第46部
「で、どうだった?昇進した気分は」
「ああ、とてもいいよ」
リムジンの中で、ホテルに戻りながら目の前に座ったお父さんと話すスタディンとクシャトル。
「うん。とてもいい気分だよ。ただ、なんか背中に背負っている荷物が重くなったような感じはするけど」
「それでいい。それで普通だ」
「もうすぐホテルです。みなさん。降りる準備をしてください」
「おお、もうそんな所か。皆は、楽な格好になってまたロビーに集合な。そのあとは、観光ついでに昼食を食べて、夕食はこのホテルだな。それで、7時ぐらいから、コンティンスタンスさんが来るそうだから、それももてなす必要があるな」
そうこうしている内に、ホテルに着いた。ホテルでは、いろいろな人がこっちを見ていた。
「なんか、すごく見られているんですけど」
「それは当然だ。なにせ史上最年少で将補まで来たんだから。誰でも見たがるよ」
「そんなものなんかな?」
「そんなものだよ。人間は結局、物見高いひとつの種族に過ぎないんだ。それが繁栄しているんだから、自然って言うのは…」
「早く降りて下さーい」
「あ、すいませーん」
全員降りると、すぐに、マスコミがどこからとも無く沸いてきた。ただ、一切話さずに、ホテルの中へ入って行った。ホテルの外では、クリルさんが色々と話しているようだった。
「なんか余計な事を話さなければいいんだけど…」
クシャトルが、口に出して言う。
「大丈夫だって。あの人なら…」
「ほらほら、早く部屋に戻って着替える。ああ、そうだ。これがこのホテルに届いていたそうだ。君達あてだろ?」
アダムが、二人に渡す。長細い袋に包まった何かが、スタディンとクシャトルあてに届いていた。
「とりあえず、ありがとう。部屋に戻って、休憩できる状況だったら、開けて見るよ」
「そうだな。今は何か一息つける状況じゃないしな」
「ねえねえ、お兄ちゃん、あの服着てみようか」
イブがアダムに言う。
「ああ、あの服か、でもあれは明らかに外出向きじゃないな」
「そう…」
イブは、それからスタディンのすぐ横をずっと歩いていた。
「このホテル内にいる分にはこたえないと思うから、このホテルにいるときに着たら?」
「そうする。じゃあ、早く部屋に戻ろう」
「そうだな。ここに立っていたら、外にマスコミがうるさいからな」
全員すぐに部屋に戻った。クリルさんは、ずっと、マスコミと応対していたようだった。
6時間後、観光から帰ってきて、すぐに夕食を食べた。さらに30分後、部屋に戻っていた。
「そういえば、昼渡されたこの中身を確認していなかったな」
スタディンがソファーに座りながらクシャトルに向かって言った。
「ああ、そうだね。今から確認してみようか」
長細い袋を取り出した。部屋の中にいた、子供達全員が集まってきた。
「これは何?」
シュアンが聞いた。
「さあ、これから開けて見るところだよ」
「見ていてもいいかな?」
「どうぞ、ご自由に」
すっと、テーブルの周りに人垣が出来る。そのテーブルの上に、やさしく袋を置いた。大体、テーブルの2倍の長さがあった。
「じゃあ、みんな開けて見るよ」
みんな息を潜めて袋が開かれるのを見守った。袋の中から出てきたのは、日本刀だった。しかし、こんな刀を見た事が無い人達にとっては、危険なものだった。
「これは何だ?軍刀か?」
「これは、日本刀だね」
ルイが説明をする。
「日本刀?あの博物館とかに置いてあるあれか?」
「博物館に行った事が無いから分からないけど、これは間違いなく日本刀だよ。昔、同じ物を見た事がある」
そう言うと、ルイは、スタディンから刀を借りて、刀を鞘から抜いた。艶やかに光る刀身。
「間違いないね。本物だよ」
「何で分かるの?」
「ほら、ここを見て」
ルイが指さした場所は、何か波打っているような感じだった。
「これは?」
「この刀を作る際に、たたいて整えたり、切れ味を出すために削ったりするんだけど、その時に出てくる模様なんだよ。これは、日本刀独特だから、分かるんだよ」
「へえー。良く知ってるね。元の世界では何になりたかったの?」
「いや、まだ何になりたいって言うことはなかったな。ただ、漠然と、稼ぐ事は考えていたな」
「それよりも、何で日本刀なんか送られてくるの?」
「多分軍刀だと思うよ。昔はよく腰に挿していたからね」
「という事は、これも軍服を着ているときに腰に挿すのか?」
「そうだね。基本的には、銃とかに付けて、戦闘に参加したり、そのもので斬りあったりするけど、いまは、ただの飾りだね」
その時部屋に付いてある電話が鳴った。
「なんだろう?」
一番電話に近かった、瑛久郎が電話を取った。
「はい。あ、はい。分かりました。では今からそちらに向かいます」
電話を置き、皆に向かって、
「コンティンスタンスさんが到着したって。フロントの人から」
「よし。じゃあ、行こうか」
下に降りると、一人だけ明らかに周りから違う雰囲気が出ていた。
「おお。やっときたか」
「お久しぶりです。コンティンスタンスさん。ご機嫌いかがですか?」
「いやいやいや、そんなに固くなくてもいい。それより、昇格おめでとう」
「ありがとうございます。今日は、どうしてここに?」
「ああ、君達は知っておろう。すでに、ここのオーナーであるクリルからは、許可はもらってるから、早速行こうか」
「分かりました。では、こちらへ」
スタディンが、コンティンスタンスさんを、部屋まで案内した。
部屋に来ると、すぐに、荷物を置き、ソファーがあった部屋から、全部、荷物を別の部屋に持って行った。
「あとは、陣を書いて、準備終了じゃな」
その間、子供達は、寝室に行かされていた。
「魔力の確認って、どうやってやるの?」
愛華が、イブに聞いた。
「私のときは、コンティンスタンスさんじゃなかったからね。人によって違うかもしれないから…」
「そう」
クシャトルが愛華に言った。
「私のときは、コンティンスタンスさんだったからね。私の場合は、ただ、魔法陣に立たされて、なんか白い光に包まれたね。で、それでおしまい」
「それだけ?他には無いの?」
「もしも、こんな簡単な検査じゃなくて、精密な検査をする必要があれば、もっと、違うんだけどね。簡易検査はそれでおしまい」
扉が開き、コンティンスタンスさんが入ってきた。
「準備が出来たぞ。さあ、誰からする?」
とりあえず、ジャンケンによって、瑛久郎・愛華・シュアン・クォウス・ルイと言う順番になった。
「じゃあ、自分が一番だね」
瑛久郎が部屋から出て行った。
「がんばってね」
扉が閉まって、向こうの音が完全に聞こえなくなった。
「大丈夫かな」
「大丈夫だって。それに、すぐに終わるよ」
その言葉どおり、30秒ぐらいで帰って来た。
「次の人〜」
「はーい」
愛華が入って行った。
「どうだった?」
「いや、なんかよく分からない…頭が正確に働いて無いような感じがする」
「それが普通だよ」
スタディンが言う。
「とにかく、横になって、体を休めるんだ」
愛華が帰ってきた。
「ただいま〜」
「私の番だね」
シュアンが入って行った。
「気分は?」
「最悪…なんか、頭が痛い…」
「君も寝てるんだ。少しでも寝てると気分が違う」
「そうだね」
シュアンが帰ってきた。
「どうも〜」
「私だね」
クォウスが入って行った。
「どう?」
「しんどい。寝たい」
「どうぞ」
ベットの方へエスコートして、横にした。
「みんなしんどくなるんだね」
「理由は知らないけどね」
少し間があって、
「できたぞ」
扉の向こうから声が聞こえた。
「みんなこっちに」
立ち上がり、寝てる人も起こして、連れて行った。
「よし。皆の分の魔力の確認が出来た。とりあえず、最初の人から言うと、152、142、148、153、157だな。まあこれは、全国民平均が、100とした場合の値だからな」
「157という事は、相当上ですね」
「ああ、このなかでは、一番多いな。まあ、同値だが」
「えっと、最初の人から順に、瑛久郎・愛華・シュアン・クォウス・ルイだから、すごい家族ですね。全員、魔力が非常に高い」
「そうだな。自分もこの道に入ってから相当になるが、こんな家族は初めてだ」
「そうなんですか?」
「ああ、ここにいる他の人は、101、96、157、149、だからね」
「へえ〜。で、あの計画に必要な人材は集まりそうなんですか?」
「ああ、とりあえず、皆にも協力して欲しいから、とにかく、高校は行ってくれ。ただ、クォウスとルイは、とりあえず、今の時点で、とても魔力が高いから、通信教育でもいいだろう」
「高校の通信課程ですか」
「そうだな。とにかく、それだったら今からでも行ける」
「私達は、何故高校に行く必要があるのでしょうか」
「それはな、高校に行ったほうが、勉強がしやすいからなんだ。通信教育でも出来るが、それより、直接行ったほうが効率の面でもいい」
「そういう理由ですか。とりあえず、次会うのは高校卒業後ですね」
「もしかしたら、もっと早く会えるかもしれないがな」
「では、またそのときに」
「ああ」
コンティンスタンスさんは部屋から出て行った。
それから、1ヶ月たった。高校の受験は無事に終了し、ちゃんと合格した。
「第300回生入学式をはじめます。新入生、入場。今回、入学試験に合格したのは、320名です。特別優待生が、そのうちの20名です」
スタディンたちは、今日から、高校生になった。だが高校時代と言うのは、あっという間に過ぎていくものだ。スタディン達も、気付けば、3年も過ぎた。高校を卒業して、大学進学永久資格を取得した。
「とりあえず、これで、コンティンスタンスさんのところへいけるね」
「ああ。家に帰って、準備をして、上に向かおうか」
家に戻り、皆は準備をした。
「あら、コンティンスタンスさんのところへ行くんだね」
「うん。これからは、上の世界に行ってるよ。コンティンスタンスさんは、宇宙ステーションで合流して、そのまま、第2惑星まで行くって」
「また、電話をちょうだいね」
「分かってるよ」
準備は、前々からしていたから、すぐに整った。
「では、行ってきます」
「ちゃんと帰ってらっしゃいよ」
「分かってるよ」
家から旅立って行った。新たなる舞台へ向けて、人々はみな準備する必要がある。