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第34部

第3章 地球表面上での生活


「まもなく100kmになります。皆様は、座席に戻ってください」

自動音声が流れる。

「もうか。もう席に戻らないといけないのか」

スタディンが戻りだす。

「30秒前です」

皆戻りだす。座ってシートベルトを締める。

「10秒前です。9、8、7、6、5、4、3、2、1、減速開始」

自動音声が、抑揚のない声で、伝える。ゆっくりと重力を感じるようになる。だんだん重力が増えてくる。そして…

「到着しました。現在、現地時刻、午後4時45分。皆様お疲れ様でした。もう、降りてもらっても結構です。お忘れ物のないように、降りて下さい。なお、忘れ物をしても、当社は一切保管いたしませんので、ご了承ください」

音声が切れて、扉がゆっくり開いた。

「到着したんだね。私達の家の近くに」

「ああ、3年前、ここから出て行く計画をたてて、実際に行ったときに、ここで捕まったんだよな」

「そうだったね」

「とにかく、皆降りてくれ。この後ここは掃除する事になるから」

「はーい」

みんなシートベルトをぎこちない手つきで外して、扉を抜けた。


「そういえば、宇宙ステーションの重力って、どれくらいなんだろう?」

「たしか、0.8Gぐらいだったはずだよ」

「ここは?」

「ここは、1Gだよ。元々地表面が基準だったから、ここが1Gになるんだ」

「ふーん。なんで知っているんだ?」

「中学校で習わなかった?自分は習った記憶があるんだけど」

「いや、習ったような記憶はないな」

スタディンとアダムが話し合っていた。

「皆、忘れ物は無いよね」

「うん大丈夫だよ」

「では、私達の家に行こう!」

エレベータの事務所を出ると、広い道に出た。後ろから声がかかる。

「ここからお前らの家までは少し歩くからな。気を付けていけよ」

「ありがとうございました」

「いいってことよ、また遊びに来いよ」

「はーい。その時はまたお願いしますよ」

「分かってるよ」

みんな後ろを振り返らずに、歩いて行った。


「この道に名前とかあるのか?」

「この道は船乗りの道と言われています。正式には国道2031号線です」

「国道2031号って何本あるの?」

「確か、1万7903本ほどあったはずです。ただこの数字には、第3惑星以外に第2惑星・第4惑星も含まれますが」

「そうか、そんなにあるんだな」

しばらくすると町が見てきた。

「ここが僕らの家がある町です」

「名前は?」

「清見町です。自分がこの町から出て行ったときの人口が5万8086人。この町には私立の幼稚園から大学までそろっているんです。この町の主幹産業は、この私立の学校です。この学校の経営母体が大企業なのでそこで働いてる人が少なくないんです」

「そうか、そして自分達が住む事になる家はどこだ?」

「もう少し歩いたところになります。少し中心からはなれますが、それでも生活は十分出来ます」

「そうじゃなきゃ困るからね」

家に着いた。


「ここが我が家です」

中から人の声が聞こえてきた。

「誰ですか?」

扉が開き、中から人が出てきた。

「ああ、あなた達ですか。これからこの家で生活するというのは」

「そうです。それにここは私の家でもあります」

「そうだね。正確には、あなた達のお父さんの家だけどね。まあいいわ、どうぞいらっしゃい」

「ありがとうございます」

スタディンは自分達が出て行くまでなかった、庭に咲いている2本の木に目が行った。

「すいませんが、この2本の木は何ですか?」

「ああ、これ?これは、日本の桜と梅という木なの。今は何もないけど、春になると、とてもきれいな花を咲かせるのよ」

「あなたは、日本人なんですか?」

「そう。あのテロがなければ今でも日本列島にいただろう、生粋の日本人よ。あなた達の中で日本人っているの?」

「はい。この方です」

丹国紗希を指差す。

「そうです。私は日本人です」

「どこの生まれ?」

「大阪です」

「大阪?あなたいつの生まれ?今までテロが起こってから、日本自体に立ち入り出来なかったのよ。何故あなたが大阪生まれか理解できない」

「話せば長い話ですが…」

「出来るだけ手短にお願いするわ」

「実は私達、過去から来たのです」

「ああ、そういえば、クシャトル達のお父さんが話していたわね。忘れていたわ」

「そうですか。ちなみに、私の生まれは大阪の難波です」

「あそこか、私の先祖もあそこの生まれって聞いた事あるわ」

「ところで名前は?」

「私の名前は、宮野由井よ。まあ、仲良くしましょう」

「これからずっとここにいる事になると思う、丹国紗希です。こちらこそよろしくお願いします。こちらは私の夫の、丹国ウィオウス。娘の丹国シュアン。丹国クォウス。息子の丹国ルイ。私の叔父に当たる、山川満。あと、もう知っていると思うけど、イフニ・クシャトルとスタディン。ここに高校受験に来た、エア・イブとアダム。あなたのところの家族は?」

「私のところは、私の夫で近くの私学の高校の教師をしている宮野達夫。息子の宮野瑛久郎。娘の宮野愛華。二人とも今年高校受験の年なんだけど、息子はやる気はあるのに、娘はやりたくないって」

「それは、ここ最近の風潮も関係していますよ。それより少し寒くなってきたんですけど」

「すいません。どうぞ中へ」

扉を開けて、中へ招きいれた。


家の中に入ると、すぐに、山川さんがくしゃみを連発した。中は昔のままに近い状態だった。多少変っているところもあったし、明らかに元々あった物以外のもあったが。

「一つ屋根の下に、13人か、きりが悪いな」

犬が駆け寄ってきた。

「あれ?あなたは犬を飼っているのですか?」

「ええ。紹介が遅れましたが、犬のコロです」

「可愛いですね。何歳ですか?」

近くでまたくしゃみの声が聞こえた。

「大丈夫ですか?」

由井が聞く。山川さんがくしゃみをしていた。

「すいません。犬アレルギーなので。少しなら大丈夫なので、窓を開けてもらえますか?」

またくしゃみをした。

「いいですよ」

「ところでこの子は何歳ですか?」

窓を開けに行きながら由井が答える。

「今年で、3歳になります。ちょうど戦争が始まったころ生まれたので」

「そうですか」

「ここに13人と1匹暮らすのか。入りきるのか?」

アダムがスタディンに聞く。

「ああ、地下室があるからね」

「地下室?」

「そう。この家は元のままなら、地上3階地下1階、庭付きの一軒家なんだ」

「そのままですよ。当然じゃないですか」

そのとき、扉が開いて二人の人が入ってきた。

「ただいま〜。あれ、この人たち誰?」

「ほら、前話したでしょう?ここの家主さんの息子さんと娘さん。その幼馴染と、息子さん達のお友達」

「ああ、クシャトルと、スタディンだったね。最年少で宇宙軍大佐になり、さらに、宇宙船の船長になった」

「そうだよ。その人本人だよ」

「ふーん、この人達がね。もっと上の年齢かと思った」

「いやいや、新聞には、ちゃんと年が書いてあったはずだけど」

「あまり新聞なんか読まないもん」

すぐに階段を上がり、上に消えて行った。その場所には、瑛久郎だけが残された。

「ねえ、母さんから聞いたんだけど、君達も高校受験を目指しているって本当?」

「ああ、そうだよ。この町の高校に入って、勉学に励もうかと思っているんだ。君も入るつもりなんだろ」

「そうなんだ。ここ最近は高校受験者が減ってきているから、入りやすいかなって思って」

「この一番近くの高校って、なんて名前?」

「私学の全日制普通科高校の、清正美高校だよ」

「特徴的な名前だね」

「とにかく荷物はどうしました?」

「ここにあります。もっと大きなものは、航宙便で送ってくれる事になっています」

「そうですか。ではあなた達の部屋を…」


案内された部屋は、前居た時に二人が使っていた部屋だった。

「ここにもう2つベットを置いたら、4人寝れるね。ここには、イフニとエアの兄弟が寝てもらうわ。で、隣の部屋だけど…」

順々に紹介された部屋に、荷物を置いてゆく。

「これからここが家になるんだね。はじめての家だから、少し緊張するね」

イブがスタディンに寄り添いながら言った。

「大丈夫。僕はここにずっといたんだから。ここの事は良く知っているよ」

腕を肩にまわしながら、スタディンが言った。

「二人はやっぱ仲がいいな〜。どう?やっぱり高校受験とかしてみるの?」

「うん。そのつもり」

「元々年齢上は大丈夫だしね」

「クシャトルは?」

「私もしてみようと思うの。元々ここに住んでいたから、そのときの道なら分かるしね」

扉が音を立てて開き、顔が出てきた。

「ねえ、入ってもいい?」

「どうぞ」

瑛久郎が入ってきた。その後ろには、シュアンがついてきていた。

「私もいいかな?」

「どうぞ。誰でも大歓迎だよ」

扉を閉めて、シュアンと瑛久郎が椅子に座る。

「あなた達も高校に進む予定なんでしょ?」

「そうだね。一応、近くの清正美高校に行こうかと思っているけど、それがどうしたの?」

「私達も行こうかと考えているの。一緒に受けない?」

「え?私達と?」

「そうよ、あなた達と一緒に、ここから通学するの」

「別に、自分は大丈夫だけど、君達の年齢制限に引っかからないの?」

「大丈夫。それに、私は、中学校を卒業をしているし。それに、もう15歳だからね。この子も同じ15歳だしね」

「暦上は、350歳を越しているけどね」

スタディンの一言で、少し不機嫌になった。

「そうよ、どうせ私は、過去から来た女ですもの」

「まあまあ、落ち着いたらどう?ここにはけんかするために来たわけじゃないんだから」

「まあ、それもそうよね」

「ごめんね。気を悪くしないで。つい口から出ちゃったことだから」

「ううん。大丈夫だから」

「で、私達と一緒に登下校したい、そう言うことだよね」

「そういう事なの。大丈夫だよね?」

「私達はかまわないよ。ね?」

「うん、そうだよ。ちゃんと受かれば一緒に行こう。でもそのためには今の勉強をしないといけないけどね」

「それはちゃんとしています。いまは、宮野さんに教えてもらえる事になったの」

「へー。あの人も先生か何かしているの?」

「偶然にも中学校の教員免許を持っているんだって。だから、教えてもらうの」

「教科は何?」

「確か…英語と理科」

「二つも持っているの?」

「そう言っていたけど、すごい事なの?」

「いや、でも2つ持っている人はあまり見た事がなかったから」

瑛久郎は、突然立ち上がり、すぐに頭を抱えて座りこんだ。

「すいません。少し立ちくらみが…」

「ああ、この年代の子には多いよね。立ちくらみって、どうして起こるんだろうね」

「中学校で習ったけど、忘れちゃったしね」

扉が開き、ちょうどいいタイミングで、宮野さんが入ってきた。

「どうしたの?ここで6人そろって」

「そうだ、宮野さんは分かるんじゃないか?」

「そうだよ、中学校の教員免許持っているんだしね」

「どうしたの?何か質問?」

扉を後ろ手で閉めて、宮野さんが近くの椅子に座った。

「立ちくらみってどうして起こるんですか?」

「立ちくらみ?ああ、それはね、ずっと座ったり寝ていた状態で、急に立ったりすると、頭の方に血が回らなくなって、貧血の症状を起こすの。それが立ちくらみね。低血圧の人や、思春期のころの人に多く見られるわね」

「そうなんですか。ありがとうございました」

「いいえ。分からないことがあったら、何でも聞きにきなさいね。答えられる範囲で教えるから」

「分かりました」

「それじゃあね。あ、そうそう。ここに来たのは、あなた達は本当に高校入試をするのかどうか聞きに来たの」

「する気ですよ。私達は」

「そう、だったら伝えとかないといけないわね」

「誰にですか?」

「高校の入試管理委員会。言わないと、入試が受けられないの」

「いつまでですか?」

「後1週間ね。この6人で受けるのね」

「そうです。この6人で受けるつもりです」

「分かった。伝えとくわ」

「ありがとうございます」

扉が閉まり、廊下を歩く音が聞こえた。

「そういえばさ、自分達って、ちゃんと出来るのかな?」

「どういう事?」

スタディンが言った事に、イブが聞いた。

「だって、自分と、クシャトルと、シュアンは、この時代の教育をあまり受けていないんだよ。特にシュアンはここに来てまだ3ヶ月で、そのうちの大半は、船内生活だったからね。それで大丈夫かなって思って」

「大丈夫よ」

シュアンが答える。

「だって、私は船内にいた3ヶ月を利用して、中学校までの事を覚えたんだもん」

「へー本当か。じゃあ、これを解いてごらん」

アダムが、シュアンに問題を出す。

「こんなの簡単だよ」

シュアンは、いともたやすくに解いてしまった。

「じゃあ、この問題は?」

「これも簡単だよ」

本当に簡単そうに解いてしまった。

「早いね。立った2分で解いちゃったよ」

「そうだね。しかもこれは中3の問題だから、シュアンはちゃんと中学校3年生までの学力があるって事だね」

「だから言ったでしょ?私は、船の中で、この世界の中学校3年間までの事を、全部覚えたって」

「と、言う事は、一番古い憲法も覚えている?」

「そう言うことだよ。だから何?」

「あの大島大統領から渡された、ハードディスクの中を見たけど、全部AIの情報だったから、初代憲法が分からないんだ」

「あの船のコンピューターの中に入れたけど?でも、無断だったけどね」

「それはいけないけど、そうか、あの船の中に入れたか。どこに?」

「私しか知らないような場所。どんな事があってもばれない場所に」

「今も見つかったという情報がないから、まだ見つからないような場所にあるんだね。あの、宇宙軍情報部の最高権威達さえ、見つからない場所って、どこ?」

「それは、秘密!」

「そうか、じゃあ、しょうがないな」

また扉が開いた。由井さんだった。

「みんなすまないけど、おつかいに行ってくれないかな?」

「いいですよ」

みんな立ち上がって、部屋から出て行った。


「すいませんね。突然おつかいを頼んじゃって」

「いいですよ。別にそんな事」

「えっと、この紙に買うものを書いているから、それを買ってきて欲しいの。おつりは皆で分けてね」

「分かりました。では行ってきます」

「頼んだわよ」

「はーい」

6人が出て行った。

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