第64部
第9章 1ヶ月の休暇の使い道
スタディンたちは、第3銀河/35腕/第364惑星系総司令部に再び戻ってきた。
「帰って来れたんだね」
「そうだ。忘れていたかもしれないが、私は中将だからな」
「覚えていますって、中将殿」
イブはスタディンに、そう言われて微笑みながら言った。
「これより、下船する」
「了解。お帰りなさい、皆さん。長期にわたる出張、ご苦労様でした」
「まったくだよ」
「つきましては、皆さんに特別勲章が与えられるようですから、総司令室まで来てください」
「え?特別勲章?」
「この作戦で?」
「軍が来ないうちに私達が片付けて、宇宙軍が出来たのは革命政府側についていた人達の掃討だけだったじゃないの」
「まあね。それも一理あるけど、この戦争で、どうにか横の国と仲良くなれたんだから。まあ、元々は君達が高校の時にしてくれていた事が、下地にはなっているけどね」
船から降りて総司令官室へ向かった。
「失礼します」
「ああ、どうぞ」
部屋に入ると、テレビカメラがずらりと並んでいた。だがカメラ前には誰もいなかった。
「ああ、君達か。みんな待っていたぞ」
「え?どういう事ですか?それよりも、何でこんなカメラがあるんですか?」
「なんだ、知らんのか。まあ当然だな。君達は、全員で一つのチームだ。連合国の国家元首職を退いた時点で、君達は全員に国家功労賞が与えられる事になった。普通ならば、総本部でするのだが、今回は特別にここで与える事になった。同時に君達全員、宇宙軍大将の地位も与えられる。実はこれは世界で初めての事が、何個も重なった受賞なんだ」
「どんな事ですか?」
「まず、全員が21歳以下のチームを作る事。そして全員一度に大将の階級になった事。さらに、宙小士から一気に大将になった事。最後は、5人以上のチームを作る事」
「それが全て」
「史上初。快挙を成し遂げたんじゃ。そして、あと2分以内に式をはじめる」
「この部屋ですか」
「そうだ。何か問題が?」
「いいえ、ありません」
「ならばよろしい。さて、式はこのようにして続ける事を頭にいれといてくれ。あと、1分だ」
記者達が、一気に集まってきた。
「こんなにこの部屋って入るんだね」
「こんなに広かったっけ」
外で、12時の時報がなった。
「これより、国家功労賞授与式並びに特別昇進式を開始する」
カメラが一気に向けられる。フラッシュが光る。
「では、まず、イフニ・スタディン中将…」
式は、30分ほどで終了した。その後は、記者会見だった。
無事に記者会見も終わらせて、また総司令官に呼びとめられたのは、2時間後だった。
「なんですか?」
「君達にこんな通知が届いておる。総本部から、直々にな」
どさっと渡された書類は、何十ページもありそうな分厚い冊子だった。
「スタディンとクシャトル以外には、この書類も渡しておいてくれ。と言うか、もう全員いるんじゃな」
「これは?」
「君達の正式採用通知、そして、全員には休暇通知書。まあ、休暇は1ヶ月間ある。ゆっくり休みなさい。それが終わったら、またここに戻ってきなさい」
「はい。必ず」
そして彼らは、家に帰ったのであった。
再びあの飛行機に乗り、3時間強で帰ってきた。スタディンは到着してから、10分ほど起きてこなかった。
「とうちゃ〜く」
「あ、帰ってきたんだ」
家に帰ったのは、ちょうど次の日の12時だった。由井さんが、昼ごはんを作っていた。
「おかえりなさい、みんな。もうそろそろ帰ってくると思って、ご飯作っていたのよ」
出て行ってまだ、一日しか経っていないような雰囲気だった。
「では、早速。食べたいな」
「まったく、成長期も終わったでしょう。それと、軍の生活はきついって聞いた事があるわ。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。母さん。安心して」
「それに、自分達も一緒ですから」
「まあ、それなら安心ね。さあ、お昼にしましょうか」
「さんせー!」
お昼ごはんは、とてもおいしかった。
「で、これからあなた達はどうするつもり?」
「とにかく、自分達まだ役所に結婚届も出していないし、結婚式も挙げていない。それをしようかなって思っているんだ」
「いつするの?」
「この一ヶ月中には、すると思うよ」
「そう。それと、上の方にも帰ってみたらどう?長い間帰っていないでしょう」
「そうですね。それに妹と弟も気になるし」
「あと、日本にも行って見たいね」
「そうだね。もう結構行ってるんじゃない?」
「そうねえ…あなた達がいない間に、一気に帰化する人が増えたみたいでね。現在の旧日本国領の総人口は、大体、300万人だって」
「観光はどうなったの?」
「もう元気なものよ。補修要員だけはいたみたいだから、ちゃんと姿は保っていたからすぐに復旧できたそうよ」
「じゃあ、まずそこ行ってみたいな」
「どうする?アダムさ、飛行機を飛ばしてくれるかな?」
「どこまで?それにもよるけど」
「ここから一番近い飛行場から、神戸空港まで」
翌日、飛行機は空軍基地から離陸した。
「さすが、大将になった身だね。最優先でしてくれた」
「でも、これって職権乱用じゃ…」
「気にしない。出来たんだから大丈夫」
5時間もしないうちに、神戸空港に到着した。
「よし、ここが神戸空港だな」
「何で直線で、6,000kmしかないのに、こんなに時間がかかるの」
「それはね旧日本国領域に入る際、いろいろな事務手続きが必要だからだよ。そして、それをするのは滞空中と決まっているからね」
飛行機は無事に降り立った。
「ここに来るのは、とても久しぶり。まだ、機能したんだね」
「この国の技術水準は、とても高かったと言われているからね」
「たしか、そのままだと、近くの駐車場に、車を止めっぱなしのはずなんだけど…」
足元は、少しずつ海水が来た。
「今は、ここ、満ち潮なの?」
「ああ、そのはずだけど。どうして?」
「海がこっちに来ている」
「へ?」
サーっと、海から音が聞こえてくる。
「本当だ。じゃあ、このまま、ここにこいつを置いていけないな」
アダムとイブは飛行機を見上げた。中にいたパイロットに、但馬に行くように指示をした。
「但馬にも空港ってあるの?」
「ああ、今はどうなっているか分からないが、但馬空港はある」
「いつ出来たの?」
「さあ、歴史が消えているからな。いつ出来たかは分からない」
「それよりも、早く行こうよ。海が迫ってきているよ」
「ああ、そうだな」
コロが海と戯れていたのを連れ戻してきて、建物の中へ入って行った。
建物の中に入ると、簡単な血液検査と何か箱を渡された。
「まず、これをお持ちになってください」
建物の中には、海水は入らないようになっていた。
「分かりました。で、これはなんですか?」
「これは、放射線測定器です。常に付けてください。外すと」
そういって、箱から出ている紐を引っ張ると、桁外れに大きい音が響き渡った。
「このような音がなります。なお、放射線量が一定値を超えても、同様の音が鳴ります。その場合は、速やかに退避してください」
再び引くとすぐに静かになった。
「分かった。じゃあ、車を借りたいんだが」
「車でしたら、あそこにレンタカー屋があります。そこで車を借りる事が出来ます」
「そうか、ありがとう」
「良い旅を…」
彼らはまず外に置かれていると言う、車を探しに行った。
「もうないよ」
「どこにも?」
「うん」
「そうか、じゃあ仕方がないな。戻ってさっき教えてもらったレンタカー屋へ行こう」
戻ったところのレンタカー屋は、結構繁盛していた。
「すいません。車を借りたいのですが…」
「へい。どんな車でしょうか」
「ここにいる全員が乗れる車だが、あるかな」
「何名様でしょうか」
「16人と1匹だな」
「16名と犬一匹。そうですね…。大型車の方がよろしいと思いますね。小型バスならちょうどいいと思いますね」
「費用は?」
「そうですねえ…保険付きなら、38,000GACですね」
「そうか、もっと安くならないか?そうすれば、自分の知り合いにも教えてあげるんだがな…」
「そうですね、じゃあ、どれくらいがいいんですか?」
「そうだな、小型バスで、保険付き、どんなバスなんだい?」
「20人乗り、運転主無し、保険付き、停車するときはバスの所へ」
「じゃあ、25,000でいいだろう」
「それじゃあ、こちら側が破産してしまいます」
「じゃあ、どれくらいだ?」
「36,000」
「29,000」
「34,500」
「31,000」
「いやあ、お客さんには、かないませんわ」
「じゃあ、31000GACでさっさと借りるぞ。費用はここに置いておくからな」
「分かりました。どうぞ楽しんできてくださいね。それと、ガソリン代はそちらが支払ってくださいね」
「分かったよ」
彼らは、指定された小型バスを借りて、町へ出かけて行った。