彼の全てを手中に収めてあたしからは離れられないように管理して監視した、つもりだった。ははっ、意地汚すぎる。すべてを自分のものにしたいなんて虫が良すぎ、まるで魔王じゃん。
これは、その報いかもね。
見たことがないが見るからに凶悪そうな魔物たちに囲まれたあたしは絶対絶命だった。
頼りの綱の魔法も、魔力が切れたんじゃあどうしようもない。魔法がつかえないあたしなんか、小うるさくてめんどくさいだけの性悪女だ。
こうなることは当然の結果で、馬鹿なあたしは人生最後に無駄にから回ってラストダンジョンに消えた無名の冒険者の一人として忘れられるだけ。
欠点だらけで彼とは釣り合わないあたし?そんなの当たり前じゃん。なんでもできてパーペキで賢い人間だったらこんな事態には陥らないよ。もしかしたら本当に一人でクリアできたかもね。
サラだったらどうしたかな?エリンだったらどうしたかな?彼だったらこんな時どうするのかな?決まってる、きっと最後まであきらめないで立ち向かう。みんながいればたぶん何とかできる。……なんだ。わたし、嫉妬したんだ。ほんと、馬鹿ね……。
「ふむ、あだびとか。久しいな」
このまま意識を失って、それから目を覚ますことはもうないだろう。そう思っていた矢先、何者かの声が響いた。
「……誰?」
「我か?そうだな。そなた等の言葉を借りるなら、魔王と名乗れば通じるだろう」
「……びっくりするだけの力ももう出ないみたい、ふふ」
「ふむ、疲弊しておるのか。なら」
魔王を名乗る男があたしに手のひらを向けると、たちまちのうちに全身の傷と疲労が回復し、寝不足と貧血、絶望とその他もろもろでグチャグチャとしていた意識がはっきりクリアになり、とても爽快な気分になった。治療したというの?何のために?
「あはは、いいね。なにが目的化は知らないけど、今ならわたし一人で世界を狙っちゃえるよ?いいの、治療なんかしちゃって?」
「死にかけようが蘇りかけようが生きながらえようが死に続けようが我にとっては些細な事。そんなことよりニンゲン、世界とはなんだ?」
「呑気な人ね、いえ魔王だったわね。アンタを倒せば世界は救われる。あたしたち人間が昔からずっと語り継いできてるおまじないのような素敵な言葉よ。ご存じない?」
「ふむ、知らぬな」
「なーんだ、だったらいいや。どうせアンタも魔王じゃないとか、よしんば倒しても後から影の黒幕が現れて事態が余計にひどくなるなんて相場が決まってるんだから」
「ずいぶん勝手な言われようだが人の世界とやらはずいぶん排他的で利己的で人の都合のよい回り方をしておるのだな。これだけ愉快な珍道中はそうそうまみえることも無かろう。けったいなことだ、それほど自分が可愛いと思うのならいっそのこと他に手を借りて面白おかしく井の中を延々這い回るがよい。そなたらは鏡だけを見つめて居ればよいのだ。他者こそ不穏の温床なのだろう?怯えることはない。なんなら手を貸すか?堂々巡りは我の得意とするところだ。ああ愉快痛快めんどくさい」
「結構よ。あたしは強くなる、心でね。そんな世界はもう飽き飽きしたわ、あたしは自分で居の外を目指して歩んでいく。そう決めたの、ついさっきね」
「なるほどそうか、ならばこうしよう。己が屍を越えて往け」
私は、この戦いでしぬ。だけど、くじけちゃだめだ。前を向いて戦わないとダメだ。たとえ勝てないと分かっていても。
だけど、嗚呼。最後にアンタと一緒に、並んで立ち向かいたかったな。
「助けに来たぞ、ニーナ」
もう叶うはずのない想い。そう思っていたのに……
「ほ。ほんとうに、来たの?」
「何を言う。俺は此処にいるではないか」
突然、闇を引き裂いて、あたしの愛する彼が目の前に現れて、震える声で、あたしは確かめる。
「ゆ、勇者ざまぁ"」
「わ、馬鹿!鼻水を拭け!」
涙で歪んだ視界の先の彼を抱きしめて、唯々その存在と全身で確かめられるだけであたしは幸せだった。答えはいつも単純なことだった。
「フム、何やら勘違いしておるようだが……まあ仕切り直そう。
さて、其方が人類の希望とやらか。分かりやすく人の形をした指標など実に生易しい救済もあったものだな。あくびが出そうな程簡単な話だ。だったらお主らに我の角を渡しておこう。我は死んだ、つまりはそういうことだ」
「は、突然何を言い出すんだ?お前を倒さなきゃ世界は救われないだろ、そんなの認められるものか」
「言っておくが我は知らん。言いがかり、濡れ衣、でっち上げ、スケープゴート。ともかく、そなたらのイザコザはおぬしらだけのもの。自らの尻尾を追い続ける猫の遊びでマタタビに手が届かぬとケチを付けられたらたまったものじゃない。面倒だ、ああ面倒だとも、放っておいてくれ。我関せず、おねむの時間だ、ではサヨナラ」
「あっ、おい待て!」
いつの間にか、あたしたちはラストダンジョンの入り口に放り出されていて、魔王は姿を消していた。
あたしは、言わなくちゃいけない。
「ゴメンね。あたし、間違ってた。アンタはあたしのモノじゃない。あたしが世界で一番大好きな人だったんだって、分かったの。だから、見ててほしいの。あたしがアンタの一番になれるように頑張るから、少しでもいいから、振り向いてほしいの」
「そうか、なら心配いらないぞ。すでにお前は俺にとって唯一のオンリーワンであり、つまり大好きな俺の彼女だからだ。結婚しよう」
……え?今なんて言ったの??
結婚?
「あーら、やあねぇもう。聞きました?エリンさん」
「まったく、妬けちゃうわよね、私たちも負けてられないよ」
気づいたら、エリンとサラも来てた。
み、み"ん"な"ぁ"ぁ"あ"~
「ちょっと、泣きすぎでしょ?!」
「まあいいじゃん、ようやく二人が結ばれたみたいなんだしさ」
「ああ、これでみんなと心置きなく愛を育むことができるぜ!」
「……は?!」
「なぁ、頼むよ。お前が一番好きだけど、たまにはな、いいだろう?」
ちょっと、ちょっと待って!
こいつが何を言っているのか、分からないんですけど!
「もーちょっと、今このタイミングでそれ言う?」
「せめてもうちょっと間をおいてからでしょう、誠意なさすぎ」
「……って、結局他の2人との関係を認めろって、そんなのあり得ないんだからぁぁぁあ!!!!」
てなわけでパーティは崩壊。怒髪天を突いたニーナちゃんは勇者を押しのけて世界を救った英雄としてあがめられるのでした!
「ほら、さっさと歩きなさいこの馬車犬!」
「も、もう無理……これ以上は進めないよぉ~」
今日も勇者はお姫様の馬車をひく。待ち人から恋多き年ごろの勇者に同情する声と、結局全員を仲良く娶った勇者のだらしない姿をみて嫉妬する人々はざまぁと言うのでしたとさ。
どぅーなっとふぃにっしゅ
実はお約束的に勇者さまは他の2人に相談してあれやこれやとプロポーズ準備を進めていたのだが魔の悪いタイミングでニーナちゃそに目撃されて勘違いされちゃうってね。書こうとしてたけど普通に忘れちゃうってね。CCOざまぁwww←これっぽいのがやりたかっただけなんでね。それだけ。