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第7部

次に目を開けると、見慣れた姿が目に飛び込んできた。妹のクシャトルが、心配そうに覗き込んでいた。クシャトルは、嬉しそうにフラッシュを呼んだ。

「せんせ〜!船長が起きた〜!」

「船長はLv.6の振動に耐えられなかったようですね。でもその代わりに、面白い情報が手に入りましたが」

にこやかに笑っているのは、妹だけではなかった。医療主任士官である、フラッシュが立っていた。その横には、パリも立っていた。

「船長。どんなことをされていたんですか?こいつらに」

「こいつらというな!おれたちだって生きているんだぞ!」

甲高い声で会話をしているのは、猫みたいな格好の生き物であった。そいつが、フラッシュに首根っこをつかまれて話していたのだ。

「君たちは何者だ?」

という船長の問いかけに、

「こっちこそお前たちは何者だよ。こっちの領域に勝手に押し入りやがって。人様の領域を何だと思っているんだよ」

「さっきまで寝ていた間の夢見たいなのは君達の仕業かね?」

「そうだよ。お前が楽しいようににしてやったんだよ。感謝されたいぐらいだよ」

「まぁ、この空間に入ること自体が初めてだったし、君達のような生命体がいたことも分からなかったんだ。許してくれ」

少し考え込んで、

「ま、そんなに言うんだったら許してもいいかな?でもその代わりに、お前達の素性が知りたい。教えてくれ。お前達は何者だ?」

「私達は、この銀河の太陽系の3惑星連邦というところから来た」

そこで、相手の動きが止まって、驚いたような顔でこっちを向いた。

「どこの何連邦だって?」

「太陽系の3惑星連邦というころだが?何か知っているのか?」

「知ってるも何も、アファールとかいう船が35年ぐらい前にここを通っていったんだよ。初めてここの船以外の船を見たからびっくりしちまってさ」

「その船は、確かにここを通って行ったんだな」

「あぁ、間違いねぇ。何せこの俺が見ているんだからな」

自信満々に言う猫に良く似た生命体。船長は最初の質問をする事にした。

「ところで、君達はなんていうんだい」

「俺たちの名前は、アック。ちなみに俺の名前は、クラノキ・チズム・ベテッセ・アックというんだ。だが、長いからみんなには、クチベアって呼ばれているぜ」

「ここを通してくれるのかな?」

「いや、これから、種族長にあってもらわないといけないな。これからも通るって言うのなら、必要な外交手続きだ」

(確かにそうだな)と思ったそのときに、勝手に船が動き出した。突然の衝撃で、フラッシュはクチベアを取り落とした。見事な空中一回転を描き、無事に着地してからクチベアは言った。

「なんだ!?勝手に船が!」

「族長の家に船一隻ご招待〜」

「え〜〜!」

そこにいた皆が驚いた。たった一匹の猫が、この船を動かしているのだ。

「族長って、どんな感じ?」

クシャトルが訊いた。

「うーん、そうだなー。とてもかわいいって言うのかな?まぁ、そういう感じ」

「可愛いか…」

そう言って、クシャトルは、考えているように見えた。スダディンは考えた。

(何か勘違いしていそうだな。この場合の可愛いは、こっちの基準じゃなくて、アック側の基準だというのに)

再び薄れゆく意識の中で考えていたことだった。


なにか、聞こえる。なんだろう。気持ちがいい………なんだろう、見覚えがある映像。この映像は、家かな?でもここは宇宙のはず。だとするとこの映像は?それに、自分はどうなるの?何も分からない。何も…なにも…


はっきりと音が分かる。壁掛け時計の音。いつも同じ間隔で時を刻む。いつまでも。でも何故?何でここに壁掛け時計があるの?ねぇ、誰か答えて。お願いだから。おねがい…


そして彼は、まだこんなことになると分かってなかったころの、第3惑星地表面で過ごす最後の朝を見た。

「お兄ちゃん!朝だよ!」

「わぁ!びっくりするなぁ、もう。驚かすなよ」

「だって、何度起こしても起きないから…」

「それにしても、もっとやさしく起こす方法はないのか」

「これが必ず起きる方法なんだもん」

二人はこのような会話をしながら下に降りて来た。地上3階地下1階建ての平均的な家。白い壁に庭付き。鉄骨がしっかり入っているコンクリートの壁。何不自由ない生活。勉強は、家でも出来る時代。この兄妹が生まれた世界。ところどころ、こすれた後がある木製の階段を降りて、リビングに来ると、すでに朝食の準備が出来ていた。

「今日は、目玉焼きと、パンだよ」

「いつもそうだよな…。ほかには作れないとかは、ないよな。」

「作れるよ〜。ただ、これが一番楽なだけ」

他愛もない話をしながら、席に座る。使い込んでいるダイニングセット。そこにとてもあっている調度品。しかし、そこにいるべき存在がいなかった。両親。重要なことだ。

「親から連絡が来た?」

「ううん。来てないよ。ねぇ、やっぱり変だよ。だって、ここ1年間ぐらい何も連絡なしだよ」

「そうだよな。前は、2〜3ヶ月に一回ぐらいだったのに、1年は長すぎるよ。何かあったのかな…」

「…見に行きたいな、パパとママがどうして連絡をしてこないのか」

「でも、何か連絡してこない理由があるのかもしれないよ。それでも行きたいのか?」

「うん。行かなくちゃいけないんだと思う。確かに、ここを出るのはいけないことだけど、それでも、パパとママが心配だし…」

「…それだったら、今日行こう」

「え?何で?」

「この近くにある宇宙エレベータは年に1回定期健診を受けるんだけど、明日から1週間もかかるんだ。だから今日行かなくちゃいけない」

「分かった。じゃあ、これから着替えてくるね」

「ああ。1時間後にまたここに集合でいいね」

「うん!」

妹のほうは、8歳のとき以来はじめて両親に会えるからとてもうれしそうだが、兄のほうは、9歳のときに会った、両親自体を忘れてしまっているので、とても怖い存在になっていた。この家の周りにも同じような子供達が大勢いた。彼らの両親も宇宙ステーションで働いていて、子供達だけで生活していく必要があった。今はまだ大丈夫だった。


1時間がたち、リビングに兄妹が来た。

「ルートは検索しておいてこのボードに記憶してある。一応もしものための道具も作って、このリュックサックの中に入っている。クシャトルの必要なものは?」

妹に尋ねると首を横に振って、

「私は何も要らない。パパとママに会えればそれでいい」

「じゃあ、これでいいね。こことはもしかしたら帰れないかもしれないよ。後悔はしないね」

「うん」

「決行は、日の入りの時刻でいいね」

「今日の日の入りの時刻は?いつなの?」

「今日の日の入りの時刻は、5時32分になっているね」

「うん。その時間でいいよ。ここで集合だよね?」

「そうしよう。それまでは好きに行動しておこう」


日の入りになった。兄妹はリビングで会った。

「行くよ。本当に後悔はないね」

「うん。もうないよ。行こう。お兄ちゃん」

「ああ、行こう。両親に会いに」


「船長!」

「わぁ!なんだ!」

突然夢を破られて驚いた。

「着きましたよ。族長の家に」

「ああ、そうか、分かった。行こう」

気づけば、もうクチベアはいなくなっていた。

(自分は医務室で寝たのか。まるで、"学校"とかの"保健室"みたいだな)

年齢から考えても、とても合っている考えであった。

「もう着いたのか?」

「はい。みんなはもう下船準備を整えております」

「分かった。とにかく、降りよう」

そして、上級士官のうち、機関士官・航法関係士官以外は、全員下船した。

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