第78部
第19章 再び、時空を越える
「よし、みんな、何かしら家族に対して言ってきたよね」
前乗り込んでから、1週間。その間に皆は、家族に最後となるかもしれない言葉をかけてきた。
「うん。大丈夫だよ」
船は、アダムが用意した中で、長期間の航海に向いている物を選んだ。
「よし。では、出発します。最初の目的地は、他宇宙とつながる入り口に一番近い、オスレテ宇宙ステーションだ。それまでの間は、自動航宙システムと、完全無重力状態になるから」
「了解」
「では、シートベルトの確認をしてください。30秒後に出発をします」
きっかり25秒後、
「あと、5秒、4、3、2、1、0!」
クシャトルの、59歳とは思えないほどの軽快な声によって、船は、無事に宇宙ステーションから離脱した。
モノリス4のそばを通り過ぎるとき、不思議なことが起こった。自分の意識が体からゆっくりと離れていくのが感覚でわかったのだ。下を見ようとすると、自分の体が見えた。左右ではほかの人たちが浮かんでいた。その瞬間、スタディンの意識体が光りだし、そして記憶が飛んだ。
「………ここは、どこだ」
「ここは、ベルの船内ですよ」
「なぜ、自分はここにいる。それに、ベルも」
「私も分かりません。それに、当時の乗組員も全て揃っています」
「あれ?船長、また寝ていたんですか?それに…そのほかの人達も」
「なんで、シアトスがここにいるんだ?」
「さあ、私にも分かりません。どこか、魂だけの存在となっていた私を、誰かが時の流れより引き上げてくれたんでしょうね。そして、その人達はきっと、永遠に分からないんでしょうね」
「そうかもしれないが、見当だけならつくぞ」
スタディンは、指揮室にいる皆に対して言った。
「それは誰です?船長」
「それは、モノリス4だ。昔あった当時の姿、船、人で、この船は構成されている。しかし、その者達の意識は全て一致している上に、全てが実質化している。それほどの事が出来るのは、はるか過去にこの宇宙に来て、モノリスを置き、そのまま去って行った本人達だけしか出来ない。そして、それを証明するかのように、ベル、今の年代とあそこに見えている惑星、及びこの銀河系の番号は?」
「現在、西暦2298年4月18日。太陽系第3惑星。銀河番号は1番です」
「やはりか。そして、自分達の体も若返っているのもみて確信するよ。自分達は、何らかの理由を持ちこの過去の第3惑星に飛ばされた」
「しかし、船長」
発言したのは、コミワギだった。
「いま、相手側は混乱の坩堝と化しています。そこに着陸を?」
「そうだ。これは決められた運命なんだ。我々はその運命に打ち勝っていくしかない。しかし、今の所は従順に従うべきだろう。この時代、第2惑星と第4惑星との通信手段が完全に無かった時代だ。我々はアメリカ大陸/北アメリカ地域/北地方にある、空軍基地に着陸をする。理由は、まあ、適当に決めといてくれ」
「そんな、無茶な。それに、どこの空軍基地に…」
そのとき、通信が入った。
「お前達は何者だ」
「お前こそ何者だ」
シアトスが反論した。
「私は、アメリカ大陸/北アメリカ地域/北地方の、宇宙軍第2師団だ。お前達は何者だ」
「我々は、この惑星よりはるかに離れた場所よりきた。この惑星に着陸をしたい。何かあれば、我々が責任を取る」
「分かった。少し待っとけ」
音声が切れた。
「何ですか?あの人。とても感じ悪いですね」
「まあ、この時代、いろいろとあったらしいからな」
「みんな、とりあえず、着陸する前に、コーヒーとかいかが?」
クシャトルがプレートにコーヒーをいれたコップを置いて持ってきた。
「ああ、ありがとう。クシャトル」
そして、数分後、再び音声回線が開かれた。
「もしもし、聞こえてるか?」
「ああ、聞こえているぞ」
「とてものんびりしている所すまんが、着陸許可が出た。と言う事で、自分達の師団の所に降りて欲しい。場所は、そちらのAIの方に送る」
「ああ、よろしく頼む」
「交信終了」
「終了。これで大丈夫だな、とりあえずは。運命と言うのは、不思議なものだな。そもそも、何故この時代に飛ばして来たんだろう。それがよく分からない」
「船長、今はそれを考えるより、これからこの惑星でどうやって生きていくかを気にするべきだと思いますよ」
「ああ、その点なら大丈夫だ。実際の時にここに来た時、ステーニュさんが言った事なんだが、ここに彼女の過去の姿の人がいるという話なんだ。まあ、それで心配はしていないんだがな」
「そうですか。まあ、運命をどうこう言うより、とにかく今を一生懸命生きるのが重要だと思いますがね」
「それも重要だな」
船は、順調に高度を下げ、そして、着陸した。
「ようこそいらっしゃいました。この太陽系第3惑星へ。私は、ここの師団長をしているカシューンです。皆さんと会えるのは…」
「それよりも、この惑星ではどのような暦を使っているんだ?」
「ええ。この惑星には、西暦と新暦の2つの暦があり、西暦と言うのは、この惑星で最大の宗教であるキリスト教の創始者であるイエス・キリストの生まれた年を始点としています。そして、新暦と言うのは、連邦政府が作られた年を始点としています。ちなみに本年は、西暦2298年4月18日で新暦283年4月18日です。そして、この惑星は、今の所、唯一の生命が宿っている惑星として繁栄を極めています」
「そのようだな」
「すみません」
ステーニュが師団長に、伝えた。
「手紙を出したいんですか、いいでしょうか」
「ええ。もちろんいいですよ。私の部屋にある紙を使うといいですよ。早速案内させますんで」
「ありがとうございます」
副師団長がステーニュを案内をした。
「ところで、これからどうするのですか?何もなければ、私達を手伝って欲しいのですが…」
「どうしたんだ?」
「実は、今現在、この連邦国は二つの国に分かれていまして…」
「どういう事だ?仲間割れか?」
「まあ、そう言う事になりますね。実は、ヨーロッパ大陸/西ヨーロッパ地域が、私達の連邦側から分離、独立しまして、独自の憲法を持ち、完全に独立しているのです。そして…」
「そして、宣戦布告をされて、そのまま戦争状態に突入したと言う事か」
「お恥ずかしながら」
「まあ、戦争は生命につき物だからな。どの文明も、戦を経験せん事には新の文明国とは言えないのでは無いだろか」
「まあ、それにはいろいろと反論できますが…いずれしましょう」
「それよりも、自分達はどうすればいいんだ?それとも、君達側に立って戦うべきなのか、それとも中立の立場となって何もせずにただ見とくのか、それとも敵国側に立ってこれから君達を攻撃すればいいのか。軍事力面で言うと、自分達の方が上みたいだな」
「まあ、そうです。そして、もしも、あなた達が敵国側についたとしたら、自分達はあなた達を拘束する必要があります。中立の立場など現在ありえません」
「と、するならば、もう決まってしまっているではないか。分かった。自分達はこの連邦側に立って戦おう」
スタディンは一気に士気が上がるのが体で感じれた。空気が揺れるほどであった。
「ありがとうございます。本当に感謝をします」
「感謝するよりも先に、まず現在の状況を報告してくれ」
「ハイ分かりました。現在、連邦国側は極めて劣勢です。すでにこの大陸の半分を取られています。そして…」
ずっと、この調子で30分ぐらい説明をしていた。始めてから5分ぐらいでステーニュは帰ってきたが、それすら気づかないぐらいの話し方だった。
「……と、いうことでして、あなた達は3週間後までに、ここから出発し、アジア大陸の中央部まで飛んでください。そのときに付ける部隊は、最近出来たばかりの部隊なんで、気を付けてください。初めての事ばかりが続いているので…」
「誰でも最初はそうだ。だがこんな事、二度と起こってほしくないがな」
「同感です」
スタディンと、司令官が話していた。
第4航空師団から客人が来たのは、それから2週間後だった。スタディンたちが最初に見つけ、近くへと歩み寄り、
「こんにちは」
ステーニュが挨拶をした。
「こんにちは。あなたは、本当に未来の私なんですか?」
彼女はたずねた。
「そうよ。新暦408年から来てしまった、私達よ」
スタディンは無造作に手に持っていた壊れた機械を置いた。そして、偶然その機会に目がいった彼女は、
「あれ、壊れているんですか?」
と、たずねた。
「ああ、そうだ。もういらないから、持っていってもいいよ」
スタディンがいった。
「ありがとう。ねえ、白墨持ってない?」
彼女が聞いてきた。スタディンが、
「え?白墨?何をするの?」
と、聞き返した。
「錬金術が使えるかどうか、確かめようと思って」
彼女が言った。スタディンは、内心苦笑しながらも、
「今の時代は使えないはずだけどね」
と、いいながらも、チョークを渡した。
「ありがと」
「へー。ちゃんと出来てるじゃん」
横から見ていた、アダムが言った。
「真似だけど、結構出来るね。あとは、そこの壊れた機械をこの上に置いて」
壊れた機械を、さっき描いた練成陣の上に置き、
「えいっ!」
と、掛け声を出した。手は指同士を組み、その形のままで練成陣の上に持っていった。そして、バシッと光が走り、白い煙が立ちこめた。
「うそ、機械が直ってる…」
スタディンが、絶句した。
「え?この時代では、出来ないはずだけど…」
クシャトルがいった。
「でも現に今、出来ているじゃない。と言う事は、この子は…」
イブがいった。
「うん。間違いないよ。あの子だよ」
瑛久郎がいった。
「どういうこと?」
1人訳が分からない顔をしている彼女が言った。
「君、確か名前を、イフニ・ステーニュって言ったよね」
「間違いないね」
「え?どういうこと?なにが間違いないの?」
「君が来る前、この世界は、異常気象に見舞われていた。君が来てからはぴたりと止んだ。この戦争の原因は、異常気象により今の枢軸国側の食料が著しく減った。それを確保するために、戦争をし始めたんだ。そして、未来の教科書には、二人のステーニュがこの戦争を止める事になったと書かれている。と言う事は、君達がここにいると言う事はすでに決まっていた事だったんだ。そして、君達は、どう言う事かこの場にいる。教科書どおりだよ。と言う事は、君達は必ず出会う事になっていたんだ。運命だよ」
「運命って、いつから運命論者に?」
「いや、ずっとそうだったけど、気づかなかった?」
「…うん」
そして、スタディンがこちらを向き、
「彼女らは、私達の方で保護しておこう。万が一の事があったら困るからな」
「お願いします」
「…過去と未来がつながったか…」
「長官、何か言いましたか?」
「いいや、独り言だ」
「そうですか」
そして、彼女は歩いてどこかへ行った。
さらに数年の月日が流れた。
「もう行くかい?未来になら自分達も戻るのに」
「ううん、いいの。私だって、夢を追いかけているもの。この時間航行機は私がここに来たとき乗ってきたものと同じようなもの。そのときの事はあまり憶えていないけど、あの時も大丈夫だったから、今度も大丈夫」
「では、イフニ・ステーニュさん。行きますよ」
「はい。お願いします」
すっと、昔のステーニュが消えた。風がその隙間を埋めるように吹き込んだ。
「ちゃんと、行けたよな」
「そうよ。彼女はこれから、新たなる年代で、生活するの」
「そうだったな…。さて、これからどうしようか。ここで、数年間費やしてしまった」
「しかしながら、姿かたちが少しも変わっていない印象をお受けしますか」
「さて、どうだかな」
スタディンは、少しだけ笑った。
「ところで、師団長。神の遺伝子はどこで生まれたか、聞いた事がありませんか?」
「神の遺伝子…ああ、それならな、そんな事を研究している人がいるからその人を紹介しよう。ちょうど、ここに向かっているはずだ」
「え?誰ですか?」
数時間後、一つの飛行機がこの基地に降り立ち、そこから、その人が出てきた。
「久しぶりだね、この前あったのはいつだった?」
親しげに語りだし、師団長に近づいてくる。
「戦前だったからな、かれこれ10年になるかもな」
「それよりも、飛行機中に聞いたのは、この人たちか?」
「そうだ。スタディンたち、紹介しよう。この惑星上で、恐らく一番その遺伝子に詳しい、旧西大宗教学教授の鎌鼓安須先生だ」
「よろしく。君達が聞きたいのは、どんなことかな?」
「神の遺伝子についての概略が知りたいのです」
「そうか、まあ、どこかに座らせてもらえるかな?」
「ああ、こちらへどうぞ」
師団長は、応接室に案内し、皆を座らせた。
「さてさて、神の遺伝子か…。これは、また古い話題だな」
「おねがいします」
「まあ、いいだろう。さて、神の遺伝子と言うのは…」
第20章 神の遺伝子
神の遺伝子と言うのは、はるかかなたの昔のこと。この世にまだ、何もなかった時代から始まる
「どうする?この世界はあまりにも空虚であり、あまりにも寂しい」
赤い神がいった。名をカオインと言う。
「ならば、我らで世界を作るか?」
青い神が言う。名をガイエンと言う。
「しかし、我らにはその力がない」
黄色い神がいう。名をエクセウンと言う。
「ならば、その神を我々が力を出し合い、作り出せばいいではないか」
白い神がいう。名をアントインと言う。
「それはいい提案だ。ならば作り上げよう。我々にはその力ならある」
黒い神がいった。名をサインと言う。
「では、これより作ろう」
声のみの神が言った。名をカオスと言う。そして、作り上げられた神の名は、イフニと言う。
イフニ神は、この世の全てを司る力を得た。そして、それぞれ神の力の一部を球体状の力の結晶体として世界中にばら撒いた。そして、それらは到着した地点までの寄り道に、いろいろと落として行く。それらは、みな、惑星となり、太陽となり、全ての基礎となったが、その後、惑星が出来、生命が産まれ、育まれる場所を通り過ぎた結晶は、そこに、生命の元となる遺伝子と我々が呼んでいる物を落とした。そして、イフニ神自身もそれらとともにばら撒いたと言う。しかも、結晶はそれぞれの神の色を反映しており、7つあると言われている。そして、それらの神が落とした遺伝子こそ、我々が今もっている神の遺伝子なのだ。そして、それらの結晶を全て見つけた者は、真実の神に会えると言われている。ただ、イフニ神も気づかなかったのは、他宇宙も出来ており、それらにも結晶は飛んで行ってしまったという事だ。そして、そのような宇宙はこの宇宙と合わせて7つあり、それぞれの神がそれぞれを治めていると言う。ちなみのここは、イフニ神らしい。そして、それらの神々は今も我々を助け続けている。
第21章 望みは別の場所
「そうですか…そして、この宇宙上にあると言われる、イフニ神の球はどこか分かりませんか?」
「分からない」
スタディンたちは、がっくりと肩を落とした。
「だが、ヒントならある」
幾分息を吹き返したようだった。
「そもそも、神の球だ。非常に強い魔力を持っている事は間違いない。つまり、この宇宙上で最も強い魔力の場所を探せばよい」
スタディンたちの顔が明るくなった。そう言う事は、とても慣れていた。
「ご助言ありがとうございました。それと、もう一つお尋ねしますが、その球というのは、目的地に着いたのでしょうか」
「それは、分からん。だが、着いているとするなら、さっきも言った通りの現象が起きているだろう」
「分かりました。早速探します」
そして、スタディンたちは、スッと、立ち上がった。とたんに、意識がぼやけ、現代に戻ってきた。
その間にも船は、3週間かけてオスレテに到着した。ここで、さらに1週間待たされる事になった。書類手続きも、滞っていたからだった。だが、その間中スタディンたちは眠っていたようだった。その最中の書類手続きなどは、船のAIが代わりにしていたようだ。
「あれ?ここは…」
「ん?どうしたの兄さん」
スタディン以外の人の記憶からは、先ほどのことが全て消されているようだった。
「い、いや、なんでもない…」
(さっきのは、なんだったんだ?幻か?いや、しかし…)
スタディンは混乱を極めていた。しかし、船は確実に次の宇宙へと向かっていた。