第39部
家に帰ると、
「そういえばなんでスーツなんか作ったんだ?」
「まあ、言ってなかったわね。実は…」
由井さんは夕食ごろに帰ってきた愛華達にことのいきさつを話した。
「そうか、スタディンとクシャトルが、勲章を。いつなんだ?」
達夫さんがうなずきながら言った。
「3月10日」
「明後日か、よし、学校は休みを取ろう」
「いいの?もうすぐ入試だけど」
「大丈夫だ。入試の問題はもう出来て、あとは、印刷待ちだし。必要な書類は、明日の朝一に出したらいいし。ああ、書類今から取りに行かないといけないな」
立ち上がり、服をパッと羽織って、すぐに出て行った。
「早い…」
「あの人は、すぐ行動する癖があるみたいだから、まあ、大丈夫。他の人はどうします?」
「自分達も行くべきだよね。でもこの家は?」
「それは、私達のAIをひとつこちらの警備に回しましょう」
「それで安心していけます」
「仕事のほうには許可を取らなくていいの?」
「ああ、もう取った」
「え?いつも間に?」
「君達があの人に注意を向けていた間に、会社の方に連絡をいれといたんだ。好きなだけ行ってもいいって。有給があるからそれを使っても良いそうだ。みんないけるぞ」
「これで決定ね」
「じゃあ、これから準備しないとな。飛行機で行くんだろ?」
「その予定だよ。でも、飛行機の予約を取らないと」
「それなら簡単に取れるよ。自分の自家用ジェットを近くの飛行場に持ってこさせるよ」
「さすが、金持ちは違うな」
「まあ、そうかもね」
「では、自分達も明日の準備をしよう」
「この近くの飛行場はどこですか?」
「ここから来たに約100kmの所にアリス・スプリングスの空港が、あるわ。そこなら出来るんじゃないかしら」
「ありがとうございます。ではそこに行かせましょう」
「飛行機もOK。着替えは、上に取りに行かないといけないな。後は…」
「とりあえず、上に戻って、ゆっくり考えたら?」
「そうします」
みんな上に戻って行った。
「必要なものってなんだと思う?」
「そうだな、服、洗面用具、後は、手紙かな。何かないのに気づいたら、向こう側で買えるでしょう」
「そうだね。じゃあ、スーツがしわにならないようにして、服と洗面用具と着替えと一応勉強道具」
「勉強道具もいるか?」
「まあ、一応だよ」
「用心に越した事はないしね」
「そうだね。飛行機内に持ち込める重さはどれだけ?」
「確か、70?までだったはずだよ」
「まるで修学旅行みたいだね」
「いつからそこにいた?丹国3兄妹」
「何それ団子みたいな言い方」
「ずっとここにいたけど?」
「修学旅行って何?私達の時代になると、元々学校に行かずに、自宅学習が増えてきているからね。おかげで、対人関係を作りやすい人が減ってきていて、内向的になってしまうんだよね。テレビ電話はあるけど、それでも、生の人ではなく、画面を通してみた人だからね。結構違うんだよ」
「修学旅行って言うのは、いつも体験しないような場所に行って、色々楽しんでくる行事の事だよ。それが楽しみという子も中にはいたよ」
「へえ〜。今の世の中とはまるで違うんだね。いまは、クーデターがあって、ごたごたしていた時期もあったし、それを乗り越えての繁栄があるからね。ただ、その頃の事は、実際に見にいって行かないといけないと思うんだよね」
「どうやっていくの?」
「高校の勉強が終わって、魔法の勉強も終わってみたいんだよな」
「まあ、後何年先になるか分からないけど、夢がある事が重要だよ」
「でも、また時間をさかのぼるのは危険じゃないかな」
「それについては、また後々考えるにして、これからはまず、行くための準備をするべきだと思うんだよな」
「同感〜。とにかくそれからだよね〜」
「じゃあ、まず各自の部屋に行って、各自準備を整えて、この部屋に集合。いいね」
「了解!」
扉を開き、エアとイフニの兄妹以外は全員出て行った。
「じゃあ、私達も準備をしましょうか」
「そうだね。早くしないと、寝る時間がなくなるからね」
「では、何がまず必要かな」
「さっきも言ったけど、服と洗面用具と着替えと一応勉強道具、後は、手紙だね。この手紙がないと入れないような感じがするからね」
「そうだ。他にいるものがあったぞ」
「なに?」
「筆記用具」
「それは勉強道具とセットだよ」
「そうか…」
「他にはないようなので、これで準備道具の確認を終わります」
「何でそんな言い方?って言うか、何で突然?」
「いいじゃないか。自分の趣味みたいなもんだ」
「趣味…まあ、人それぞれだけどね」
「もうみんな寝なさーい」
下から由井さんの声が聞こえてきた。
「あ、もうそんな時間?」
「今何時?」
「いまは、午後9時だね」
「明日はいつ出発するの?」
「聞いてみたら?」
「すいませーん。明日は何時に出発するんですか!?」
「とりあえず、朝の10時までにはこの家を出発したいわね」
「ありがとうございまーす」
「じゃあ、朝の10時に飛行機を持ってこさせよう」
「電話とか要る?」
「いやいや、ここから直接この端末を通して、指示を出すから」
「どこにそんな指示を出すの?」
「それは、言えないなあ。今はまだ」
「そう。まあいいや」
扉が開き、みんな入ってくる。
「子供達、全員集合!」
「ああ、みんな準備できたの?」
「そうだよ。それで自分の部屋にいるよりこの部屋にいて、みんなが一緒にいたほうが楽しいでしょ?」
「まあ、そうだね。とにかくみんな入ったら?」
「おじゃましまーす」
「どうぞー」
皆、部屋の中に入り、扉を閉めた。
「あれ?まだ準備出来てないの?手伝おうか?」
「いや、自分達で大丈夫。あとはかばんの中に入れるだけだから」
「そうか、じゃあ大丈夫だね」
「うん。皆は準備が出来たって言っていたね。じゃあ、もうここで寝る?自分達も後1〜2分で出来るから」
「そう?じゃあ、お風呂入ってくるね」
「まだだったの?早く入ってこいよ」
「うん。じゃあね」
同時に女子全員が去ってゆく。部屋には、男子のみが残った。
「もう、寝る準備をしようか」
「そうだね。お風呂にはみんな入っていないよね」
「うん。最初に大人の人達が入ったから、子供達は、一番最後」
「そうなのか。それと明日は、10時までにここを出発する予定らしいから」
「はやいね。向こうにはいつ着く予定なんだろ」
「さあ、とにかく向こう側に両親がいることになっているから。当日までには間に合うようにするって」
「ふーん」
「まあ、準備できたよ」
「え、本当?早いね」
「言ったじゃないか、1〜2分で準備が出来るって」
「そうだったね。とにかくなんか暇になっちゃったね」
「まあね。まあ、妹達が、風呂から帰ってきたら入れ替わりに風呂に入ろうか」
「そだね。それまで少し、寝てよう…」
扉が開き、女子達が帰ってきた。
「ただいま〜、って、あれ?みんな寝ている」
「どうしよう。起こすべきかな?」
「いや、そっとしておいてあげよう」
「でもこうしてみてみると、なんかやさしい寝顔だね」
「そうだね。でも、お風呂にいれないと、汚いからね」
「やっぱり、起こそか」
「どうやって起こす?」
「そうだね、布団を全部はがして、そのまま頭を軽く叩いたら起きるんじゃないかな」
「なんか言ったか?」
もぞりと布団が膨れ、体が出てきた。
「なんだ、起きていたのか」
「ほかの人達も起きてるの?」
「そうだと思うけど?おーい。みんな起きてるか?」
何人かは、動きがあったが、ない人もいた。
「寝てる人もいるね」
「じゃあ、布団をはがそうか」
ゆっくりと、イブとシュアンが近づいて、その人が寝てるところに行く。
「こらー!」
布団をはがしたら、その布団にしがみついてきた。
「うわー!」
そのまま寝てる人の上に倒れこむ。
「むぎゅ〜」
空気が抜けるような音。
「大丈夫か?」
「何とか…とにかくどいてくれ。息が出来ない…」
「ああ、ごめんね」
「あまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、お風呂あいた事を教えてあげようと思ってね」
「今度からはこんな苦しい起こし方はやめてくれよ」
「はーい」
返事はいいのだが、明らかにまたやるような顔。
「とにかく、今度は男子が入る番だね」
「うん。早く入ってきたら?お兄ちゃん」
「そうだね。早く入ってすぐに寝よう。準備は整っているしね」
「え?やっといてくれたの?ありがとうね」
「じゃあ、みんな入ろうか」
「おー!」
女子が部屋に入り、男子が部屋から出て行った。
「そういえばさ、あの狭いお風呂の中に、どうやって、4人も入るの?」
「4人ぐらいだったらどうにかなるんじゃないかな」
「そうだといいね。もしも、だめだったら、順番に入ればいいんだよ」
リビングには、まだ由井さんがいた。
「お風呂入らさせてもらいます」
「ああ、どうぞ」
なんだか、ボーとしている由井さんをおいて、男子一行は、風呂に入りに行った。
部屋の中は、布団を引きなおし、寝る準備中の女子がいた。
「明日の今頃はもう向こうについているよね。きっと」
「そういえば、明日は10時にここを出るようにするって。でもここからワシントンまでどれだけかかるんだろうね」
「さあ、昔は、7時間ぐらいで直行便が飛んでいたみたいだけど、今回はどんな飛行機に乗るのか、分からないからね。はっきり分からないよ」
「そう、まあ、いいじゃないの?とにかく、飛行機に乗って、すぐに行けるんだから」
「昔はどうだったの?」
「大変だったよ〜、私は、日本出身だけどね。そのときは、大体8時間弱かかったね。まあ、そのときから、科学技術が進歩して、もっと早く行けるだろうけどね」
「それに、ここはオーストラリア。日本とは違うからね」
「まあ、早く寝よう。もう寝そう…」
「そうだね。もうお兄ちゃん達が明日の準備を整えてくれたみたいだし。明日のためにも早く寝よう」
「では、みなさん、布団の準備をしましょうか」
「賛成〜!」
布団の準備をはじめた。
「こんなにここのお風呂って狭かったんだね」
「今まで気づかなかったの?でも、今までって言ったって、昨日だけどね」
「まだ、1日しかたっていないのか。ここに下りてから」
「そうだね。でもここの暮らしも結構いいよ。慣れればの話ね。他の町では、ここよりもネット技術が進んでいて、家にいながら、生まれてから死ぬまでの事の全てができるって言っている所もあるからね」
「ここはその分不便だな。だけど、そんな事を気にしていたら、絶対、人生棒に振るぞ」
「なんで?人生は楽な方がいいっていうのに」
「体がなまってしまって、家から出たくないってい事になるし、対人関係がうまく出来なくなると、性格の形成にも影響してくるからだよ」
「スタディン君って、なんか色々知ってるね。どうして?」
「興味があれば、何でも出来るからさ」
「興味ね…興味があっても出来ない事もあるよ」
「例えば?」
「それよりもさ〜、もうそろそろ上がらない?」
「ああ、そうだな。今何時だ?」
「えっと、大体9時20分ぐらい」
「そんなに入っていたのか」
「そうだね。出ようか」
「そうだ。このままここにいたら、のぼせてしまう」
「そうだ」
みんな湯船から出て、すぐに着替えて、部屋に戻っていった。
まだリビングには、由井さんがいた。
「由井さんは寝ないんですか?」
「もう少し起きてるよ。ゆっくりお休み」
「はい。おやすみなさい」
皆が上がるのをみながら、由井さんは、少し悲しそうな顔をした。
部屋の扉を開き、部屋の中を見た、男子達は、女子達が寝ているのを見つけた。
「どうする?」
「寝たふりだったりしてね」
「どうして思うの?」
布団が少し動く。
「だって、さっきから、少しずつ動いているもん」
「正解〜!」
一人起き上がった。
「他の人達は?」
「まだ起きてると思うけど、寝ちゃったかもしれない」
「もしかして、ずっとこんな感じで起きていたの?」
「そうだよ?それがどうした?」
「いや、別に何にもないけど」
「自分達はどうやって寝るの?」
「ああ、大丈夫。ベットは、2つ分開けてあるし、私は、いざとなったら別の部屋に行くから」
「じゃあ、自分達も寝ようか」
「そうだね」
布団の中に入り、全員が寝る事が出来た。他の部屋に行く人はいなかった。