第44部
「お待ちしておりました。スタディン大佐。クシャトル大佐。では、お乗りください」
公用車の運転手の人が、扉を手で開けて、招き入れた。この公用車の後ろに、他の人達を乗せたリムジン走らせるようだ。
「ああ」
まず、スタディンが乗り、次にクシャトルが乗った。
「では、出発します」
ゆるやかに車は走り出す。だんだんスピードを増したが、法定速度を遵守しているようだ。
「自己紹介がまだでしたね。私は、今回、あなた方をちゃんと、宇宙軍総司令部第1講堂守衛詰所に届けるように、兵部省大臣閣下から、指示を受け取った、島田円洲です。どうぞよろしくお願いします」
「ああ、分かった」
それ以後は、どこかの音楽の話や、取りとめの無い話を繰り返ししていた。そうこうするうちに、宇宙軍総司令部第1講堂守衛詰所に到着した。
「到着しました。ここが宇宙軍総司令部第1講堂守衛詰所です。これ以降は、車の走行は禁止されていますので、徒歩となります」
「なぜだ?まだ道は続いているようだが」
スタディンは、前の道をみながら聞いた。円洲さんは、車を降りながら言った。
「これからは、この詰所の中を通っていきます。そのせいでここで車を降りて、歩く必要があるのです」
「そうか、それならば仕方が無いだろうな」
スタディンが車を降りながら言った。クシャトルもすぐに降りて来る。後続車はもう降り終わっていた。
「で、これからは、どこへ向かうのだ?」
「あそこの建物です」
円洲さんが指差した先には、大きい白い建物があった。完全な半球状の建物で、そして、結構な距離がありそうだった。
「どれくらい離れているんだ?」
「だいたい、2kmぐらいですね。では、参りましょうか。ああ、それと」
向きを変えて、後ろの車から降りた人達に言った。
「すいませんがあなた達は、この詰所で発行される、通行許可証をもらってください。そうじゃないと、逮捕される恐れがありますので」
「私達は?」
クシャトルが聞く。
「あなた達は、この宇宙軍の中でもとても有名な人達です。それに、その軍服を着ていたら、大体は何も聞きません」
「そうか」
スタディンがうなずく。他の人達は、許可証を首からぶら下げていた。
「みなさん、終わりましたね。では、こちらへどうぞ」
円洲さんが歩きはじめた。皆も、歩きはじめた。この詰所の先には、いろいろな場所へつながる通路があった。そのうちのひとつを間違えることが無いように、何度も確かめて進んだ。
「ここで迷子になる人っているんですか?」
「ええ。はじめてここに来る人なら、たいてい迷いますね。ここの場所は別名、迷宮、って呼ばれているぐらいですからね」
「あなたは大丈夫なんですか?」
「いいえ、あまりまだ覚えていないんですよ。ですが、大丈夫です。各通路の床には、いろいろな色の線が引っぱってあって、それをたどってゆけば、ちゃんと目的地にたどり着けるって言う算段ですよ。まあ、それでも、何人かは確実に迷いますね」
「それって、危ない設計じゃあ…」
「いいえ、もしも、悪意を持った人がここに来ても、すぐにたどり着けないようになっているんですよ」
足音と話し声が、明るく開放的な通路にこだまする。
「ああ、あと少しですね。皆さんがんばってください」
この頃になると、話し声もあまり無くなり、みんなは、ただひたすら目的地へ向かって歩き続けるだけだった。
「なぜ、近くって分かるんですか?」
うしろから、誰かが質問した。
「さっき、目印があったんですよ。それで分かるようになっているんです。ただ、その目印が分かりづらく作られていて、普通は通り過ぎてゆくようになっています」
角を曲がると、目の前に扉があった。
「ここが、宇宙軍総司令部第1講堂です。私も今回は、出席する事になっています」
「そう言えば、今回の式典は、どんな内容なんだ?」
「これが式次第になります。これを見てください」
すっと、全員に淡いピンク色の紙が渡された。それを、ルイが小さな声で読み上げる。
「特別昇進関係式典。式次第。1、開式の言葉。2、先の大戦における功労賞の授与。3、先の大戦において特進の辞令の発布。4、閉式の言葉。5、特別講演・現兵部省大臣八継太一郎。以上」
「なんか、長そうだね」
「大佐方は、この2と3に出る事になっています。そのときだけは、居て下さい。5は、居たい人だけがいればいいです。まあ、そんな人はあまりいませんが」
扉が開かれて、中へ招き入れられた。
「すいません。あなた方は座ってはいかがですか?」
「ああ、これは失礼しました。では、どうぞ中へ」
円洲さんの案内で、中へ入った。
「そう言えば、今何時?」
「今?今はな…9時ちょうどだな」
「あと、1時間もあるな」
「どうしようか、あと1時間」
「とりあえず、式次第の確認だけでもしといたら?それだけでもいくらか違うよ」
「そうだね。そうしておくよ」
「大佐方は、特別席がありますので、そちらの方に。他の方々は、一般観覧席に居て下さい」
「ああ、分かった。じゃあ、式典が終わったら、ここに来るよ」
「分かった。じゃあ、緊張するなよ」
「分かってるよ。じゃあ、また」
「ああ」
スタディンとアダムは、簡単に別れの挨拶をして、他の人達は、それをする必要は無いというように、何も言わずに分かれた。
30分前から、人が集まりだした。
「ようやくか…」
「え?何が?」
一番いい席をいち早く確保したイフニ兄妹が座っていた。ずっと後ろの方には、家族がいた。
「もうすぐだね。なんか緊張するね」
「トイレ行くなら今のうちだぞ」
「そうだね。少し行っておこうかな?」
「それなら、席を取っておくしな」
「じゃあ、よろしくね」
クシャトルは、トイレに行った。スタディンは、一人、待っていた。
クシャトルが帰ってきたのはそれから10分後だった。
「次は自分が行ってくる」
周りも幾分埋まりだした。
「うん。ここで待ってるね」
クシャトルが座り、スタディンがトイレに行った。
さらに5分後、スタディンが帰ってきた。
「あと、15分。さて、どうなるかな?」
「どういう事?」
「このぐらい大きい行事になると、必ず遅刻者が出るんだ。さて、誰がなるか…」