第35部
「今日は何を買いに行けばいいの?」
「この紙には、合いびき肉のミンチ200g前後3つ、牛乳3本から5本、パン粉一番大きい袋、卵Lサイズ2パック、あと、たまねぎ3袋分、って書いてあるよ。スーパーが近くにあるから、そこに行こう」
「そうだね。あのスーパーは品揃えも多いから色々置いてあるしね」
「すぐ近くにあるの?」
「歩いて大体5分ぐらいだよ。まあ、高校はその倍近くあるから、それに比べれば近いかな?」
「何で知っているの?」
「昔ここにいたときに、そこまでよく行ったからだよ。それでここの主要な建物の場所と、時間を覚えているんだ」
「ただ潰れていなけりゃいいんだけどね」
「まあね。前居たのは自分達の時間でも3年間はたっているからね。もしもここにないとするなら、誰かに聞かないといけなくなるんだな」
「面倒だな〜」
一行は、四辻に来た。
「この辻を、今いる側、つまり右側に行けばすぐにあったんだが…」
「あれじゃない?ほら、ここから50m先っていう看板が信号の向こうにあるよ」
「ああ、本当だな。っていう事はあのスーパーは、まだあったんだな」
「でも、そんなものよく見えないけどな」
「曲がりきらないと見えてこないし、それに50mってけっこう長いよ。ただ、それも主観的に見てだけど」
曲がりきった道は、ずっと先まで続く並木道だった。
「この道の右側にあるんだな」
「記憶が確かなら」
「では歩いてゆこう。でもそのスーパーってどんなんだ?」
「基本的に何でもそろっているよ。食料品や日用品とか、ガーデニング用品も置いてあったな」
「昔は?」
「そう、昔は。だから今は分からないけど、あまり変わっていないような感じがするな」
「そう?でもこの6年っていうのは長いからね。もしかしたら変わっているかもしれないよ」
「そうかもしれないな」
「あれじゃない?ほらあの黄色と白の看板」
「ああ、あの忘れられない看板。あれが目指しているスーパーだよ」
「ようやくついたのか」
「歩きはじめてまだ4分ぐらいしかたっていないよ。帰りは荷物を持って、この道を歩くんだ」
「げ〜、この道を?」
「そうだよ。なんか問題があるのかい?」
「無いけどさ〜」
「無いんだったら、大丈夫だよね」
確認するかのごとくたずねる。
「ああ、大丈夫だよ」
しょうがないから、と言う顔をしながら答える。
「だったらいいね」
「早く早く」
せかす声が聞こえる。
「今行くよー!」
走り出す。風に乗ったような感じを覚えた。
(自分は風にもなれるんだ)
発見はすぐに終わった。すぐ息が切れた。
「50m走、何秒だったの?」
「中1のときは、8秒後半だったはず。遅かった?」
「ううん。ただ気になっただけ」
「そうか」
みんな店の中に入っていった。
「広いね〜」
「本当だよ。宇宙ステーションにはこんなに広い店が無かったからね」
「まあ、出来る面積が限られているからな。ここのスーパー、基本的になんでもそろう、って言っただろう?売り場面積を増やして、売る作戦らしいんだ」
「とにかく早くおつかいを済ませよう。お釣りはこの6人で分ける事にしてさ」
「じゃあ自分は、お肉見てくる」
「それじゃあ私は、牛乳を」
「私達は、卵」
「残りは自分達か」
「第1番レジの前に各自持ってきて集合な」
「それでいいよ」
「では、レッツゴー!」
みんなばらばらに行った。
「お肉はどこだろう」
ここまで広い空間を見た事が無かった瑛久朗は、悩んでいた。
「まあ、この近くだろう。豚肉や牛肉が置いてあるし」
冷蔵食品が置いてある場所に、確認しに着たらちょうどそこが、お肉の場所だったという。
「あ、これかな?」
バーコードの下には「合びきミンチ・200g」と書いてあった。
「うん。これだな。これを3つだったな」
両手に持ち、待ち合わせの場所へ急ぐ。
かごを持ちながら歩いてくる。
「牛乳って、どこだろう?」
あちこちにある案内板を見ながら行動をするのは、シュアンだった。
「普通は冷やすよね。だとすると、冷蔵コーナーのほうだよね。でも、冷蔵コーナーってどこだろう」
そのとき、店員さんが歩いてきた。
「すいません。牛乳売り場ってどこでしょうか?」
「牛乳売り場ですか?この道を着き辺りまで行ってください。そこを右に行って、10歩ほど行って右を見ますと、牛乳売り場があります。無ければ左を見てください」
「ありがとうございました」
「どうぞ、ゆっくり買い物を楽しんでくださいね」
二人はすれ違った。
「突き当たりを右に行って10歩ぐらいでまた右だね」
いわれた通りにした。
歩く数を数えた。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。そこで右を見る。わ、本当にピッタシだ。でも、いろんな牛乳の種類があるよ」
かごを足元に置き、
「とりあえず低脂肪牛乳がいいよね。うん。それにしよう」
4本同じやつを入れ、かごを持ち、待ち合わせの場所へ歩いた。
「卵はどこだ?」
「この場所なら鬼ごっことか出来そうだね」
「しちゃいけないぞ」
「だれもしないよ」
話しながら卵を探すのは、エア兄妹だった。
「卵はいつも棚に置いてあるよね」
「そうそう、廊下側に置いてあるんよね」
「廊下って、どこもかしこも廊下ですけど」
「まあね、分からなかったら、看板とかあるでしょう」
ある柱の前で立ち止まり、確認した。
「今、ここにいる。卵売り場は、ここだな」
今いるところから少し上のところに卵と書かれていた。
「ここに行かないといけないんだね」
「そうだね」
そこまで、ゆっくりと歩いて行った。
「あ、あった」
目の前に卵が置いてあった。
「どの卵がいいのかな?」
「Lサイズがいいと思うよ」
「なんで?」
「書いてあったじゃん」
「そうだった?まあいいや」
白の卵Lサイズ2パックを持って、待ち合わせ場所に行く。
「パン粉と、たまねぎって、今回は何を作るつもりなんだろうね?」
「分からないな。でも、ここに書いてあるという事は、これで何か作るんだよね」
「この材料から推測すると、きっと、ハンバーグだね」
「あのハンバーグ?」
「他にどんなのがあるの」
「いや、無いけど…」
「だったらそうだよ。あのハンバーグだよ」
「とにかく材料を探そう。そうじゃないと作れないからな」
「さんせー!」
右こぶしを上に突き出して、クシャトルが言う。
「でも、どこにあるの?」
右手を下ろしながら言う。
「それはこれから探さないといけないな。ここに来るのは久しぶりだしね。最初はパン粉を探そう。でもかごも要るね」
「どうして?」
「パン粉の一番大きい袋がどれだけ大きいか分からないからだよ。それにたまねぎ3袋も持ちたくないだろう?」
「たしかに。かごはすぐそこに置いているからいいけど、パン粉はどこ?」
「きっと、この広い店内のどこかだと思うよ。普通は上に棚の内容をつるしているから、それを見つけよう」
「でも、どこにも無いよ?どれ?」
「例えばこの廊下の上に、なんかあるだろう??で、右側には、シャンプー・リンス。左側にはキッチンペーパー置いてあるっていう事がすぐに見える」
「なんだ、本物の商品が上からぶら下がっていると思った」
「それは無いから」
スタディンが右手でクシャトルに突っ込む。
「とりあえずそれを目印に探そう」
「そうだね。早くしないと他の子達を待たせる事になるからね」
「最初は、パン粉だ」
ずっと上の方ばかり見続けるスタディンとクシャトル。
「どうされました?」
店員の人が聞いてきた。
「すいません。パン粉の売り場と、たまねぎの売り場を探しているんですが」
「パン粉なら、52番通路です。たまねぎは野菜コーナーにあります。野菜コーナーは、入り口にあります」
「ありがとうございます」
「ゆっくりお買い物を楽しんでください」
店員は去って行った。
「私、たまねぎの方に行く」
「じゃあ、自分は、パン粉だな。待ち合わせ場所で会おうな」
「うん」
兄妹は分かれてそれぞれ取りに行った。
「パン粉、パン粉は、ここだな。52番通路。どちら側かは、棚を見る」
右側は香辛料。左側にパン粉があった。
「これだな。色々種類があるな。どれがいいんだろう」
とりあえず、一番大きい白色の生パン粉を取った。
「これにしよう」
スタディンは、急いで待ち合わせ場所に行く。
「出入り口って言ったって、元の場所でしょ?」
目の前に野菜コーナーがあった。
「ここね。たまねぎは、なんか網に入っているし。でも、これを3ついるんだよね」
かごを下に置き、中に入れてゆく。
「うん、これでよし」
クシャトルも待ち合わせ場所に急ぐ。
待ち合わせ場所に最初に来たのは、アダムとイブだった。
「だれもいないね。私達が一番かな?」
「そういうことだね。自分達が一番だ」
「ごめーん。待った?」
「いや今来たところ。牛乳はあった?」
「バッチシよ。ほらこの通り」
「かごに入れてきたんだね」
「当たり前でしょう?だって重いんだもん」
「あれ?2人ほどいませんね」
「ああ、卵は、慎重に持ってこないと、割れたら大変だよ?」
「それを早く言ってよ。今まで運ぶ途中で割れたらどうするの」
「あ、一人だけ来たよ」
イブが指差した方向には、スタディンがかごを手にもってこちらに向かって歩いてきているところだった。
「クシャトルはまだ来ていないんだな」
「そうだが、スタディンは何を持ってきたんだ?」
「パン粉だよ。ほら、この店で一番大きいパン粉。とりあえずメモ用紙には、一番大きな袋のパン粉って、書いてったから」
その時、クシャトルが到着した。
「私が最後だね」
「ああ、ようやく来たな」
「とりあえず、これでいいよね?たまねぎは」
「ああ、それでいいと思うよ。後はこれをレジに持って行って、帰るだけだね」
「そうだね〜。誰がお金を持っているの?」
「自分だよ。とりあえずここのお金で払おう。残ったおつりは皆で山分けでいいよね」
「いいよ」
「じゃあ、レジの方に行こう。並ばないと払えないからね」
「何人かは向こう側に行ってよ。自分が払っている間に、袋の方に入れといてよ。これがその袋だからね」
「はーい」
「かごが余っちゃうけどどうすればいいの?」
「元の場所にまとめて戻しとけばいいよ。それで大丈夫」
「分かった。じゃあ入れてくるね」
走っていく。
「おい、かご忘れているぞ」
慌てて戻ってきて、かごを持ってまた走っていく。
「誰かイブに教えたか?スーパーで走っちゃいけないって事」
誰も返事をしない。
「とりあえず、レジに並ぼうよ」
「そうだな。彼女はきっとここに戻ってくるだろうし」
レジにかごを載せる。
「いらっしゃいませ」
合成音声が聞こえる。
「レジ係とかいないの?」
「ここは完全に機械化されているんだ。ここに来る社員の人は、こいつらを修理したりするときと、品物の確認をしたり、場所が分からなくなっている人に対して案内をするだけだね」
「便利になったんだね。かごを置くだけで自動清算なんて」
「あとは、所定の位置にこのお金を置く」
預かった1万GACを置いた。すぐに機械に収容されて、お釣りが出てくる。
「早いね。計算が」
「そりゃ、昔のスパコンよりも早いもの。まあ、この昔って言うのは、新暦20年ぐらいだからね」
「今のパソコンはどれくらいなの?」
袋の中に品物を入れながら聞く。お釣りを取りながら答える。
「だいたい、1京FPAぐらいだね」
「早すぎだよ。そのときやりたかったゲームさえ、楽に動くよ」
「そのゲームのスペックってどんなの?」
「たしかね、CPUがクアッドコアの2.66GHz。性能は、当時の中堅ぐらいだったね。だいたい、5000億FPAだったね」
「今とはぜんぜん違うね。天と地ほどの差がありそうだよ」
「メモリーは?」
袋を担ぎながら答える。
「たしか、メインメモリーが8GB、グラボが専有メモリー2GB、ハードディスクが、最低10GB、推奨25GB、だったよ」
店を出ながら答える。
「その当時からすると、まあまあのスペックかもしれないけど、今からみると、とても遅いよ。時代はすぐに変っていってしまうからね」
「それよりも、ひとつ気になったんだが、ここ、日本でも中国でもないのに何で漢字表記なんだ?」
「ここは、2020年にテロが起こってから作られた町なんだ。日本が放射能で住めなくなって、海外移住が余儀なくされたときから、今までずっとここで日本人は生き続けた。世界中のあちこちに同じような町があるよ」
「詳しいね。さすがにここに住んでるから?」
「まあ、それもあるかな?」
鼻の頭を少しこする。
「きっと詳しくは歴史の時間で習うんだろうね。でも、高校に歴史の時間があったかな?」
「ネットで調べたら早いと思うよ。それに何でもここ最近はあるからね」
「なんでも?それって、試験問題とか流出しているっていう事?」
「いや、それはないと思う」
「そうか。とにかく、急いで家に帰ろう。みんな、あのスーパーに行けばこの町で必要なものはそろうから。無ければネット通販でもすればいいと思う。とりあえず急ごう」
「さんせー」
「そうだね」
「おなか減った〜」
「がまんしろ、まだ道は続くんだ」