第42部
30分もしないうちに、ホテルが見えてきた。
「あれが私達が泊まるホテルです。わが社が経営しております。では、到着しだいご案内させてもらいましょう」
「よろしくお願いします」
車は正面玄関で止まった。
「こちらで降りてください」
合成音声が聞こえてきた。
「この車に備え付けられていますAIです。では、降りてください」
皆が降りて、車は運転手のみを乗せて走り去っていった。
「荷物は、すでにおろしております。ボーイを呼びますので、しばらくお待ちを」
クリルさんは、営業用の笑顔と思われる笑顔でこちらを見ていた。向こうの方から、このホテルの制服を来た人が走ってきた。
「お呼びでしょうか」
「ああ、このお客様達の荷物を運んでくれ。部屋は、309と310から313。ただし、309は、20歳未満用にして9人泊まれるようにしておいてくれ」
「かしこまりました」
一礼して、少し何かを待っているようだった。
「おお、そうだったな」
この国の最高紙幣である、1万GACを渡した。
「では、運ばさせてもらいます」
一人で何往復もしながら運ぶようだった。
「私達は、このホテルの中を案内しましょう」
クリルさんを先頭にして、みんな歩きはじめた。
中に入って部屋に向かいながら説明をする。
「このホテルは創業23年目です。今までに数々の著名人がお泊まりになりました。このホテルの名前の由来は、エア・ワシントンと言うホテルを私の先々代が作りまして、そこが2棟あったんです。そして私がここにもう1棟作りました」
「だから3号館という…」
「そういうことです。このホテルは、地下2階地上15階建てで、総部屋数350個あります、ファミリー向けのホテルです。地下には、遊技場を併設しており、日帰りのお客様にもお楽しみいただけるようになっております」
クリルさんが通ると、ごく自然な動作で、人が左右に分かれてゆく。
「このホテルは、震度15クラスの地震でも耐えうる設計になっており、完全、安心のホテルです」
エレベータの前に来た。ボタンを押し、来るのを待つ。
「このホテルの宿泊者数は何人ぐらいなの?」
「今年ですと、約3万名のお客様に泊まっていただいております。まだ本日の分は出ておりませんので、昨日までということですが」
「今年、3万人ですか。いやはや。株式は発行しているのですか?」
「ええ。無論です。今の株価は、1千株1単位で、340030GACです」
「高いか、安いか分からんな」
「株と言うのはそういうものです」
エレベータの扉が開き、乗り込んだ。3階のボタンを押す。
「お客様方は、309号室が子供専用の部屋となっており、他の310〜313号室となっております。えっと、まだご到着なられていないお客様も、いらっしゃるようですね」
エレベータが静かに、ゆっくりと動きだす。
「そうね、あなたの奥さんと、イフニ兄妹の両親がまだね。彼らさえ来たら、みんなそろうわね」
「私の妻は、もうすぐ到着する予定ですが、さて、イフニ兄妹の両親は…」
「いつ到着するか分からない。残念ながら」
エレベータの扉が開く。
「ああ、到着したようですね。では、ご案内しましょう」
平然とホテル内を歩く、クリルさんの後ろを、みんなは、歩いていた。1分ぐらいで止まり、こちらの方を向いた。
「みなさん。ここが、309号室です。とりあえず、20歳未満用にしておりますが、気に入るかどうかは別問題です」
「とりあえず中へ入りますよ」
「どうぞ」
シュアンが部屋の扉を開ける。中へ入ってゆく。他の人たちも中へ入っていった。
なかは、飛行機内のように、落ち着いた内装だった。ベットが、ダブルサイズが4つと、シングルが1つ置いてあった。
「この部屋は、もともと、お子様が泊まるように作られた部屋なんです。だからこのように、主寝室が広く作られているのです。何名でも入るように」
「これで、子供達は安心ね」
「ネット環境とかは無いの?」
「あるけど、この部屋にはつないで無いな。テレビがあるからそれで我慢しなさい」
「はーい」
嫌そうな返事だった。
「それと、この子供達の監督の方を一人付けて欲しいのです。もし、破損などをしたときに誰がしたかを決めるために」
「私がしましょう」
山川さんが手を挙げた。
「わかりました。あなたには先にこの部屋の鍵を渡しておきましょう。では次は、大人の皆様の部屋です。部屋の方は、310、311、312、313の4部屋を用意しております。全ての部屋は同じ構造をしております。どれを取っても不公平感はありませんよ」
「とりあえず夫婦で一部屋でいいわね」
「ああ、それでいいよ」
「では、誰がどの部屋を使うかを決めてください。その部屋の代表に部屋の鍵をお渡しいたしましょう」
夫婦が集まり、相談していた。そして、310号室が丹国夫婦、311号室が宮野夫婦、312号室がイフニ夫婦、313号室がエア夫婦、と決まった。
「では、それぞれの代表の人に、鍵をお渡しいたします。それでは」
クリルさんは、どこかへ消えていった。
「とりあえず各部屋に分かれて、荷解きをしましょうか」
「そうだね」
各部屋に分かれて、荷物を確認しにいった。
数時間後、
「本日の観光も終わったし、あとは、明日の授賞式だけね」
「そうだね。とにかく、部屋に戻って、寝よう」
「明日は何時からなの?」
「えっと、たしか、10時からだったよ」
「10時開始だと、入場開始は、大体9時からね。ということは、8時半時にここから出ればちょうどいいっていうことか」
「そういうことだね。とにかく戻ろう」
「ああ」
この数時間、荷解きも早々に観光旅行にしてしまったので、とても疲れていた。ホテルに帰り、ロビーにて。
「お客様の部屋は、312号室となっております」
「そうか、ありがとう」
(312号室?という事は)
カウンターから離れ、こちら側に横顔が向いた時、
「お父さん!」
といって、スタディンとクシャトルは駆けて行った。
「おお、もう着いていたのか」
「当然だよ」
その時、カウンターの奥から、クリルさんが出てきた。
「お待ちしていました。イフニ夫妻。お部屋には私自身がご案内いたしましょう。私達の息子と娘同士が結婚いたしますからね」
「やはり、聞いていたのですね」
「ええ。あなた達が聞いていた事は、少し分かりませんでしたが」
そういいながら、近づいて行っているクリルさん。
「これからも、よろしくお願いしますよ」
「こちらこそ」
かたい握手をする。
「では、こちらです。もうすぐ私の家内も到着するので、そのときに、少しお話を伺いたいです」
「では、部屋の方に荷物を」
「あ、それには及びません」
ひょいっと、荷物を持って、エレベータの方に二人を案内する。向こうの方に行ってしまって、もう会話は聞こえない。
「自分達は、階段で行ってみようよ」
「そうだね」
観光を済ませた人達は、階段の方に向かった。
階段は疲れた。3階につく頃には、みんな、へばっていた。
「もう、歩けない」
「負けるな大佐。自分の陣地はもうすぐだ」
壁にもたれつつ、進んでゆく。
313号室の前まで来たとき、中から声が聞こえた。
「…というわけでして、とりあえず、結婚は双方とも認めているのですね」
「そういうことですな。あなたの娘さんを、私の息子の嫁にして」
「私側は、その逆になる」
「まったくその通りです」
外から声がかかった。
「おーい。おいていくぞ、スタディン」
「あ、ちょっと先に行ってて」
「そうか。お前も何かと苦労があるんだな」
「え?どういう事?」
「別に何にもないさ」
部屋の中に入ってゆくアダム。後ろ髪を引かれる思いながらも、その場を後にした。
部屋の中に戻ると、荷物がまとまっていた。
「あれ?さっき出してなかった?」
「いや、散乱していたから、片付けたんだ。でも、まるで合宿みたいな状況になってしまったな」
「でも、これでいいんじゃない?」
「どうして?ただ、やかましいように見えるが」
ソファーに座り、言った。スタディンも座りながら、言った。
「だって、みんな楽しそうじゃないか」
アダムはよく分からないような表情をした。
「アダムって、他人の感情を読み取るのが苦手でしょう」
「何で分かる?」
「だって、分からないような表情をしていたからね」
寝室の方から、走り回る音がする。続いて、こちら側のドアが開き、丹国3兄妹が出てきた。後ろには、山川さんがいた。
「こらー!」
「わーい」
こちらに向かっていないことを確認して、
「何かしでかしたらしいな」
「ああ」
「なにをしたんだろうな」
「知るのも怖いよ」
ハハハ、と言うふうに、笑いあった。その時、ドアがたたかれて、人が入ってきた。
「もうすぐお夕飯ですので、下のレストランの方に来てください」
山川さんは、丹国3兄妹のうち、クォウスとルイを捕まえながら答えた。
「分かりました」
息切れしていた。
「では、失礼しました」
パタンと閉める。
「よーし、あと一人!」
「山川さん」
アダムが尋ねた。
「何やってるんですか?」
「鬼ごっこだよ」
「懐かしい遊びしてますね」
スタディンが言う。
「昔していたのか?」
「ああ、相当昔の話だ」
遠いところを見ている。
「とにかく、あと一人捕まえたら、おしまいなんだ」
「がんばってください。自分達は、一足お先に下に降りています」
「おう、そうか」
じっと、相手を見ていた。シュアンも、ずっと山川さんを見ていた。それを尻目に、すぐに部屋から出て行った。
「何もしでかしてはいなかったな」
「まあ、勘違いもあるだろうな」
「そうだな。とにかく今言えるのは、めちゃくちゃ、腹が減った」
「たしかにな。観光していて、昼以外食べていないからな」
「では、いこうか」
「ああ」
二人は、下に降りていった。
1階に行くと、すでに、何人か来ていた。
「遅いよ。お兄ちゃん」
「ああ、そうだろうな」
「とにかく、みんな来た?」
「いや、山川さんと、丹国3人兄妹は、上で鬼ごっこをしている。もうすぐ降りてくるんじゃないかな」
「そう。そういえば、宮野の双子は?」
「あれ、あの子達って双子なの?」
「そうだよ。二卵生双生児らしい。誕生日は、3月3日。もう過ぎたけど、これで満15歳」
「そうだったんだ」
「もしかして、気づいてなかった?」
「いやいや、ちゃんと気づいていましたよ〜」
少し冷や汗が出ている。
「本当かな〜?まあ、いいや。彼らも来ていないのかな?」
「彼らは今、トイレに行ってるんだよ。君達が来る少し前に」
「そうか。とにかくだ。今日の夕ご飯はなんだろうな」
「それはですね」
後ろから、クリルさんの声が聞こえる。
「いつからいたんですか?」
「あなた達が来てすぐにです」
「気づきませんでした」
「気配を消すことには慣れていますので」
「本職は何ですか?」
「それは、エア・グループの、総社長です」
「総社長?それはどういう?」
「総社長というのは、グループ内の、全ての会社の社長と言うことです。早い話が、各会社の社長の上の存在ですな」
「いや、まったく分かりません」
ウェイターが、クリルさんの耳元で何かをささやいた。クリルさんは、うなずき、そして、みんなに向かって言った。
「みなさん。料理の準備が出来たようです。では、レストランの方へ」
「ようやく夕ご飯か〜。なんかすっごくお腹空いたな〜」
「それに疲れたしね。まあ、ゆっくり休もうよ。明日は、授賞式当日だ」
レストランの方へ向かいながら話していた。
「本日はようこそ。わがホテルが誇る、エア・レストランへ!」
「なんか、名前のセンスが、無いような…」
「気にしないべきだと思うよ。とにかく今は」
「そうだね。今は、ご飯の方に集中しよう。えっと、今日の料理は」
「本日は、取り放題となっております。なお、料金の方は、宿泊費用に含まれております」
「時間制限は?」
「時間制限は、90分間となっております。お席の方は、こちらになっております」
ウェイターが、案内をする。料理に近いし、眺めもいい席に案内された。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ウェイターは、次の客を案内するために、去って行った。
「私達の貸切りじゃないんだね」
「しょうがないと思うよ。貸切りにしても、料理が余ったらもったいないからね」
「それもそうだね」
「では、みんな取りに行ってらっしゃい」
椅子から立ち上がり、料理を取りに行った。料理は、各国の伝統料理だった。非常にバラエティーに富んでおり、色々な料理があった。
30分もすると、みんな満足してきた。
「お客さん、多いね」
スタディンが言う。
「そりゃ、ここは、世界に誇れるほどの料理を出すからね」
アダムが答える。
「このホテルの宿泊客以外も大歓迎だから、その影響も、少なからずあると思うよ」
「そうか〜。それにしても、お腹がいっぱいになったね。何分経ったの?」
「大体30分ぐらいだね。そういえばさ、人間が何故満腹になるか知ってる?」
「え?何突然?でも、それは知らないなぁ。どうしてなの」
横から声がかかる。
「それはね、人間の脳の満腹中枢と言うところが関係しているの」
紗希さんが横から言う。
「満腹中枢?何ですか?」
「満腹中枢と言うのは、脳の中の間脳と言うところが関係している。その食欲関係の場所が、満腹中枢と言うのよ」
「そうなんですか。勉強になりますな」
「お兄ちゃん、親父くさ〜い」
真正面にいたクシャトルが言う。スタディンは、クシャトルのすねを軽くけった。
「いたっ」
少しこちらをにらんだように見えた。
「えっと、皆さん終わりですか?」
「そうだね。うん。終わったかな?」
「では、部屋の方に戻りましょうか」
「そうですね。戻って、今日は、9時ぐらいまでには寝ましょうか」
「あと、3時間ですか、なんとなく早いような…」
「気にしてはいけません。では、部屋の方に戻って、ゆっくりとしましょうか」
みんなは、再び席を立って、ぞろぞろと帰って行った。
部屋に戻ると、まず、お風呂に行く準備をした。
「ここのお風呂は、結構いいらしいよ」
「そうなの?それは聞いていなかったな。どんな事に効くの?」
「神経性の病気全般だって。あとは、皮膚病関係にも広く効能があるらしいよ」
「早く入ってみたいな」
「お風呂はすぐに人が入るから、もう入っちゃおうか」
「そうしよう。そうしよう」
子供達は、お風呂に行く事にした。
お風呂はすでに人がいた。
「やっぱり早く入る人もいるんだね」
「そりゃ、いるだろうさ。日本人と言えば、お風呂なんだから。そしてここは、日本人がいっぱいいるからね」
「ここの温泉は日帰りで入れるから、ワシントンの中でも人気の場所のひとつなんだ。もともと日本がまだ正常に機能していたときに、このホテルは建てられて、それ以後、あのクーデターの中で半壊したところ、我が社が買い取って、ホテルを作った。って、お父さんから聞いてるよ」
「そうなんだ〜。で、この温泉は、偶然ここで沸いたっていう事?」
「そう言うことだな。ただ、一番最初の地質調査の時点では、そんなものはまったくなかったという事なんだ。これはなぞのひとつにもなっているんだ」
「そういえばさ、日本がまだ正常に機能していたときって、さっき言っていたよね。それって、どういう事?」
「それはな、また部屋に戻ってから、話すことにするよ。きっと、興味がある人が他にもいるだろうから」
「そうか、じゃあ、それまで楽しみにしているよ」
「ああ」
お風呂には、1時間強入っていた。部屋に戻ると、女子は帰ってきていた。
「おそい〜」
イブとクシャトルがこちらに向かって言う。
「いやいやごめん。ちょっと、長風呂してしまってね」
アダムが答える。
「まあいいけど」
「ああ、そう言えばさ、風呂の中で話していた、他にも興味がある話って言うのはどういう話?」
スタディンがアダムに聞く。
「ああ、その話ね。まず、日本が正常に機能していたときって言うのは、今の日本政府って言うのがどこか分かるかな?」
「それってどういう事?日本政府の現在地って言うこと?」
シュアンが聞く。
「そういう事」
「それって、今は、日本政府が無いから、現在地も何も無いんじゃないかな?」
クォウスが言う。
「うん。その通りなんだ。だから、日本政府は今は無い。今の名前は、アジア大陸/東アジア地域/西地方だね。その日本政府があった、東京が、実は、まだ機能していたとするなら?」
「それって、そこに政府があって、そこがアジア大陸/東アジア地域/西地方の首都みたいじゃないか」
「そう。まさにその通りなんだ。そこでひとつの事実を公開しよう」
「どんな事実?」
「日本列島が、放射能汚染によって完全閉鎖と称される閉鎖を受けてから、実は連邦政府や、他のNGO団体の人達が、ひそかに侵入していたという話なんだ。そして、そもそもガイガーカウンターと言う、放射能測定器を付けていたが、どこでも反応しなかった。そして、彼らがたどり着いたところが…」
「…東京だった」
「そういうこと。ただこの事実は、政府自体は否定しているけど、当時から何枚かの写真が残されている。それから推測してみても、明らかに、旧日本領土内に入っていることは明らかなんだ。ただ、いまは、放射能汚染の終結宣言が出されたから、すでに終わった出来事として、処理されてしまうんだろうね」
「一度行って見たいね。日本」
「まあ、ゆっくり出来るようになってからだね」
「そうだね」
テレビを付けていると、9時になった事を知らせる時報が響いた。
「もう、9時か」
「寝ないといけないね。では、着替えようか…」
そう言って、この場で着替えようとするイブ。
「ちょっとまて、ここで着替えるのはいくらなんでも駄目だろう」
「そう?じゃあ、寝室で…」
ふらふらと、寝室の扉を開け、中へ入って行った。
「行っちゃった…」
「まあ、いいんじゃないの?男はみんなこっちなんだし」
「いや、まだ向こうにいる人もいる」
「え?誰かいたっけ?」
向こう側から人が出てきた。
「いやいや、びっくりしたよ。なにせ、突然着替えはじめるんだからね」
「ああ、この人か…」
扉から出てきたのは、山川さんだった。
「着替え終わったらこっちに言うそうだから」
「じゃあ、それまでに、こっちも着替えようか」
「そうだね」
男子も着替えはじめた。無論、山川さんも着替えた。
女子が着替え終わった事をこっちにいってきたのは、10分以上経ってからだった。
「終わったよ」
「そうか、じゃあ、今日はもう寝るか」
「賛成〜」
「では、みんなお休み」
「そう言えば、山川さんはどこで寝るの?」
「このソファーは、ベットも兼ねていてね。ここで寝ることになるよ」
「こっちにきませんか?」
「え?だったら、一人はみ出るんじゃ…」
「大丈夫です。私達は、ベットをひとつに引っ付けあって、寝ますから」
「そうか、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらって」
みんな、ベットを動かして、寝た。
「では、みんな、よい夢を」
「では、お休み」
すっと、眠りに着いた。今日はつかれていたらしい。