第33部
エレベータについたのは、2時50分だった。
「大体45分ぐらいかかったね」
「そうだな。もっと早くつく予定だったんだがな」
エレベータの前には3つぐらい部屋があった。それぞれの部屋に入り、簡単な、身体測定をする必要があるらしい。
「私達が上がってきた時には、こんな事はなかったね」
「そうだな。あれから何年もたっているからな。変ってくるのも当然だと思うよ」
スタディンとクシャトルは、昔を懐かしがっていた。
「すいません。予約をしていたイフニなんですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、後10分ぐらいありますので、それまでこの建物から出ないで下さい。お手洗いは、ちょうどこの横の部屋になります」
受付の人がお母さんに言った。
「さあ、皆トイレに行きたかったら今のうちだよ。これから大体1時間から2時間はトイレに行けないからね」
皆トイレに行った。
「あの子達は?」
「ここにいるよ」
スタディンとクシャトルと三つ子は、同じ場所に立っていた。
「あなた達は大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫だと思うよ」
事務室の扉が開き、男の人の顔が出てきた。
「誰か来たのか?あれ、お前達は…」
「あー!あなたは、あのときの所長さん」
「え?知り合い?」
「知り合いも何も、私達がここに来たときに乗せてくれた人だよ」
「それはどうも、私達の娘と息子がお世話になりまして、何も起こりませんでしたか?」
「ええ、何も起こらずに無事に行きました」
「それを聞いて安心しました。この子達がきたときの事を何にも話さなかったので、どうやって来たか分からなかったのです」
皆トイレから出てきた。入れ替わりにスタディンとクシャトルがトイレに向かう。
「後は3時を待つばかりだね」
「そうだね。ところで今何時だろう」
「今は、3時5分前ですよ」
すぐにスタディンとクシャトルが帰ってきた。
「終わったよ。身体検査だけでも先に受けようかな」
「それは出来ない決まりなんですね、とにかく30分前から身体検査を受けていただきます。しかし、それまではここで待ってください」
受付の人が言った。
「とにかくそれまで待つ必要があるし、自分も検査を受ける必要があるんだ」
「どうしてです?」
「自分も下に降りるからな。それに、自分はもう所長じゃないんだ」
「どうしてです?まさか、左遷されたとか?」
「そんな事はない。昇格したんだよ。今は全てのエレベータの運転管理者だ。このエレベータにいるのは、今回の検査が偶然にもこのエレベータだったからで、お前達の成長を確認しようという事はないからな」
「そうですか」
そのとき時報がなった。
「3時です、3時です」
「時間だ、始めよう」
皆一斉に立ちあがった。
「私達はここまでだからね」
お母さんが言った。
「時にはこちらに来て顔も見せろよ」
お父さんが言った。
「分かった」
クシャトルとスタディンが同時に言った。部屋の中に吸い込まれていった。
まず比較的大きめの部屋があった。
「ここで身長と体重を測らせてもらいます。女性はあちらに、男性はこちらにどうぞ」
言われるままに列を作り、測った。
「あなた、身長169cmありますね。体重は、52.8?ですね」
横からの声は聞こえないようになっていた。それが終わると、チェックシートが渡された。
「これを持って、あの扉を通って、次の部屋に行ってください」
指差された方向には、普通の扉があった。スタディンはその扉を通って、次の部屋に行った。
次の部屋は、あまり明かりがなかった。
「ここでは、無重力時の反応を見ます」
急に体重が感じられなくなった。
「ただいまから30秒間この部屋の重力を消します。30秒後、この部屋全体が3秒間明るくなった後、再び暗くなりながら重力を戻します」
足が地面から浮き、体が宙を泳いでいる。少しずつ、慣れてきた途端に、部屋全体が明るくなった。すぐに暗くなり始めて、体重が戻ってきた。
「これで終わりです。チェックシートを、このまままっすぐ進んだところの机に提出して、そこにある扉を進んでください」
言われたので、言う通りにしたと思った。
「そちらは逆です」
注意された。ちゃんと扉があり、横に学校で使うような机がおいてあった。スタディンは、そこにチェックシートを出し、扉を通って行った。
次の部屋は、平衡感覚が失われるような部屋だった。
「ここでは、平衡感覚の確認だけをします。直接この廊下を歩いて行って下さい。廊下の突き当たりに、あなたのチェックシートがあるので、それを持って次の部屋に行ってください」
スタディンは10回ぐらい壁に当たりながら、どうにか廊下のつき辺りまで来た。チェックシートが机の上に置いてあった。それを拾って、隣の部屋に入った。
次の部屋は待合室のようだった。
「ここで、チェックシートを提出してください」
平衡感覚が微妙なまま、歩いた。少しずつ戻ってきた。チェックシートを提出して、近くの椅子に座った。自分が最初だった。次に来たのは、所長さんだった。
「君が一番か。ここの検査は毎度ながら疲れるからな。とにかく他の人はどの経路を通ってくることか」
「何本か通路があるんですか?」
「ああ、人によって順番が違うんだ。まあ、詳しくは自分も知らないがな」
時計を見ると、3時5分だった。それから10分以内に皆帰ってこれた。
「これから5分間の休憩をした後に、エレベータに乗ってもらいます」
スタディンとクシャトルと、所長さんは、乗った事があるからよかったけれど、他の人は乗った事すらない人達だった。さらに、降下はスタディンとクシャトルも記憶上、初めてだった。
「エレベータってどういう感じなの?」
シュアンが聞いてきた。
「私達は、昇った事しかないからね。それにその時はまだエレベータとかに興味が無かったしね。所長さんに聞いたら分かるんじゃないかな?」
クシャトルが答える。
「ふーん。やっぱり分からない事ってあるんだね」
そういって、シュアンは所長さんのところに聞きに行った。
「とにかく久し振りに行くわけだね。でも、誰かに貸した上に、そのまま出て行かない人って、大丈夫なのかな?」
「大丈夫じゃないかな。とりあえずは会ってみないと何にも言えないけど」
瞬く間に5分が過ぎた。
「時間だ。乗り込むぞ」
シュアンの質問攻めにあっていた所長さんが、立ち上がり皆に呼びかけた。
「これから約1000?の間の内、大体5分の4ぐらいが、無重力状態だ。みんな気分が悪くなっても、どこにもトイレは無いからな。準備はもう良いか?」
皆うなずいた。
「よし、では出発だ」
みんなエレベータの中に入った。扉がゆっくりと閉まった。
「本エレベータは、30秒後に出発します」
自動音声が流れてくる。
「なお、出発して100?ほどたちますと、無重力状態になります。その際は放送がかかります。そうしましたら、シートベルトを外してもらってもかまいません。減速をはじめる30秒前と10秒前からの秒読みがありましたら、速やかに指定の席に戻り、シートベルトを締めて下さい。皆様のご理解とご協力を、お願いします。10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、出発します」
がくんとエレベータが離れていく。一瞬だけ宇宙空間に出された後、地球側の方と連結する。そして、3分ぐらいしたら、再び音声が聞こえてきた。
「100?です。体が浮くようでしたらこれから1時間、無重力状態をお楽しみください。なお、ごくまれに、体が浮かないお客様もいらっしゃいますが、それはその人自身の個性ですので、あきらめて座ってください」
その直後、全員が体が浮きはじめた。
「これから1時間は無重力状態か」
誰かがつぶやいた。
「だがな、こんなに早くよく出来たな」
山川さんがシートベルトを外しながら話す。
「それはですね、真空状態と関係しているのですよ」
所長さんが答える。
「真空状態?超真空でも作る事に成功したのか?」
「その通りです」
「でも相当資金がかかったでしょう」
「その辺りは、連邦政府からもらいました。だいたい、10^-17atmぐらいです」
まわりに、子供達が回っている。クシャトルが、また水の実験をしている。
「ほら、これを見ていてね。さーん、にー、いーち、それ!」
水はここに備え付けられている物だった。
「すごーい。何で丸くなるの?」
三つ子は純粋な目でこちらを見てくる。
「水はね、丸くなろうとする癖があるの、その癖がこんなときによく出て来るんだよ」
「へ〜。すごいね」
「普通でも出来るの?」
「やっぱりこんな状態じゃないと駄目?えっと…無重力状態とか何とか言う状態」
「そうだね。普通でも少しだけ見れるんだけど、こんな状態のときはその癖を一番発揮できるんだ」
クシャトルはお守りをしているようだった。スタディンは、他の3人兄妹と、エア兄妹と話をしていた。
「え?という事は、その連邦大統領のAIって言うのがこの端末から話せるの」
「その通り。そう言えば、君達の年齢を知らないね。もしよかったら、一緒に高校行かない?ここ最近は高校進学率が下がっているからちょうどいいんだよね」
「でも、この時代の教育水準が分からないから、私達の頭は実は小学校並だった、と言うこともありえるし」
「大丈夫だよ。英語いけるんでしょ?」
「いや、欠点ぎりぎりだった。まあ、中学校には落第の制度がなかったけどね」
「高校からはあるからね、がんばらないといけないよ」
「その通りだよ」
「うん。ところで年は私は15だよ」
「他の二人は?」
「この子が、13で、一番下が12。あなた達は?」
「自分が、15。妹が14。イフニ兄妹も同じだよ」
「まだまだ若いんだね」
「何歳に見えたの?」
「君達は、まあ20歳以下だろうと思っていたけど、彼らは、船長と副船長だったし、それで30ぐらいかなって、でも若いしな〜って感じだったの」
「そうか、自分ってそんな感じに見られていたのか。そうだったんだな〜」
一人すねるスタディン。
「いや、そうでもないよ。だって自分達は、幼馴染じゃないか」
「自分の両親は知らなかったけどね」
「まあ、それはそれだよ」
時間は過ぎてゆく…