第26部
一方スタディンは、彼女の家に向かって走り続けていた。
「手紙の住所はここだな」
そこには、豪邸があった。大きく、壮大な家のつくりだった。鉄格子のような門が行く手をふさいでいた。
(ヨーロッパ調か?)
すぐ横にインターホンがあったので、それを押した。
「はい、どなたでしょうか」
「すいません、イフニ・スタディンですが、エア・イブさんはご在宅でしょうか」
「イブならまだ寝ていますが、どうしましたか?」
「手紙を受け取ったもので、とても私的な内容なので、言えないのですが、受け取ったらすぐに来てほしいとかいてあったので、こうして来たのですが」
「分かりました、とにかくその場所にいると、寒いでしょうから、中へ入ってください」
「ありがとうございます」
軽いモータ音で門が開いた。家までは大体50mぐらいあった。
(長い、どうしてこんな宇宙ステーションの中でこんなでかい家が出来たんだろう)
疑問点は山ほどあったが、とにかく考えながら歩くと、すぐに着くのである。家は遠くで見たときより、とても大きかった。
「こちらです」
声がかかり家を見上げる。しかしどこからも人影らしきものは無かった。
「どこですかー!」
叫ぶ。
「ここですよ。上ではありません。下です」
足元を見る。地下に下りる階段があった。
「その階段を下りてください。玄関に出ます」
いわれた通りにした。階段を下りると、喫茶店みたいな玄関があった。
「その玄関を通ると中央ホールにでます。そこでくつろいでお待ちください」
玄関の扉を開ける。
「すいませーん。鍵がかかっていますが」
カチャリという音と共に、鍵が開き、自動的に扉が開いた。中では人がたっていた。
「すいません。今イブは寝ているのですよ。起こしましょうか?あの子今日だと大体12時ぐらいまで起きませんし」
「その必要はありません。ところであなたは誰ですか?」
「すいません、紹介が遅れましたね。私はイブの兄の、アダムです。すでにあなたの妹さんから話は聞いていると思いますが、どうやら純粋な気持ちで、私はあなたの妹さんに恋心を抱いているらしいのです。どうでしょうか、今度ダブルデートとかしてみませんか?」
「いいですよ、ただ、そちらの妹さんと、クシャトルにも聞かないといけませんし、それに明日には私達、下に降りる事になっているのですよ」
「ならばやるのは」
「今日だけということですか?」
「そういう事ですね。とにかくこれからイブを起こしに行きます。ここでしばらくお待ちください」
「分かりました。それと、クシャトルも呼びましょうか?」
「その方がいいでしょう。朝食と昼食、後、時間によっては夕食も、ここか外で食べる事にはなりますが。いいですよね」
「ええ、クシャトルと母の方に連絡を入れましょう」
「お願いします。自分は妹を起こしに行かせてもらいます」
「分かりました。お願いします」
アダムは2階へ向かい、スタディンは、クシャトルを呼ぶために電話をかけた。
すぐにクシャトルが来た。しかし、クシャトルが来て、10分ぐらいしてもアダムとイブは降りてこなかった。15分ぐらいして、明らかに無理やり起こされたという風な感じイブと、やっと起こしたという感じのアダムが降りてきた。イブは、最初こそ不機嫌な顔をしていたが、スタディンを見つけると、すぐに幸せそうな顔になった。
「すいません。起こすのに手間取ってしまって、そちらの準備はいいですか?」
「ええ、ただ、朝食を抜いているので、それをいただけるとありがたいのですが」
「いいでしょう。今すぐ作りましょう。今両親が商売上の都合で家を開けていますので、私達だけなんですよ」
「そうですか、では、頂かせてもらいます」
朝食を食べに行った部屋は、銀食器ばかりだった。
「豪華な家ですね。ところで、今日はどこに行くのですか?」
「今日は、映画館で映画を見るか、宇宙遊泳をやりに行くか、それとも、君達が無事に戻って来れたことに関する、パーティー気分で食べに行くということがありますが、どれがいいですか?」
「そうですね、私が過去から持ってきた、HDの中身を確認するって言うのはどうでしょうか」
「それはデートとしては不十分と思うよ」
合成音声が聞こえてきた。
「すいません。この家のAIです。名前は」
「私の名前は、川澄幸っていうの。私を作った人の名前だよ。そのままもらったの。その人は今も生きているよ」
「そうか、川澄さんか」
「知り合いですか?」
「いいや、その人と同じ苗字の人を知っているから」
「で、どこにダブルデートをしに行きましょうか」
「で、結局ここになると」
「デートといえば、映画館で映画を見て、遊園地でジェットコースターを乗るべきでしょう」
「この宇宙ステーションに、遊園地自体がないけどね」
「下にはあるんだけどね。ただ、結構古い」
「へえ〜。私達生まれも育ちもこれからもこの宇宙ステーションだから、よく分からないの」
きっと最初で最後のダブルデートになる事を予想しつつ、スタディンとイブ、クシャトルとアダムが、手をつないだり、そっと抱いたりして、歩いていた。
「で、何の映画を見るの?」
イブがスタディンにたずねる。
「SF映画だよ。1970年代前半ぐらいに流行ったといわれている、「日本沈没」と言う名前の映画だよ」
「有名なの?」
「何度もリメイクされているよ。ただ、2000年代の初期に一回リメイクされている、と言ううわさだけが残っているけどね。それ以外は本と初版の映画しか残っていないんだ。連邦政府クーデター事件以降は、映画自体あまり作られなかったからね」
「そんな映画なんだ。そのリメイク版を見るの?」
「そうだよ。話しの筋とかも知らないほうが楽しめるだろう」
「そうだね」
4人は映画館の中へ吸い込まれて行った。
2時間ぐらいたって、4人は映画館から出てきた。
「面白かったね。これってフィクションだよね?」
「そうでないと、今日本列島自体が存在していない事になってしまうよ。ところで、日本はどうなっているの?」
「この時代の日本列島はね、2150年から2170年の、連邦政府クーデター事件の関係で、危険区域指定を受けていたの、でも、あなた達がいなくなっている間に、その区域の解除がされて、日本国籍を持っていた人達がみんな帰ってこれたの。その間の事はみんな連邦政府がしていたんだよ」
イブが、クシャトルとスタディンに説明する。
「それで、次はどこに行く?」
アダムが聞いてくる。
「そうだね。この辺りは君達の方が詳しいから、君達に任せるよ」
アダムとイブは目配せをした。
「だったら、あそこで決定ね。そうでしょ、お兄ちゃん」
イブがアダムに言った。
「ああ、あそこだな」
「あそこって、どこ?」
「来たら分かるよ」
スタディンとクシャトルは、アダムとイブについていった。