第43部
(いつもどおりだが、また、この世界に来てしまったのか。さて、今日はどんな国かな)
横から熱気が伝わってきた。
(熱いな。この場所は、とにかく、向こうに町みたいなものが見える。そこへ歩いてゆこう)
ただ、まっすぐに伸びる、アスファルトの道。地平線と自分が立っている場所の間に、建物が見えた。それ以外は、荒涼とした砂漠のようだった。スタディンが歩いていると、集まっている人たちがいた。全員、みた事がある顔だった。
(「ああ、君達も来ていたのか」)
お決まりのメンバーだったが、一人だけ、違う人がいた。
(「スタディンよ。ここはどこだ?」
「ここは、私達の体が眠る場所とは違う、精神世界のひとつです。私達の脳波が完全に一致した時、このような「夢」をみるのです」
「じゃあ、ここは、夢の中の世界と言うことか?」)
「そういうことだ」
別の角度から、声が聞こえてきた。
「ああ、やはりおりましたか、この世界での時の神の化身、夢の王、そして、コンティンスタンスさん」
「コンティンスタンスさんって、あの、魔法協会の…!」
「そうです。私がコンティンスタンスです。あなたと会うのははじめてでしたね。山川満さん」
「何故私の名前を?いいや、それよりも、なぜここに?」
「ああ、それはですね。あなた達をここに招待したからですよ。いや、特に話と言うのはないのですがね。こういうふうに、毎日会うと何か変るものなんですよ」
「そんなものですか…では、私がここに呼ばれたのは」
「単なる偶然です。ただ、偶然も重なると必然になる。という事もいいますし。まあ、立ち話もなんですから、この後ろの建物へお入りください」
「え?建物は、まだ遠くに…」
後ろを振り向いた、山川さんは、開いた口も塞がらないほどの驚きを感じた。
「何故…さっきまで、向こう側にあったのに」
「これが、精神世界のなせる業ですよ。ささ、入りましょう」
山川さんは、いまだに驚いているようだったが、他の人達は平然と建物の中へ入って行った。
「いやはや、今回の精神世界はちょっと、きついですな」
「人の現在の精神を反映していると言いますがね」
「まあ、それよりも、今日は、明日の事について、話にきましたのでね」
「明日と言えば、授賞式ですな」
「正確には、明日ではないのですがな。もうすでに、今日になっているかもしれないので」
「そう言えば、気づいていましたか?あなた達は、オーストラリアから、日付変更線を通って、このワシントンまで来ています。という事は」
「もしかして、日付が一日ずれているとか」
「その通りです。まあ、私の力で、その時間はどうにかしといてあげましょう。そうじゃないと、色々困りますからね」
「ありがとうございます」
「あと、スタディンとクシャトルは、軍服を持ってきたか?」
「いいえ。必要でしたか?」
「当然だな。しょうがないから、今回は、朝一番の便で、そちらのホテルに届くようにしておこう。ただし、今回だけだからな。さて、もうそろそろ朝だな。現実世界は」
「という事は」
「授賞式当日だ。まあ、みんながんばれよ」
「はい。分かりました」
「では、ゆっくりと体も頭も休めて、明日に備えなさい」
すっと、目を閉じた。
「皆様、朝でございます。起きてください」
クリルさんが直接部屋の扉を開ける。なかでは、皆が仲良く寝ていた。普通なら起こさずにそのままにしておくのだが、今回は事情が違った。部屋の中に入り、寝室を見る。ベットの位置が違うことは気にもしなかった。
「みなさん、朝ですから起きてください。さもないと、授賞式に遅れますよ」
シングルベットで一人寝ていた山川さんが起きた。
「ああ、もう朝か…おはようございます。クリルさん」
「おはようございます。山川様。ただ、もう8時でございます。今起きないと、授賞式に遅れます」
「それなら、皆を起こさないといけないな…」
「そうです。では、起こしてくださいますか?」
「ああ。みんな、起きろー!」
ベットを揺らして起こす山川さん。みんな、現実世界の中に戻ってきたようだ。
「あれ…もう朝…?」
「そうだ、もう8時だ。これから朝食だ。今起きないと朝食抜きで授賞式に出る羽目になるぞ」
「それは困った。では」
スタディンとアダムと瑛久郎が最初にベットから立ち上がった。次に、丹国3兄妹が立ち上がった。最後は、クシャトルとイブと愛華が立ち上がり、みんな起きた。すぐに着替えて、5分後には、みんな出発できるようになっていた。ただ、スーツではなかったので、朝食を食べ終わったら、戻って、また着替える必要があったが。
「ああ、そう言えば、今日の朝一番の便で、スタディン様と、クシャトル様に、お荷物が届いております」
「私達に?」
「そうです。今お渡しいたしましょうか?」
「この部屋のソファーに置いといてくれないかな」
「承知いたしました」
「じゃあ、ご飯食べに行こうか」
「そうだね」
みんな、着替え終わり、部屋から出て、昨日行ったレストランに行った。
「いらっしゃいませ。山川様ですね」
「そうだが、他の人達は?」
「すでに、入られております。こちらへどうぞ」
ウェイターが案内をする。
「お客様が泊まっていらっしゃる間中、本レストランは、食べ放題となっております。なお時間は、90分間となっております」
「そうか」
「こちらです」
「ああ、やっと来たの?」
見知らぬ人が言った。
「あの、あなたは?」
「私?私は、ここのホテルの社長の妻の、エア・シルビアです。あなたは、スタディン君よね」
「はい、そうです」
「はいはいはい、とりあえず、ご飯食べよ」
「そうですね。早く食べないと、後が危ないですからね」
席に座り、食べはじめた。
「ふー。なんか色々食べたな」
「ゆっくりしている暇は無いぞ。さぁ、急いで部屋に戻って、着替えよう」
「山川さんの言うとおりだよ。早く着替えよう」
席を立ち、部屋へと戻る。
「この袋だね。朝言っていたのは」
「そうみたいだね。それに夢の中で行っていた服だと思うよ」
「ああ、あの服ね。とにかく、開けてみよう」
「うん」
がさがさと中身を出した。
「やっぱり…軍服か…」
「うん。しかも、肩の記章も、バッチシ付いてるし」
「まあ、さっさと着てみようか」
「そうだね」
スタディンとクシャトルは、その軍服を着た。
横の部屋で着替えていた、他の子供達は、着替え終わりソファーがある部屋に戻ってきた。
「あれ、その服って」
「うん。ちゃんと肩に記章もあるんだよ」
「えっと、君達の階級は…」
「一応大佐。でも、何で大佐になったかは、まったく分からないんだ」
「そうなんだ。そういう事は教えてもらうんだと思っていたよ」
「とりあえず、準備出来たなら、さっさと、出発するから、ロビーのところに集合な」
山川さんが皆に説明する。
「はーい」
子供達は、返事をした。
「じゃあ、先に行ってるからな。すぐに来いよ」
「分かりましたー」
山川さんは、扉を開けっぱなしにして、下に降りて行った。
「早く行こうか」
「そうだね。皆を待たせると悪いもんね」
子供達は、扉を閉めて部屋から出て行った。
「おー、やって来たか」
クリルさんがこちらをみながら言う。
「あれ、スタディン君とクシャトルちゃんは、軍服なんて持っていたっけ」
「ええ、今日、朝届いたんですよ。それに、手紙が入っていて、着てくるようにという指示があったんで」
「そうなんだね」
紗希さんが言う。
「さて、全員集合したかな?」
クリルさんが全体を見渡して、誰と言わずに聞いた。
「うん。集合したよ」
アダムが答えた。
「では、公用車が来ているから、クシャトルとスタディンは、その車に乗って。ほかの人達は、昨日乗った、あのリムジンに乗ってもらうから」
「はーい。分かりましたー」
みんな行動した。