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第76部

1日後、

「戦いを挑んできました。とうとう」

「そうか、何時からだ?」

「今日の、あの陽がちょうど南に来た時と」

「そうか」

「あなた方も出陣なされるのですか?」

「必要とあらば」

「分かりました。では、戦場へと案内しましょう」

案内された場所には、敵も陣地を築いていた。

「速いですね」

「私達も、すでに敷いているんですよ」

「……速いですね」

「とりあえずは、ここでお待ちください」

封魂が出て行った後、アテネがスタディンの肩を叩いた。

「どうした?アテネ」

「あのね、ポジトロニウムの感じがする。それも、向こう側から」

「向こう側…共草族か。しかし、なぜだ?」

「良く分からないけど、そう感じる」

「という事は、これで勝たないと、遠い惑星の方に行く事になるんだな」

「そう」

「神よ。陽が南に来ました。戦いが始まりました。我々をお助けください。よろしくお願いします」

「分かった」

陣から出て行き、戦いの、敵味方区別つかないほどの争いの中に投げ込まれた。


数時間戦い、ほとんどの者が陣地に帰ったあと、戦場となった場所を皆が固唾を呑んで見守っていた。なぜなら、双方の神と呼ばれた者達がにらみ合っているからである。

「君達は何者だ?」

「私達は、共石族についている神だ。貴様こそ何者だ」

「私は、共草族についている神だ。さて私は、忙しいのだ。この戦いは、我々の戦いでもあるようだ。私の名前は、ターン・カイルだ。私は、昔は、別の生き方をしていた」

「ああ、その名前はずっと憶えている。西暦2150年、太陽系第3惑星にいたか?」

「そ、そうだが、何故知っている」

「君の友達だった、タブリス・イロウルから、色々と聞いているよ。君は、神でもなんでもない。ただの科学者だったはずだ。しかし、なぜ…」

「神よ、何故戦わないのですか!さあ、速く!」

「なんだか雰囲気に圧倒されそうだな」

「そういう事みたいだ。恨むなよ」

ターンは、呪文を詠唱し、ドラゴンを呼び出した。

「見よ!我らの民よ!これが我が力だ!」

地より、空より、深い響きが聞こえてきた。ドラゴンが、何かを作り出していた。

「こいつはな、「ヨルムンガンド」と呼ばれているドラゴンでな、今は見ての通り、私の力の根源となっている」

ヨルムンガンドは、地中より、ゴーレムを作り、空より、巨人を作った。

「すっごく強そうだよ。どうする?スタディン」

「そうだな。自分達にも魔力がある。それを使おう」

スタディンが詠唱し始めると、敵味方問わず、パタパタと寝始めた。

「どうしたんだ?いったい…」

ターンが声が出ずにいた。その時、スタディンの手に、光り輝く剣が握られていた。

「それは…いったい…」

ターンとスタディンが、距離を置いて見合っている。

「これは…」

後ろから、剣に添える手が出てきた。

「これは、光輝剣。私達が使える武器の一つ」

「クシャトル、なんでここに?」

「連絡を受けて、すこしして、手伝う必要があると思って、次の日に降り立ったの。そしたら、お兄ちゃんが、どこかへ行く最中だったから、そのままついてきたの」

「何ぐだぐだ言っているんだ?そっちから来ないなら、こっちから行く!」

ゴーレムと、巨人が、こっちに向かって、歩いてきた。

「どうするの?」

「落ち着くんだ。とりあえず、頭を良く見て…何か見えるか?」

「うん。なんか書いてあるね」

「その最初の2文字を消すように出来るか?力の調整を」

「どうして、最初の2文字なの?そのまま打ち砕けばいいじゃない」

「それじゃ駄目なんだ。また生き返ってくる。出来るか?」

「…向きの調整は任せたよ」

「了解!」

スタディンとクシャトルは、剣をうまく使い、片っ端から、頭に書かれた文字の最初の2文字を消していった。そして、全てが倒れた頃。

「さすがだな。そちらの神もなかなかの者じゃないか。だがしかし、そんなにフラフラでどうする?こちらは、まだ元気だというのに」

「しょうがないな、兄さん達は」

後ろで待っていた、クリオン、ネルソン、アテネが出てきた。手にはそれぞれ何かを持っていた。

「おい、大丈夫なのか?それよりも、その手にあるやつは何だ?」

「これ?これはね、簡単に言うと、自分達が持っている武器だね。まあ、見たら分かるよ」

「なんか、無性に腹立つ〜」

「おちつけ、クシャトル…死ぬなよ」

「分かってる」

こうして、三つ子は、それぞれの心が作り出した武器を手にして、神のドラゴンへ戦いを挑んだ。


「まず、私が行くね」

そういったのは、アテネだった。

「私の武器はね、この、銃よ」

両手には、黒光りする、銃が握られていた。

「これは、私の精神が作り出したもの。でも、攻撃力は、強いわよ」

バンッバンッと、音が聞こえ、空気を切り裂くような音が続けて聞こえた。

「どうなったんだ?いったいぜんたい」

「あ、お兄ちゃん見て!」

クシャトルが声を上げたので、スタディンが見て見ると、なんとヨルムンガンドの足の所から、薄い青い液体が流れていた。

「血が…青い…」

クシャトルが、驚嘆の眼差しで見ていた。

「そうだ。ドラゴンの血は、青色なんだ」

スタディンがそれを見ながら言った。後ろでは、船の仲間がいた。しかし、誰一人として声を出さなかった。

「正式には、テトラアクア銅(?)イオン水溶液と言うんだ。正方形の形をしていて、それが基本だけど、中の銅イオンに酸素イオンが結合して、自分達の赤血球の働きをするんだ」

スタディンが良く分からない事を言っている横で、光輝剣を一緒に持っているクシャトルが驚嘆の目をしていた。

「どこで習ったの?そんな事」

「コンティンスタンスさんが持っていた本の中に描いてあったよ。色つきでね。それで憶えてしまったんだと思うよ」

「なるほど」

クシャトルが引き気味になって言った。

「で、あっちの戦いは?」

「ああ、結構いいところまでいってるみたいだな。でも、すごい再生力だ。傷ついた所がすぐに戻っている」

「確かに、あの再生力は、半端じゃない。あの子達に勝ち目はあるんだろうか…」


3分後、

「ハァハァ、次!」

「自分が行くね」

出てきたのはネルソンだった。

「自分の武器は、これだ!」

両手を強く前に押し出す。すると、風が起こり、壁となって敵を襲った。

「ちっ」

ドラゴン側は、地にもぐり、やり過そうとしていた。しかし、尻尾の一部が上に出ていたので、その部分がちぎりとんだ。

「やはり飛んで行ったか」

「え?お兄ちゃん、分かっていたの?」

「ああ。まあ、なんとなくそんな感じがしていたんだ」

「ふ〜ん」

飛んでいった部分は、風に乗って相手方の陣地に落ちた。

「さて、これからだよ!」

そう言って一歩足を踏み出した途端に、足元から土が消えドラゴンの首が出てきた。間一髪で、ネルソンは逃げ出した。

「ふわ!危ないところだった…」

「だめだね〜。そんなんじゃ」

そういったのは、最後の番となった、クリオンだった。しかし、スタディンは、

「クシャトル。自分達も行くぞ。なんかこの戦いは、危険がつき物らしい」

「戦争なんて全部そんなものだと思うな」

クシャトルのつっこみを流して、

「クリオンが、疲れているようだったら、交代だ。自分達でけりをつける」

そう言い切った。


「ほほう。最後の奴が出てきたか。さて、君はどんな武器を使うのかな?」

「自分の武器は、これだよ」

決め台詞がほとんど同じようなのは、三つ子だからである。クリオンが取り出したのは、何も変哲のないただの箱だった。

「なんだ。そんな箱で戦うのか?まるで、厚紙で作ったような箱じゃないか」

「よくわかったな。これは、特殊な厚紙で作ってある。この中には…」

その後の言葉は、光と音によってかき消された。箱の中からは、何らかの形を持った何かが出てきた。ある者はそれを神と考え、また別の者はそれを悪魔だと考えた。

「この光は…」

ドラゴンは光に恐れていた。光の中から出てきた物体は、ドラゴンに対してのみ聞こえる声で話していた。

「ああ、これなら…」

スタディンが思った時、暗闇が光を襲った。

「闇が光を喰っている…」

その形容は、とても当たっているように思われた。

「どうやら、この三つ子ではまだ勝てないようだな」

「兄さん、それって嫌み?」

「いいや。まだまだこれからが成長する歳なんだから。修行を怠らず、日々の鍛錬が新たなる成長を生むんだ。さてと、クリオン。その箱を閉じて、自分達に力を分けてくれないか?一気に片を付ける」

「分かった」

一瞬で箱を閉じて、光を失わせた。しかし、闇がこちらに来る事はなく、力をためているような感じで戻っていった。

「さて、これから行うのは、魔法とこの光輝剣を組み合わせた技だ。では、力を入れてくれ」

スッと、剣が重くなっていった。

「我らが神よ、我に力を与え給え。我らが敵を倒す力をこの剣に与え給え。この剣に籠められし力を、今解き放ち、我らが敵を撃ち倒し給え」

呪文の詠唱が進むにつれ、光が激しくなりだした。そして、

「出でよ!光輝剣の精よ!」

出てきたのは、1人の人のような形状をした、しかし人ではない何かだった。

「私に何か用か!」

この周りの人全てに聞こえるような声で、周囲に轟かせた。

「あのドラゴンを打ち倒し給え。我らが精よ!」

「あのドラゴン、ヨルムンガンドか!」

「そうだ!」

スタディンは、剣の精霊に対して、いった。

「さあ、我が力を糧とし、我が魂を喰らえ。そして、あの、我が前に立ちはだかる果て無き壁を、突き進むのだ!」

地鳴りのような音を立てて、精霊は、相手に向かって、何かを投げつけた。ドラゴンは、それに対抗するかのように、ほぼ同時に突き進み、ちょうど、真ん中で、ぶつかり合った。その瞬間、周りの空間は歪み、すぐに元に戻った。ちょうど真ん中では、なにやら、白っぽい球体が一つ、出来ていた。

「これは?」

「魔力同士が拮抗しあい、最終的には、両方とも同時に尽きた。そして、これが元に戻るには、少し時間が必要となる」

「という事は、この中は…」

「ターンのドラゴン君も自分の光輝剣の精霊君も、両方とも混在しているんだ。外すためには、両人ともが魔力を回復するのを待つしかない」

「それはしなくてもいいと思いますよ」

スタディンたちと一緒に降りてきた、イブが、言った。

「どういう事だ?イブ」

「だって、私は二人に分けるだけの魔力を温存しているもの。そして、それを利用すればこの中の精霊とドラゴンを分ける事が出来る。そうでしょう?」

「そういう事だが…出来るのか?」

「彼がこっちに来てくれるのなら」

ターンは、すぐにこっちに来た。

「自分の、魔力の結晶であるヨルムンガンドさえ、戻ってくれるのなら…しかし、これでこの戦いが終わったとは思うなよ。また、いずれ遠からず時の中で戦う事になるだろうよ」

「そのときは、絶対に勝ってやるからな」

「それはこっちのセリフだ」

「二人とも来たわね。まず、私の両手を握って…いや、両手って言ったけど、じゃあ、スタディンがこっちの手、ターンがその反対の手を握って…そうそう。それで、二人は必ず引っ付かないで…うん。そうよね。反対側が一番よね…じゃあ、心の準備はいい?」

「ああ」

「いつでも」

「じゃあ、始めるわね」

複雑な詠唱が20秒近く続いた。そして、そのまま三人の体が少しだけ浮いた。イブからちょうど白色と黒色を、同じ割合で混合した色の光が出てきて、それぞれの体の中に入っていった。

「……これで、おしまい。もう手を離してもいいわよ」

二人が手を離すと同時に、足もちゃんと地についた。

「あ、ほら、分解反応が始まったわよ」

ドラゴンと精霊がそれぞれの形を作り出していた。ゆっくりと、しかし確実に形成されていった。

「これが、分解…」

再び白かったり黒かったりしている光がこの周囲を覆い、完全に分離した。

「これを持って、休戦とする。これより、休戦協定の調印をしたいと思う」

どうやら、共草族側は先ほどの神同士の戦いを見て、戦う気力を失ったらしい。しかし、それはこちらも同じだったので、休戦調停はすぐに終わった。

「では、私達は急ぐ身ですので」

「しかしながら神々よ。ここで一泊して行ってはいかがでしょうか」

「お言葉だけはありがたくもらいましょう。しかし、我々は他の神が係争中で…」

「ならば、仕方がないでしょう。では、またお会いできる時を楽しみにしております」

こうして、スタディン達はこの村から出て行き、元々の目的であるポジトロニウムを探しに行った。


右手に鋭い山となだらかな山があり、反対側にはずっと森が続いているようだった。

「こっちなんだな?」

「うん。間違いないよ」

「大丈夫だな?アテネだけが頼りなんだから」

「ハハハ。そんな事いわれると、とても緊張しちゃうよ」

突然。アテネが立ち止まった。

「どうした?何か見つけたか?」

「うん。ここで、道はこの山の方に登っていくよ」

「山って、ここから見えているあの山か?」

「うん。なだらかな斜面の山」

「ああよかった。もう片方の剣ヶ峰みたいな山かと思った」

「そっちじゃないよ」

そう言って後を見ずにスタスタと歩き続けるアテネを追いかけ、その場所に到着するときにはアテネ以外全員がヘトヘトになっていた。

「ここが、そのポジトロニウムと言われる物質がある場所だよ。ほら、あそこの穴から、出て来ている」

指差した場所には、火口のような形の穴が開いていた。

「あの中にあるのか?」

「うん。間違いないよ」

「よし。じゃあ、へばっている時じゃないな。ほら、みんな起きて起きて。これからポジトロニウムと思われる物質の回収作業に入る。アテネは、その場所まで誘導してくれ。クリオンとネルソンは、こっちに機械を持ってきてくれ。イブとクシャトルは、こっちに来て機械操作を手伝ってくれ」

「了解」

みんなスムーズに動いたので、2時間で作業が終わった。

「よし。これだけ集まればいいだろう」

2リットルのペットボトルみたいな形をした、耐超高圧超高温専用容器「特殊回収容器A-ER」に、30本強入っていた。

「まあ、一本分くらい使ったとしても、分からないよな」

スタディンが、1本取り出し、少し実験をし始めた。

「何をしているの?」

クシャトル達が見に来た。

「少し、ね」

この容器の口の部分に圧力を入れる機械を入れ、一気に圧力をあげはじめた。3分もしないうちに、3千億atmに達した。

「あ、何か出来はじめた」

中を見ていたクリオンが言った。

「なんか、青っぽい白色だね」

「それが予想通りだよ。これは、どうやら本当のポジトロニウムみたいだな」

容器の圧力を下げ、元の気圧に戻した。

「よし。じゃあ、戻ろう」


こうして、どうにか、戻ったスタディンたちは、科学技術の貢献をしたと言う事で、表彰された。

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