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第41部

「とりあえず、車で移動するからね」

「でも、どこに車が?」

向こうから、黒塗りの車がこちらに向かってくる。

「あの車よ」

「あのリムジンですか?」

「そうよ」

「あのぐらいの車なら、すぐに調達しましたのに」

「でも悪いでしょう?飛行機まで用意してもらった上に、車までしてもらっちゃ」

リムジンが家の前に止まる。各シートごとに、扉がついている。手前から順番に扉が開く。

「さあ、乗り込んで。早く」

みんな順番に乗り込んだ。

「では、出発、進行!」

車はゆっくりと動きはじめた。

「これから、空港に行ったら、特別な場所で、飛行機を待たせています。それに乗り込む事になっています」

「では、空港まで、ゆっくりと、楽しんで下さい」

「ありがとうございます。ここから、空港まで、何分ぐらいかかりますか?」

「大体、30分ぐらいだね」

「その間、寝させてもらいます。ではお休みなさい」

スタディンは、窓にもたれるようにして、寝た。


「スタディン君。起きて、到着したよ」

「え?あ、はい。着いたんですね」

目を開けると、紗希さんがいた。

「皆は?」

「もう先に行っちゃったわよ。さあ、早く起きて、行きなさい」

ふかふかのソファーから降りて、皆の元へとかけってゆく。向こうの建物の端っこにみんなはいた。

「あ、お寝坊さんが起きた」

「みんな忘れ物はない?」

「ないでーす」

「では、みんなそろったところで、これから乗る飛行機の説明をします」

飛行機がある格納庫に向かって歩きながら説明をする、アダム。

「今回搭乗する飛行機は、私達が製造している「エア株式会社・JKI-799型機」です。総座席数、19人。総積載量、3t。全長、24.8m。全幅、14.5m。全高、6.4m。家族を目標として作られた、家族用飛行機です。現在は、受注生産制を取っており、価格は、約300万GACとなっております。但し、本体価格です。内装費は別途必要になります。ただ、皆さんなら、特別に内装費を無料にした上で半額で作って差し上げます。まあ、こんな物ですかね」

「内装は?」

「内装は、ゆったりくつろげる内装になっています」

「これは特注なの?」

「私達がこれから乗る事になっている飛行機は、特別に作らせました。皆さんがくつろいで空の旅をお楽しみいただけますように、中には、操縦士以外に誰もいませんし、その操縦士は、私の父がします」

「そうですか。安全面でも大丈夫よね。突然、車輪が出なくなったりは…」

「お気持ちはごもっともです。我々といたしましても、最善は尽くしておりまして、そう言うケースの事故は、今まで一件も報告されておりません」

「それを聞いて安心しました」

「ああ、見えてきましたね。少し皆さん止まってください。あの格納庫から出つつあるのが、これから乗る事になっている飛行機です。ちなみに私達兄妹の資産となっておりますので、そこのところよろしくお願いします」

銀色に光り輝く機体が、ゆっくりと私達の前に姿を現してきた。皆は、アダムが言う前から、息を潜めて待っていた。

「この飛行機に乗るのですか?」

「そうです。どこにいても分かるようになっています。世界中、この飛行機が行けない場所はありません。但し、飛行機が発着できるような場所ですが」

飛行機が全てを見せ付けるように、目の前を通ってゆく。銀色に輝く機体には、黒い窓がいくつかひっついていた。

「名前とかはないんですか?」

「この飛行機の名前は「アイノア」です。どんな過酷な状況でも、生き延びる事が出来る事からそう名前を付けました。あとは、自分達の名前からも取りましたが」

「飛行機が止まりましたね」

中から人が出てくる。

「おう。息子と娘よ。お前達の恋人達が、宇宙軍の褒賞を取るって言うから、こうやって出向いてやったぞ。で、その人達は今どこだ?」

「お父さん。自分達の横にいますよ。紹介しましょう。自分に近い方から、イフニ・クシャトル、イフニ・スタディン、丹国シュアン、丹国クォウス、丹国ルイ、丹国ウィオウス、丹国紗希、山川満、宮野達夫、宮野瑛久郎、宮野愛華、宮野由井です」

「皆さん。ようこそおいでくださいましたな。私は、この子達の父親の、エア・クリルです。これから、どうぞよろしくお願いします。ささ、ここで立ち話もなんですし。皆さんが入り次第、出発する予定です。皆さんはトイレは済まされましたか?まだの方は、機内にありますので、そこでして下さい。では」

中に再び入ってゆく。皆も追随して機内に入って行った。


機内は、とてもリラックスできるようになっていた。落ち着いた内装で、ソファーが、向かい合って設置されていた。

「とりあえず皆さん、お好きなところにお座りください。離陸準備まで、後1分後です」

近くの席から、順次埋まってゆく。

「みんな座りましたね。では、出発!」

少しずつ重力がかかってくる。最初はゆっくりと滑走路まで動いていた。しかし、突然背もたれに押し付けられるような感覚があった。それがずっと続いて、ふわっと、宙に浮かびはじめた。

「飛んでる…」

はっきり言って、重力が強すぎて、横にはよく聞こえない。しょうがないので、スタディンは少しの間、目をつむる事にした。


「スタディン。起きて。もうすぐ着陸態勢に入だよ」

目を開けて、前を見た。アダムがいた。

「ああ、そうか。離陸のときからずっと寝ていたんだ」

「もう6時間たつよ。もうすぐ着陸だから」

「ああ、わかった」

不意に、体が浮かぶような衝撃が来た。

(これは離陸のときとは正反対だな)

軽くスタディンはそんな事を考えていた。


少しすると、軽い衝撃が走った。

「到着したぞ。新ワシントン国際宇宙港だ。連邦ドーム約4個分の埋立地だ。席から立つのは、もう少し待ってな。飛行機が完全に止まってから、動くようにしてくれ。そうじゃないと、怪我をするぞ」

みんなは、座って待っていた。数分間座っていると、格納庫の中に入って行った。

「よし、到着したぞ。みんな、もう動いていいぞ」

クリルさんが出てきて、皆に言った。ゆっくりと周りを確認するようにしながら、皆は立ち上がり、ちゃんと止まっている事を確認していた。

「ちゃんと、止まってるね」

「当たり前だろう?自分がちゃんと止めたんだからな」

「まあ、とりあえず降りましょうか。着いたことですし。ホテルも決めないといけませんし」

「ホテルなら、私達のホテルに…」

「安くするなら行ってもいいわよ」

「それはもう、いかがでしょうか、半額ほどで…」

「どうでもいいけど、早く降りよう。外の雰囲気で決めるというのもいいしね」

「その意見に賛成」

みんなは、席から立ち上がり、外へ出て行った。


「ここが、新ワシントン国際宇宙港。ひたすら広いね」

「さすがに、連邦ドーム4個分の広さだけはあるわね」

「そういえばさ、連邦ドームってどれくらいの大きさなの?」

「う〜ん、そうだね。セントラルパーク2.5個分ぐらいだよ」

「えっと、という事は、セントラルパーク1個が約336haだから、連邦ドームって、どれだけ広いの?」

「すでに、新連邦7不思議のひとつになってるよ。あのクーデターの50年以上前に建てられたっていう伝説はあるけど、実際のところは、その資料は完全に無いから、分からないんだよ。今はその技術は失われているからね」

「総面積は?」

「この宇宙港自体は、約3360haだから、約3360万?だね」

「本当?」

「いや、わからん。だが、このぐらいだと思うよ」

「ふーん」

「まあ、とにかくだ。ワシントンにまで来たんだ。ホテルはこちら側が用意するから、とにかく、観光をしたらどうだ?」

「そうですね。そうさせてもらいましょうか」

「でも指定ホテルとかは無いの?公式行事だから、なんかそんな事がありそうなんだけど」

「手紙には何にも書いてないけど」

「そうか…じゃあ、やっぱり、エア社経営のホテルに、泊めてもらいましょうか」

「では、料金の方はいかがいたしましょうか」

外に出ながら、クリルさんが話す。

「今回は、特別価格で、27万GACでいいです」

「全員で?普通はどれくらいになるの?」

「はい。全員で27万です。普通ですと、54万になります」

「部屋は」

「いくつかの部屋に分散いたします。14人ですので、子供達をどうするかによって、部屋数が変ってきますが」

「そうねぇ、ちょっと聞かないといけないわね」

紗希さんは、子供達が集まってるところへ声をかけた。

「ねぇ、子供達、あなた達は、同じ部屋に泊まる?」

「そうだね。同じ部屋に泊まれたらいいんだけどね」

「そう」

クリルさんに顔を向ける。

「そうらしいから、あなたの子供も含めて、計9名分の部屋を、お願いね」

「はい。かしこまりました」

「それと、これは、社長としてではなくて、父親としての話なんだけど」

由井さんが横から聞いてくる。

「何でしょう?」

クリルさんの顔つきが少し変る。

「あなたの子供2人とも、イフニの兄妹と結婚する気だっていう事を知っていた?」

「ええ。話は聞いています。私としては、まあ、好きだからいいんじゃないかな、という考えだったので」

何も言わなかった。

「では、ホテルの方に案内しましょうか」

「ええ。お願いします」

「えっと、ホテルには、何名泊まるのでしょうか」

「予定は、17人ですね。あなたを含めて大人8人。子供9人」

「子供が9人ですか。大人の方々には、2人部屋を用意しましょう」

「そうしてね。とにかく…そういえば、あなたの奥さんは来るの?」

「ええ。私の家内も来る予定です。ただ、授賞式に間に合うようにして、終わったらすぐに帰るようですが」

「イフニ兄妹の両親とは、話さないんですか」

「そうですね。この機会ですから。話すのも、いいですね」

この格納庫の一番はしっこまで来た。

「すぐに、車がきますので、少しお待ちください。なお、外の気温は、15度です」

「少し、暑いね」

「こちら側では、普通だよ」

「へえ〜。もしかして、地球温暖化とか?」

「そう。全てのエンジンは、とても環境にいい物になっていて、石油から、エタノールを抽出する技術も出来たから、石油文明の方も、経済破綻せずに済んだしね。それに今は、バイオエタノールとか他の惑星で取れたとても良く分からない資源を使って、動かしているみたいだけど。ただし、二酸化炭素の量は2000年時点よりも、2倍ぐらいになってるんじゃないかな。その時、発展途上国と言われていた国々が、急成長を遂げて二酸化炭素やフロンなどを排出しまくったからね。まあ、そのおかげで、発展途上国も今や旧先進国と同じぐらいの経済力がついてるけど、もう、今の先進国は当時の先進国とは比べようが無いからね。とにかく稼ぐよ」

「車が来たようです。外へ出てください」

その声を聞いて、みんな、外へ出て行った。


「あれが私達が乗る車です」

クリルさんが指差した方向には、黒塗りの横広の車が来た。

「あれですか…法律違反じゃないですよね」

「大丈夫です。ちゃんと、法令は遵守していますから」

だんだん近づいてきた。これもまた、リムジンだった。

「このリムジンは、我が社の車です。縦12m。横1.9m。高さが2m。アンテナが出れば、さらに高さに15cm足してください」

スタディンたちの目の前に来て、扉が自動で開いた。

「運転手はただ、誤作動を起こさないか見ているだけです」

「完全自動っていう事?」

「そういうことです。ささ、乗り込みましょうか。皆さんはお好きな席をお選びください」

みんな、1分以内で乗り込んだ。

「では、ホテル・エア・ワシントン・3号館へ」

「ホテル・エア・ワシントン・3号館?どんなところ?」

「見たら分かる。触れば気づく。聞けば変る。そんなところだよ」

「よく分からないなぁ。一言では?」

「着いたら分かる」

それっきり黙った。ただ、口元には、かすかに笑みが見えていた。

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