第40部
(また夢か、明日は早いって言うのに)
横から声が聞こえてくる。
(「この前来た所と同じ場所?」
「そうみたいだね。でもここはあの空間ではない」
「どういうこと?」)
横を向くと、みんないた。子供達ばかりが。
(「皆もいたのか。でも、ここかどこだ?」
「今まで来た事がない場所。それに、またここは別の空間。人が作り出した空間」)
「その通り」
後ろから声が聞こえてきた。みんな振り返ると、
「コンティンスタンスさんですか。また、皆を呼び出して、何の用ですか?」
「今日は、皆に対して話があるから呼んだんじゃ。まあ、立って話すのもなんじゃから、向こうの方に特別な席を用意しておる。そこでゆっくり話して差し上げよう」
「はあ、まあ、行きましょう」
皆は歩き出した。
5分もしないうちに、建物が見えてきた。
「あそこじゃ、この空間で唯一の建物じゃ。他は見ての通り、見渡す限りの草原地帯じゃよ」
建物が大きくなってくる。どうやら軽食屋のようだ。
「いらっしゃいませ〜」
人が出てきた。
「ああ、コンティンスタンス様ですね。お待ちしておりました。お連れ様はすでに到着されております」
「そうか、では入ろうか」
ドアを開き、店の中を見渡す。店の中は、落ち着いた雰囲気だった。しかし、誰もいなかった。
「どこにいるんですか?」
「あそこの扉の奥です」
指差された先には、木製の丈夫そうなドアがあった。歩み寄って、ドアを開く。
「やっと来たか。遅かったな」
そこには、この世界での時の神の化身と、夢の王と、もう一人いた。
「ここがどこだか分からないんですが…あなた達は誰ですか?」
「あなたこそ誰ですか?」
「私は、現在の新中立国家共同体大統領秘書官兼首席補佐官、三山節子です。あなた達は?」
「私達は、コンティンスタンスさんに連れられてここにきました。ですから、話の内容はよく分からないのです」
「そうだな、もうそろそろ話してもよかろう」
「そうですね。では、皆さんこの部屋の中に入ってください。席はソファーと椅子がありますが、全員入っても余裕ができるようにはしています」
確かに、全員入っても、余裕で座れる分のスペースはあいた。
「では、今回皆に来てもらったのは、実は、時の神の化身が異変を感じるようになったからなんだ。どんな異変かは本人の口から聞いて欲しい」
この世界での時の神の化身=東方大樹は言った。
「そもそもの発端は、この世界から、放たれているエネルギーを見たときでした。この時空から放たれているエネルギーは、普段、放たれるはずがないエネルギーなのです。そこで私は、この世界が崩れつつある事を知って、このようにみなを集めたと言うわけです」
「それをとめるには何が必要なのですか?」
「この時空にいる魔力です。それも、100人単位ではなく、10万人いや、100万人以上が必須ですね。人数は多いほどいいですが」
「それほどまで…ここにいる人の中で、魔力が使えると分かっている人は、エア兄妹と、イフニ兄妹と、あとは、東方と、夢の王と、コンティンスタンスさんだけですね」
「他の人にも魔力を出させる事は出来る。それに、ここにいる人の中で、量った事がない人もいるはずだ。その人はどうするかだな」
「高校を卒業してから、あなたのところに行きましょうか?」
「いや、今月の10日に、授賞式があるだろう?それが終わった後、私の方からホテルの方に出向いて、簡易検査をしよう」
「わざわざすいません。親のほうにはなんと言っておきましょうか?」
「言うには及ばない。私の方から話しておこう」
「では、話はこれでおしまいです。みなさん。もう朝ですから起きてくださいね」
目の前がかすみだした。
はっと起きた。皆ももぞもぞしている。
「今何時だろう…」
壁にかかっている時計を見る。ちょうど8時だった。
「少し予定より早いな…まあいっか」
スタディンは布団から出て、着替えはじめた。着替え終わる頃には皆も寝ぼけながら起きていた。
「今何時〜?」
「今は8時5分だよ。もう起きろよ、今日は10時には出るんだから」
「そうだったね…よいしょっと」
クシャトルは、布団から出てきた。
「ほんとに、オヤジくさいな、おまえって」
「うるさい!」
スタディンのつま先をかかとで踏みつける。
「痛ー!」
「もう言わない?」
「はい…もう言いませんから、足を離してくださいませ」
勝ち誇ったような顔をして、足を退かす。その声でみんな目が覚めたようだ。下からも声がかかる。
「みんな起きたなら着替えて、下に降りてきて。朝ごはんを食べたら、荷物の確認をして、出発するからね」
「はーい」
みんな着替えるために布団から出てきた。
「じゃあ、自分は先に降りてるね」
「ええ〜、もうちょっと待ったっていいでしょう〜」
「しょうがないな〜、じゃあ、後10分待ったるよ」
「わーい」
「私達は着替えを取ってくるね」
「ああそうか、荷物置いてる部屋はここじゃないもんな」
「そう。でもここに持ってこようかな。ここにいつもいるもんね」
「そうだよ。航宙便の分は自室に置いて、ここには、着替えとか軽い物を置いたらいいんだよ」
「そうさせてもらうよ。今度から」
扉が開き、閉まる。上へ向かって、走る音が聞こえる。
少し間があいて、
「出来たよ。着替え」
「ああ、そうか。他の人達も出来たかな」
「多分出来たと思うよ」
扉が開き、頭だけが入ってきた。
「下に行ってるよ」
(噂をすれば影、だな)
すぐに引っ込んだ。とにらも閉めて行った。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
4人も、扉を通り、下に降りて行った。
「着替え終わりました」
「早速朝ごはんにしましょう。ご飯を食べ終わったら、部屋に戻って、持ってゆく分の荷物を下に降ろしてちょうだい。あと、授賞式が終わってから、もう一泊する事になったから」
「え?どうして?」
「私達のホテルのところに、コンティンスタンスさんがお祝いを言いたいそうなの。だから帰ってくるのは、11日になるわね」
「そうですか。では着替えをもうひとつ増やす必要がありますね」
「まあ、大丈夫よ、たった一日だけですから。それに、家に帰ってきてから、洗う洗濯物が増えるのはあまり…」
「そうですね。今回は予備の分がありますから。それを使うことにしましょう」
「ぜひそうしてちょうだい」
食卓を見ると、目玉焼きとベーコンが純白の皿に乗っていた。さらに、紅茶が置いてあった。
「朝には紅茶がちょうどいいと思ってね」
「ありがとうございます。早速いただきます」
椅子に座り、食べはじめる。ふと前を見ると、達夫さんが、何か見ていた。スタディンもその視線の先を見つめた。紙が置いてあった。視線を感知して、紙を自動的にめくっていく。電子紙だった。
「新聞ですか?」
「そうだ」
「後で読ましてください」
「いいぞ。新聞を読む事は、知識を深める事が出来るからな」
「早く食べないと、冷めてしまいますよ」
「はーい」
みんな食べ終わった。部屋に戻り、荷物を下に降ろす。
「おろし終わったら、あちこちの扉の戸締りを確認して来てちょうだい。これから2泊するのだから。誰か入られたら困るもの」
「はーい」
みんなバラバラの方向に進んで行った。そして、確認が終わった人から、リビングに帰ってくる。
「終わりましたよ」
「ありがとうね。出発するまでゆっくりしていてもいいからね」
「はーい」
スタディンは、朝食のときに見ていた、新聞を読む事にした。色々書いてあった。例えば、
「本日・休館日です。
清見町町立中央図書館」
「スタッフ急募!
清見町中央図書館前
レストランCore」
「原油使用量ついにゼロに」
「GDP(国内総生産)
100兆GAC台に乗る!」
「人口110億人突破」
「今年の宇宙軍特別褒章
着任したての少年に」
「銀河平均通貨協会解散の危機」
などといった具合である。
「色々と新聞のは載ってるんですね」
「そうだ。新聞は知識を深めるにはちょうどいい材料だ」
順次見周りから帰ってきていた。
「終わったらゆっくりしてね」
「はーい」
「そう言えば、この子はどうするの?」
アダムがコロをなでながら言った。コロは、うっとりとしたような顔をしていた。
「ああ、連れていけたらいいんだけどね、
ホテル側がペット厳禁らしいから、
お隣さんに預かってもらうことにしてるの」
「お隣さんって、誰?」
ちょうどその時、チャイムが鳴った。
「来たかな?」
玄関を開ける。人が入ってきた。
「誰ですか?」
「私は、右隣の、井岡重郎といいます。これからよろしくお願いします」
「いえいえ。すいませんね。引っ越して早々、こんなことお願いしちゃって」
「いいんですよ。これからは、横の住人になる人達ですから。それに、隣がとても有名な人なんて、そうそうないですからね」
軽快な口調な井岡さん。
「では、お願いします」
「はい。ちゃんと預かりましたよ。少し想像よりも大きいですね」
「そうですか?」
「この子は何犬ですか」
「シベリアンハスキーです。かわいいでしょう?」
「そうね。まあ、目が少し怖いような感じがするけど」
「ちゃんと可愛がってくださいね。帰ってきたら、そちらに伺いますので」
「はい。分かりました」
扉が閉まり、井岡さんは出て行った。
「もうすぐ10時だよ」
「あら、もうそんな時間?」
「うん。もうそんな時間」
「では、みんな、出発の準備はいい?」
「OKだよ」
「よし。では、出発!」
「えいえい、おー!」
扉を勢いよく開けて、そして、見知らぬ土地へ向かって、歩き出した。