第47部
第4章 魔法が使えるように
上の世界へ行くのは、久しぶりだった。
「何年ぶりかな」
クシャトルが言う。エレベータの中は前と同じだったが、ひとつ違うのは、重力が異常に高く感じることだった。話をするのも一苦労である。
「そうだね。3年の夏休みの時に、少しだけいたけど、それっきりだね」
スタディンが答える。話が途切れ途切れになる。みんなは話さずに、この重力に身を委ねているようだった。椅子には座らずに横になっている。
「上では、父さんと母さんがいる事になってるから」
「そうだったね」
減速しはじめた。500?過ぎたのだ。音声が流れる。
「500?過ぎました。これより減速します。皆様は、席にお座りください」
放送が流れはじめても、みんなは席に座ろうとはしなかった。
「そういえば、昇りは何で800?間のトップスピードを維持しないの?下るときはしていたのに」
クシャトルがたずねた。
「下から空気圧であげているんだよ。だから、下へおろすときは、空気を抜けばいいけど、上に行くときは、空気を入れる必要があるんだ。そのせいで、500?で減速はじめるんだよ」
だが、これ以後、会話は無かった。
エレベータが、無事に到着した。エレベータの扉が開くと、あの事務所が出てきた。
「予定通り到着だね」
あの人もいた。
「お久しぶりです。所長さん」
「いや、もうその肩書きは古いから」
「ああ、そうでしたね。一番最初にあったときの事が忘れなくて」
スタディンが所長さんに話しかける。
「一番最初?」
クォウスがクシャトルに聞く。
「一番最初に何があったの?」
「ん?まあ、いろいろね」
はぐらかすクシャトル。
「まあ、いいじゃないか」
スタディンが会話をさえぎる。
「そうだね。またいずれちゃんと聞くからね」
クォウスはすぐに引き下がった。
「うん」
クシャトルはほっとしたようだ。
「じゃあ、こっちに来てくれないか?これから、被爆の確認をするから」
「え?なんで?」
「この宇宙エレベータは、長い間いる事を禁止されているんだ。5年間に2回以上来た人は、2回目以降毎回被爆の確認が必要になるんだ。まあ、費用は全額国持ちだから、一般人が費用面を気にする事はないんだけどな」
「とりあえず、それを早く受けて、家の方に戻ろう」
「そうだね」
検査の結果は、全員陰性だった。
「ということは、どういう事なの?」
「全員、異常なし。被爆量は、国が定めている量よりも非常に少ない。だから、安心して中へ入ってもかまわないと言うことだ。ああ、そうだ。クシャトルとスタディン。君達、特進したって聞いたが?」
「ああ、もう3年も前の話だよ。階級は、宇宙軍将補だ」
「ほー。それに、これから何のようなんだ?また、この宇宙ステーションに」
「ああ、コンティンスタンスさんのところへいって、弟子入りを頼むところなんです。もう、許可は下りているので」
「ちゃんとか?魔力の確認はしたのか?」
「ええ、3年前までに、全員終わっています」
「そうか」
それだけ言って、書類にはんこを押して、
「まあ、気を付けて」
「分かりました」
「それと、スタディンとクシャトル。遅れたが、受賞と昇格、おめでとう」
「ありがとうございます」
事務所を後にして、待ち合わせ場所の、中央公園に行った。
そこでは、町内会の会長さんと、イフニ兄妹の両親と、コンティンスタンスさんがいた。
「ただいま」
「おかえり」
スタディンとクシャトルは、彼らの両親に、帰宅した事を告げた。町内会の会長さんは、
「この二人か。あの、3年前に、最年少で宇宙軍将補に昇格したのは」
「ええ。そうです会長さん」
コンティンスタンスさんは、黙って微笑んでいた。
「これからは、コンティンスタンスさんのところでお世話になる予定です。ですが、部屋が足りるのでしょうか」
「案ずるな。ほれ。3年と少し前、この宇宙ステーションにいたとき、ジャン・スクーム・イルードから、賢者の石を渡されなかったか?」
「ああ、はい。確かに受け取りましたが」
「それを今持ってるか?」
「ええ。肌身離さず持ち歩いています」
「よろしい。それが必要になる。だが、今は、まあよろしいじゃろう。今日は、ゆっくり休み、明日は、魔法協会の船があるから、それで、第2惑星まで移動じゃ。覚悟するように」
「分かりました。まあ、がんばりましょう」
「その意気じゃ。では、イフニ・シュバイツさん、イフニ・カパスさん。明日、あなたの家に伺いますので、その時に、あなたの息子さん方をお預かりしましょう」
「ちゃんと、無事に帰してくださいね」
「それは保障しましょう。そのときまで、しばしの別れを」
その場で光となり、コンティンスタンスさんは、どこかへ消えた。
「私達も家に帰りましょうか。半年ぶりに帰ってきたと思ったら、すぐにどこかへ消えて行く愛すべき息子のために、ささやかな晩餐会を開く予定だからね。町内会会館の一部屋貸しきりで」
みんな、その場所へ急いだ。おなかがすいていたのだ。
「ふぁ〜。ようやくご飯だ〜」
町内会会館の中は、お祭りムードだった。
「なにせ、この町の有名人が、お帰りだからね」
「そうだよ。史上最年少で、宇宙軍将補に昇格したんだから。みんな張り切って、料理を作ったんだよ。半年前は、いろいろとあった上に、町内会長や他の人たちが、ピッタシ町内旅行に出かけていて、イフニ夫妻だけしかいなかったからな」
立食パーティーだった。目の前の白いテーブルには、色々なお祝い事の料理があった。例えば、赤飯や、鯛や、他にも色々。
「こんなに食べきれないと思うけど…」
ポロリと、本音が口から出てしまったスタディン。近くにいた人が振り返り、微笑みながら、
「大丈夫だよ。なにせ、残ったら皆が分け合って持って帰るからね」
と言って、再び食べはじめた。他の人達も、楽しみながら食べていた。
「ま、いいか」
そうつぶやいて、このパーティーに参加した。
50分も経つと、あんなにあった料理の数々が、きれいに無くなっていた。燕尾服を着た人が、紅白のリボンのついたマイクを持って、一段だけ高くなっているステージの上に立ち、
「えー。皆様、お楽しみいただけましたでしょうか。では、本人も知らないイベントです。スタディンさんとクシャトルさん、このステージへどうぞ」
招かれるがままに、ステージまで上って行った二人。
「これから、町内会会長より、名誉町民の称号授与式を開式致します」
盛り上がる観客。盛り下がる二人。だが、表面上は盛り上がったふりだけはしていた。
「第346号、イフニ・スタディン様。あなたは、これより、生涯本町内会の名誉町民の称号を与え、その栄誉をここに与えます。新暦369年4月1日。おめでとう」
町内会長から手渡しされる賞状と、記念メダル。
「第347号、イフニ・クシャトル様。以下同文。おめでとう」
スタディンと同じようにして、手渡しをする。その間、他の人達は拍手をしていた。
「以上を持ちまして、今回のパーティーを終了します。残った料理は、お好きな方がお持ち帰っていただくよう、おねがいします。なお、外から持ち込んだものについては、各自責任を持って、ゴミ箱に捨ててくださるよう、重ねてお願いいたします」
ステージで、あまり焦点が定まらない目をしている二人を、アダムとイブが運んで行った。