第48部
「久しぶりの家だ!」
「ひさしぶりだ〜」
疲れきっているのか、エア兄妹に負ぶってもらって、実家に帰ってきたイフニ兄妹。クシャトルは、すでに寝息を立てていた。
「はいはい。とりあえず、いまはもう午後の8時だから、寝なさい。明日、コンティンスタンスさんが迎えに来てくれる予定だから」
「いつ?」
「予定は、午前10時。ああ、そうそう。なんかね、ジャン・スクーム・イルードさんからの、何とかの石を持ってきて欲しいって。それと、服は、出来るだけ多い方がいいと思うって」
「そう。じゃあ、今この家に何着あまっていたっけ」
元気になったスタディンがアダムから降りて、お母さんに聞いた。
「そうねぇ、もう、3年にもなるから、あまり無いと思うわね」
「どうしようか、まあ、いざとなれば、行く直前に買えばいいと思うし」
「多分、無理」
アダムが、即座に否定する。
「どうして?」
「だって、コンティンスタンスさんが言っていただろう?特別便を用意して連れて行くって、という事は、出発時間は関係ない便だって言うことだ。だとすると、到着してすぐ出発という事になるぞ」
「ああ、そうか。かといって、もうどこも閉まっているだろうしな」
「駄目だったら、自分のを貸すぞ」
お父さんが、スタディンに言ってくる。
「ただ、多少虫食い穴があるがな」
「それが致命的な欠陥だって言うんだよ。まあ、仕方がないけど」
「虫食い穴ぐらいなら、明日の朝6時までに直せるけど?」
アダムが言う。
「え?どうやって?」
不敵な笑みがこぼれる。
「我が社のひとつに、紡績関係の会社があるんです。そこに発注すれば、出来ますね。ちょうど、今は夜シフトに入って、一番稼働率が低いはずですから」
「じゃあ、いますぐたのもうかな?」
「では、料金は特別に、無料という事で」
「え?いいの?」
「ただし、今回だけですよ。毎回やっていると、私達の方が危ないですからね」
それから、3分もしないうちに、車が到着した。
「あれ?ここって、車大丈夫だっけ」
「特別車両は大丈夫。これは、救急車両も兼ねているから、そこのところは大丈夫」
「車に服を乗っけて走る救急車か、なんかアンバランスだね」
ルイが話す。
「まあ、いいんじゃないの?」
シュアンが答える。
「さあ、それよりも、早く寝なさい。あしたは、早いんだから」
お母さんが、寝かそうとする。
「わかった〜」
みんな、部屋に向かい、風呂に入り、布団を引いて寝た。ちょうど、12時の時報が何の音もしない町で、さびしく鳴り響いた。
「こら、もう起きなさい」
お母さんがスタディンを最初に起こした。朝が来た。出発の日。
「え?もう朝?」
スタディンが目を覚ます。
「そうよ。それと、ほらこれ」
目の前にかばんが二つ置かれた。
「この中は?」
チャックを開けて、中身を確認する。
「それは、2時間前に届いた服。昨日、虫食い穴の修理を頼んだでしょう?あれよ」
「ああ、あれか…とにかく、起きないといけないな」
ゆっくりとした動作で立ち上がり、ゆっくりと伸びをする。
「他の人も起こさないといけないな」
他の人達の肩をゆすりながら起こしてゆく。次々と起きてゆく。30分以内に全員が起きた。
「今何時〜?」
起きたばかりのクシャトルが聞いた。
「いまは、8時30分だね」
最初に起きて、すでに気分も爽やかなスタディンが言った。
「今起きないと、後々が大変だから、ほら、シャキッとする」
「ふぁ〜。まだ眠いや〜」
「とりあえずは、朝ごはんを食べようか。それから、行く準備の確認をして、10時の10分前までには行けるようにしておこう」
9時までに全員が着替え終わり、ラフな格好をした。
「とりあえず、何かあれば着替えればいいし、どんな事でもドンとこーい!」
クシャトルが言う。
「それ、何か別のが混じってない?」
すかさず、スタディンが反応する。
「気にしない、気にしない」
「そうかな〜、なんか気にするべきだと思うけど…」
つま先を思いっきりかかとで押されるスタディン。
「なにか言った?」
クシャトルがスタディンに向かって、微笑みかける。周りの人達は、気にせずに色々やっていた。
「そう言えばさ、コンティンスタンスさんはいつ来るんだっけ」
クォウスが聞いた。
「今日の午前10時だよ」
瑛久郎が答える。
「だからそれに間に合うように準備しているんじゃないか」
ルイが言う。
「とりあえず、もって行くべき物はそろったな。あとは、時間が来るのを待つばかりか…」
40分が経過して、外から音がした。微かな音だったから誰も気がつかなかった。インターホンがなり、お母さんが玄関へと走る。部屋の中へ通されたのは、コンティンスタンスさん自身だった。
「おー、準備が出来とるな」
「はい。すでにいつでも行けるように準備を整えています」
「じゃあ、早速じゃが、あの約束を果たしているかどうか確認させてもらおうか」
「高校は無事に卒業しております。ここに、卒業証明書があります」
全員の分をそろえて、スタディンが提出した。コンティンスタンスさんは、それを確かめて、
「確かに、全員卒業しておるようじゃな。感心、感心」
「では」
アダムが期待に満ちた目でコンティンスタンスさんを見ている。
「修行をはじめようか。じゃが、その前にまず確認する事があるんじゃ。昨日、夢を見たかな?」
「いいえ、見ませんでしたが」
愛華が言う。
「何かあったんでしょうか」
「いいや、昨日は見る人と見ない人がいたはずなんじゃ」
「と、言いますと?」
シュアンが聞いた。
「うむ。まあ、その話をすると長くなるから、とりあえず、出発するとするか。ああ、そうじゃ。今回の修行は、君達以外の人達と合同で行うことになった。それと、今回の修行は、魔力を高める事と、有効的に使うことを目的としておる。じゃが、最後の試験では、これまでの修行よりもさらに魔力が低下する場合がある。君達はその事に耐えられるかな?」
「私達は、これまでも幾多の困難に耐えてきました。これ以上の困難でも耐えれる自信があります」
スタディンが代表して言った。
「そうか、では、こちらへ…」
「どうか、息子達を、無事に帰してくださいね」
「ああ、その点は保証しましょうぞ。イフニ夫妻」
成長した子供達を見送るために、家の外まで来た。
「では、いってきます」
一人前に成長した息子達を前に、お母さんは、泣きはじめた。
「大丈夫だって、母さん。これまでもちゃんと帰って来れたじゃないか」
「だけど、今回は、死ぬ可能性だって…」
コンティンスタンスさんが前に出て、お母さんの手を優しく握った。
「大丈夫ですよ。私が保証しましょう」
「では、ちゃんと帰ってきて…」
みんな、後ろも振り返らずに新世界へ歩いていった。