第61部
「全員集まっているね。これから、スタディンの元へ行く事になる。死ぬかもしれないよ。いい?」
アダムが皆に尋ねる。
「大丈夫」
誰かが言ったその言葉に、みんな、賛同していた。
「では、これより、出発する。準備は?」
「ばっちり。後は現地に行くだけ」
「では、今回は、魔力で行こう。場所は分かっているんだから」
「では、3、2、1」
ぱっと、光が、彼らを取り囲んだ。そして、瞬間移動に成功した。
非常事態宣言が発令された第3銀河は、全ての一般人が去って行った。残ったのは、どうなるか分からない土地と、逃げなかった人達だった。その中には、逃げれなかった軍関係の人も含まれる。そんな中、第3銀河/35腕/第364惑星系/第3惑星において、ぱっと、白い光が観測された。その光は、空港のちょうど、上級魔法試験時に止まっていた場所で止まった。
「到着したね。これからどうする?」
「まず、この惑星系の総司令官が、この近くにいるはずだ。もし、変っていなかったら、あの人のままのはずだしね」
「ああ、なんか前、書類をくれた人」
「そう。その人の場所へ行くべきだね」
「でも、どこ?」
皆は考えた。
「そうだ。とにかく、どこかに惑星ネットがあるはずだ。そこで検索をかけてみよう」
「そうだね。そうしたらすぐに分かるだろうし」
その検索ネットを探しに、皆は、移動しはじめた。
10分後、見つけたのは、軍用ネットだった。
「これでも出来るだろう」
「でも、軍用だよ」
「まあ、やってみよう」
画面に触れると、検索サービスが起動した。
「こんにちは、第3銀河/35腕/第364惑星系軍用ネットワーク検索へようこそ。知りたい情報を、教えてください」
下には、音声認識式と書かれていた。
「えっと、雨宮龍保さんの所在地」
「雨宮龍保は、現在、以下の場所にいます」
地図が出てきた。
「ここから、50m前方に、白い建物があります。名前は四軍統合庁舎です」
「よし。分かった。ありがとう。終わってもかまわない」
「分かりました。では、また後ほど…」
プツンと、画面が切れた。
「後ほどって、後はないんだがな」
「とにかく急ごう」
彼らは、四軍統合庁舎へ走って行った。
中は、誰もいないような感じがした。受付で、誰かが動いていた。
「すいません」
受付の方に歩いていくと、その姿が消え、こちらを振り向いた。
「あの、雨宮龍保さんを探しているのですが…」
「雨宮龍保ならば、この建物の、最上階にいます。なんなら、お電話をいたしましょうか?」
「ああ、よろしく頼みます」
「少々お待ちください」
電話をかける音、1分もしないうちに、
「お電話代わりますね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
電話を受け取ったのは、アダムだった。
「もしもし、雨宮龍保さんでしょうか」
「ああ、いかにもそうだが、君は誰だ?」
「すいません。突然こんな形で…私は、エア・アダムと言うものです。実は、自分の友達の、イフニ兄妹を探しているんですが…」
「ああ、彼らだったら、もう、出発したと聞いているな」
「へ、どこへですか?」
「革命の真っ只中で、我々の権利を守るために、敵のど真ん中へ」
「いま、どこにいるか分かりますか?」
「ああ、それなら、ここから、大体、380光年はなれたところだね。そこには、この35腕の総司令部がある。そこまで飛んでそれからは、一気に数百万光年行く事になる」
「分かりました。そこに行きたいので、船を貸してもらえないでしょうか」
「ここにある船ならば、どれでも使ってかまわないぞ。好きな物を持っていきなさい」
「ありがとうございます」
ガチャンと、電話を置く。
「いこう」
「どこへ?」
「ここから、380光年はなれた場所だ。そこに、この第3銀河系/35腕の総司令部があるらしい」
「スタディンたちは、そこへ…」
「ああ、慣例として、所属している銀河系の腕の総司令部に出発する事を伝えるらしい。それをするために、わざわざそこに行くらしいな」
「私達は?」
「この星にある船を使って、追いつかせる」
「どの船を使ってもいいの?」
「総司令官の御墨付きだ。どれでもいいらしい」
再び彼らは、飛行場へ急いだ。同時に、龍保さんは、総司令部へ伝令をしていた。
「よし、これにしよう。これは、ここにある船の中で、最も速い物だ」
「これ?明らかにオンボロじゃない?」
「速い物には違いないね。ただ、製造がって言う事だけど」
「つべこべ言わずに、さっさと乗れよ。おいていくぞ」
みんな乗り込み、誰もいなかったので、勝手に発射した。その光景を窓辺から見ていた龍保は、
「そうか、あいつら、あの飛行機を持っていったか。目は確かに優れておる様だな」
「本機は、これより、大気圏外へ向かいます。その後、最大速力で、自動操縦により、380光年離れたところにある、第3銀河系/35腕総司令部へ向かいます。では、これより、発射します」
スピードがぐんぐん上がる。そして、ふわっと体が浮き、離陸した事が分かった。
「本機はただいま離陸しました。これより大気圏までは、およそ38秒です。大気圏脱出後は、自動操縦により、最大速度になります。今一度、シートベルトをお確かめください」
アダムが、アナウンスをする。
「ただいま、大気圏を脱出いたしました。これより、自動操縦に切り替えます。3秒前、2、1、0。切り替え開始」
とても静かに言った。ピッと言う電子音がした。
「本機は、これより、最大速度となります。みなさま、気持ちの準備はよろしいでしょうか?5秒前、4、3、2、1、0。目的地到達まで…」
これより先は、音速どころか、特殊飛行により、光速を通り越した。それにより、音はまったく聞こえなかった。
どれだけの時間が過ぎたか分からないまま、到着した。
「現在の、第3銀河/35腕/第3惑星総司令部の時刻、新暦370年8月17日。午後1時4分」
皆を起こすような大音声で、船内スピーカーから音が出てきた。
「ああ、到着したんだな。なあ、出発した時の時刻って、何時だっけ?」
「たしか…午後3時34分だったな」
「時間が戻る事はないだろう」
「そうだな。じゃあ、自分達は、どうしたんだろう」
「とにかく、上陸許可をもらおう。そうしないと、この場から降りれない」
その時、向こう側から連絡が入った。
「こちらは、第3銀河系/35腕総司令部通信部。あなたの所属をお願いします」
「こちらは、第3銀河系/35腕/第364惑星系総司令部所属です。上陸許可をお願いします」
「上陸を許可します。そちらのAIに情報をお送ります」
「了解しました」
ピピッと情報が送られてきた。同時に、別の船も来た。混線しているようで、向こうの話も全部聞こえてきた。
「こちらは、第3銀河系/35腕総司令部通信部。あなたの所属をお願いします」
「こちらは、第3銀河系/35腕/第364惑星系/第9惑星総司令部所属です。上陸許可をお願いします」
「上陸を許可します。そちらのAIに情報をお送ります」
「了解しました」
その声に聞き覚えがあった。情報が終わって、完全にしたと接続を切ったのを確認してから、
「すいませんが、スタディン?」
「え?そっちは…アダムか?」
「やっぱりスタディンだったんだな。突然戦地へ引っ張り出されると聞いたから、自分達も、来てしまったんだ」
「どうしてさ。どうしたいんだ?」
「自分達も、一緒に戦う。これまでそうしてきたから、これからも、ずっと一緒だ」
「そうか、でも、アダムたちは、軍属じゃないだろう?どうするんだ?」
「これから、入軍する」
「それは、遅いぞ。自分達は、この挨拶が終わってから、すぐに出発する。それまでには、終わらせておかなければならない。それに、君達は、民間人だ。今は、連れていけない。しかしだ、自分は、中将として、与えられた権限がある。その、自分の担当区域内ならば、任務を与えられるというものだ。そこで、こうしよう。君達は、第3惑星で一般公募により選ばれた者達で、まだ軍服の配給をしてもらっていなくて、階級は最低の宙小士だ。この任務は、自発的に行われたもので、なおかつ、正式採用するかどうかの試験も兼ねている。何故二つの船に乗っているかは、片方の船に、入りきらなかったからという理由だ。何か聞かれたら、こういうふうに言ってくれよ。それでいいね」
「無論だよ。では、下で会いましょう。スタディン中将殿」
「ああ。交信終了」
ブツッと切れた。
「これでよし。とにかく、自分達も、偶然にも、軍に入ってしまう事になってしまった。とにかく、悔いはないよな」
「当然、ないに決まっているじゃないか」
二つの船は、少し時間差があって、先にスタディンたちの方が降りた。
「お待ちしておりました。スタディン中将殿。あとで、あなたの部下達も到着する事になっています」
「あの航宙機か」
「そうですね。あの、今から、30年前の、航宙機です。しかし、不思議なのは、船内時間とこちらの時間が食い違っているのです。何かあったのでしょうか」
「さあな、彼ら自身に聞いてみてくれ。それよりも、早く、挨拶をしたいのだが…」
「ならば、こちらへどうぞ。あなたの部下も後で案内しましょうか?」
「いや、ここで待たせたらいい。彼らは、宙小士だ。それに、一般公募で選んだ上に、軍服の予備がなかったので、私服のまま連れてきている。体に合う服をよろしく頼む」
「承知しました。では、あの通路を通って行ってください」
指差した通路は、途中で曲がっていた。
「分かった。では、部下をよろしく頼む」
「分かりました」
二人は、歩いて、総司令官室へ向かった。
3分ぐらいしてから、アダムたちが降りてきた。
「ここが、第3銀河/35腕総司令部…」
「君達が、スタディン中将の部下だね」
「そうです。あなた様はどなたでしょうか」
ばっと、気を付けの姿勢を取った。
「ああ、そんなに固くならなくてもいい。私は、錦江業家陸軍少将だ。これから、よろしく頼むよ」
「錦江業家殿ですか、私達は…」
「ああ、みなまで言うな。もう分かっている。コンティンスタンスから聞いているんだろう?私の事を」
「いえ、私達は、ただ、昔の友人としか伺っておりません」
「そうか、まあ、楽にしたまえ」
休めの格好になった。
「まあ、好きにしなさい。さて、私は、君達の魔力の平均が、私や、コンティンスタンスよりも上だと言う事も、知っておるし、君達が、本当は、軍人ではない事も知っておる。まあ、今回は、黙っておこう。さて、軍服は、ここにある。自分のサイズに合わせた物を持って行きなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
「それと、スタディン中将が帰ってくるまでは、ここにいるようにと言う事だから、好き勝手に行動せずに、この服周辺にいる事。いいね」
「分かりました」
「では、解散」
みんな、とにかく、服を着替えた。
「そういえばさ、スタディン中将たちってさ、どうやって、大佐から入ったんだろうな」
「そういえばそうだな」
「大佐より以前に、どうして、一般人から、船の船長に選ばれたかが分からないよ」
「どうしてだろうな」
「さあ」
向こう側から、スタディンたちが帰ってきた。
「噂をすればなんとやら、だな」
「中将殿、お早いお帰りです」
「そうか、まあ、とにかくこれより、出発する。船は、君達が乗ってきた船を使用する。では、出発だ」
「分かりました。船長」
みんな船に入り、
「燃料、食料、水、空気、全て補充完了です。これより本船は、目的領域へ向かいます」
「了解!」
こうして、この船は、戦場へ向けて出発した。