第62部
第8章 革命の収束、新たな始まり
革命が起きている旧インフラトンとワイナロの連合国では、別の動きも起こっていた。革命が現存する全ての政府を破壊し、新たなる世界観の元に、宇宙を全て乗っ取ると言う計画だった。高校生の時、スタディンとクシャトルが滅ぼしたインフラトンは、今でも、ワイナロの保護領として存続していた。軍部は、いったんは解体されていたが、再度復活していた。
「これができれば、みなが幸せになれる」
新たな連合国の名前は、インフラトン=ワイナロ連合(敵国)としておこう。先ほどの言葉は、この国の新たなる皇帝となった、連合王国国王の言葉である。スタディンたちは、先遣隊として全宇宙から派遣される事になっている全ての軍隊に先駆けて派遣された。目的は、出来る限り穏便に敵の状態を見て、報告する事。妨害があれば、いかなる方法を持ってしても排除すべし。と言う内容だった。
「とりあえずは、第4以上の銀河系は、すべて、この敵国側の領域だ。ところで、あとどれくらいで本国の領域を出る?」
「いま、Lv.7縮空間を通っているので、あと3分ほどで」
「そうか、あと3分後には、いつ戦闘が起こるか分からない。と言う事で、ここで一つ聞いて起きたい。この中の誰一人として、この航海に後悔していないんだな」
みんな、一瞬凍りついて、
「していないよ」
と言った。
「とにかく、この働き如何によっては、みんな、昇格する可能性がある。もしも、このまま軍に入り続けるならの話だけどな」
「気が向いたらね。今の軍は、スタディンと言う英雄がいて、ようやく成り立っているからね。もし、君がいなくなれば、みんな軍を辞めるな。きっと」
「お世辞でもうれしいよ。とにかく、今回の作戦は、表向きは敵情視察及び報告なんだが、もう一つあるんだ。これは、ここにいるみんなのみにしか話せない。他言無用、そして誰にも話してはいけない。いいね?」
「ああ、大丈夫だ」
スタディンとクシャトルは目配せをして、
「実は、敵の革命を強制的につぶせと言う命令も受け取っている。しかも、中央政府が革命以前の政府から受け取った最後の連絡だそうだ。これを機に、全ての銀河系を押さえたいらしい。とにかく、協力してくれ。今の状況は分からないが、自分達が、再び革命を起こす。そうすると、自分は新中立国家共同体の軍人だから、そのまま、領土がそっくり手に入る。そして、軍のほうには革命政府側が非情な爆撃を繰り返したので、防衛のためにしてしまいました。政府を乗っ取った事については、向こう側の人がなって欲しいと言うのでなりました。といえば、納得するだろう」
「ところでさ、革命に定義ってあるのかな?」
「定義かどうかは分からないけど、昔の辞典には、こうかいてあるよ。西暦2000年ごろの辞典だったけどね。社会や政治構造などの大変革の事であり、いろいろな種類の革命があったらしいよ」
「へー。やっぱり、こんな事については、くわしいね」
「こんな事って、重要な事だぞ。昔の太陽系だって、何度も革命を経験して、今のような政治システムが生まれたんだから」
「じゃあ、重要なんだね」
「今となっては、よく分からなくなってきているのも事実だけどね。とにかく言えるのは、このような特殊な事情もあったり、いろいろあった上での、革命という最終手段だ。戦争も同じようなものだ」
「あと、10秒で領域進入します。9、8、7、6、5、4、3、2、1、進入」
「話はこれまで。これより、常時戦闘態勢を取り、本船は、わざと敵に狙われるコースを取る」
「了解」
「防御面は宮野兄妹と、バックアップに丹国ルイとクォウス。攻撃面では丹国シュアンとエア兄妹。バックアップに私達が入る」
「了解」
「本船はこれより、実空間に入る。準備は?」
「いつでもどうぞ」
「では、あの特異点から戻ろう」
「了解しました。これより、実空間に戻ります。なお、この作戦は無事に成功させましょう」
「国のためにな」
特異点を通り、元の空間へ戻ってきた。戻ってきたとたんに、敵のど真ん中へ来てしまった。
「ここはどこだ?」
「旧地方政府があった場所ですね。すでに、略奪された後らしい。そして、周りを取り巻いているのが敵側のご挨拶部隊みたいですね」
一瞬で、周りは火の海となった。とにかく言えるのは、周りが見えなかった。防御面は最高にいい。しかし、攻撃は出来なかった。こちらから攻撃する場合は、まず今張っている魔法のバリアを外す必要があった。しかし、そうすると自分達の船は、ほんの一瞬も持ちこたえる事なく消滅するだろう。
「この状況を打開するすべは?」
「このバリアの周りにある暗黒エネルギーや熱を、魔力で向こうへ押しやればいいんですよ」
「そうだ。それがいい。いますぐ実行だ。攻撃側のバックアップと防御側のバックアップが総動員すれば、速やかに戻るだろう」
実際にやってみたら、いとも簡単に敵の大艦隊、計37隻を撃破した。
「とにかく、初戦にしてはとてもよかったじゃないか」
「まあね。いろいろとあったから…」
「とにかく進もう」
その時、惑星上から通信が入った。
「すいません!そこの船!」
「はい?なんでしょうか?」
「あなた達は、いったい何者でしょうか?」
「あなた達こそ、何者ですか?」
「私達はこの惑星政府の者です。助けてくださってありがとうございます。礼になるようなものはありませんが…」
「今この国の状態を教えてください」
「はい。私が知る限りでは、我々の暦で587年。前回、政変があった時を起点としています。その年の10月30日。この国全域に戒厳令が引かれ、同時に革命政府が樹立しました。全ての惑星政府は革命政府によって解体されました。その上、彼らは全ての建物を爆破したり、破壊したりしました。そして、最後の正式な政府から入電した情報は、革命始まるという情報だけでした。4年前に締結した条約に基づき、新中立国家共同体に対して援助要請を出しました。しかし、その直後この惑星も革命政府に襲われてしまって…」
「この惑星や革命政府に襲われたすべての惑星の、今まであった文化は潰えてしまったと?」
「そう言っても過言ではないでしょう」
「その革命政府の場所を教えてもらえないでしょうか?」
「ぜひとも倒してください。お願いします。ところで、あなた達は何者なのです?」
「私達は、新中立国家共同体宇宙軍ですよ」
船を飛ばしてその場所へ向かった。今度は、護衛艦が数隻ついていた。
「この前の惑星系が革命政府がある場所です。その政府は、過激派が掌握しており、こちらの軍があなた達を攻撃する恐れがあります。あなた達は、私達につかまったと言う事にして、革命政府代表側に謁見します。向こう側は恐らく攻撃しないでしょう。しかし、その後が問題です。あなた達は、武器の有無を確認された上、縛られて、革命政府国家元首の目の前に突き出されるでしょう。その時、必ずやつは目を見てきます。そのときが一番のチャンスです。出来ますか?」
「無論です。では、みんな手順はいいね?」
「全部頭に入ったよ」
「そしたら、作戦名:奪還。これより開始する」
こうして、唯一救われた惑星政府の代表の船にエスコートされながら、革命政府の本拠地にもぐりこんだ。
船から出る前、スタディン達の船の中。
「ねえ、これって、作戦外じゃない?」
「いや、これはまだ作戦内だよ」
「え?どうして?」
「裏の作戦の内容を覚えているか?」
「敵の革命を強制的につぶせ、だったよね」
「そういうこと。と言う事は、自分達が、また革命を起こしてもかまわないと言う事」
「そして、政権はどうするの?」
「自分が一時的に掌握し、後に民主的な方法により政権を移譲する」
スピーカーから音声が流れた。
「すいませんが時間です。では、作戦どおりに」
「そちらもお願いしますよ」
「では、どうぞ、外へ」
強制的にスロープが出て、扉が開いた。
この首都だけは、まったく無傷と言っても過言ではないような状態だった。
「ここは、何も変っていないように見えるね」
「さあ、どうだろうか。とりあえず、これからは捕虜として行動する事になる。縄にはすでに後ろ手で縛られているから、とにかく作戦を第一とせよ。いいね」
「了解」
外は閑静に包まれていた。しかしスタディンたちが現れると、大音声で出迎えられた。ここでまず拍手。
「本日、第4銀河系にて敵国の捕虜数名を確保しました」
再び大拍手。スタディン達のみに付けられた特殊なイヤホンによって、他の音は聞こえずに必要な音だけを聞く事が出来た。
「スタディンよ。あの一番大きい建物のバルコニーからこっちに手を降っている人が、現国家主席だ。元の人は殺されたらしい。あの人が目の前に来たら…」
「分かっています」
「では、捕虜らしく行ってください」
「了解」
この大歓声の中、なぜか胸を張って歩いた。
「あいつは、だれだ?」
「はい。敵国側の将校とのみ、情報があります」
「そうか、ならば一度会う必要があるな…」
「いつお会いになりますか?」
「今すぐだ」
現国家元首は彼らと会うために、下に降りて行った。