第74部
第15章 私は…
「その後の事は皆の知っての通りよ」
こういって、彼女は話を結んだ。すでに空は白くなっており、太陽が出てこようと待ち構えていた。
「いや、自分達があなたとあっていたと言う事をすっかり忘れていた…」
スタディンが言う。
「うん。でも、思い出せてよかったね」
クシャトルがスタディンに言う。
「でも、どうして話そうと思ったの?」
ルイが聞いた。
「私にも分からないわ。でも、今話しておかないと、後々ややこしい事になるかと思って」
向こう側から、船がこちらに向かってきていた。
「大変な人生を歩んできたんだね。君は」
「そう。でも、楽しかったわ。いろんな人達と出会えて、いろいろなところへいけて、失われた文明、失われた神々、失われた人達。本当にいろいろあった」
船が接岸して、中から大統領代行が出てきた。
「さて、イフニ・ステーニュ。君の心は固まったかな?」
「ハイ。私は…私は、ここから去らさてもらいます。なにせ、これまでにない仲間と出会えたんですから」
「しかし、これまでの実験の数々、君からの生体データを取らないと分からないんだぞ」
「なぜ、私の実験の事を知っているのですか?」
「そ、それはだな…」
シュアンが、ステーニュの腰の所を指差しながら言った。
「ねえ、そこに何かついてるよ」
「あ、それは…!」
「これは、盗聴器ですね。さあ、この事をどう説明するんですか?」
クシャトルが追求したのをさえぎるようにステーニュが話す。
「それに、私はそんな実験やデータよりも、お金や職業よりも大事な物を見つけました」
「それは何だ?」
疲労困憊していて、どうでもいいよと言う顔をしている大統領代行が言った。
「それは…」
バックに太陽が当たり、神々しい光を放っている。
「それは、友人です。友達です。家族です。仲間です。どんなことをしても、信じあえる人達です。私は、こんなデータは無意味だと思います。なにせ、友情に勝る力はないのですから」
そう言うと、クシャトルから盗聴器を受け取り、海へ放り投げた。
「そうか、君がそんなに強い意志ならば仕方がない」
バッと、代行の手がステーニュの首にかかろうとした。その瞬間に白い光がこの場を包み、ステーニュはその光源となっていた。
「おやめなさい!見苦しいですよ!」
「その声は…」
みんな、ステーニュを凝視した。しかし、白い光に邪魔をされて、何も見えなかった。
「私は、古の神なり!いずれ、全ての決着がつくだろう!しかしながら、お前がした事の数々、いずれは、償わなければいけない事ばかり。今しばらくは、待とう。しかし、時が来ても償われていないと判断せし時は、お前に不幸が訪れるだろう!」
朗々と響き渡る声で、海の上をすべるように声が響いた。いい終わると白い光は弱まっていき、そのまま、彼女は横たわった。太陽が静かに微笑を投げかけていた。
船に乗せ戻る途中で彼女は、意識が戻った。
「…あれ、ここは?…」
「ああ、何にもいわないほうがいい。それよりも、どうしてこの船にいたんだ?君は別の船の船長なのに」
「ああ、それでしたら途中で忘れ物に気づいて、部下の方に任せていたの。スタディン船長の許可を得て、船の中へ入れたのはいいんだけど、その直後に船自身が過去へと戻されて。その時に部屋を一つ貸されてね」
「そうだったのか。で、忘れ物はあったか?」
「ええ。ちゃんと」
そう言って、ステーニュは、胸のペンダントを強く握った。
「そんなに大事な物なの?」
「ええ。とても大事な物。でも、これをくれた人は、もうこの世界にいない」
みんな静かになりながら、元の場所へと戻った。
さらに数週間後、スタディンたちは旅立つ事になった。
「また、ここに来たらいいぞ。スタディン大将」
「はい。大統領代行」
「ついでに聞くが、私はこれからどうなるのだ?」
「あなたが思うがままに、そうすれば、道は開けます」
「そうか。では」
大統領代行と一行は敬礼をし、船へと上がって行った。そして、出発した。
「とりあえず、このままクーデターも終わり、再び大統領選があるんだな」
「そう。あと、10年後だけどね」
彼らは船に乗り込み、いろいろな話をしつつ元の時代へと戻った。
第16章 再びの休暇
「お疲れ様でした。みんな」
「やっとおしまいか〜。長い航海になってしまったな〜」
「まあ、そう言うなって、とりあえずこの乗組員全員が欠けずにいられる事を祈って、かんぱ〜い!」
「かんぱーい!」
スタディンたちはどうにかして、元の時代へ戻ってきた。今は長官主催の歓迎パーティーに呼ばれているところだ。
「しかし、1日遅れで到着したと思ったら、実はまた別時空へと動いていたと言う事は、恐らく君達に何か力が宿っているんじゃないか?」
「そうかもしれませんね、長官」
このパーティーは無礼講だったが、長官に対してはみんな敬語を使っていた。恐らく無意識である。
「困難な航海だったと思うが、これからはまた休暇が1ヶ月間入る。有給だから有効活用しろよ」
「そうですね」
「ところで、何をするんだ?」
「一応、結婚式なんかをやろうと思っていまして」
「ほう。相手は誰だい?」
「エア・イブです。私の妹のクシャトルも、イブの兄であるアダムと婚約する予定です。あとは、丹国兄妹の末っ子が宮野兄妹の姉が相思相愛とか、宮野兄妹の弟が丹国兄妹の真ん中の子に今の所片恋を抱いているとかは、あまり公然とは言えませんね」
「そうか。しかしこのたびの活躍で、一気に8人も幕僚長が増えてしまった。これを気に階級の移動が激しくなるだろう」
「まあ、そういう事もいずれは訪れますよ。それが時代の流れだとするならば、それを受け入れる心がないといけませんよ」
「そうかもな」
くちびるの端がわずかに上がった。そうこうしているうちに、パーティーはお開きとなった。みんなそれぞれの家へと帰って行った。
「さて、急だが、1週間後、4組の合同結婚式をする。組は、現姓名で、エア・イブとイフニ・スタディン。イフニ・クシャトルとエア・アダム。丹国ルイと宮野愛華。丹国クォウスと宮野瑛久郎。この4組だ。関係者の方には私からもう手紙を送ってある。全員出席する事になっている」
達夫さんがパーティーから1日経った朝ごはんの場で、言った。
「1週間後?」
「ああ、そうだ。場所はこの近くの清見町立会館。一フロア貸しきりでする。一番でかい部屋だからな。時間は正午からだ。みんな、覚えといてな。ちゃんとこの場で言ったぞ」
「一週間後か、それよりも、ルイと愛華、クォウスと瑛久郎はどうやって、結婚っていう運びになったの?」
「本人達は秘密にしたがっているからな。聞いても教えてくれなかった」
「で、その本人達は?私達は起きたけど…」
「まだ起きていないわね。もうそろそろ起きてくると思うわよ」
「そうか、あいつらにも話とかないといけないな」
町内放送がなる。
「8時です。8時です。第2シフトに入ります」
テーブルを囲っているのは、イフニ兄妹と、エア兄妹、それと宮野夫妻と、ステーニュさんだった。
「もう、20になるって言うのに、こんな時間まで寝ていてはいけないだろう」
お父さんが言う。
「それはそうだけどね、今までいろいろとあったから…それはそうと、結婚式には誰を呼んでるの?」
スタディンが答えながら質問する。
「自分の記憶によるとな、まず第3銀河/35腕軍部総司令官の磯柿丙洋さん。あとは、この辺りの住民全員と今回の新郎新婦の両親達と、いれば子供達。それで全員だ。なにせ幕僚長同士の結婚式自体が史上初だからな。それに、これほど多く同時に昇進した事も初めてのはずだ。ああ、それとコンティンスタンスさんも呼んどいたからな。まあ、来るかどうかは分からんが」
「そんなに呼んで会場に入りきるかな?」
「大丈夫だ。もし入りきらなければ、何日でもやり続けるさ」
(本当にやりかねない…)
「あ、起きてきたみたいだね」
スタディンが階段の方を向いて言った。階段からは、上で寝ていた人達がぞろぞろと降りてきた。
「ねえ、今何時?」
「いまは、8時5分だよ」
シュアンがたずねて、イブが言った。
「ここで、皆の目を覚ますような、ビッグニュースだ。なんと、1週間後、清見町町立会館、正午より結婚式をする。一番でかい部屋でするからな。ちゃんと言ったから、憶えとけよ〜」
「え?突然?しかも1週間後?」
「そうだ。もう予約もいれてあるから、それに招待状も郵送しておいた。もう、取り消しはきかないから」
「えー!そこまで決まってるのー!」
「それよりも、服、どうするの?」
「前使った服があっただろう?」
「スタディンたちが、最初に勲章を受けたあの時来たあの服?どこにいったかな?」
「探せ。金がもったいない」
「え?そういう理由?まあ、とりあえず探すから…とりあえず、朝ごはんを…」
誰かのお腹が鳴った。
「だれ?鳴ったの」
誰も言わなかった。しかし、おずおずと手を挙げた人がいた。
「さあ、とりあえず、朝ごはんを食べようか。それから探せばいいし」
イブが言った。
「そ、そうだね」
どもっている、シュアンが言った。同時に、手も降りた。
「今日は何?」
「今日はね、パンとバターと、サラダよ」
由井さんが言った。
「毎日別メニューが出てくるね。どうやってるの?」
「その時々の気分によって、今日の献立を決めているの。ただ、栄養はばっちり取れるように工夫はしているけどね」
「それは重要な事だね。船の中でも、ちゃんと栄養だけは取れるように料理長が工夫を凝らしていたね」
「へー。そうなんだ」
「ところで」
みんなテーブルの周りにある椅子に座ってから、愛華が聞いた。
「ところで、何で1週間後なの?結婚式。重要な事だから、もう少し間を開けておくべきだと思うけど」
「それはな、この1ヶ月間に、結婚式と新婚旅行をしようと考えると、この時間が一番いい時期らしいから」
「だれに聞いたの?」
「…まあ、誰でもいいじゃないか。とにかく、飯だ、めし」
「はいはい。1週間後、誰が来るかな?」
1週間の1日前の晩。みんな寝ているところ。新婚になる兄妹や姉弟はそれぞれの部屋が与えられ、そこで寝ていた。
「…なあ、クシャトル」
「なに?お兄ちゃん。突然」
「いや、ある歌を思い出してな。聞いてくれるか?」
「いいよ。もう、2人だけで寝る事なんて無いと思うし」
そして、300年以上昔から伝わっている歌を歌った。
「…明日か」
「うん」
「この歌通りに、何かあったら、帰ってこいよ」
「分かった」
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
家は、静寂の世界が広がった。
翌朝。
「今日が、当日だね」
「誰が来るかな?」
「でもねえ、誰も来なかったら悲しいね」
「弱気なせりふはよそうよ。言った言葉は、いずれ、言った人自身に返ってくるんだよ」
「とりあえず、準備は出来たか?今日は晴れの日だからな。まあ、ほどほどにがんばれ」
そして、彼らは家を出て、式場へと向かった。
式場ではすでにたくさんの人が向かっていた。中には招待されていない人達もいたが。
「私達は、裏から入って行くんだね」
「その通りだ。とにかく、こっちへ」
裏門から式場へ入り、そして階段を上がり、くたくたになりながらも控え室へ到着した。
「ここが、控え室だね」
「そうだ。私はここまで。女性陣はこの控え室に入る事。男性陣はまた階段を昇るから、私についてきなさい」
みんな不平不満を垂れながらも、達夫さんについていった。
それから、1時間が経ちついに正午5分前となった。新郎は先に部屋の前で待ち、新婦を待った。正午の時報を知らせる鐘とともに、新婦が階段を登ってきた。そして各新郎新婦は、手を取り合い式場へと入っていった。
それから、3時間が経った。
「これをもって、今回の結婚式をお開きにしたいと思います。みなさん。本日はお忙しいところ、お集まりいただいて、ありがとうございました」
その時、一発の銃声が響いた。一瞬で静かになる場内。偶然にも、怪我した人は出ず、犯人は周りの者達に抑えられた。しかし、犯人は押さえられる前に服毒自殺を図っており、直後に死亡した。なぜ、このような事をしたか、マスコミ関係は、捜査をしたが、何も分からなかった。しかし、彼はこの惑星から来たのではなく、神を殺そうとして来たという事だけが判明した。