第37部
(またここか、こんな場面はもう飽きたぞ)
周りは白く、霧の中のようだった。すでに自分から見て、10cmの先が見えない状況だった。
(「誰かいます?」)
声が聞こえてきた。いつもと同じような頭に直接響く声。
(「ここにいるよ。君は誰だ?」
「私は、丹国兄妹」
「自分は、スタディンだ。君達はここに来た事は?」
「いいえ。ありません」
「そうか」)
前から足音が聞こえてきた。
(「どこにいるの?周りが霧でよく見えない」
「大丈夫。そのままその場所で足踏みをして」)
足音がする。その方向へ進みはじめた。霧が晴れはじめた。
(「霧が…」)
一陣の風とともに霧は無くなった。
(「スタディン!」
「ああ、ここだ。他に知り合いとかはいなかったか?」
「いいえ。自分達が見た限りでは」
「そうか」)
周りを見渡す。左手には川があった。右手にはずっと続く商店街があった。
(ここはどこだろう。自分は見た事がないな)
前の方から見覚えのある人達が歩いて来る。先に気づいたのは、向こう側だった。
(「お兄ちゃん?」
「君は誰だ?」
「クシャトルよ。そっちに、丹国兄妹は全員そろってる?」
「ああ、一人もかけてない。そっち側は誰かいるのか?」
「こっちには、私と、エア兄妹、あと、瑛久郎がいるわ」
「そうか、という事は、あの部屋にいた人全員がこの場所にいるっていう事だな」
「そういう事ね。これはどういう風に取る?皆来てしまったと言うことに関して」
「自分達の能力のひとつなのか…それとも誰かが細工をして、自分達の無意識の中に干渉しているのか」
「どちらにせよ、ここから出たいわね」
「皆集まろう」)
向こう側と、こちら側では、少し隙間があったが、すぐに出会った。
「ここは夢の中だ。みんな、それを覚えておいて欲しい。さて、何故こんなところへ来たかという疑問を持っているはずだが、自分にも分からない。ただ、昔聞いた事がある、「集合無意識」という事が関与している可能性がある」
「その集合無意識って何?」
「いい質問だな。ここで言う集合と言うのは、個々の人格が、ある条件が重なって、ひとつの人格として振る舞う事なのだが、その状態を意識的ではなく、夢のような感じの無意識下で行ってしまうことなんだ。さらに、脳波自体が同じリズムになると、このように他の人の夢の中に自分の意識が入り込む。ただ、まだ理論だけで、実際には出来ていないんだ」
「でも私達はここにいるよ。それに、個々の意識もはっきりしている」
「理論より先に、実験をされていると言う感じかな。それより気になるのが、何故同じ部屋の中だけなんだろう。自分達は兄妹だし、エア兄妹は相互の恋人でもある。でも、君達とは同じ部屋だったと言うそれだけの理由か?いや、家族と自分が強く思っているからか」
「哲学的な話は別にして、とりあえずこの辺りを歩いてみようよ。何か分かるかもしれない」
どこからか声が聞こえる。
「それはいけない…そのばにとどまれ…」
「何か言った?」
「でも何か聞こえたよ」
歩くのをやめて、少し立ち止まる。同じ声が聞こえてくる。
「おまえたちは…ちがうくうかんにいる…」
「どういう事?違う空間って」
「ここは、本来の夢の空間ではなく、別の宇宙空間と言うことだろう。とすると、自分達は何かの理由でここに来てしまって、本当は来るはずじゃなかったと言うことだと思うよ」
「その通り」
同じ声が急に近くから聞こえた。
「あなたは誰ですか?」
「私はこの空間の帝王だ。この空間以外から来た物体ははじめてでな。それで見に来たんだが、君達は、私の声が分かるか?」
「はい」
「達は分からない」
イフニ兄妹以外はまったく分からないようだ。
「ああ、そうか、この機械のおかげなんだ。ずっと着けっぱなしでよかった」
「ある意味で救われたかもしれないね」
「こら、余を無視するでない。この空間の帝王であるぞ」
「これは失礼をしました。ただ、この耳に付けている機械をしている者達は良いのでございますが、これを付けていない者達に説明をする必要があるので」
「ならば、説明をせよ。それに、余についてきながらだ」
「何か、口調変ってない?」
「ここの空間外から来たはじめての生命体だ。興奮でもしているんでしょう」
「ねえねえ、あの人は誰?」
「ここの空間の帝王だと言ってるけど、本当のところあまり分からない。それに、口調がばらばらだしね」
「ひとつ気になったんだけど、ここの空間の住民はどうなったんだろうね。さっきから歩いているけど、私達以外誰も見ないから」
「そうだね。とりあえず分かることは、あの人が何者であるかも分からないし、あの人も自分達が何者か分からないはずだ。まあ、真実を言えば返してもらえるだろう」
「そうだね。物事は前向きに見ないといけないね」
帝王が立ち止まった。
「ここが余の宮殿の入り口だ」
入り口だけで、幅数百mはあった。高さはよく見えない。
「ここからは、余の専用車で案内する」
黒っぽいリムジンが来て、自動的に開いた。
「ささ、早く乗りなさい」
そういって、帝王が一番早く乗り込んだ。
「皆順番に乗って」
順々に乗り込み、全員乗り込んだら、自動的に扉が閉まった。
(「これから私達どうなるんだろうね」
「さあ、よく分からないけど、すぐに送り返してはくれなさそうだよ」)
運転手はいなかった。
「ここの住人はどうしたのですか」
「ここの空間の住人はみな余を恐れておる。余が通る際は1?先からみな閉じこもってしまうのじゃ。いまは、また活気付いておるだろう」
「あなたの名前は」
「余の名前は、モリスじゃ。この空間の716代目の帝王じゃ。他の空間でもこんなに長く続いた帝国はあるまい」
少し間が空き、
「そういえば、何か飲むか?ここの空間の飲み物だがな」
モリスの手には、雁首のビンに入った、発泡している液体が入っていた。
「それは何ですか?」
「これはな、この空間全土で広く飲まれている、特別な飲み物でな、自分より同格かそれ以上の人が家に来るとこれを相手に飲ます。家によって味は違うから、独特な飲み物なんじゃ。ちなみのこの飲み物の名前は、古希といったな。それほど長生きできると言う意味合いがこめられているらしいんじゃが、この国には内乱がつきものじゃ。そなた達を送り返したら、別の地域で起こっている内乱を征服する必要があるのじゃ」
「ここの歴史はどうなっているのですか?」
「勝者が常に、歴史を作り変えてしまっているんじゃ。だからここの空間の精確な歴史は良く分からんようになってしまっているのじゃ」
「そうですか、とにかくありがとうございます」
「いいんじゃ、とにかくこの飲み物を飲みなさい。そうすればすぐに戻れるじゃろう」
皆同時に一口ずつ飲んだ。甘くて、不思議な味が体を包み込んだ。ふわっと、体が軽くなった。
「早く起きなさい。もう12時ですよ。皆さん」
「え?もうそんな時間?」
「そうですよ。さっきから何回も起こしているのにまったく起きないから、心配になったところですよ」
「あれ?ここは?」
寝ぼけたクシャトルが聞いた。
「ここはここだよ。何言ってるの?」
先に起きていた、丹国兄妹が言った。
「みんなやさしい寝顔で寝ているから、起こさずにずっと起きていたんだよ」
「いつ起きたの?」
「10時ぐらいだったはずだよ」
「とにかくみんな起きて、下に来なさいね」
扉が閉まり、スタディンは寝ぼけながら考えていた。
(今まで気づかなかった)
扉の向こうでは、由井さんが下に降りていった音が聞こえていた。
「短い夢を見ていたんだね」
「その通り、私達はみんなで同じ夢を見ていたんだと思うよ。でも、面白い夢だったね」
「まあ、感情は人それぞれだしね」
「それより、高校受験の勉強はどうしたんだ?」
「ああ、普通に忘れていた」
「やばくないか?」
「まあ、どうにか出来るでしょう」
「それって、確証はあるか?」
「まったくないよ。でも、そんな感じがするんだ」
「とにかく皆起こそう。そして、朝ごはん兼昼ごはんを食べよう」
「その通りだよ。ほら、皆起きろ」
布団を全部下に落としてゆく。一人以外全員起きた。
「クシャトル〜。起きろー!」
体の下に手を入れて、一回ひっくり返す。すぐに起きた。
「なに?もうあさ?」
「もうあさ?じゃあ無い!もう昼だ!」
「え?もうひる?まさか〜」
「本気だ。もう12時だ」
ベットに腰をかけてぼんやりする。
「起きないと…いけないね…」
「そうだ。さっさと着替えろ、昼飯を食べに下に行くぞ」
「え、ちょっと待ってよ〜」
「急げ、急げ」
周りが急がせる。
「みんなも着替えていないじゃないの。私も着替えなくていいでしょ?」
「みんなはこれから着替えるんだ。なあ」
皆うなずいた。
「先、行ってるね」
そして扉を開けっぱなしにして出て行った。
「早く着替えろよ。自分達も下で待ってるから」
扉を閉めながら言った。クシャトルをおいて他の人は皆、先に下にご飯を食べに降りていった。
「おはようございます」
「あら、こんにちは。スタディン君とクシャトルちゃんに手紙が来ていたわよ」
「え?自分にですか?」
手紙を渡される。
「これって、あれだ。政府からだ」
「なんて書いてあるの?」
「ちょっと待ってね、今開けるから」
手で封を破り、中身の手紙を取り出した。そのとき、クシャトルが降りてきた。
「お待たせ〜。どう?この服」
「クシャトルにも手紙だ、まず中身を見てみろ」
「え?私に?」
クシャトルも、手紙を受け取って、封を破った。
「中身は?」
「今から読み上げるよ。「本日、決定しましたことを謹んでお伝え致します。翌日新暦366年3月10日に、特別自治省/兵武省/宇宙軍庁/宇宙軍褒章・勲章授与事務局より、褒章が授与される事になりました。以下の場所へご友人、ご家族などを連れてきてください。
記:時刻;新暦366年3月10日午前10時より開始
場所;旧アメリカ合衆国・ワシントン
宇宙軍総司令部第1講堂守衛詰め所
以上
宇宙軍褒章・勲章授与事務局局長:新人康一」だって」
「クシャトルの方も同じ内容なのか?」
「そうだね。まったく同じ内容だね」
「そうか、まあ、今日は何日だっけ?」
「今日は、3月8日ですよ」
「明後日か、今から行かないと間に合わないな」
「高校受験は、3月15日ですよ」
「なんか、意図的なものを感じる…まあいっか、みんなも来る?」
「行けるなら行きたいね。こんな事って一生に一回ぐらいしかないだろうから」
「そうだね。あと、君達の両親にも伝えとかないといけないと思うよ」
「ああ、そうだった。電話借りてもいいですか?」
「どうぞ」
スタディンが電話を家にかける。
「この間に、お昼済ましちゃいましょう。そして、町に出て、スーツを買わないといけませんよ」
「この服のままじゃ駄目なの?」
「ちゃんとした公式の式典ですよ。一人だけやけに貧相に見えます」
「今日行って、すぐ出来るところじゃないと間に合わないよ」
「この町にはそんな店が一箇所だけあります」
「それはどこ?」
「行ったら分かります」
「親には伝えといたよ。当日に間に合うように行くって」
「さあ、皆さん、まず昼ごはんにしましょう」
今日は、明らかにコンビニ弁当だった。
「どこで買ってきたんですか?」
「近くにコンビニよ」
「近くにあるんだ。新しく出来たんだね」
「早く食べないと全部もらっちゃうぞ」
横から手が出てくる。すぐにその手を押さえて、退散させた。
「ちぇ〜。せっかく、食べてあげようと思ったのに」
「ちゃんと全部食べるから」
「ほら、ちゃんと食べなさい」
食事は終わった。
「今何時?」
「12時半です。これから皆そいで着替えて。10分後までに出発するから」
「なんで?」
「スーツを新しくする必要があるのと、元々持っていない人達がいるから」
「はーい」
階段を上がって着替えに行った。
ピッタシ10分後。皆降りてきて、行く準備は整った。
「皆いいわね?すぐ近くにスーツの店があるから。そこだったら、一番早くて6時間って言うのがあるわ。それを使いましょう」
「分かった〜」
「では、出発!」
家を出て行った。鍵を掛け、店に行った。